俺は普通なので逃げたいと思います、生き残ればいいんだよ!   作:椎名叶

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サブタイ思いつかない病です。


隼の引く血

隼が元花柱に弟子入り(?)をして三日目。

 

「ひぃっ!」

そんな声が蝶屋敷の一角に響く。

声の主は時透隼、いや隼としておこう。

彼が今、行っているのは木刀での打ち合い、非常に残念ながら相手は現役の甲隊士の胡蝶しのぶ。

どちらが優勢か、そう言われると誰もがしのぶを選ぶだろう。が、優勢なのは隼でしのぶは体力が底をつきかけているのだ。

 

「ハァーッ、早く倒されてくださいッ!」

「嫌ですぅぅぅ!絶対串刺しにするだろ!!」

「ぐっ、そんなことはないです!」

「はぁぁい!今詰まった、詰まったよね!?やっぱり串刺しにするつもりだったんだね!?」

 

そんな事を喚きながらしのぶの木刀を捌く隼は異常と言ってもいいだろう。

それを傍で見守る二人――胡蝶カナエと栗花落カナヲがいた。

異常な光景をニコニコと微笑みながら見守るカナエ、眉一つ動かさずじっと見つめるカナヲ。

こちらも異常な光景だろう。

 

「ちょ、ほんともう…!ふぅぅぅ…」

 

しのぶは痺れを切らして鋭く呼吸をする。

 

「お、おま、ちょっと待て!それはだめ!俺の身体が痣だらけに…うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

――蝶ノ舞 戯れ

 

相手を惑わせる不規則な足運びで近づきすれ違いざまに突きを入れる。

決まった、そう思ったしのぶだったが後ろから響いた悲鳴に大きくため息をついた。

 

「あ、あっっっぶねぇぇぇ!数ミリ、数ミリずれてたら俺の眼球潰れてたぁぁぁ!」

 

目元に走った刀の掠り傷を大袈裟に叫び、床を転がりまくる。

 

「時透さん、それだけの傷で済んだだけいいじゃないですか!」

「え?もしかして他の隊士は痣だらけで帰っていくの!?まじかー、まじかー、うわー。って

言うか俺は隼だ!時透なんて名前は捨てたからな!」

「貴方が私に勝てたら呼び方変えてあげますよーだ。毎回負けてる貴方には無理でしょうね!」

「こいつぅぅ!」

 

しのぶはそう言っているが毎回負けかけているのだ。今回も危なかったから呼吸法を使った、まぁ大半捌かれたが。

 

「隼君、貴方は強いからもっと自信もっていいわよ!」

「あーはい、そういうお世辞ですね、そう言うの良いです…ぐふぅ!」

 

しのぶが放った鉄拳にて隼は床に倒れ静かに腹を抑えて呻き声を漏らす。

 

「そう言うのは素直に受け取ればいいんです!」

「わ、ワカリマシタ…今の鳩尾よくないわぁ、般若そのものだわぁ…」

「はい?何か言いましたか?」

「い、いえ?何も言ってないですが!?」

「…なら、良いですが」

 

冷や汗をかきつつも隼は木刀をカナエに渡し道場を後にした。

 

――――

 

死ぬかと思ったぁ…。

 

目元の傷に触れながら、真昼間の街を歩く。

別に蝶屋敷から脱走した訳ではなく用があって町に来ているのだ。

つい先刻、カナエに様々な薬を調達してくるように頼まれたのだ。横にはしのぶが。

両者が口には出さず思っていることを代弁しよう。

 

――なんで一緒なんだ!?

――なんでこの人と一緒なんでしょうか!?

 

二人はグッと拳を握っている。火に油を注ぐ様なことをする人がいればその人の命はないだろう。

 

「時透さん、寄り道とか無しですからね」

「わかってるよ、で何買うんだ?」

「はぁ?聞いてなかったんですが!?」

「俺なんてどうせ男避けだろ!」

「はい?」

 

首を傾げるしのぶに隼は何の恥ずかしげもなく言った。

 

――そこらの女より顔整ってるんだから自重しろ。

 

その言葉に顔を紅くして立ち止まるしのぶに今度は隼が首を傾げる。

 

――本当のことだろ?

 

そう付け足した瞬間、しのぶの拳が隼の腹を捉えた。

人が多い通りなので叫ぶわけにもいかず、静かに抗議する。

 

「ほ、本当のこと言って何が悪いんだよ…」

「ちょっと、口閉じててください…」

「ひでぇ…俺が何したって言うんだ…」

 

 

 

 

 

その後、ちゃんと薬を買って帰った。めでたしめでたし。

 

――――

 

「今日は、私と打ち合いしてもらいます」

 

――は?

 

目の前でニコニコ笑顔でカナエにそう言われ隼は困惑する。

 

「今日は私の呼吸法を見てもらうこともかねて、ね」

「いや、呼吸法はちょっと…」

「大丈夫よ、隼君なら!」

 

なんだその絶対的な自信は!?

 

これを断ればしのぶに滅多刺しにされる未来が見えたのか隼は了承した。

ある程度距離をとり、木刀を構える。

 

「じゃあ、私から」

 

その声と共にカナエが床を踏み込む。

 

――肆ノ型 紅花衣

 

常中ができないとはいえかなりのスピードの斬撃。

それを涙目になりながら隼は斬撃に合わせて弾いて、弾いて。

 

「さすがは、始まりの剣士の血を引いてるだけ、ある‥わねっ!」

「へ?‥あぁぁ!」

 

その時、隼は思い出した。

時透家の、先祖を。

 

――そうだったわぁ‥、俺の先祖あの人だったわぁ…。

 

「大丈夫?隼君」

「あー、多分、大丈夫です」

 

――伍ノ型 徒の芍薬

 

瞬きのうちに斬りこまれる九連撃。

隼は思考が導くままに木刀を振るい、見事に九連撃全てを防いだ。

カナエも驚く、がそれ以上の驚いているのはもちろんこいつ、隼だ。

 

うっそだろお前!?

こんなうまくいくか普通!?あ、わかった。これはカナエさんが手加減してくれたんだな!うん!

 

見事に勘違いを起こした模様。

 

「手が、止まってるわよッ!」

「あ―――」

 

パスッ

 

カナエの木刀が隼の頸に吸い込まれるように向かって――良い音と共に隼は倒れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「姉さん!って、遅かった…」

「あ、しのぶ。私やっちゃった感じかしら」

「えぇ、やっちゃったわね、姉さん」

「ごめんね、隼君。楽しくなっちゃって!」

 

サイコパスだぁ…、そんな声が隼から聞こえたそうな。




次回は呼吸習得回かな?多分。


多分ですよ。
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