ほんとはこの話も七時に投稿したかったけど、間違えて夜の七時に予約してた……
其の一
秋に蓄えた栄養を元に獣たちが冬眠をするように、冒険者たちもまた、春から秋にかけての稼ぎをもって冬を越す。
だが、全ての冒険者がそうであるとは限らない。
世の中には、この季節にのみ発現する迷宮やら宝石の類が存在するし、そもそも寒さを感じない種の冒険者とている。極めつけは、年がら年中ゴブリンの身を相手取る奇異な冒険者もいるが、それはまた別の話。
……ともかく。貴族令嬢一党もまた、冬においても活動をする冒険者たちの一端であった。
オールラウンダーを元いた地へと戻すため、今日も今日とて《
何故に彼女たちがここへ赴いたのか。その理由を簡単に述べておこう。
遡るは、一週間前のこと。貴族令嬢の父親を宥めるため、女性一党がその実家へと一時帰省したことは、この物語の中でも簡単に触れたことである。
父親からは、
「頼むから、冒険者稼業は止めてくれ」
と懇願されてしまった貴族令嬢であったが、それでも冒険者としてのあれやこれが板についてきたものか。
(街の酒場に寄ってみましょう。他の冒険者たちから、何か面白い話を聞けるかもしれない……)
そう思いたち、地元の酒場へと立ち寄った。
彼女の地元は、辺境の街よりも規模が大きく、故に酒場で賑わう人々の数もそれなりである。しかし、その時は冒険者の姿はなかった。
期待は出来ぬと落胆した貴族令嬢であったが、それでも店に入った以上、何も頼まないまま出て行くのも失礼というもの。仕方なく隅の方の円卓へ仲間と共に座り、適当に葡萄酒とパン、そして蒸かした芋などを頼んで待っていると、
「ありゃ。お嬢様じゃございませんか」
そう言って、円卓へ近づいてくる者が。
彼は、
低い低い背丈が、腰を曲げているため更に低く見えるその鉱人は、街で指折りの鍛冶職人である。貴族令嬢が冒険者として旅へ出立する折、防具の一式を揃えてくれたのも彼であった。
老骨のドワーフは、懐かしさに目を細めつつ、
「いやぁ……立派に御成なすったねぇ……」
そう言って、何度も頷いた。
貴族令嬢の方でも、冒険者としての自分の後援者の登場に安心して気が緩み、すっかり現状を老鉱人へと話してしまった。
話を聞き終えた鉱人は、
「ふぅむ……」
腕を組み、何かを考えこんでいるようであったが、暫くすると決心した顔つきとなり、
「わっしがお嬢様に教えたというのは、お父様には内緒にしてくださいませ」
そう前置きして、とある遺跡の話をしてくれた。
それは、神代の頃に鉱人が築いたという、さる北国の砦の事であった。
雪が吹きすさぶ地方にあるその砦は、すでに鉱人たちは撤退してしまい、今はすっかりと廃墟になってしまっているらしい。
らしい、というのは、老鉱人も実際に砦を見たわけではなく、彼の母親から半ば御伽噺の類のようにして伝え聞いたのみに過ぎないからであった。
「ですから、へぇ。その砦の場所は覚えているのですが、本当にあるかどうかも分からないのでして……けれども存在するとなれば、そこは鉱人が築いた砦。何かお宝が眠っていると思いますで……はい。行ってみる価値はあるかと」
そう言って鉱人は、貴族令嬢が持っていた地図を借り受けると、辺境の街から件の砦までの道筋をスラスラとかきしるしてくれたのである。
かくして貴族令嬢一党は、辺境の街でオールラウンダーと再会を果たすや、すぐさま北方へ向けて旅立ち、そして現在に至るのであった。
……だが。
村に入るなり、村民たちが心なしか白い目を自分たちへ向けていると、貴族令嬢たちは気が付いた。
「……私たち、なんか悪いことしたっけ……?」
小声で囁いてくる圃人斥候へ、
「いえ……そもそも、この街でまだ何もしていませんが……」
只人僧侶が、まるで小鬼の巣の真ん中に放り出されたかのように、おっかなびっくりと周囲を見回しながら返答する。
二人の前を行く、長身痩躯の二人組……貴族令嬢と森人魔術師は、
「ふむ。この様子では、我々に宿を貸してくれるだろうか」
「……そうしてくれることを願うしかありませんね」
と言葉を交わしている。
果たして最後尾を歩くオールラウンダーは、
「これ着てるからかなぁ」
などと呟きつつ、道着の上に羽織っている物……雪降る前に平野で斃した狼の、肉を取り除いて毛皮にしたのを、二度撫でてみた。
しかし、それは杞憂であったらしい。
酒場を兼ねた宿屋へ行ってみると、逞しい体つきをした店主の男が、顔を顰めて言い放った。
「部屋は用意できるが、料理は期待しないでくれよ。なにせ、あんたらの同業者が根こそぎ食い物をもってっちまったんだからな」
「同業者……? すると、私たちの他にも冒険者が?」
「数日前からな。……っと、噂をすれば、だ」
そう言って店主が、窓の外を忌々し気に見た。
釣られて貴族令嬢たちも視線を向けてみると、そこには草臥れた様子で一歩一歩を危なげに進んでいく、一人の娘の姿があった。
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