仮面ライダー炎竜episodeダウンフォールンドラゴン   作:柏葉大樹

1 / 3
仮面ライダー炎竜episodeダウンフォールンドラゴン前編

 これは柏葉大樹が自覚している最初に転生した世界における最期の1ヶ月間の物語である。この話は今語られている物語に至る始まりの物語である。だが、この物語の終わりは決してハッピーエンドではない。あるのは一人の男があまりにも痛々しく戦い続け、身も心も限界を超えてすり減らし壊れてしまう破滅の、堕落の物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 20XX年、IS世界において主人公である織斑一夏がIS学園に入学してから5年の月日が流れた。この年にこれまでは自国開催が行われなかったモンド・グロッソ世界大会が日本で行われることになったのだ。さらに開催地はIS学園に決定した。

 大会開催の1ヶ月前のある日、更識邸にて。

 

 「それじゃ、簪ちゃん。来月にね。」(楯無)

 「お姉ちゃんも気を付けてね。」(簪)

 

 ロシア代表、更識楯無は妹の簪の顔を久しぶりに実家である更識本家へと戻っていたのだ。

 楯無は変わりなくロシアの代表を務めており、簪は選手ではなく後任の育成のために教師兼研究職の道を歩むべく大学で勉学に励んでいた。

 

 「ねえ、お姉ちゃん。彼は見つかったの?」(簪)

 「いえ、亡国機業にいるとは聞いていたけど逮捕者に彼の名前は無かったわ。もしかすると、あの日の火事で本当に。」(楯無)

 

 簪から出た彼という言葉、一夏から遅れてIS学園に入学したもう一人の男性操縦者である柏葉大樹のことである。大樹は簪と楯無がIS学園に在籍していた5年前の冬に突然の失踪を遂げた。その直後に彼が生まれ育った生家が火事になり、その焼け跡から黒焦げの遺体の一部が見つかった。警察はそれを柏葉大樹と断定、放火による自殺として処理をしたのだ。動機としてその数日前にあった両親が殺害されたことと警察から学園の関係者に連絡があったのだ。だが、彼女たちが亡国機業との戦いでは何度か姿を確認、彼女たちのフォローを行っていたのだ。

 その戦いが終わってから大樹の行方は知れず、それから5年の月日が流れてしまった。

 

 「ねえ、彼女はどうなの?彼が学園から離れるまではずっと一緒に居たでしょ。」(楯無)

 「大丈夫。落ち着いて過ごしてる。今は織斑先生の家に住んでるよ。私も様子を見に行っているし。」(簪)

 

 そして、失踪した大樹の帰りを特に待っている人物がいた。彼女は大樹の友人である一夏の姉、千冬の元で生活をしていた。その彼女は非常に大樹のことを慕っており、長い付き合いのある一夏以上に大樹の生存を信じていた。

 

 「じゃあ、勝手にどこかにほっつき歩いている柏葉君を絶対に彼女の所に帰さないと。」(楯無)

 「そうだね。大樹のこと、誰よりも待っているから。」(簪)

 

 そう言いながら楯無が出ようとした時だった。

 家の入口の扉が吹っ飛んだのだ。それに瞬時反応した楯無と簪は家の外へと飛び退っていた。

 

 「ここが日本の暗部だということを知ってかしら。」(楯無)

 

 楯無がそう問いかけたのが黒で全身を染め、人相を知らされないように黒いマスクをしている屈強な男だった。

 楯無の問いかけに男は答えずに二人に襲い掛かった。

 楯無も簪もかつてはIS学園に在籍、現役の選手で暗部の長として第一線で活躍する楯無に代表候補生として努力を続けていた簪は男の攻撃を躱しながら時折反撃もしていた。だが、男も手練れらしく楯無と組み合っても一歩も退かなかった。この場合は楯無が女性ながらに一歩も退かなかったと見るべきだろうが。

 

 「これでも喰らいなさい!」(楯無)

 

 楯無は男と組み合ったまま柔術の技で体勢を崩し、男の頭を真っ逆さまに地面に叩きつけた。常人であれば良くて頭蓋骨の複雑骨折、最悪はそのまま死亡する技。楯無がその技を使ったということはそれほど危険な相手であることを意味していた。

 地面に横たわる男。楯無は確実に技が入った感覚を覚えていたのだがそれでも警戒を緩めなかった。横たわっていた男が動き、ゆっくりとした動作で立ち上がった。

 

 「何よ。今の技、確実に頭を割ったのよ。平気でいられるなんて。」(楯無)

 

 男は首に手をやりゴキゴキと音を鳴らした。その様子から楯無はかつて戦った亡国機業の幹部であるスコール・ミューゼルを思い出す。彼女はサイボーグであり、何度も楯無たちの前に立ちはだかったのだ。目の前の男も同じような改造を受けていると楯無は考えた。ISの使用、その考えが楯無の脳裏によぎるがISの無断展開は禁止されており、緊急事態とは言え大会前に戦闘で使用するということに楯無も躊躇してしまう。

 男は楯無の心境も知らずか距離を詰めていく。そこに男の背後から強烈な光がエンジン音を轟かせて迫って来た。

 男は背後を振り返り、脅威的なジャンプで迫ってくる何かを飛び越えた。

 何かは急ブレーキをかけて楯無と簪の前に停まった。その何かは深紅色のアーマーが目立ち、ライト部分にハイビスカスの花をあしらったバイク=ハイビスカストライカーに乗っていた。その姿は鮮やかな炎を思わせる鬣に天に向かって伸びる二つの角、鬣と同じ色をした鎧を黒のアンダースーツの上から纏っていた。

 

 「仮面ライダー?」(簪)

 

 簪がその姿を見て呟いた。この場に現れた鎧武者こそこの世界で戦って来た仮面ライダー、仮面ライダー炎竜だった。

 炎竜は専用武器である竜炎刀を鞘から抜き放ち、男との距離を詰めていく。男は炎竜を見るやいなや楯無の時以上に激しい攻撃を繰り出していく。それを見た炎竜は必要最小限の動きで男の攻撃を躱していく。そこでさらに男の顔面に素早く重い裏拳を叩き込み、竜炎刀の柄で相手の肩を抑えて空いている手で腰を抑えたところをてこの原理で男を一回転させ、頭を蹴り抜いた。

 男はそのまま数メートルほど飛んでいき頭を地面にかすらせながら空中で体勢を立て直し立ち止まった。男の被っていたマスクは破れ、その下には人間とは思えない醜悪な顔があった。その相貌は人間のものだと分かる顔のほとんどが他の動植物を思わせる形状をしており、その口には鋭い歯が幾つも見えていた。

 炎竜は男の相貌に驚くことなく歩み寄り腰のバックル=戦極ドライバーの刀型パーツを3回倒した。

 

 ≪ドラゴンフルーツスパーキング!≫

 

 炎竜は竜炎刀の峰に籠手を当ててそのまま剣先まで籠手を走らせた。その次の瞬間には燃え盛る炎の刃となった竜炎刀で男を頭上から股下にかけて一刀両断した炎竜がいた。男は傷口から炎が吹き上がり、瞬く間に灰と化した。

 その戦いをじっと見ていた楯無と簪。炎竜の戦い方にどこか見知ったようなものを感じていた。

 楯無と簪の方へ歩いていく炎竜。だが、途中で膝から崩れ落ちてしまった。見たところ肩で息をしていることからかなり消耗していることが見て取れた。

 

 「大丈夫ですか!?」(簪)

 

 駆け寄る簪が見たのは光に包まれて姿を変えた炎竜。その光が止むとボロボロの衣服に伸びっぱなしで洗いもしていないぼさぼさの長髪、伸び放題になっているヒゲと最後に簪が見た姿とだいぶかけ離れてしまっているがその顔を見たときに誰かはっきりと理解した。

 

 「大樹!」(簪)

 

 失踪していた柏葉大樹だった。大樹は簪が駆け寄るのを見てその場に倒れてしまう。

 

 

 

 翌日、更識家とかかわりの深いある病院の一室に大樹の姿はあった。倒れたその時から一度も目を覚ましておらず点滴を受けて回復を待っている状態だった。

 

 「そんなひどい状態になるまでどうして。」(簪)

 「分からないわ。結局、亡国機業が殲滅されたから昨日に至るまでの足取りが全く分からないのよ。それこそ、世界各地を放浪していないとこんな状態にはならないわ。」(楯無)

 

 病院で精密検査を受けた大樹の健康状態はあまりにもひどい物で脱水症状に栄養失調、睡眠不足、さらには全身至る所で骨折、炎症、筋繊維や腱がダメージを受けておりまともに動くことが難しいほどの負傷が分かったのだ。

 

 「柏葉君、一体何があったの。あなたが姿を消していた5年間、どれほど過酷な生活をしていたのよ。」(楯無)

 

 そして、その病院に楯無と簪の他に大樹を訪ねてきた人物たちがやって来た。

 

 「楯無さん!簪!大樹が見つかったって本当か!」(一夏)

 「更識、説明をしてくれないか。」(千冬)

 

 一夏と千冬の織斑姉弟に友人である五反田弾だった。

 

 「本当に、大樹なんだな。」(弾)

 「ええ。柏葉君本人よ。」(楯無)

 「どこに居たんだよ。」(一夏)

 「分かんない。私とお姉ちゃんの危ないところを助けてくれて。」(簪)

 「そうか。詳しい話を聞かないとな。」(千冬)

 「あの、彼女は。マドカはどうしたんですか。」(簪)

 

 簪が大樹の帰りを待っているはずの人物、かつては亡国機業に所属していたテロリストである織斑マドカの名を上げた。

 

 「早合点させてもと思い、今日は篠ノ之の家で待ってもらっている。」(千冬)

 「確かに、この状態の彼を彼女に会わせるのは酷ですね。」(楯無)

 

 千冬は知らせを受けた時にマドカの記憶にある大樹の姿とあまりにもかけ離れていた時のショックを考慮して今回は現在は篠ノ之神社に戻ることのできた箒の家にマドカを預けてきた。その千冬の判断も間違っておらず病院のベッドの上で横たわる大樹の姿はあまりにも彼女たちの記憶にある姿とかけ離れていた。

 

 「何があったんだよ、大樹。」(一夏)

 

 一夏、楯無は近くに控えているモンド・グロッソ世界大会が控えていること、千冬はIS学園の教員として長い時間はいれず、病院を離れた。病院に残ったのは大学生の簪と弾だった。2人とも大樹の目を覚まさないかと残っていたがその日のうちに大樹が目を覚ますことは無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大樹が病院に入ってから1週間が経過した。弾たちも学生ということもあり中々来ることが出来ない中でただ一人通っている人物が居た。

 

 「よし。」(マドカ)

 

 病室で寝ている大樹のヒゲをそっていたのはマドカだった。亡国機業壊滅後は千冬の保護下で生活しており、大樹の帰りをずっと待っていたのだ。大樹が眠っている間、身体を拭いたり、伸び放題だった髪の毛を切ったりしていた。

 

 「やっと、私が初めて出会った時の姿になったな。」(マドカ)

 

 つたないながらも自身の記憶の中にある大樹の姿に近づいたことでご満悦である。

 

 「....いつまでも眠っていないで。ずっと、待っていたんだ。これからはずっと一緒、だろ。だから、早く目を覚まして。」(マドカ)

 

 いまだに深い眠りについている大樹に話しかけるマドカ。大樹が姿を消してから5年という長い月日を待っていたのだ。

 

 「また、明日。明日は簪と箒も来る。いい加減に起きてもらうからな。」(マドカ)

 

 そう言って立ち去ろうとしたマドカだが大樹の瞼がわずかに動いたことに気付いた。一度は強く閉じた瞼がゆっくりと開いていく。起きてしばらくは太陽の光に眼を細めていたが光に慣れていくと部屋の様子を見ていた。そして、マドカの方へと視線が移動した。

 

 「ぅ、ぅあ、う、ん。」(大樹)

 

 まだ、起きて声帯がうまく使えないようだがその表情から目の前の人物がこの世に居る誰よりも大切な人であることを分かっていた。

 

 「大樹...。」(マドカ)

 「あ、ああ、...。」(大樹)

 

 それからうつむき気味に視線を落とす大樹。その大樹の近くに歩み寄るマドカ。マドカはそのまま大樹を抱きしめた。

 

 「待ってたんだ、ずっと。ずっと!」(マドカ)

 

 大樹の胸の中で涙を流し続けるマドカ。そのマドカを見た大樹は申し訳なさそうな表情をしてマドカを抱きしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 病院に急いで駆けつけた一夏、箒、楯無、簪、弾。大樹が居る病室に入るとそこには笑顔で大樹に話しかけるマドカにその話を柔らかな表情で聞いている大樹が居た。

 

 「大樹、目を覚ましたのか。」(一夏)

 「ああ、久しぶりだな。」(大樹)

 

 多少しわがれているものの懐かしい声音、その場に居た全員が長い間失踪していた友人だと分かった。

 

 「どこに行っていたんだ!?お前が居なくなった後は学園中で大騒ぎになったんだぞ!」(箒)

 「のっぴきならない事情があったんだ。話をするのも正直しにくかった。」(大樹)

 

 箒の叱責に申し訳なさそうに言う大樹。その答えを聞いた箒は他意のないことを分かっており、5年の月日を経て大樹が変わっていないという確証をやっと持てたのだ。

 

 「ずいぶんときれいになったな。」(弾)

 「寝ている間にマドカがしてくれたんだ。正直、起きたらこざっぱりしてて驚いた。」(大樹)

 「大丈夫みたいだね。」(簪)

 「まあ、万全とは言えないけどな。」(大樹)

 

 そうやって久しぶりに会った友人たちに話していく大樹。その時に横目で何となく嫉妬心が出ているマドカの様子を見た。

 

 「詳しい話は明日する。今日は良いか?」(大樹)

 「え、いや、でも。」(一夏)

 

 大樹の言葉を聞いて一夏をはじめとして目を逢わせ合う友人たち。楯無はマドカの様子を見て、大樹の考えが分かりすぐに扇子を出して「了承!!」と意思表示をした。

 

 「分かったわ。今日は休んでいなさい。その代わりに明日はちゃんと話すのよ。」(楯無)

 「大丈夫です。それでは。」(大樹)

 

 大樹がそう言うと一夏たちは帰っていった。残されたのは大樹とマドカだけ。

 

 「マドカ、今までにしたことの続きを話してくれないか。今日は面会時間ギリギリまで居るんだろ。」(大樹)

 「良いのか。」(マドカ)

 「まあ、一夏たちにはあとで話すし。埋め合わせにはならないだろうけど、良いか。」(大樹)

 「いや、私はお前が居るだけでもう十分だ。」(マドカ)

 

 そう言って二人は談笑に興じていた。この時のマドカはまた以前の様に大樹と共にいられると思っていた。一方の大樹はこれまでの埋め合わせにもならないと分かりながらもマドカの話を、マドカのその姿をよく見ていた。ここでの休息がたぶんこれから望むであろう戦いの前に決意を新たにする最後の時間になること大樹は考えており、悔いが残らないようにマドカの姿を、笑顔をその眼に、記憶に焼き付けていた。この時間がもう二度と自分には来ないことを予感していたから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、大樹の元に楯無と千冬が来ていた。大樹の方から話す相手に二人を指名したのだ。

 

 「それで何を話してくれるんだ。」(千冬)

 「俺が戻ってきた理由です。」(大樹)

 「理由だけ?私達はそれ以外のことを全く知らないのよ。」(楯無)

 「その理由が理由だからですよ。」(大樹)

 

 大樹は自分が日本に戻って来た理由から千冬と楯無に話し始めた。

 

 「俺の両親が死んだ事件、その犯人の兄貴は父さんと母さんが関わっていたんじゃないかっていう研究のデータを使って自分の肉体を改造したんだ。」(大樹)

 「5年前に学園を襲撃した謎のフルスキン型のISのことか。」(千冬)

 「それが俺の兄貴、勇吾。でも、兄貴は自分の肉体を人間とは違う怪物に変異させたんだ。俺はずっとそうやって誕生した怪物を相手に戦って来た。」(大樹)

 「それで、柏葉君のお兄さんの目的は?いたずらに自分の肉体を改造したわけじゃないでしょ。」(楯無)

 「兄貴の目的はISで変化したこの世界を壊すこと。そのために自分の肉体を変異させたその技術を使ってウィルス兵器を作り出した。俺が日本に戻ったのは今度の世界大会をターゲットとした兄貴のウィルステロを阻止すること。そして、兄貴を殺すこと。」(大樹)

 

 兄を殺すという言葉。その言葉は5年前の大樹では到底出ない言葉だった。その言葉も冗談ではなく本当にやるのだということを千冬も楯無もすぐに分かった。

 

 「それで、この5年間は勇吾を追っていたのか。」(千冬)

 「まあ。その過程で束姉ちゃんも見つけたけど。」(大樹)

 「篠ノ之博士はどこにいるの?亡国機業が壊滅してからの足取りがつかめなかったけど。」(楯無)

 「亡国機業が壊滅する前に兄貴と一緒に行動していた。何とか足取りを追って半年前に潜伏先を見つけた。」(大樹)

 「束は死んでいたのか。」(千冬)

 「死んでいたわけじゃない。そこへ行った時に俺が殺した。クロエ・クロニクルもその時に殺した。」(大樹)

 

 束を殺した。そして、束と行動を共にしていたクロエ・クロニクルも殺したと。

 

 「待ちなさい。あなたがあの二人を殺したの?私達でも束になって、織斑先生も加わってやっと戦えたあの二人を?」(楯無)

 「そりゃ、万全だったら無理だ。でも、俺がそこへ行った時には二人はもうまともじゃなかった。束姉ちゃんもクロエももう人間として生きていけない姿になっていた。」(大樹)

 「私達を襲ったあの男の様に?」(楯無)

 「いや、あいつの方がまだまし。二人はまるで産卵を控えた女王アリの様に自分の背の何倍も肥大化した腹部から怪物を生み出すためだけの存在になっていた。チューブに繋がれて栄養と水分は与えられ続けて怪物を生み出し続ける、まるで映画のエイリアンそのものの吐き気を覚えるほどの状態になっていたんだ。クロエはとっくに俺の問いかけに反応できない状態でよだれをたらしながらただただ怪物を生み出してた。束姉ちゃんはまだ意思の疎通が出来たけど、ほとんど正気を保っていなかった。」(大樹)

 

 大樹の口から語られたのはかつて自分たちを苦しめた最凶最悪の相手のあまりにもむごたらしい姿だった。

 

 「束姉ちゃん、最期には千冬姉ちゃんと箒の名前を呼んでた。助けてって言いながら。」(大樹)

 「束とクロエ・クロニクルを救ったんだな。」(千冬)

 「救った?はっ、あんなのを救ったって。救ってなんかいない。俺のやったことは救いじゃない。」(大樹)

 

 最後に言った言葉、そこには明らかな自嘲の色が見えた。そこでやっと千冬も楯無も理解した。5年という月日は、5年間の東奔西走は柏葉大樹を変えていたことを。かつては仲間たちのことを気に掛け、戦いの場では戦力としてよりも仲間たちの精神的なサポートをしていた心優しい青年は冷徹に物事を判断して行動できるようになり、それを心優しいままにそれを間違っていると、それしか選べない自分を蔑んでいる男になってしまった。

 

 「その潜伏先で兄貴が作ったウィルスのデータを手に入れた。俺の持ち物の中にそのデータが入ったUSBがあったはず。詳しいことはそれを見れば分かる。」(大樹)

 「分かったわ。IS委員会に言って警戒してもらうように言うわ。」(楯無)

 「いや、当日の大会には出ないでください。」(大樹)

 「なんですって?それをロシア代表の私がするとでも?」(楯無)

 

 大樹が大会の欠場をしてくれと言ったことに対して楯無が眉を吊り上げた。

 

 「先輩、忠告じゃないです。ウィルスのデータを委員会に見せたところで簡単に動かないはず。あと2週間を切っている以上は大会を中止にすることもしないはず。」(大樹)

 「それでも報告しないと。」(楯無)

 「そうだ。私の方からも働きかけはする。」(千冬)

 「兄貴は予告をしてそれの通りにやるつもりは一切ない。すでに会場に準備をして後は当日に決行するだけ。兄貴を探し出してテロを阻止、いや兄貴を殺すことがテロを止めることになる。」(大樹)

 「それなら私達も力を貸すわ。あなた一人でやらせるわけには行かないわ!」(楯無)

 「先輩、俺一人でやります。俺が止めないと。そこに俺の大切な人達を全員巻き込むわけには行かない。」(大樹)

 

 そういう大樹の眼を見た二人。そこにある隠された心情もすぐに分かった。

 

 「大樹、死ぬつもりか。」(千冬)

 「明日にはもう俺はここを出る。兄貴を探す前に皆に顔を出すけど。二人は皆が無事でいられるようにしてください。」(大樹)

 

 千冬の問いかけに大樹は答えなかった。だが、否定をしなかった。それは千冬にも楯無にも大樹の中で答えが出ているということに気付いていた。

 翌日、大樹は病院を退院した。本来であればいまだに治療が必要な状態であるのだが大樹は兄勇吾の捜索のために、すでに開催まで2週間を切ったモンド・グロッソを標的としたテロを阻止するために無理に動いたのだった。

 

 「ああ、全然治っちゃいねえ。でも、行かないと。」(大樹)

 

 全身に走る痛みをこらえて歩き出す大樹。その足取りは重く、その姿にはかつてIS学園に居た頃の面影は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勇吾の行方を探すその前に大樹は5年前に別れを告げた生まれ育った町に戻っていた。どこもかしこもモンド・グロッソでの応援キャンペーンを掲げており、町全体が世界大会に対する熱気で盛り上がっていた。

 人々が行き交う中を大樹は遠くから見つめていた。もはや欠片程しか思い出せなくなっていた前世の記憶、顔も声も思い出せなくなった自分の家族のことをふと思い出し幸せに生きているかどうか考えた。だが、それもすぐに消え去りある場所へと足を運んだ。

 篠ノ之神社、かつての大樹はここで一夏と箒と共に剣を振るっていた。幼き頃の記憶は既に遠き過去のようであり、まるで他人の思い出のようでもあった。

 

 「柏葉!」(箒)

 「おっす。ちょっと顔を見せに。」(大樹)

 

 やって来た大樹に気付いた箒。大樹も箒に声を掛ける。

 

 「大丈夫なのか、身体は。」(箒)

 「まあ、1週間も寝ていたんだ。ずいぶんよくなったよ。」(大樹)

 

 実際には完治というにはほど遠い体調だが大樹は箒にはそう言った。

 

 「箒。今日の稽古は終わったぞ。」(一夏)

 「よう、親友。」(大樹)

 

 そんな時、道場から道着姿の一夏が現れた。

 

 「大樹!?体調は大丈夫なのか!」(一夏)

 「箒に聞けよ。まあ、大丈夫じゃなけりゃここにはいないけどな。」(大樹)

 

 道場から現れた一夏に大樹は手を振る。その大樹の様子に一夏は完全に回復したと思い笑顔でやって来る。

 

 「にしても、戻って来るときに連絡の一つも入れろよな。何も言わずに学園も辞めているし。箒も鈴も、皆がお前のことを探したんだぞ。」(一夏)

 「言えるわけがないだろ。あの時、そっちはそっちで亡国機業の関連で忙しかっただろ。さらに5年もいなけりゃ連絡する手段が残っているとでも?」(大樹)

 「それでいつまで日本に居るつもりなんだ。戻って来たってことはもういなくなることは無いのだろう?」(箒)

 「そうだぜ、もういるんだろ?そうだ、俺の家に来いよ。マドカも一緒に居るしさ。」(一夏)

 

 一夏があれやこれや話す中で大樹は手を出して一夏を止める。

 

 「それだけどな、またすぐに日本を離れる。大会が始まる頃には出る。」(大樹)

 「それは、本当なのか?」(箒)

 「それと皆に顔を出すけど今日の夜からは一切連絡が出来ない。まだ、終わってないからな。」(大樹)

 「おい、何だよ、それ。」(一夏)

 「里帰りで戻ったわけじゃない。まだ、やることがあるんだ。」(大樹)

 

 大樹がそう言った時に一夏が大樹の胸ぐらを掴んだ。

 

 「お前、ふざけるなよ!」(一夏)

 「ふざけていない。ふざけて5年も居なくなるかよ。」(大樹)

 

 怒りをあらわにする一夏と冷静に言い放つ大樹。その二人のことを幼い頃から知っている箒はその様子から一夏と大樹の間に入り、一夏の手を抑える。

 

 「待て、一夏!柏葉にも事情があるんだろ!」(箒)

 「それでも!」(一夏)

 「怒るのは勝手だけどな。俺だって自分の事情をほいほい言うわけじゃない。お前にもだけどな。」(大樹)

 「てめえ!!」(一夏)

 「一夏!柏葉もそこまでにしろ!」(箒)

 

 箒が無理矢理に一夏を大樹と引き離した。このままではいけない、箒はそう思って行動した。それと同時に目の前に居る大樹がかつては同じ学び舎、道場に居た友人とはとても思えなかった。

 

 「変わってねえな、一夏。」(大樹)

 「お前は変わっちまったよ。」(一夏)

 「変わらなきゃやってやれなかった。変わらずにいたお前がうらやましいよ。」(大樹)

 「まだ戻れるだろ。」(一夏)

 「無理だ。もう、戻れないさ。お前の様に周りにドタバタと追いかけられている余裕なんて全くなかったからな。」(大樹)

 「まだ、お前も俺の仲間だろ!」(一夏)

 「お前のそう言うところ、本当に嫌いだったよ。」(大樹)

 

 その次の瞬間には一夏の拳が大樹の左頬を捉えていた。一夏は冷静になり、慌てて大樹に駆け寄る。

 

 「ご、ごめん!大樹!」(一夏)

 「それじゃ。」(大樹)

 

 大樹は打たれた頬を抑えることなく一夏と箒に背中を向けて歩き出した。大樹が神社の階段を下りていくところに箒が駆け寄って来た。

 

 「待て、柏葉。そのまま行くのか。」(箒)

 「ああ。時間がそんなにない。箒、一夏のことを頼んでも良いか?」(大樹)

 「それは良いがどうしたんだ、この5年で。」(箒)

 「色々と。でも、また二人の顔を見れて良かった。」(大樹)

 「柏葉。今していることが終わったら必ず戻ってこい。私達のためじゃなく、マドカのために。」(箒)

 「...。」(大樹)

 「5年も待たせていたんだ。また、居なくなる前にちゃんと話をしておけ。」(箒)

 「...ああ。出来たら、ちゃんと戻る。」(大樹)

 

 そう言った大樹の表情を見た箒はなんとなく大樹がこのまま一度も戻ることは無いだろうということを予感していた。特に、そのことでマドカが最も悲しむことも。だからこそ、言葉を掛けたのだがその大樹の表情はあまりにも疲れ切っていてどこかあきらめているようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから2週間が経った。千冬と楯無の働きかけでIS学園に怪しいものが無いかを徹底的に調べていったが何も出なかった。千冬と楯無はウィルスのデータをIS委員会に提出するもテロを予告する脅迫文も無かったこともあり、大会は予定通り始まることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 20XX年8月15日、第5回モンド・グロッソ世界大会の開会式が始まった。会場の一角に大樹の姿があった。

 

 「一体、どこにいやがる。どこにもウィルスを入れた容器らしきものが無かった。まさか、ここじゃないのか。」(大樹)

 

 フードで顔を隠し、学園の第1アリーナの用務員専用の出入り口から入っており、そこから会場の様子をうかがっていた。さらに、大樹の腰には戦極ドライバーが既に巻かれておりいつでも変身できるように準備をしていた。

 

 「何事も起きなければ引き上げるか。」(大樹)

 

 大樹はそのまま開会式の様子を見守っていた。世界各国の代表が入場。その中には忠告をした楯無の姿が、幼馴染の鈴、セシリア、ラウラ、シャルロットの姿があった。彼女たちの姿を見たときにそこにおかしな人物が紛れていることに気付いた。そこからの大樹の行動は早かった。大樹はロックシードを取り出し、その人物を取り押さえようとした。その人物は大樹が近づいていることに気が付いて警備員の服装から異形の虎の獣人へと姿を変えた。

 

 「よう、屑。ついにここを嗅ぎ付けたのか?」(勇吾)

 「兄貴!!」(大樹)

 

 獣人が現れたことで会場はパニックに。さらにその場に居た鈴たちが大樹の姿に気付いた。混乱が起きた会場で大樹は仮面ライダー炎竜に変身。竜炎刀を振るい、勇吾に攻撃を仕掛けた。勇吾は竜炎刀の刃を拳で受け止めた。

 

 「お前もバカだよなあ。俺のことを5年も追いかけ続けて。屑は屑らしく何もしないでいればいいのによ。」(勇吾)

 「いや、あんたを止める。これ以上誰も犠牲にさせない。」(炎竜)

 「だから、お前はここで死ぬんだよ!!」(勇吾)

 

 勇吾は右手を開き、そのまま空間を切り裂く爪撃を繰り出す。炎竜はそれを見て即座にドライバーを操作、炎の斬撃を飛ばして当てることでその攻撃の軌道を変えた。軌道が変わった勇吾の攻撃はアリーナの一部を破壊、それを見た観客がパニックの中で各国の選手たちも避難していく。

 

 「柏葉君!」(楯無)

 「先輩たちは避難を!速く!」(炎竜)

 「おいおい、よそ見とはずいぶんと余裕だなあ!!」(勇吾)

 

 炎竜はその場に居た楯無に避難の誘導を頼む。そこに勇吾は炎竜に躍りかかっていく。獣の様に激しい攻撃をする勇吾に炎竜はもう一つの武器である無双セイバーを抜いた。

 

 「一体、どこにウィルスを。」(炎竜)

 「まさか、お前。俺がウィルスを爆弾にするとか考えていたのか?そんな陳腐なやり方にすると思っていたら間違いだ。」(勇吾)

 

 勇吾の言葉に炎竜は勇吾を改めて観る。そして、その言葉に勇吾のやろうとしていることに気付いた。

 

 「まさか、自分の体内にウィルスを。」(炎竜)

 「この体に入っているウィルスはこの会場どころかこの島一帯を汚染させることが出来る。俺を殺した瞬間にウィルスが拡散するぞ。」(勇吾)

 

 勇吾はオーバーロードインベスとなった自身の体内にウィルスを仕込んでいた。勇吾を倒しても学園のある島一帯が汚染される、それほどの感染力のあるものを自身の体内に仕込んでいるということは普通では考えられなかった。

 

 「オーバーロードになったからこそ、か。」(炎竜)

 「何もできないよなあ?攻撃をすればウィルスを拡散させる危険性があるからなあ!!」(勇吾)

 

 勇吾はそのまま炎竜に発達した両腕で攻撃をする。うかつに攻撃が出来ない中で炎竜は勇吾の攻撃を竜炎刀と無双セイバーで止めた。そのまま、炎竜は勇吾の腹部に蹴りを入れて距離が離れた瞬間に上段回し蹴りを勇吾の頭部に当てた。

 

 「なら、殴り殺せば問題無いよな。それに俺の攻撃は基本的には火炎を纏うことが出来る。斬った端から傷口を焼いて行けばウィルスの拡散を遅らせることが出来る。このまま、あんたをぶっ殺す。それで何もかも終わりだ。」(炎竜)

 「屑の癖に考えているってことか。」(勇吾)

 「それに、あんた相手に死なないで殺せるなんて思っちゃいない。刺し違えても絶対にあんたを地獄に道連れにしてやる。」(炎竜)

 

 そう言って炎竜はドライバーを操作、竜炎刀と無双セイバーの刃が炎に包まれた。炎竜は駆け出し勇吾に斬りかかった。




 次回、勇吾との因縁を終わらせるべく戦う炎竜。そこにかつての仲間たちが共に戦う。だが、無情にも一人また一人と犠牲になっていく。その中でついに炎竜の心は限界を迎えてしまう。

 「あああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああ!!!!!!!!!!!!」

 慟哭の涙は枯れ果てすり減った心から修羅が生まれる。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。