先客の数は、二名。いずれも漆黒の外套を頭まで被っており、顔までは判別できない。
彼らは角灯を挟んで向かい合っており、何かを口へ運んでいた。
あまり外套姿の者に良い思い出が無いオールラウンダーは、
「おめえたち、悪いやつか!」
背に負った細棒を引き抜くて構え、大音声で問うた。
これでやっと少年の存在に気が付いた二人が、殆ど同時に視線を向ける。……しかし、それだけ。
彼らは角灯の方へ向き直り、またしても何かを口へ運び始めた。
すっかり拍子抜けしてしまったオールラウンダーは、棒を仕舞って、
「……なに食ってんだ?」
外套たちの後ろからひょっこりと顔を覗かせて尋ねた。
これへ、片方がゆっくりと振り向き、
「ん」
しわがれた声とともに、右手に持った木皿を差し出してきた。
皿の上には、齧りかけのパンとベーコンが乗っている。
「食うか」
しわがれた声が、オールラウンダーへ問いかける。
「いいのか?」
「いいとも」
相手の了承があるなら、とオールラウンダーは遠慮なく皿を受け取り、パンとベーコンをぺろりと平らげる。
「坊主。腹減ってたのか」
しわがれ声が、頭巾を外しながら訊いてきた。
果たして露わになったのは、
頬は痩け、目元には皺が目立ち、鼻から唇にかけて、緩いカーブを描く線が見える。
眉も、後ろに撫でつけた髪も真っ白であったが、髭はきちんと剃られていた。
これをまじまじと眺めた後で、
「さっきまでバケモノ退治してたから」
あっけらかんと言い放った。
ここにきて老爺は、オールラウンダーの首から下げられた黒曜の小板に気付き、
「坊主、冒険者だったのかえ」
少しばかり目を丸めた後で
「お前さんがねぇ……」
頭のてっぺんからつま先まで、値踏みでもするかのようにオールラウンダーを見て呟いた。
これへ、別に少年は抗議の声を上げるでもなく、
「なぁ。オラもここで雨宿りしてもいいか?」
老爺へ尋ねた。
「いいとも」
即座の返答に、
「ありがと!」
にんまりと笑ったオールラウンダーが、そそくさと道着を脱ぎ始める。
すると、
「ちょっ、ちょっと待った!」
老爺が両手を押し出して振り、慌てて止めに入った。
「なんだ?」
「なんだ、じゃないわな。いきなり服なんか脱ごうとしおってからに」
「でも、雨でオラの道着ぬれちまったから」
「……あぁ……」
老爺は、ちらともう片方の外套……子供ほどの背丈をしたのへ目を向け、
「そんなら、これ羽織ってから服脱げ」
そう言って、自分が纏っていた外套をオールラウンダーへと差し出した。
「あんがと」
受け取りつつ、オールラウンダーは老爺の服装を見た。
どこぞの農夫を思わせる衣装の上には鎖帷子を着込んでおり、更にそこから肩当や肘当てといった物々しい装いをしている。
「じいちゃんも、ボウケンシャなのか?」
オールラウンダーに問われた老爺は、くすりと笑った後で、
「なぁに。しがない商人よ」
「……アキンド、ってなんだ?」
「物売りさ」
「なに売ってるんだ?」
「油さ」
「へぇ」
これが洒落をきかせたものとは知らず、本当に油の商人だと信じてしまったオールラウンダーは、器用に外套内から道着を脱いだ。
脱いだはいいが、火が無い。
「しょうがねぇや」
そう言ったオールラウンダーは老爺に歩み寄ると、
「悪いけど、これもっててくれ」
「……こうか?」
上下ひと繋ぎになった山吹色の道着の、左右の袖を掴んで広げてみせる。
「うん。サンキュー」
にんまりと笑ったオールラウンダーは、両の掌を上下に構え、
「波っ!」
と叫んだ。
途端、青白く丸い炎の玉が、少年の掌に宿って光る。
「なっ……!」
驚きの余り、老爺は道着を落としそうになった。
それでもなんとか道着を広げたままでいると、優しい温もりが顔に伝ってくる。
「こりゃ……炎を操る術か?」
「かめはめ波だ」
「……カメカメハ?」
聞き慣れぬ術名に、老爺は頭に疑問符を浮かべる。
と、そこへ。
「……」
先ほど老爺が気にかけていた、一際小さな外套が、音もなく近寄って来た。
外套は、オールラウンダーの掌に灯った炎を、まじまじと見つめている。
その炎が、外套の中から顔を浮かび上がらせた。
少女だ。どこか虚ろな目をした少女なのである。
雪のように白い面の、頬の辺りに切り傷のようなものが見える。
「おめえ、ケガしてるぞ」
何となくオールラウンダーが言うと、少女は慌てて顔を俯け、たたたっとその場を離れてしまった。
「……?」
ぽかんとしているオールラウンダーへ、
「坊主。心配してくれるのはありがたいが、あいつのことはそっとしておいてやってくれ」
老爺が、重々しく低い声で呼びかけた。
この様子に只ならぬものを感じたオールラウンダーは、
「あ、あぁ……」
訳が分からぬながらも、こっくりと頷いた。
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