「ええええええええええええ! ? 本っ当に初めて! ? 」
「はっ……はい」
新入隊員・紅理沙サキの回収という任務を終え、フライアに帰投中だった
神機を握り、アラガミを倒し、何事も無かったかのようにジュリウスに敬礼して自己紹介したサキだったが、神機を手放した瞬間、スイッチが切れたかのように彼女は
「どこかの支部で数年キャリアを積んでいたとか、そういうこともなく! ? 」
「は、はい。無いです」
「マグノリア=コンパスで戦闘訓練を受けていたとか! ? 」
「えっと……授業で護身術を習っていたぐらいです」
サキは自嘲し、遠い目をして過去を振り返る。その表情はあまり芳しくなく、ジュリウスは「成績は良くなかったのだろうか」と推測する。
「もしかして、先祖代々サムライかニンジャの家系で、さっきの動きも秘伝の剣術とか」
「そういうのも無いです」
「じゃあ……何であんな動きが出来るんだよ? もう生まれ持った才能というか、天才としか説明が付かないんだけど」
ロミオが頭を抱え、何も答えられないサキも困りながら愛想笑いを浮かべる。
「その……何て言いますか、自分でも上手く説明できないんですけど、神機を握った瞬間、神機の使い方とか戦い方とか、色んな情報がぶわーって頭に入ってきまして……、そうしたら自分が自分じゃなくなったんです。神機も使い慣れた感じがして、アラガミも恐くなくなって、『私が戦わないと』『私がみんなを守らないと』って気持ちが大きくなったんです。
――――――その時にはもう、守りたいと思った人達はみんな死んでいましたけど」
サキは皮肉を吐き、キャビン後方に目を向ける。そこには4つの遺体袋が置かれていた。2名のヘリパイロット、1名の医師、1名の護衛の神機使いがそれぞれに入っている。そして彼の神機もサリエルから引き抜かれ、専用のラックに置かれていた。
サキと共に目を向けたロミオも苦虫を嚙み潰したよう表情を浮かべ、帽子の唾を落として表情を隠す。
ジュリウスは2人の心情を察すると涼しい顔のままサキに目を向けた。
「サキ。気にするなとは言わない。救えなかったことを悔やむのも、彼らの為に涙を流すのも間違ったことではない。だが、君は生き残ったことを誇れ」
サキははっとさせられ、面を上げてジュリウスの方を向く。
「与えられた職務だが、彼らは命を賭けて全うし、君を守り抜いた。今、君がこうして生きている時点で
いつしかロミオも帽子を外し、ジュリウスに目を向け、言葉に耳を傾けていた。
「もう一度言う。生き残ったことを誇れ。例え自己満足であったとしても、その『誇り』はいずれ『意志』となり、君の『力』となる」
2人の視線が集まっていることに気付いたジュリウスは自分に隊長としての期待が寄せられていると感じる。純粋に嬉しく思いながらも責任の重さも身に染み入る。
『フライア着艦まであと3分』
パイロットからアナウンスが入る。どれだけ航空技術が進歩しても着艦の瞬間には振動が来る。ジュリウスとロミオは身の回りに不安定なものや零れるものが無いか確認する。2人ともこの作業には慣れて来たのだろう。
ズシンと機体が上下に揺さぶられ、ローターの音が静まり始めた。
『後部ハッチ開きます』
パイロットのアナウンスが入り、後部ハッチが開く。ヘリポートには作業員が待ち構え、手慣れた作業で元の航空機から回収した物資や遺体袋を回収していく。
3人もシートベルトを外し、後部のハッチからヘリポートへと降りた。
そこの1人の女性が彼・彼女らを待っていた。
一人は車椅子に座っていた。運動できない身体故かその体格は少女ように細く、平滑感のある質素な黒いドレスとチュールレース付きの黒い帽子は喪服を想わせる。そのような格好だからだろうか、腰まで届く柔らかな金髪と優しい青い瞳が映えた。
彼女の名は、ラケル・クラウディウス。
オラクル脳神経科学研究の第一人者であり、フライアの副開発室長を務めている。ブラッド隊の前身となった第三世代神機試験隊も彼女が提唱したものだ。
彼女達を見た瞬間、ジュリウスとロミオは姿勢を正して敬礼し、2人の動きを見てはっと気づいたサキも遅れて敬礼する。
「ブラッド隊。ただ今、帰還しました」
「大変でしたでしょう。楽にして良いですよ」
ラケルが小さく口を開く。それほど大きな声を出していない筈だが、強い風が吹くヘリポートで何故か彼女の声は耳に届く。
言われるがままに3人は敬礼の姿勢を崩した。
装飾のついた車椅子がひとりでに動き、ラケルがサキの前へとくる。
「紅理沙サキさん。ようこそ。フライアへ。ブラッド隊は貴方を歓迎します」
ラケルはか細い笑みを浮かべた。顔は見えるのだが、帽子のチュールレースのせいでサキは彼女の表情が読めなかった。
――何故だろうか。本能的に彼女から恐怖を感じた。
*
フライアに到着したサキを待っていたのは身体検査だった。適合検査で1度経験しているとは言え、一度も訓練を受けていない新兵が現場で神機と接続、そのままアラガミと交戦するという異例が発生した。神機という名の生体兵器、それを使う神機使いのメディカルチェックに対し、本部・支部問わずフェンリル全体が神経を尖らせている。
サキはフライア到着早々、医療班の担架で医療区画に運ばれ、制服を脱がされ、インナーと検査着だけの格好でよく分からない検査機器に放り込まれた。
それが終わるといつの間にか用意されていた新しい制服に着替え、サキはラケル博士の研究室に向かった。
彼女の研究室は見た目からイメージし易いゴシック調の落ち着いた調度品と裏腹に唸り声を上げて動き出しそうなマシンやコンピュータが雑多に混ざった不思議な部屋だった。様々なものが低い位置に置かれており、車椅子生活を余儀なくされたラケルに配慮したつくりになっている。
ジュリウスとロミオはソファーに座り、サキが来るのを待っていた。彼女が検査を受けている間に少し時間があったのだろう。2人は私服に着替えていた。
ジュリウスはその風貌通り、貴族を想わせる革や金属で装飾された燕尾服を着ていた。足回りは戦場で走り回ることを想定して丈夫なブーツで固めている。誇りと礼節を重んじる彼らしい格好だが私服と言うには堅苦しいとサキは感じた。
対して、ロミオはオレンジ色の短丈ジャケットと太い水色のボトム、頭にはバッジのついたニット帽を被り、非常にポップで彼の明るい性格を見事に表していた。サキはその服に何個の缶バッジが付いているのか気になった。
ラケルの対面となる位置のソファーに今日の主役であるサキが座る。
「それでは改めて。ようこそ。フライアへ。新しいゴッドイーター」
「ゴッドイーター? 」
「神機使いの通称です。その言葉の意味は近い内に知ることになるでしょう」
特に隠しているつもりでは無いのだろう。しかし、ラケルの言動には靄がかかったような不透明さを感じ、サキは何かを隠しているのではないかと勘ぐってしまう。
「ブラッド隊は第三世代神機の本格運用を目的として創設された部隊です。神機の雛型となった第一世代、可変機能を備え近距離式と遠距離式を複合させた第二世代、そして、『血の力』によりそれらを超越した第三世代です」
「あの……『血の力』って何ですか? 」
サキが恐る恐る手を挙げ、ラケルに尋ねた。
「『血の力』とは、第二世代神機同士が接触した際に稀に発生する意思や記憶の交流『感応現象』を利用したものです。『人為的に感応現象を引き起こすことで神機に意志を伝え、神機に秘めた力を発揮させる。その力は神機と神機使いだけでなく、周囲の神機使いにまで波及し、彼らを導いていく』それが『血の力』です。現時点でそれに目覚めたのはジュリウスだけですが、ロミオにも、サキにも、その可能性が隠れています」
抽象的なラケルの話が理解できなかったのか、サキの頭の上には「?」マークがたくさん浮かび上がっていた。目も少し上を向いている。
「おい。マジかよ」
「大丈夫か? 」
ラケルはサキが話を理解していないのを察し、「ふふっ」と小さく笑みを零す。
ラケルの傍にある画面にウィンドウが開き、メッセージの受信を知らせる。ラケルはゆったり手つきでキーボードを操作し、メッセージの内容を目で追う。
「医療区画から報告がありました。『異常なし』と。良かったですね」
「『異常なし』ですか……」
「何か気になることでも? …………ああ、そういえば、ジュリウスとロミオから神機と繋がると性格が変わるという話を聞いていましたね。それでしたら、貴方はイーターズ・ハイかもしれません」
「「「イーターズ・ハイ? 」」」
ブラッド隊3名が合わせてラケルに問う。
「神機使いの中には接続すると気分が高揚し、性格が豹変する人が一部には存在します。以前、拝見した論文では『普段はお菓子作りが大好きな朗らかな女性だが、神機を握ると破壊衝動が高まり、大出力のオラクルバレットで敵も味方もまとめて吹き飛ばす破壊の化身になる』と書かれていました」
「博士、その人の頭大丈夫? 」
ロミオが遠慮のない感想を述べる。
「彼女が所属する支部で何度も検査していますが、何も問題ないそうです」
ラケルの視線がサキに向けられる。彼女の脳波を読み取り、車椅子がサキに向かって動き出す。
「サキ、貴方の場合ですと『感情が抑制されることで恐怖心が薄まり、冷静で的確な判断が出来るようになる』といったところでしょうか。オラクル脳神経科学は私の専攻分野ですが、イーターズ・ハイに関してはサンプルが少ないものですから、今はこれくらいのことしか言えません」
ラケルは車椅子から上半身を乗り出し、サキに向けて手を伸ばす。彼女の両頬に手を当て、触れる。紅理沙サキという人間がそこにいることを確認しているかのようだ。
「貴重なサンプルですし、貴方の頭を切り開いてみましょうか」
――ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! ! ! !
「冗談です」
サキの恐怖と声にならない悲鳴をどこ吹く風とラケルは手を離し、サキから離れる。
「初実戦でお疲れでしょうし、詳しいことはまた明日にしましょう。サキ、ロミオ。明日からブラッド隊の本格的な活動が始まります。今日はゆっくりと休んで下さい」
ロミオは休みと聞いて、「よっしゃー」と分かり易いリアクションで喜び、サキもようやく休めるとほっと一息吐く。
「あの……ヴィスコンティ隊長は? 」
「ブラッド隊について、ラケル博士に相談したいことがある。お前達は先に戻っていろ」
「了解しました」
「了解。隊長殿」
2人が出て行った後、自動扉が閉まり、瞬時にロックがかけられた。
部屋を出た後、サキとロミオに「部屋に案内するぜ」と言われ、一緒に広大な廊下を歩いていた。宮殿の中のように芸術的だが、所々に増設された何かのパイプ、扉を開け閉めするためのタッチパネルといった機械的な要素も組み合わさっている。
サキはフライアの壮大さに目が回り、床、壁、天井、設備、etc……に目が映る。天井すらも美術品のようでずっと見上げていると通りがかったフライア職員にクスクスと笑われた。恥ずかしくなり、途端に視線を前に戻す。
「ごめんなさい。ついつい……」
「マジでビビるよな。俺なんて去年来た時、見上げ過ぎて後ろに倒れたんだぜ」
サキは思いっ切り吹き出した。笑いが堪えられず、ロミオから背を向けて顔を隠すが全身が小刻みに揺れている。
「あっ、コラ! ! 笑うなよ! ! 俺、先輩だからな! ! ロミオ先輩だからな! ! 」
「ごめんなさい。あまりにも面白くて……」
まだ笑いが収まらないサキがふと下腹部を抑える。全身の震えが下半身だけになり、彼女の脚の震えが目立ち始める。
「あの、ロミオ先輩。トイレどこですか? 」
「え? 漏らすほど笑っちゃったの? 」
ロミオがサキから半歩遠ざかる。
「漏らして無いです! ! けど漏れそうなんです! ! 」
「そこの横道に入ったら左手に女子トイレがあるから」
ロミオは呆れながらトイレの方向を指さす。神機を握っていた時のカッコいいサキのイメージはもうどこかへ飛んで行ってしまった。
「ふぅ~間に合った~」
女子トイレの個室で用を済ませ、サキは手洗いを済ませる。備え付けられた乾燥機で手を乾かし、ロミオを待たせてしまっていると思い駆け足でトイレから出る。
出会い頭に人とぶつかってしまった。相手はサキよりもフィジカルに長けるのか、ぶつかったサキだけがよろめいて後ろに下がる。
「あ、ごめんなさい」
サキは相手を見上げる。
目の前に居たのは、生来の焦げ茶と染めた金髪が入り混じったロングヘアの女性だ。ダメージジーンズと着古したTシャツの上にオレンジ色のジャケットを羽織っている。腕には神機使いの証である赤い腕輪が付いていた。
「へぇ。黒い腕輪……。アンタが第三世代の新入りか」
神機使いの女は黒い腕輪からサキへと視線を向ける。怒りと、憎しみと、恨みと、悲しみが、その口調と視線だけでも十分に伝わる。彼女から危険を感じ、サキは離れようとするが、背後は女子トイレ、袋小路だ。
「何で……何でテメェなんか守って兄ちゃんは死んだんだよ! ! 」
神機使いの女がサキを殴り飛ばす。彼女の軽い身体は背後の壁に叩きつけられる。サキは立ち上がろうとするが、瞬間、身体が浮いた。自分の脚で立ち上がったのではない。神機使いの女がサキの制服の襟を掴んで持ち上げていたのだ。彼女は腕を振るい、サキを手洗い台の鏡に叩きつけた。大きな音を立てて鏡が割れ、破片が彼女の身体に刺さる。
サキは神機使いの女の胴を蹴るが、そこそこ鍛えているのか怯む様子も無い。
「ヨーナス兄ちゃんは凄いんだ。優しくて、強くて、料理も出来て、自分だって苦しいのに血の繋がってない私を拾って、字の読み書きを教えてくれたんだ! ! 返してよ! ! 私の……私のたった一人の家族なんだよ! ! 」
神機使いの女は割れた鏡の破片をナイフのように握り、その先端をサキに向ける。
「おい! ! 何やってんだよ! ! テレサ! ! 」
彼女の声と鏡が割れる音で異変に気付いたのだろう。ロミオが神機使いの女――テレサを背後から羽交い絞めにする。それでもテレサは止まろうとしないが、遅れて同じ赤い腕輪をつけた人達が集まり、数人がかりでテレサを床に押さえつける。
「邪魔すんじゃねえ! ! 」
「テメェ。ちょっと黙ってろ! ! 」
赤い腕輪のついた腕が降り上がり、テレサの顔面に叩きつけられた。そこで彼女は気を失ったのだろう。必死にもがいていた彼女の手足はピタリと止まり、騒がしかった女子トイレの中は静かになった。
サキの視界の半分が赤くなる。額に温かい液体が流れ、ふと手を当てるとその温かさは手にも伝わった。血がべっとりと付いて、手が真っ赤になっていた。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
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解説
・ブラッド隊以外の神機使いについて
ゲーム本編ではブラッド隊以外にフライア所属の神機使いは描写されていませんでしたが、「神機兵が稼働する以前、ブラッド隊が結成される前のフライア防衛はどうなっていたんだ? 」「第三世代や神機兵の研究・開発に必要な素材を採取する部隊がいても良いのではないか? 」と考え、極東支部における防衛班的なポジションとしてフレースヴェルグ隊を出すことになりました。
他にも整備班や医療班など、フライアの人達をもっとたくさん描写することで「アットホームな職場」を表現出来たらいいなと思っています。
次回「感応種」