極寒の地でもゴブリンが腰蓑一つの姿であるのは、寒さにめっぽう強いというわけではない。単に彼らに生産性というものが欠けているからであった。
果たして『彼』も、そのうちの一匹だったのである。
いつものように洞窟へ侵入してきた愚かな冒険者を、数の暴力で叩きのめした彼は、他の仲間たちに『お楽しみ』を横取りされ、広間の隅の方で情けなく縮こまっていた。
悴む掌をなんとか暖めようと身を震わせていた……その時である。彼は、ふと気が付いて
手に力を込めると、仄かに暖気が生じるではないか。
だが、彼はゴブリン。その少しばかりの温もりなどありがたがるものではない。もっと。もっと暖かさが欲しい。そう願うようになる。
そこで今度は、掌に力だけでなく意識も集中してみせた。
するとどうか。ぼんやりとした光が掌に宿り始めたのである。温もりも、以前とは段違いのものとなっていた。
これはいい。
巣穴の隅で、独り良い気になっていると、仲間のうちの一匹がこちらへ近づいてきて、何を笑っているのかと問うてきた。
彼は、この不思議な温もりについてを仲間に教えるものかと思った。自分は『お楽しみ』を堪能できなかったのだ。この温もりは、そんな自分だけが享受すべきだ、と。
無論、そんな彼の態度を、ゴブリンである仲間が快く思うわけがない。
隠していることを喋れ!
仲間が掴みかかってきて、いつしか彼は取っ組み合いの喧嘩を始めていた。
騒動に気が付き、他の仲間たちもなんだなんだと押し寄せてくる。
とうとう我慢ならなくなった彼は、仲間の頬を思いっきり引っ叩こうとして……。
「GYAU!?」
瞬間。掌から、眩い光を放つ球が出たかと思うと、それが仲間の顔面を吹き飛ばした。
首から上を無くし、無残に血を吹きながら倒れ伏した仲間の骸。
見守っていた同族も驚いたが、彼の驚愕ぶりはもっとであった。
それからの彼は、『渡り』として活動していくこととなる。
それはすなわち、巣から巣へと移って活動していく個体のこと。
別に彼は今まで居た群れを見限ったわけではない。
仲間の顔を吹き飛ばした、あの妙な力……。それを自由自在に引き出す練習として、群れの全てを相手にしていたら、情けなくも仲間たちが全て死んでしまっただけのことなのである。
独りになった彼であったが、別に不安はなかった。群れを失った代わりに、彼はあの不思議な力を完璧に我がものとしていたからだ。
その力は、
『渡り』としての活動を続けていった彼は、冒険者共を屠り、ある程度の期間が過ぎると群れの仲間たちを皆殺しにし……そんな活動を続けていたのだ。
ゴブリンにしては珍しいことに、彼は他種の雌を犯すことに積極的ではなかった。
なにも、繁殖欲や性欲が綺麗さっぱりなくなったわけではない。
彼は、不思議な力を引き出す技術を磨くたびに自分が強くなっていることを自覚し、それが、
「楽しくて楽しくてたまらなく……」
なってしまったのである。
そんな彼が今回行きついたのが、極寒の雪山に聳える、鉱人が残した砦だった。
砦には、只人から奪った防具に身を纏ったゴブリンがいた。
群れを指揮し、只人の真似事するそのゴブリンを、彼は裏で嘲笑っていた。しかし、ここにきて彼は、この群れをたっぷりと利用してやろうと考えた。
ここらで腰を落ち着けるのも悪くはない。
自分は策を巡らせるのが苦手だ。ならば、他の得意な奴にそれを任せればいい。いざとなれば、あの力を振るえば、同族たちは縮み上がって、自分の言うことを聞かざるを得なくなるのだから。
いつしか彼の実力は、田舎者はおろか、英雄すらも凌駕するものとなっていたのである。
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