GOD EATER 2 蓮の目を持つ者   作:ジェイソン13

1 / 7
混ざり者の少女

「フェンリル本部より第三世代神機使い本格運用の認可が下りた。よって、本日で極致化技術開発局・第三世代神機試験隊を解体、同時に特殊部隊 ブラッド隊の創設をここに宣言する」

 

 

 

 

 西暦2074年――世界は“荒ぶる神々(アラガミ)”に喰い荒らされ、人類は存亡の危機に立たされていた。

 あらゆる物質を捕喰する能力を持つアラガミを前に人類は無力だった。数えきれない流血の歴史で獲得した強力な兵器や戦術は通用せず、弾丸も、砲弾も、ミサイルも、核兵器ですら彼らにとっては餌でしか無かった。

 国家という枠組みは無くなり、人類が築き上げた文明社会は崩壊し、食べ残しの人類と資源はアラガミの捕喰に抵抗出来る物質・偏食因子とアラガミを殺せる唯一の武器・神機の技術を独占した北欧の生化学企業フェンリルの庇護下に置かれることとなった。

 

 世界には荒野とスラムが広がっていた。

 

 大地を駆ける巨大な箱舟――フェンリル本部極致化技術開発局 フライアの内装は終末の時代にも関わらず洗練され、局長室に至っては贅の限りを尽くしていた。中央に立つ2人の青年の目には絢爛豪華な内装が映り、奥の局長席には多数の勲章をつけた恰幅の良い男、グレゴリー・ド・グレムスロワ局長がふんぞり返っている。

 

「ジュリウス・ヴィスコンティ少尉」

 

「はい」

 

 グレム局長に呼ばれ、中央に立つ細身の青年ジュリウスが澄ました顔で返事をする。

 真っ直ぐなダークブロンドの髪と長い睫毛、グレーの瞳を持ち、それらは黒革の式典用礼装に映えていた。高貴な佇まいのせいか、男性ではあるが美人という表現が的確だった。

 

「ブラッド隊創設に伴い、貴官を隊長に任命する」

 

「謹んでお受けいたします」

 

 ジュリウスは拳を心臓に当てるフェンリル式の敬礼で返す。

 

「ロミオ・レオーニ上等兵」

 

「はい」

 

 名前を呼ばれ、もう一人の青年ロミオが慌てて緩めた姿勢を正す。

 ジュリウスと同じく式典用礼装に身を包んでいるが、一回り低い背丈と声のせいか子供っぽさを感じてしまう。式典礼装用の制帽の下から出るカールした金髪、花緑青の瞳、体格に不釣り合いなほど幼げな顔立ちのせいで大抵の人は彼が19歳とは思わないだろう。

 

「貴官を隊員に任命する。ヴィスコンティ少尉をサポートするように」

 

「は……はい」

 

 ――副隊長じゃないのか……。

 

 出世欲があった訳では無いが、(たった1年とはいえ)2番目に長いキャリアの自分が副隊長に任命されなかったことにロミオは少し気が落ちた。

 

「何か不満か? 」

 

「い、いえ! ! ありません。誠心誠意頑張ります! ! 」

 

 ロミオも拳を心臓に当て、フェンリル式の敬礼で返す。

 

「よろしい。以上でブラッド隊創設および部隊長、部隊員の任命式を終了する。部隊の詳細については、ラケル・クラウディウス博士から説明を受けるように」

 

 ジュリウスが挙手する。

 

「グレムスロワ局長。一つ、お伺いしてもよろしいでしょうか? 」

 

「何だ? 」

 

「フェンリル本部の規定では神機使いの部隊は最低3人と定められています。人員不足の支部はともかくとして、本部直属のフライアにて規定以下の人数で部隊編成を行う意図をお聞かせください」

 

 ジュリウスの質問にグレムはため息を吐き、肩を落とす。ようやく肩っ苦しい任命式を終えられると思っていたところに水を差された。ジュリウスの質問を「余計なこと」と思っているだろう。口には出さなかったが、表情には出ていた。

 

「そうだな。本来であれば、ここに3人目のブラッド隊員が来るはずなのだが……」

 

 グレムはチラリと金色の腕時計を見る。3人目の到着予定時間はとうに過ぎている。デスクに備え付けられたこれまた装飾過多な内線の受話器を取り、耳に当てる。

 

「私だ。グレムだ。マグノリア=コンパスから来る新人。あれはまだ来ないのか? 」

 

 電話の相手が遅れの理由を説明した途端、グレムの表情が険しくなる。

 

「何ぃ! ? 輸送機が墜落しただと! ? 何故早くそれを言わない! ! 」

 

 彼は声を荒げ、デスクに拳を叩きつける。ティーカップが揺れ、中の紅茶が数滴、受け皿に零れる。

 

フレースヴェルグ隊はどうした! ? 連中を向かわせろ! ! 」

 

 フレースヴェルグ隊――フライア創設時に結成された神機使い部隊だ。主な任務はフライアの防衛、進路上のアラガミの排除、および研究・開発に必要なサンプル採取であり、フライア所属のゴッドイーターと言えばまず彼らを指す。

 ジュリウスの記憶ではフレースヴェルグ隊は北方に出現した新種のアラガミのサンプル採取で出撃していた筈だ。

 グレム局長がジュリウスとロミオを一瞥する。

 

「――――分かった。ライアー隊長に伝えろ。人員は割かなくて良い。フライアから手配する」

 

 グレムは受話器を戻すと視線をジュリウスとロミオに向け、デスクの上で両手を組む。

 

「ブラッド隊。君達の初任務だ。3人目の隊員を輸送していた航空機がアラガミの襲撃を受けて墜落した。直ちに現場に急行し、新入隊員を救出しろ。最悪、神機だけでも回収するように」

 

 ジュリウスとロミオは姿勢を正し、敬礼する。

 

「了解しました。ブラッド隊、出撃します」

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 荒野を進む陸の箱舟――フライアのヘリポートからティルトローター式の垂直離着陸機が飛び立つ。通常のヘリコプターと比較して速度・航続距離に優れており、輸送機の墜落地点までの最短のルートで飛び抜ける。

 20人ほど座れるキャビンの中ではジュリウスとロミオが向かい合って座り、タブレットを眺めている。服装は任命式の礼装のままだが、戦闘服としても使用できるように作られている。繊維は対衝撃・対裂傷に優れ、デザインも動きを阻害しないように配慮されている。

 

「データリンク完了。フラン。情報をタブレットに送ってくれ」

 

『了解しました』

 

 フライアの指令室、オペレーターのフランの落ち着いた声と共に、墜落した航空機の詳細、墜落地点の地図、地形や天候のデータ、広域レーダーが捕捉したアラガミのデータが次々と表示される。

 

『回収対象の名前は紅理沙(クリスナ)サキ。15歳。マグノリア=コンパス第十三区画出身。神機の適合試験は既に完了しているとのことです』

 

「フライアじゃないのか。珍しいな」

 

「ってことはもう戦えるのか? 」

 

『いえ。ラケル博士からの情報ですと、適合試験を行ったのは6時間前、その後は既定の身体検査を行ったのみだそうです』

 

「それヤバいじゃん! ! 」

 

 ロミオの頬を冷や汗が流れる。

 

「ああ。非戦闘員も同然だ」

 

 ブラッド隊の初任務が神機使い救出任務から神機の回収任務に変わるかもしれない。ブラッド隊の初仕事としてはあまりにも縁起が悪かった。

 

『他はパイロット2名、医師1名、護衛の神機使いが1名、同乗しています』

 

「今は、護衛の神機使いが優秀であることを願うしか無い」

 

 願うしか無いと言ったが、神に見捨てられた時代で神に祈るほど2人は信心深くない。2人とも限られた時間で出来ることをやろうと、タブレットから可能な限りの情報を頭に叩き込む。

 

『墜落地点見えました。少数ですがレーダーにオラクル反応あり』

 

 パイロットから通信が入り、キャビンに備え付けられたスクリーンに墜落地点が映される。そこはかつて港町として栄えたのだろう。海岸線沿いに廃墟が広がり、その一画にある大きな円環状の建物から煙が上がっていた。映像を拡大すると一部だが航空機のシルエットが見える。

 

「高度を下げてスタジアムの真上に行ってくれ。そこでダイブする」

 

『了解』

 

 ジュリウスとロミオはキャビンの壁にラッキングされた神機を手に取る。あらゆる物質を捕喰する性質を持つオラクル細胞、それによって構成された多細胞群体であるアラガミに対抗できる唯一の武器だ。

 ジュリウスの神機は黒い刀身に金色の刃を持つロングブレード、ロミオの神機は黒い刀身にオレンジ色の刃を持つバスターブレードの形状をとっている。今は近接武器を展開しているが、第二世代以降の神機は本体・刀身パーツ、銃身パーツ、装甲パーツの4つに分割されており、神機を銃に変形させ遠距離で戦うことも出来る。

 グリップを握った瞬間、赤い腕輪から黒い筋繊維が伸びて神機と接続する。神機はオラクル細胞で構成されているいわば“武器の形状を取るアラガミ”である。その制御には偏食因子が必要不可欠であり、神機使いは腕輪を介して神機を制御し、同時に神機から逆流するオラクル細胞を活性化させるパルスを受けることによって身体能力を飛躍的に向上させる。

 

『ハッチ開けます。ご武運を』

 

 2人は神機を握り、パラシュート無しでスタジアムに向けて飛び降りた。高度を下げているとはいえ、通常の人間では骨折と内臓破裂は免れない。しかし、神機との接続で身体能力が強化された2人は難なく着地する。

 スタジアムの中央にはジュリウス達が乗って来た垂直離着陸機と同じくらいのサイズの航空機が不時着していた。衝撃でボディは真っ二つに折れ、翼も弾け飛んで観客席たった場所に突き刺さっている。

 それ以上に2人の目を引いたのは、無数のアラガミの死骸だった。

 卵殻に噛み付かれた女体のような姿の浮遊アラガミ ザイゴート、大きな牙と巨大な尻尾が特徴の二足歩行アラガミオウガテイルの死骸が至る所に転がっている。

 その中で1体のアラガミの死骸が目を引いた。

 

 サリエル――青緑色のドレスを着た婦人と蝶が融合した姿を持つアラガミだ。常に浮遊し、額にある巨大な目から高エネルギー状態に励起したオラクル細胞をレーザーのように射出する。航空機を撃墜したのもこの個体の仕業だろう。

 

 仰臥して倒れるサリエルの頭、レーザーを発射する巨眼にはショートブレード型の神機が突き刺さっていた。

 そのサリエルの傍らに一人の男が倒れている。フェンリルのエンブレムが入った戦闘服を身に纏い、彼も仰臥して空を見上げていた。

 ジュリウスとロミオは駆け付けるが、「大丈夫か?」とは尋ねなかった。必要が無かったからだ。神機使いの男は胸から下が食い千切られ、断面からは引っ張り出された臓器が地面に零れていた。

 ロミオはこみ上げる怒りと悲しみを噛みしめ、目を伏せる。

 

「ロミオ。飛行機の中に生存者が残っていないか調べてくれ」

 

「……分かった」

 

 ロミオが航空機の折れた断面から中に入る。

 その間、ジュリウスは神機使いの男の傍らに膝を立てて屈んだ。弔いの意を込め、開いていた彼の瞼を閉じた。

 

「よくやってくれた。後は俺達に任せてくれ」

 

 弔っている間にロミオが航空機から出て来た。その表情から中の状況も良いものでは無かったのだろう。

 

「ジュリウス。パイロットと医者は駄目だった。けど新入隊員がいない。神機も無くなってる」

 

 ロミオの報告から考えられるパターンは2つ、隊員も神機も喰われたか、それとも隊員が神機を持ってここから離れているか。――せめて後者であって欲しいと2人は願う。

 突如、2人の耳に獣達の雄叫びが聞こえた。この時代に野生動物はいない。人類に保護された一部を除いて、地球上の動物はほとんど絶滅している。これはアラガミの声だ。

 ジュリウスとロミオは声の聞こえた方へと走り出した。神機接続により強化された脚力で2人は2歩でスタジアムから飛び出し、コンコースを抜ける。

 当時の建造物が廃墟という形で残っている市街地を駆ける。アラガミの鳴き声、神機の銃声がまだ続き、2人は音を頼りに見通しの良い大通りを走り抜ける。

 

『ヴィスコンティ隊長。2時の方向100mに神機使い1名のバイタルを確認』

 

 2時の方向100m、目を向けると2階建ての広い建物が見える。回収対象はその中にいるのだろう。

 

『これは――! ! オラクル反応確認。回収対象は小型アラガミと交戦しています』

 

 ――間に合ってくれ……! !

 

 ジュリウスの表情にも焦りが見え始める。

 

 2人は建物の中に突入する。かつてはショッピングモールだったのだろうか、内部は吹き抜け構造になっており、崩落した天井から入る陽光で1階から上のフロアの様子が窺える。

 

「おーい! ! サキちゃーん! ! 」

 

 ロミオが回収対象の名前を呼ぶ。音が反響するが、再び静かになった。アラガミの声も銃声も聞こえなくなっている。最悪の事態が脳裏に浮かんだ。

 

 

 駆ける足音が聞こえる。音は軽く、テンポは速い。

 

 

 2階フロアから、少女が飛び出した。小柄な体格をブラッド隊の式典用礼装で包み、その体躯に不釣り合いなくらい大きな神機を握っていた。ジュリウスと同じ形状、ブラッド隊仕様のロングブレードだ。

 少女は吹き抜けを落ちて中央広場に着地する。

 その直後、彼女を追ってオウガテイルが飛び出して来た。白い獣脚類の身体と巨大な頭部が少女に飛び掛かり、大口を開けて2本の牙を剥き出しにする。

 少女は着地直後に反転、バックラーを展開し、オウガテイルに対して斜めに傾けた。僅かに身体を動かし、バックラーの表面で滑らせるように向かって来る牙と頭を受け流す。少女は通り抜け様にオウガテイルの脚をブレードで切断。瞬時に翻りながら神機を変形。ブラッド隊仕様のショットガンを伸ばした。射程距離を捨て、近距離の威力に特化したオラクルバレットを生成する銃身パーツだ。

 少女はすかさずスラッグ弾を射出。高エネルギー状態に励起したオラクル細胞の塊はオウガテイルの身体を弾き飛ばした。

 

 

 少女の動きにジュリウスとロミオは絶句した。驚きのあまり、援護しようと思って銃形態に変形させていた神機を下ろす。

 

「なななな……何だよ! ! 今の動き! ! 6時間前に適合検査したばかりって何かの間違いじゃないのか! ? あれどう見ても数年戦ったベテランの動きだよ! ! 」

 

「期待の大型新人という奴か……」

 

 神機の扱いだけではない。適合検査したばかりで訓練も受けていない中、彼女は既に自分の戦い方を確立させていた。

 

「フラン。オラクル反応はどうだ? 」

 

『消失しました。今ので最後です』

 

「分かった」

 

 ジュリウスとロミオは吹き抜け広場の中央に立つ少女に歩み寄った。

 

「ブラッド隊隊長 ジュリウス・ヴィスコンティだ。君の救援に来た」

 

 ジュリウスに声をかけられ、少女は振り向いた。

 髪ゴムで束ねられた栗色のサイドテールが揺れ、アジア人の幼く可愛らしい顔立ちが見えた。情報では15歳となっているが、目測155cmの低い身長も相まって更に1~2歳幼く見える。

 しかし、それ以上にジュリウスの目を引いたのはだった。彼女の右頬から首筋にかけて血管のような赤い痣が浮かび上がっていた。戦闘による傷や打撲ではない。先天的なものだろう。

 サキはジュリウスに向けて敬礼する。活躍とは裏腹にその表情には暗い影が落ちている。

 

「本日付でブラッド隊に配属されました。紅理沙(クリスナ)サキです。よろしくお願いします」

 

「ああ。よろしく頼む」

 

 

 

 左の濃緑色の瞳、右の神々しい金色の瞳はジュリウスを見ていた。

 




祝・ゴッドイーター10周年!!

無印をプレイし世界観に惹かれ、誰にも見せることが無かった人生初の二次小説を書いた当時の興奮を思い出しました。2やレイジバーストをプレイしていた時に考えていた話も「旬の時期は過ぎたし、ゲームも引退したし、お蔵入りかなぁ」と思っていましたが、「10周年! ? 乗るしかない、このビッグウェーブに!!」ということで書き始めることにしました。

主人公(サキちゃん)のビジュアルについては、2やレイジバーストの女主人公(デフォルト設定)を少し幼くして、痣とオッドアイをプラスした感じでイメージしてくれれば大丈夫です。



その他、ハーメルンの連載作品

「ブラック・ブレット 贖罪の仮面」

興味がありましたら是非。



次回 「守れなかった罪」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。