GOD EATER 2 蓮の目を持つ者   作:ジェイソン13

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話の内容がサブタイトルとちょっとずれていたので前回と今回のサブタイトルを変更しました。ごめんなさい。


フライア防衛戦

 フライア屋上のヘリポートに風が靡く。幸い砂埃は屋上まで届かない。仮面越しの視界には荒野と廃墟が地平線の向こう側まで広がっている。澄んだ空気と風、晴天、――そして砲声が轟いた。

 群れの中央にいるシユウ感応種に向けて、高エネルギー状態に励起したオラクルバレットが射出される。フレースヴェルグ隊の神機使い(スナイパー)が放った不意の一撃は感応種の頭部を貫く軌道を描いた。しかし、群れの別個体が盾となり感応種を守った。

 捕喰本能しかないアラガミの利他的行動に驚いている暇は無い。スナイパーの二撃目、三撃目が放たれるがまたしても別の個体が感応種を守る。

 シユウの群れが更にスピードを上げてフライアに急接近し始めた。

 連射性能に優れたアサルト、高威力かつ広範囲に爆発するバレットを放つブラストの射程圏内に入り、他の神機使い達が一斉にトリガーを引いた。赤色に輝く高熱のオラクルバレット、青色の輝く冷気を纏ったオラクルバレットが暴風雨のように放たれる。

 

「最優先目標は触手付きだ! ! 何としても撃ち落とせ! ! 」

 

 ヘリポートの屋上からケイジも迎撃に入る。彼の手には重厚長大な神機が握られていた。

 第一世代遠距離式、アサルトにカテゴライズされるパーツで構成されている。連射性能に優れ、比較的小型で取り回しが良いのが特徴だが、ケイジの神機はそれに当て嵌まらない。大柄な体格に合わせたのか、銃身パーツだけで2mは越えている。鋼鉄製の装甲で組み上げられ、ブルーイング塗装が施されたそれは旧世代の兵器を想わせる。二脚(バイポッド)を展開し、接地された姿は突撃銃(アサルトライフル)と言うより重機関銃(へヴィマシンガン)だった。

 彼の神機にはフライア壁面のハッチから伸びるケーブルが繋がれていた。供給元はフライアの心臓部、超大型オラクルジェネレーターだ。

 神機の銃身パーツは実弾を用いない。アラガミから吸収したオラクル細胞を高エネルギー状態に励起して放つ兵器だ。刀身パーツを用いたオラクル細胞の供給が出来ない第一世代遠距離式神機にはオラクル細胞を培養し、弾丸として常に供給するジェネレーターが搭載されているが、戦闘で十分に使える量を供給できているとは言い難く、近接式からの供給やアンプル投与などで不足分を補っている。

 フライアの心臓部には超大型のオラクルジェネレーターが搭載されており、ここで培養されたオラクル細胞が電気を始めとしたフライアのインフラ、研究開発に必要なオラクルリソース、第一世代遠距離式のバレットへと用いられている。フライアの航行や研究開発に必要なリソースも使えば、最大で第一世代遠距離式500人が戦闘で必要とするオラクルを供給することが出来る。

 

 ほぼ無限にあるオラクルリソースを使った迎撃、決して止むこと無い弾丸の雨はこれまでどんなアラガミも近づけることなく、駆逐してきた。シユウの群れは統率された動き、フェイント、錯視効果を駆使して巧みにバレットを避けるが、感応種は身代わりを使い過ぎたのか、交戦開始から1分で群れは残り5体になっていた。

 

『偏食場パルス到達まであと10秒! ! 』

 

 残り5体のシユウは地面に身体が当たらないギリギリの低空飛行でフライアに接近する。フランから告げられるタイムリミットが神機使い達の手を鈍らせ、弾道のブレを生む。シユウに当たらなかったバレットが砂埃を巻き上げ、彼らの身を隠した。

 直後、残った5体が息を合わせて別々の方向に飛んだ。その一瞬で神機使い達は感応種を見失った。通常のシユウと感応種で体型や色に大きな違いは無い。肩から伸びる赤い触手をでしか判別がつけられず、砂埃で隠れた一瞬、直後の変則的な動きの中で感応種を見失った。神機使いの動体視力ではもう追えない。

 もう数秒も残されていない中、フレースヴェルグ隊は各々が目を付けたシユウを銃撃する。しかし、もう遅かった。

 

『偏食場パルス到達まで5……4……3……2……1

 

 

 

 ……0』

 

 神機と神機使いの接続が切断された。バレットの暴風雨は止み、砲台となっていた神機使い達は無力化され、木偶の坊となる。

 

「総員退避! ! ゲートを閉じろ! ! 」

 

 神機が使えなくても籠城という防衛手段が残されている。移動要塞フライアは世界中のアラガミの捕喰傾向を採集し、それに対応できるように常に防壁がアップグレードされている。感応種と言えど、シユウは既にサンプルを採取し対策が施されている種類だ。防壁を破るのは困難だろう。

 ケイジがモニターで外部カメラの映像を見るとシユウが壁を叩き、炎弾をぶつける様子が映っていた。

 

「死ぬまで、そこで壁殴りでもしてるんだな」

 

 

 

 *

 

 

 

 サキはロミオの後に付いて行き、“避難所”へと連れられた。「神機を握ってからまだ24時間しか経過していない」、「初回訓練すら受けていない」、「怪我人でつい30分前まで医療区画のベッドの上だった」、戦えない正当な理由はいくらでも思いつくが、アラガミに立ち向かうべきゴッドイーターが()()()()という事態に歯がゆさを感じた。恥ずかしくなり自分がゴッドイーターであることを見せないように手で腕輪を隠す。

 

 フライアの中心部だろうか、大仰な自動扉が開き、ロミオはサキを避難所に招待した。

 

「あの……ここ、避難所なんですか? 」

 

 避難所とはとても思えない場所だった。半円型に広がる薄暗い部屋だ。壁一面にはフライア各所を映すモニターが何十個も設置され、壁の中央にはフライアの図面とレーダーのようなものが映し出されている。壁に向かってCの字型に展開するデスクには30人近いオペレーターが座り、絶え間なく指示の声が飛び交う。

 

「フライアの頭脳。オペレーションルームだよ。扉も壁も避難所(シェルター)と同じ対アラガミ装甲壁だから安全安心ってね。まぁ、ここが一番近かったってのもあるんだけど」

 

 アラガミ接近という緊急事態の中、フライアを管理するプロフェッショナル達の仕事場に来てしまった右も左も分からない自分という状況にサキは身が震える。

 

「だ、大丈夫なんですか? こんなところに来て」

 

 サキは振り向くが、既にロミオは背を向けて遠くに居た。

 

「それじゃ。俺はジュリウスと合流するからー」

 

 まるで逃げるかのようにロミオはそそくさとどこかに行ってしまった。

 ロミオという味方を失い、完全にアウェーとなったサキは恐る恐る皆の邪魔にならないように壁に背を付けて部屋の端へ移動しようとする。

 

「あら。こんなところで遇うとは思いませんでしたよ。サキ」

 

 突然、暗闇の中から聞こえた声にサキは「ひっ」と小さな悲鳴を上げる。最初はお化けかと思ったがよく目を凝らすと車椅子に座った少女のシルエットが見える。それがラケル博士だと分かったのは数秒後のことだった。オペレーションルームの暗闇にラケルの喪服のようなドレスは見事に溶け込んでいた。

 

「え、えええ。ええっと、紅理沙サキ二等兵。後学の為に来まひゅ――」

 

 ――噛んだ。

 

「……ふふっ。良い心掛けです。私の隣に来てください。ここなら、ブラッドの戦いがよく見えるでしょう」

 

 ラケルに手招きされてサキは彼女の隣に立つ。ラケルはフライアの中でもかなり偉い地位にいるのだろうか、そこは中二階となっており、そこからせわしなく動くオペレーター達を一望できる。

 

「オラクル反応低下していますが、偏食場パルスは依然接近中」

「居住区画の避難70%まで完了」

「第三シェルターが満員だ。第一と第六に入るよう誘導経路を変更しろ」

「統合整備区画の避難がまだ始まっていません」

「あの愚連隊が言うこと聞かないのは昔からだろ。放っておけ」

「神機兵は出せないのか? あれなら感応種にも対応できるだろ」

「たった今、テストから戻って来たばかりだぞ。パーツ交換が終わらないとまともに動かせない」

「アラガミ侵入時のダメージコントロールマニュアルどこですか? 」

「こんな時にマニュアルなんて役に立つか」

「重要区画を予備電源に切り替えろ。偏食場パルスを受けたらジェネレーターも止まるかもしれない」

「もうすぐ偏食場パルス圏内に入ります! ! 」

 

 ふと後方を振り向くとグレム局長が座り、デスクのモニターを見ていた。彼はサキが来たことに気付いたが一瞥だけするとまた冷や汗を流しながらモニターに目を向けた。オペレーター達に釣られて彼も焦っているようだ。太い指が絶え間なくデスクを叩く音が耳に響く。

 湾曲した壁面モニターの一つに「From Fraceberg01 Sound only」と表示される。

 

『こちらケイジ。群れの80%を迎撃した。だが感応種含む5体が残っている。俺達はもう偏食場パルスの影響で神機が使えない』

 

 ケイジから報告を聞いた瞬間、グレムは憤慨した。高そうな腕時計が壊れん勢いで握り拳をデスクに叩きつける。

 

「死に損ないの犯罪者部隊め! ! こういう時ぐらい役に立たんか! ! 」

 

『聞こえてますぜ。グレム局長。感応種が潰れれば我々も動ける。右舷後方の装甲に取り付いている触手付きがそうだ』

 

 オペレーターの一人は感応種が映る外部カメラを拡大する。外壁を破ることを諦めたのか、シユウ感応種は外壁を叩くことも炎弾をぶつけることも無く、そこに立ち尽くしていた。

 続いて画面に「From Blood 01. Sound only」と表示される。

 

『こちらブラッド隊。ジュリウス・ヴィスコンティ。ライアー大尉からの情報提供を受け、現在、感応種のいるブロックに移動中』

 

 

 

 *

 

 

 

 全員がシェルターに避難し、閑散とした研究区画をジュリウスとロミオが駆け抜ける。右手には搬送ラインから呼び出した神機が握られている。神機と接続したことで2人の身体能力は飛躍的に上昇し、地面や壁を蹴り、目にも留まらぬ速さで風を切る。

 ジュリウスとロミオの神機は刀身・盾パーツが小さく折りたたまれ、逆に剣形態の時は小さくなっていた銃身パーツが展開する。

 ジュリウスの神機にはアサルトと呼ばれるカテゴリーの銃身パーツが付いている。連射性能に優れ小型で取り回しが良いという本来の特徴を踏襲し、その形状や基本的な構造は旧時代のアサルトライフルに近かった。

 ロミオの神機はブラストと呼ばれる銃身パーツを備えている。連射性能は劣るが、着弾地点で広範囲に爆発するようなバレットを用いることが出来る。銃身は太く短く、その形状はかつてのグレネードランチャーに近い。

 

「ロミオ。初の対感応種戦だが相手はシユウだ。高い格闘能力と掌から出す炎弾に気を付ければ問題ない」

 

「あのかめはめ波みたいな奴だろ」

 

「かめはめ波? 」

 

「……ごめん。今の忘れて」

 

 残り30秒足らずで感応種のいるブロックに辿り着く。ライアー大尉とオペレーションルームからの情報では感応種は外で立ち尽くしており、入ろうとする気配が無いようだ。もしかすると外壁を破れないのかもしれない。

 突如、2人のヘッドセットにアラームが鳴る。

 

『ヴィスコンティ少尉! ! レオーニ上等兵! ! 感応種の形態が急激に変化しています! ! 偏食場パルスも増大! ! これは――! ? 』

 

 冷静なオペレーションで定評のあるフランが声を張る。

 突如、目の前の外壁が吹き飛んだ。破られた装甲壁、吹き飛んだ破片で砕かれた内装により煙が舞い、侵入者の姿が灰色に包まれる。

 ジュリウスとロミオはこれが対シユウ戦でないことを悟り、グリップを固く握る。

 突如、突風が吹いて煙が消し飛び、シユウ感応種の姿が露わになった。

 金属のように固い装甲で覆われていた筈の翼手は翡翠色の羽毛に覆われ、翼手の裏面には幻惑的な紅桔梗色の模様が見える。変わったのは翼だけではない。男性の武人のような体格だった本体は女性的なものに変化し、固い筋肉で構成された肢体は艶やかな白い毛皮と女性的なしなやかな筋肉に変わり、怪物めいた顔も仮面で顔を覆う妖艶な美女のようになっていた。

 

 ――これが感応種か。

 

「俺が前に出る。ロミオはあいつの弱点属性を探ってくれ」

 

「了解」

 

 ジュリウスは神機を剣形態に変形させ、シユウ感応種に斬り込んだ。突撃に気付いたシユウ感応種は迎え撃つように翼を大きく広げる。その瞬間、何も無い空間から氷の槍が生成される。

 ジュリウスは咄嗟にシールドを展開して防御に入る。ギリギリのタイミングだった。シユウ感応種は後方宙返りしながら氷の槍を射出、それはシールドと周囲に着弾すると爆発し、極低温の霧をばら撒く。

 ロミオはシユウ感応種に照準を合わせ、着地した瞬間を狙ってマグマのように赤熱するオラクルバレットを射出する。氷や冷気を使うアラガミは真逆の高熱に弱いという当然のセオリーだ。しかし、シユウ感応種は再び氷の槍を生成するとロミオのオラクルバレットに当てて相殺する。バレットが相殺された瞬間、超高温の爆発を起こした。シユウ感応種は熱に晒され、翼手で身を守る。

 感応種が自ら視界を失った隙をジュリウスは見逃さなかった。神機を再び銃形態に変形させ、トリガーを引いた。絶え間なく放たれる炎弾で牽制し、シユウ感応種に接近。再び剣形態に変形させて翼手を斬った。

 

 ――浅かったか。

 

 斬り込んだ一瞬、シユウ感応種は後方に飛び上がり、斬撃を軽減した。ジュリウスは翼を完全に切り落とすつもりだったが、傷をつけるだけで終わってしまった。

 宮殿のように高いフライアの天井をシユウ感応種が飛翔する。空気より軽い物質で身体が構成されているのか、羽ばたくこと無く宙に浮き、静かに2人を俯瞰する。

 再び仕切り直すかのようにブラッド隊2名とシユウ感応種は向き合う。

 ヘッドセットにフランから通信が入った。

 

『感応種のオラクル活性化を確認。周囲のオラクル濃度も上昇、いや、集結しています』

 

 ――どういうことだ?

 

 2人はそのことを問おうとした瞬間、シユウ感応種のものとは思えない獣の雄叫びが聞こえた。

 ロミオが振り向くと開いた大顎が今にも喰いつかんと迫っていた。ロミオは咄嗟に神機を前に出して喰いつかせる。襲ってきたのは言うまでも無くアラガミ、感応種と同じ翡翠色の毛皮に覆われたオウガテイルだった。ロミオを捕喰しようとする毛皮のオウガテイルと抵抗するロミオの力比べが始まる。

 

「こいつら、どこから! ? 」

 

 ジュリウスがシユウ感応種から目を離し、毛皮のオウガテイルを銃撃しようとするが更に2体目、3体目と毛皮のオウガテイルが姿を現しジュリウスに飛び掛かる。それらを斬り伏せると毛皮のオウガテイルは細胞の結合が崩壊し、オラクル細胞が黒い霧となって霧散する。

 ジュリウスは目を疑った。霧散したオラクル細胞がその場で集結し、何も無い空間から再び毛皮のオウガテイルが生成される。

 

 ――大気中のオラクル細胞を操り自分の眷属を作り出すといったところか。厄介な能力だ。

 

 ロミオが神機を無理やり銃形態から剣形態に変形させ、毛皮のオウガテイルを弾き飛ばす。バスターブレードを横に薙ぎ、毛皮のオウガテイルを叩き切った。しかし、直後に霧散したオラクル細胞が再集結し、毛皮のオウガテイルが2体に増える。

 2人がシユウ感応種、毛皮のオウガテイルに取り囲まれ、背中合わせにして死角を埋める。

 

「ジュリウス。どうする? このままだとジリ貧だぜ」

 

「本体を叩くしか無いが……、そう簡単にはやらせて貰えないようだ」

 

 外壁の外から何かが着地する音が聞こえた。2人は自分らを取り囲むアラガミ達に悟られないように外壁の穴に向ける。

 次々と入って来る4人の大型鳥人、他のブロックで外壁を破ろうとしていた残りのシユウ達だ。状況は最悪の展開に変わる。今、動ける戦力はジュリウスとロミオのみ、相手はデータの無い感応種、無限に湧く毛皮のオウガテイル、そしてシユウ4体だ。

 感応種が司令塔になっているのか、翼手が何かを指示する仕草をする。それにシユウ達が呼応するとフライアの広大な廊下を走り、助走が付くと4体が次々と奥へと飛び立った。

 

「ロミオ。ブラッドアーツを使って突破口を開く。お前はシユウを止めろ」

 

 ジュリウスは足を広げ、身を低くし、突きの構えに入った。




次回 「我は荒ぶる神々の血肉を喰らうが故に――」

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