俺は普通なので逃げたいと思います、生き残ればいいんだよ! 作:椎名叶
鬼ってやっぱり、キレ症…?
前方から伸びてくる無数の手を斬りつつ、首を傾げる。
というか俺何で煽ったんだ…多重人格…?俺も結構ヤバ…ひぃ!あぶな!
地中から音を立てて出てきた手を空中に逃げて避ける。
「貴様ぁ!なぜ当たらんのだァ!」
「知るかバーカ!その無駄にでかい頭で考えろ、バーカ!」
「ぬぁ!?」
変な声を出して目を見開くと、さらに手を飛ばしてくる。
この手の数なら…。
――参ノ型 厭忌月・銷り
三日月を描く二つの斬撃が鬼の手を斬り刻む。
俺、結構戦闘狂になってきちゃった?嫌なんだけど。
「よそ見するなぁぁ!」
「その見た目だったら余所見ぐらいするが!?」
過去が辛いのは知ってるけども、なぜそうなったんだ!?
「ところで――「ねぇ!」んあ?」
後ろから声がしたので誰かと思って振り返ると真菰さんだった。
そりゃそうか、そう思いながら何か?と問うと、
「私にその鬼を殺させてほしい」
とのことだった。
俺は二つ返事で承諾して真菰さんの横に降り立つ。
「俺の名前は隼、君は?」
知ってるけど、名前言ったら引かれるじゃん。念のため聞くってのは大事さ。
「私は…鱗滝真菰」
鱗滝真菰?名字は鱗滝だったのか。
新しい情報に驚きつつも、俺はざっくりとした作戦を伝える。
「俺が援護する。だから君は頸を斬ることだけ考えて」
「え、でも」
「はいはい、俺を信じて突っ込めばいいから。行ってらっしゃい!」
背中をバシッと押すと走り出してくれたのでワンテンポ遅らせて俺も走り出す。
俺の方に伸びてくる手は少なく、大半が真菰さんの方に伸びている。
心配だったが鬼神の如く手を斬っているのを俺は確認したので地面から真菰に伸びる手を排除しながら一つアドバイスをする。
「手鬼の煽りには乗るなよ!あいつかまちょなだけだから!」
「わ、わかった!」
「なっ!?貴様だけはぁぁ!」
真菰へのアドバイス(手鬼に対しては煽り)はかなり効いたようだ。
俺の方にかなりの数の手が飛んできてる、呼吸の使い時!
――陸ノ型 常夜弧月・無間
縦横無尽に剣戟を飛ばす、かなり範囲が広いので本体にも傷が入ってる。
俺を意識して手を飛ばし過ぎたのか真菰が手鬼の顔前に迫っていた。
「(大丈夫だ、俺の頸は斬れない、あいつでも斬れなかったんだ)」
とか思ってるんでしょうねぇ、手鬼さんは。
俺は口角を上げてにやりと笑う。
錆兎さんが頸を斬れなかったのは、刀を酷使しすぎたからなんだよ。
真菰さんは多分、錆兎さんが死んでから血反吐を吐くような努力をしてる、だから―――
――壱ノ型 水面斬り
真菰が放った横薙ぎは手鬼の頸に吸い込まれて、断ち切った。
「何故、俺の頸が斬られてるんだ!?あいつでも斬れなかったのに!」
俺は真菰さんがいるところに走って横に立つ。
手鬼は何か叫んでる、多分頸のことに関してだろう。
「手鬼さん、あんたは人を舐めすぎたんだよ」
俺がそう言ってやると、手鬼は更に喚いた。
「次は、こんなことにはなるなよ」
灰と化していく手に少し触れて、俺は真菰さんの方に振り返った。
「君からは優しい匂いがするね」
「匂い?」
「うん、私は嗅覚が良くてね、君の感情も読めちゃうんだ」
「へぇ…」
嗅覚が良かったのか、そんなこと言ってたような言ってなかったような…。
一人で首を傾げていると真菰さんが頭を下げてきた。
「ありがとう、私にあの鬼を譲ってくれて」
鬼を譲るって…まぁ良いか。
「頭上げてよ。実は俺、鬼が苦手でね。あの時鬼を殺させてほしいって言ってくれた時に内心感謝してたから」
「え、そうだったの?結構煽ってるから、鬼は苦手じゃないと…」
「十三歳くらいから追いかけられると苦手になるもんさ」
「え、十三歳って…」
「鬼が集まってきそうだし移動しようか」
無理やり話題を変える、俺の特技。知らんけど。
一番早く陽光が差す方に向かいたい気持ちはあるがそれを狙った鬼がたむろしていると予想して反対方向に向かって走る。
その意図をくみ取ってくれたのか静かについてきてくれる。
というか、いつまで一緒にいるの?
そんな疑問を持つこと七日目、俺は今最初の広場に居ます。
手鬼を討伐してからは面白いことなど起きず、しいていうなら無一郎たちと合流して
「「兄さん、彼女?」」
って真菰を見た瞬間口をそろえて言われたくらい。
その後はもちろん二人で違うと説得した。納得してくれたかはわからないんだけど多分大丈夫。多分。
まぁそんなことはどうでもよくて。
今の俺は鬼殺隊からやっと逃げ出せる、その思いしかなかった。
今日で鬼殺隊ともおさらば!明日から何しましょうかねぇ…
なんて考えていると最終選別の説明をしてくれた子たちが門辺りに出て来て人数を確認し始めた。
「えっと、全員、合‥格?」
困惑してらっしゃる。
無一郎と有一郎が片っ端から鬼を殲滅してかかったらしい。怖い双子だわぁ。
「あの、すみません俺達…」
右側にいた七人が辞退します、と言って山を下山していった。
「あ、私達は…」
左にいた二人の女性たちは隠になると言って別の場所へ案内されていった。
残ったのは俺達四人、実質俺は入らないから三人。
「まずは、鴉をつけさせていただきます」
少女が手をタンタンとリズムよく二回叩くと空から三羽の鴉が下りてくる。
俺の分はいない、やっぱり話は通ってたんだな、そう思っていると何やら肩に重さを感じた。
ゆっくりと顔を向けてそれを見る。
「お?」
肩に乗っていたのは鴉ではなく、隼。
なんとなく頭を撫でて、ほんわかして‥じゃなくてなんで!?
「あのー、俺は隼って言うんですがお館様から何か聞いてませんか?」
「…隊服を渡すことと玉鋼を選んでもらうようにと言われましたが」
「…あの人はぁぁぁぁ!」
俺は地面に膝をついて拳で地面をたたく。
「は、隼?」
「兄さんどうしたの…」
「入りたくなかったとか、じゃない?」
「有一郎、正解!じゃなくてほんとやだぁぁぁ!」
嘆くこと数分、俺はやむなく玉鋼を選び、隊服をもらう。
「俺、蝶屋敷帰った瞬間これ全部押し付けて逃げるから」
そう言っていると有一郎が希望のないことを言ってきた。
「あの胡蝶さんでしょ?兄さんじゃ無理だよ」
「有一郎、希望は捨てたらだめなんだよ」
「はぁ、そうか。じゃあ頑張ってね」
有一郎は諦めてくれたが問題なのは無一郎。
「兄さんも来てくれたから入ってくれると思ってたのに!」
「それはお前らが心配だったからで!」
「別々に行動したのにね」
有一郎、それは触れちゃいかんのだ!
「たまには会いに行くから!な!」
「…うぅ、わかったよう。会いに来てね?」
「もちろん」
丸く収まった、よし、帰るか。
山を四人で下山していると真菰が俺に話しかけてきた。
「あのさ、あの時隼が介入してくれてなかったら私死んでたんだと思うの」
「うん」
「そのお礼とか手鬼のこととか私と師範からお礼がしたいの」
うーん、これはよろしくない方向に行ってる気が…。
「だから、家までついて来てくれる?」
断ろうと口を開けるが弟たちからの視線に俺は渋々頷く。
「いいよ」
「本当!?じゃあ、行こ!」
そう言ってニコッと笑うと俺の手を掴んで真菰は走り出した。
「「兄さん、お幸せに~」」
無一郎たちは声を合わせ、無邪気な笑顔でそう言ってきた。
お前らぁぁぁぁぁ!!そういう関係じゃないって言ったやろがぁぁぁ!
次回『娘さんを俺にください!!ってちゃうわぁぁ!』
お楽しみに!