悟空は無邪気な冒険者   作:かもめし

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其の二

 先客の数は、二名。いずれも漆黒の外套を頭まで被っており、顔までは判別できない。

 彼らは角灯を挟んで向かい合っており、何かを口へ運んでいた。

 あまり外套姿の者に良い思い出が無いオールラウンダーは、

 

 

「おめえたち、悪いやつか!」

 

 

 背に負った細棒を引き抜くて構え、大音声で問うた。

 これでやっと少年の存在に気が付いた二人が、殆ど同時に視線を向ける。……しかし、それだけ。

 彼らは角灯の方へ向き直り、またしても何かを口へ運び始めた。

 すっかり拍子抜けしてしまったオールラウンダーは、棒を仕舞って、

 

 

「……なに食ってんだ?」

 

 

 外套たちの後ろからひょっこりと顔を覗かせて尋ねた。

 これへ、片方がゆっくりと振り向き、

 

 

「ん」

 

 

 しわがれた声とともに、右手に持った木皿を差し出してきた。

 皿の上には、齧りかけのパンとベーコンが乗っている。

 

 

「食うか」

 

 

 しわがれた声が、オールラウンダーへ問いかける。

 

 

「いいのか?」

「いいとも」

 

 

 相手の了承があるなら、とオールラウンダーは遠慮なく皿を受け取り、パンとベーコンをぺろりと平らげる。

 

 

「坊主。腹減ってたのか」

 

 

 しわがれ声が、頭巾を外しながら訊いてきた。

 果たして露わになったのは、只人(ヒューム)である老爺の顔。

 頬は痩け、目元には皺が目立ち、鼻から唇にかけて、緩いカーブを描く線が見える。

 眉も、後ろに撫でつけた髪も真っ白であったが、髭はきちんと剃られていた。

 これをまじまじと眺めた後で、

 

 

「さっきまでバケモノ退治してたから」

 

 

 あっけらかんと言い放った。

 ここにきて老爺は、オールラウンダーの首から下げられた黒曜の小板に気付き、

 

 

「坊主、冒険者だったのかえ」

 

 

 少しばかり目を丸めた後で

 

 

「お前さんがねぇ……」

 

 

 頭のてっぺんからつま先まで、値踏みでもするかのようにオールラウンダーを見て呟いた。

 これへ、別に少年は抗議の声を上げるでもなく、

 

 

「なぁ。オラもここで雨宿りしてもいいか?」

 

 

 老爺へ尋ねた。

 

 

「いいとも」

 

 

 即座の返答に、

 

 

「ありがと!」

 

 

 にんまりと笑ったオールラウンダーが、そそくさと道着を脱ぎ始める。

 すると、

 

 

「ちょっ、ちょっと待った!」

 

 

 老爺が両手を押し出して振り、慌てて止めに入った。

 

 

「なんだ?」

「なんだ、じゃないわな。いきなり服なんか脱ごうとしおってからに」

「でも、雨でオラの道着ぬれちまったから」

「……あぁ……」

 

 

 老爺は、ちらともう片方の外套……子供ほどの背丈をしたのへ目を向け、

 

 

「そんなら、これ羽織ってから服脱げ」

 

 

 そう言って、自分が纏っていた外套をオールラウンダーへと差し出した。

 

 

「あんがと」

 

 

 受け取りつつ、オールラウンダーは老爺の服装を見た。

 どこぞの農夫を思わせる衣装の上には鎖帷子を着込んでおり、更にそこから肩当や肘当てといった物々しい装いをしている。

 

 

「じいちゃんも、ボウケンシャなのか?」

 

 

 オールラウンダーに問われた老爺は、くすりと笑った後で、

 

 

「なぁに。しがない商人よ」

「……アキンド、ってなんだ?」

「物売りさ」

「なに売ってるんだ?」

「油さ」

「へぇ」

 

 

 これが洒落をきかせたものとは知らず、本当に油の商人だと信じてしまったオールラウンダーは、器用に外套内から道着を脱いだ。

 脱いだはいいが、火が無い。

 

 

「しょうがねぇや」

 

 

 そう言ったオールラウンダーは老爺に歩み寄ると、

 

 

「悪いけど、これもっててくれ」

「……こうか?」

 

 

 上下ひと繋ぎになった山吹色の道着の、左右の袖を掴んで広げてみせる。

 

 

「うん。サンキュー」

 

 

 にんまりと笑ったオールラウンダーは、両の掌を上下に構え、

 

 

「波っ!」

 

 

 と叫んだ。

 途端、青白く丸い炎の玉が、少年の掌に宿って光る。

 

 

「なっ……!」

 

 

 驚きの余り、老爺は道着を落としそうになった。

 それでもなんとか道着を広げたままでいると、優しい温もりが顔に伝ってくる。

 

 

「こりゃ……炎を操る術か?」

「かめはめ波だ」

「……カメカメハ?」

 

 

 聞き慣れぬ術名に、老爺は頭に疑問符を浮かべる。

 と、そこへ。

 

 

「……」

 

 

 先ほど老爺が気にかけていた、一際小さな外套が、音もなく近寄って来た。

 外套は、オールラウンダーの掌に灯った炎を、まじまじと見つめている。

 その炎が、外套の中から顔を浮かび上がらせた。

 少女だ。どこか虚ろな目をした少女なのである。

 雪のように白い面の、頬の辺りに切り傷のようなものが見える。

 

 

「おめえ、ケガしてるぞ」

 

 

 何となくオールラウンダーが言うと、少女は慌てて顔を俯け、たたたっとその場を離れてしまった。

 

 

「……?」

 

 

 ぽかんとしているオールラウンダーへ、

 

 

「坊主。心配してくれるのはありがたいが、あいつのことはそっとしておいてやってくれ」

 

 

 老爺が、重々しく低い声で呼びかけた。

 この様子に只ならぬものを感じたオールラウンダーは、

 

 

「あ、あぁ……」

 

 

 訳が分からぬながらも、こっくりと頷いた。

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