仮面ライダー炎竜episodeダウンフォールンドラゴン 作:柏葉大樹
炎竜は無双セイバーと竜炎刀を持ち、勇吾へと斬りかかっていく。勇吾は強靭な甲殻を有するようになっている自身の体で炎竜の攻撃を受け止めていく。炎竜はドライバーを操作、無双セイバーと竜炎刀にロックシードからのエネルギーをチャージする。
「ヒャッ!!」(勇吾)
それを見た勇吾は炎竜に飛び掛かり、攻撃をさせまいとする。だが、炎竜の方がわずかに早かった。エネルギーがチャージされた無双セイバーと竜炎刀の刃は炎に包まれ、炎竜は炎の斬撃を勇吾に繰り出した。炎竜が繰り出した斬撃によって勇吾の肉体に切り傷が生じる。本来であれば出てくる出血も炎を帯びた刃によって斬られた端から焼き留められていく。
「鬱陶しい。さっさと殺してやるのによお。」(勇吾)
斬られた傷をなぞりそう言う勇吾。炎竜はそのまま一気に距離を詰めた。
≪ドラゴンフルーツスカッシュ!≫
炎竜の右足に炎が吹き上がり、勇吾の腹部に距離を詰めた時の勢いのままに前蹴りを放つ。勇吾の腹部にそのまま炎竜の足裏の模様の焼き跡が付いた。
「この屑がっ!!」(勇吾)
勇吾は空間を切り裂く爪撃を放つ。炎竜は咄嗟に距離を取るが勇吾は次々と爪撃を放っていく。放たれた爪撃は次々とアリーナの設備を破壊していき、さらには戦いの場となっている第1アリーナだけではなく隣接している他のアリーナも破壊していく。
炎竜は何とか勇吾の攻撃を躱していくが、その激しさに距離を詰めることが出来なかった。距離を取るためにジャンプをして観客が居なくなった観客席に降り立ったりしてもその次の瞬間には勇吾の放った爪撃が炎竜のいる場所に襲い掛かって来た。
「っ!!」(炎竜)
≪ドラゴンフルーツオーレ!≫
炎竜は無双セイバーと竜炎刀を振るい、勇吾に炎の竜を放った。勇吾に向かっていく炎の竜はその顎を大きく開き勇吾にその牙を突き立てようとする。だが、勇吾は大きく息を吸うと周囲を震わせる咆哮を上げた。
勇吾の咆哮を受けた炎の竜は霧散してしまった。勇吾は炎竜のいる場所を見つけるとそこへ目掛けてまるで弾丸の様に飛び出した。
炎竜は自らに向かってくる勇吾を見てドライバーを操作した。全身にエネルギーが行き渡ると強化された脚力で炎竜はその場から大きくジャンプをしてアリーナの中央へと戻った。
炎竜がジャンプをしたそのコンマ何秒かしたら観客席に勇吾が突っ込んできて観客席を大きく破壊した。
炎竜はアリーナの中央に着地すると思わずその場に膝が付いてしまった。戦いが始まり数分ほどしか時間が経っていない。その短い時間で逃げ遅れた人間も少なくなく、すでに瓦礫の間には息絶えた人々の亡骸が見えていた。
もっと早くに勇吾を見つけていれば、もっと自分が上手く立ち回っていれば、勇吾に暴れる時間を与えなければ、自分の肉体が万全であれば、様々な後悔がほんの数瞬の間に炎竜の脳裏に巡ってくる。
この短い時間で限界が近づいているほど、炎竜の肉体は酷使され続けていた。最早、生きて帰れるという保証などとっくに無くなっている。だが、炎竜=大樹もそのことは痛い程分かっていて、それでもなお勇吾を倒せなばならないということを分かっていた。その為には自分の命を文字通り捨てるほかないことを、とっくに分かっていて受け入れていた。
勇吾は炎竜を見つけるとまたも弾丸の様に飛び出し、その牙を炎竜に突き立てた。
「っ!!」(炎竜)
炎竜は咄嗟に左腕を出して防いだが勇吾の牙はアーマードライダーの装甲を破壊し、アンダースーツの下にある大樹の腕までも傷付けた。その牙からはウィルスがある体液も流れており、傷口から炎竜の体内にウィルスが流れようとしていた。
炎竜は右腕でドライバーを操作、噛みつかれている左腕にエネルギーを集め発火させた。
「ギャッ!!」(勇吾)
さしもの勇吾も口内を炎が焼いたことで噛みついていた炎竜の左腕から口を放した。そのまま炎竜は傷ついた左腕を炎で焼いて止血、さらには左腕の血流を止めるべく傷口の周りを無双セイバーでえぐった。そこをさらに炎で焼いて簡易的な止血を行った。
「ウィルスが回る前に対処したか。」(勇吾)
「5年もサバイバル生活をしていれば対処する技術も身に着く。それに痛みも慣れれば動きをそこまで阻害しない。」(炎竜)
「まあ、俺一人ならばな。」(勇吾)
「まさか、周囲の死体に。」(炎竜)
炎竜がそう言うと周囲の瓦礫から次々と半人半獣の醜い化け物が次々と現れた。
「グールインベスって言うところか。まあ、こいつらは俺の思い通りに動く人形だ。」(勇吾)
そう言うと勇吾は手を炎竜にかざした。その次の瞬間にグールインベスたちは次々と炎竜に襲い掛かった。
「このまま死ねええええええ!!」(勇吾)
グールインベスたちによって炎竜の姿が消える。それを見た勇吾は遂に炎竜が死んだと思った。だが、
≪パッションフルーツスパーキング!≫
炎竜のいたところからグールインベスたちが吹き飛んだ。そこには赤銅色に山吹色のラインが目立つ鎧を纏った炎竜=炎竜パッションフルーツアームズが専用武器のパッションフレアカノンから巨大なパッションフルーツ型のオーラを放っていた。
炎竜はグールインベスたちを次々と焼き払い、その中でついに勇吾を視線に捉えた。
≪パッションフルーツオーレ!≫
グレネード弾を連射する必殺技フレアエクスプロージョンが勇吾を襲う。グレネード弾が勇吾の肉体に着弾すると次々と爆発を起こした。
「ここに来てインベスになった人間を殺すのをためらうと思ったのか?甘く見るな。」(炎竜)
爆発の中へとさらに追撃のグレネード弾を撃ち込んでいく炎竜。過剰とも思えるその行為は炎竜が勇吾のことを非常に危険視しており、ここで確実に殺すのだということを現していた。だが、煙を払って出てきた勇吾はかすり傷が付いているだけで眼に見える程の消耗は無かった。
「この程度で俺を殺せると思ったのかあ?精々が温い風だぜ。」(勇吾)
炎竜は変わらずにパッションフレアカノンを撃とうとするが勇吾は一気に距離を詰めて炎竜の腹部に強烈なパンチをぶち当てた。装甲が厚いドラゴンフルーツアームズから防御力が下がったパッションフルーツアームズになっていたために胴の鎧に亀裂が走り、勇吾の拳の跡が出来ていた。
勇吾の一撃は非常に強く、炎竜はそのまま吹き飛んでしまいアリーナの壁を次々と破壊し、第1アリーナの外へ出てしまった。
「はっ、がっ!」(炎竜)
炎竜のクラッシャーの隙間から赤い血液が流れていた。さらにはその場で何度も何度も血を吐いていた。その様を見ていた避難している人々はさらにパニックとなる。そこに第1アリーナから飛び出てきた勇吾まで現れ、人々は我先にとその場から逃げていく。
ダメージが回復していない炎竜を勇吾は掴み、第1アリーナの方へと投げ飛ばした。アリーナの壁が迫る中で炎竜は震える手でロックシードを変えようとした。
勇吾から見て第1アリーナの壁が倒壊した様子が目に見えた。そこからアリーナ内に残っていたグールインベスたちが現れ逃げている人々に襲い掛かる。そこを第1アリーナの瓦礫が吹き飛び、そこからドラゴンフルーツアームズに戻った炎竜が現れた。炎竜は人々に襲い掛かるグールインベスたちを抑え込み、次々と斬り倒していく。そこを勇吾が近づき炎竜を攻撃する。炎竜は人々に襲い掛かっていくグールインベスに加え、勇吾の攻撃をさばく。だが、ここまでのダメージが大きく、勇吾の攻撃を何発かまとも受けてしまう。その隙を突いてグールインベスたちは人々を襲い、人々が犠牲となっていく。その様相は第1アリーナ周辺から広がり、学園の全域へと広がろうとしていた。
「はあ、はあ、はあ。ガハッ!ゴホっ、ゴホっ!」(炎竜)
「なあ、見ろよ。俺をバカにしてきた奴らの逃げまどう姿をよ。ハハハハハ、ハハハハハハハハハハハハ!これが笑わずにいられるかよ!!ハハハハハハハハ!!」(勇吾)
炎竜は地面に膝だけではなく両手を着いていた。肩で大きく息をしており、時折クラッシャーから血が流れ出ていた。
勇吾は今目の前に広がる正に地獄ともいえる様相を見て笑っていた。勇吾のその様子はあまりにも醜かった。そこに、勇吾に強烈な攻撃が次々と放たれた。さらに消耗している炎竜を誰かが担ぎ、勇吾から離れた場所で降ろした。
「大樹!あんた、大丈夫!?」(鈴)
「ガハっ!鈴、どうして。」(炎竜)
炎竜を助けたのは幼馴染で中国国家代表の鈴だった。その鈴の近くにはセシリアがブルー・ティアーズのレーザーライフルで勇吾に狙撃を行っており、その隣ではラウラがシュバルツ・ハーゼに搭載された火器群を使っていた。さらに勇吾の上、空からはシャルロットが自身の専用機のリイン・カーネイションを操り、セシリアとラウラと共に勇吾を攻撃していた。
「柏葉さん!そのISについてもこの怪物たちについても聞きたいことがありますが!!」(セシリア)
「オルコット!手を止めるな!」(ラウラ)
「ねえ、大樹!あいつは一体何なの!?」(シャルロット)
駆けつけたかつての仲間たちから矢継ぎ早に質問が出る。それに炎竜が答えあぐねいていると鈴が炎竜を立たせる。
「とりあえず、あんたが戦っているってことと他の人たちを襲っている時点で敵、でしょ?」(鈴)
「聞かないのか。」(炎竜)
「話を聞くより今はあいつらをぶっ倒す方が先でしょ?少しあんたは休んでなさい。」(鈴)
この場で恐らく最も自分に問い質したいことも多く、問い質したい気持ちが強いはずの鈴がそう言う。それに炎竜は無双セイバーを杖代わりにして何とか立ち上がる。
「ごめん。」(炎竜)
「それ、あたしじゃなくてマドカに言いなさい。あんたは許してくれないって考えているだろうけどあの子はあんたのことをとっくに許しているわよ。」(鈴)
鈴は大樹の脳裏にあるかつての姿よりも非常に大人びていた、否実際に大人になったのだろう。その話もたたずまいはかつてはこの場に居る彼女たちと一夏をめぐって小競り合いをしていた少女とは思えなかった。
「一夏の名前じゃなくてマドカの方か。」(炎竜)
「そりゃ、そうでしょ。好きな相手がいきなりいなくなって悲しくて寂しくて、それでも信じているマドカのことをあんたに言わないとでしょ?ここで死ぬなんて詰まんないことを言ったら問答無用で衝撃砲を当てるからそのつもりでいなさい。」(鈴)
鈴の言葉に炎竜は逃げろという言葉ではない別の言葉を口にした。
「ありがとう。」(炎竜)
「それもマドカに言いなさいよ。」(鈴)
5年の空白を感じさせない鈴の接し方が炎竜の方から力を抜かせた。体は限界を迎えており、まともに動けないはずなのに気力がみなぎるを感じる炎竜。無双セイバーと竜炎刀を持ち直し、先に歩み出した。
「周りの雑魚を頼む。それとシールドエネルギーが少なくなったらすぐに退避するんだ。」(炎竜)
「分かったわ。それじゃ、行ってきなさい、大樹。」(鈴)
「ああ、行ってくる。」(炎竜)
炎竜はセシリアたちの攻撃を受けている勇吾に向かって走り出した。それを見た鈴は双天牙月を薙刀にしてグールインベスたちを切り裂く。
「さあ、来なさいよ。今日のあたし、最初は気分最低だったけど今は最高に良いんだから。」(鈴)
「ふん!勝手に消えた奴が帰って来たところで私は絶対に許さん。」(ラウラ)
「まあまあ、ラウラもそう言わずに。」(シャルロット)
「皆さん、すぐに終わらせて柏葉さんを援護しましょう。絶対に柏葉さんを帰らせませんと。」(セシリア)
彼女たちは向かってくるグールインベスたちを次々と倒していく。彼女たちは今かつての仲間の炎竜=大樹を彼の帰りを待つマドカの元へ帰すために一つとなっていた。
炎竜たちがIS学園でインベスを相手に戦っている頃、織斑邸にいるマドカの元に来客が来た。
「マドカ!」(簪)
「どうしたんだ、簪。」(一夏)
急いだ様子で来た簪は出迎えた一夏にも声を掛ける。
「テレビのニュース、モンド・グロッソが大変なことに。」(簪)
「テレビなら今はマドカが見ているはずだぜ。すぐに上がれよ。」(一夏)
一夏に言われ、家の中へと上がった簪。二人がリビングへ入るとそこにはテレビの画面を凝視するマドカが居た。テレビの画面にはモンド・グロッソの舞台となっているIS学園の第1アリーナの惨状が映し出されていた。
マドカはテレビから振り返ると急いで玄関の方へ走っていった。
「おい、マドカ!どうしたんだ!?」(一夏)
一夏の言葉に返事もせずにマドカは玄関を出た。
「はあ、はあ、なあ、帰ってこないなんて嘘だろ。私をもう置いて行かないなんだろ?」(マドカ)
走りながらはるか先のIS学園で戦う思い人に問い掛けるマドカ。彼が失踪してからの5年は彼女にとって非常に長かった。それでも必ず彼が自分の所へ戻って来ると信じていた。
帰りを待っているその彼が、テレビに映っていた。彼の最後の肉親である兄と壮絶な殺し合いをしているのが一瞬だけ映ったのだ。
胸の中で急激に肥大化する不安、5年前に彼=大樹が傷だらけになって帰って来た時に感じた以上の不安と恐怖がマドカの胸の内を満たしていく。
「頼むから、頼むから行かないでくれ。私から、大樹を奪わないで。」(マドカ)
気付けば流れていた涙。それを拭いながらマドカは夜の町を走っていく。
IS学園ではその戦火は第1アリーナだけではなく、隣接している他のアリーナにも及んでいた。第1アリーナは既に更地同然になっており、隣接していた第2、第3アリーナも半壊していた。非難する人々は何とか学園から本土へと向かうモノレールの駅へと殺到する。だが、混雑する駅周辺はパニック状態に、誰もが我先にと逃げようとする。各国の要人は学園内にあるヘリポートから続々と島から離れていく。
「良い?あなたたちは避難する観客をそのまま船に乗せて。」(楯無)
楯無は各国の代表と共に観客の避難を進めている。この惨状を生み出した張本人と対峙する炎竜=大樹の身を案じる。そして、彼を助けると言ってその激戦地へと向かった鈴たちのことも。それでも国家代表として、暗部の長として長く前線に立っていた彼女はそれを表には出さなかった。
炎竜と勇吾は戦いの場を学園の校舎の近くへと移していた。彼らの戦いの余波で校舎の窓ガラスが割れ、外壁が崩れ、教室がその姿を変えていった。ここまでの戦いで疲労一つ見せない勇吾に対して既に満身創痍である炎竜。だが、満身創痍の炎竜は勇吾に食いついていた。自らが握る無双セイバーと竜炎刀をしっかりと握り、勇吾の攻撃を見切り、力強い二刀流で切り裂いていく。
「鬱陶しい。さっさと死ねよ!屑が!!」(勇吾)
「お前を殺すまで死ねねえよ。それにあそこまで鼓舞されたら無様に負けるなんて出来るかよ!!」(炎竜)
戦う中で炎竜はロックシードを入れ替える。敏捷性に優れた緑色のシークワーサーアームズに変わると勇吾の周囲を高速で走り出し、ジャンプをしては蒼雷杖を突きだし、退いたかと思えば蒼雷杖を伸ばして勇吾は予想もしなかった方向から次々と攻撃を繰り出していく。
勇吾は自身の周りに爪撃を次々と放っていくが炎竜は周囲の瓦礫を上手く使い、それを躱していく。
≪シークワーサースカッシュ!≫
炎竜は蒼雷杖にエネルギーを集中させ勇吾の肉体に突き立て必殺技のボルトパニッシュを発動させた。
「が、ギャア!!」(勇吾)
ここで初めて勇吾が痛みの叫びをあげた。本来であれば瞬時にインベスを爆発四散させるのだが、勇吾の肉体から血が断続的に噴き出るだけで本来の威力を発揮しなかった。そこから炎竜はパッションフルーツアームズへ変わり、勇吾の傷口からパッションフレアカノンの銃口を食い込ませて追撃にそこから次々とグレネード弾を撃ち込んでいく。
「て、てめえ!!」(勇吾)
勇吾は撃たれながらも炎竜の頭を掴み、学園の校舎に打ち付けたあとはそのまま壁に押し付けながら投げ飛ばした。
炎竜は地面に落ちるが基本形態のドラゴンフルーツアームズへと戻り、距離を詰めてきた勇吾に無双セイバーと竜炎刀を振るう。だが、それも勇吾は力づくでねじ伏せ、炎竜の仮面に頭突きをかました。その衝撃を凄まじく、炎竜の仮面が割れ、その内部にある大樹の右眼があらわになった。そこに勇吾が自身の右腕を横なぎに払った。その時に勇吾の鋭い爪が露になった大樹の右眼をえぐったのだ。
「がああああああああ!!!」(大樹)
右目から血を流し、大樹は剣を地面に突き立てた。
「っ!ぐっ!ああああ!!」(大樹)
意識的に痛みを無視することをしてきた大樹でも神経にまで届いたその傷から生じた痛みに悶えていた。
「手こずらせやがって!死ねえええええ!!」(勇吾)
勇吾が爪を振り上げ大樹に振り下ろそうとした時に勇吾目掛けて目に見えない空気弾が何発も当たった。さらに空気弾だけではなく他にもミサイルやレーザーなどが勇吾に当たり続ける。
勇吾が動けなくなった隙を突いて、大樹は痛みをそのままに何とか無双セイバーと竜炎刀を握り直し、勇吾から距離を取った。
大樹は完全に光を感じることが出来なくなった右目から流れる血をそのままに自身を助けに来た者たちの姿を見た。セシリアの愛機であるブルー・ティアーズは特徴であるビットが全て失っており、ラウラのシュバルツ・ハーゼも装甲のほとんどを失っていた。比較的損傷が少ないシャルロットのリイン・カーネイションも装甲の一部が損壊していた。そして、鈴の甲龍が最も損傷がひどく衝撃砲も一つしかなく、スクラップ寸前の状態だった。
「もう、下がれ!それ以上続けるのは危険だ!!」(大樹)
彼女たちの様子を見てこれ以上の戦闘の続行は危険すぎると考え、大樹は彼女たちに退くように言ったのだ。だが、煙の中から無傷の勇吾が現れると彼女たちを一瞥した。すると、勇吾の体が震えだした。
「フフフ!アハハハハハ!これは傑作だ!!アハハ!まさか、この世界の象徴ともいえるIS乗りが!!アハハハハハ!!これは良い!俺の考える新世界の創造にふさわしい!!」(勇吾)
勇吾の言葉に背筋に嫌な寒気が走るのを感じた大樹。恐る恐ると駆けつけた鈴たちを見ると勇吾が生み出したウィルスに感染したことを示す肌の変化がわずかながらに見られたのだ。それを見た瞬間にこれまでにない程の絶望を感じた大樹。ずっと、彼が恐れていた事態になったことを指し示していた。当然ながら、ISに乗る彼女たちもISから示されたデータによって自分たちの肉体に何が起きているのか想像していないわけじゃない。出来ることなら逃げたいはずなのにそれでもなお彼女たちはその場に居たのだ。
「へえ、じゃあ、あんたから説明してよ。あたしたちに残っている時間をさ。」(鈴)
その中で鈴は普段の様子のままに勇吾に問い掛けた。
「俺の体内にあるウィルスは感染後10分ほどで体内をめぐる。まあ、お前たちの様子だと保って数分だな。」(勇吾)
「おい、兄貴!ワクチンはあるんだろうな!!」(大樹)
「あるわけがないだろ。お前たちに残っている道はウィルスによってインベスに変貌する、その道だけだ。」(勇吾)
「ふざけるなああ!!」(大樹)
勇吾の言葉に大樹は詰め寄ろうとするがそれを鈴たちが阻んだ。
「良かったわ。これで踏ん切りがつくわ。」(鈴)
そう言うと鈴は両隣に立つセシリア、シャルロット、ラウラと顔を見合わせる。彼女たち全員が覚悟を決めた表情でいたのだ。それを後ろから見る大樹はそれが意味するものを即座に理解した。
「辞めろ!!」(大樹)
大樹がそう言う前に彼女たちは勇吾に立ち向かっていく。ISでは敵わない、大樹ですら歯が立たない相手に彼女たちは一歩も退かなかった。だが、
「ふん!!」(勇吾)
「ラウラ!!」(大樹)
「はあ!!」(勇吾)
「シャル!!」(大樹)
「ヒャッ!」(勇吾)
「セシリア!!」(大樹)
瞬く間に勇吾の凶爪に倒れる彼女たち。残る鈴もすでにISが強制停止してしまっていた。
勇吾は生身となった鈴にその爪を振るうがその間に大樹が割って入り無双セイバーと竜炎刀で何とか防ぐ。
「くっ!ぬうう!!」(大樹)
「大樹!」(鈴)
「おいおい、そいつは放っておけばインベスになるんだぞ?助けてどうする?」(勇吾)
「うるさい!!」(大樹)
大樹は勇吾の腹部を蹴り、斬りつける。
勇吾は跳び退り空気を吸い込み強大な衝撃波を伴う咆哮を上げる。
咆哮を受けた大樹と鈴はその場から飛ばされてしまう。
「はあ、はあ、クソっ!」(大樹)
大樹は悔しそうに地面に拳を叩きつける。最早、現状は大樹自身が考えていた最悪のシナリオを進んでいる。収束は無い、あるのは破滅的な結末のみである。
「一体、一体、どうすればよかったんだよ!!クソ!クソ!」(大樹)
「大樹。もう良いわよ。あんただけでも逃げて。」(鈴)
自分の無力さに地面を叩く大樹に鈴が声を掛ける。すでに鈴の肉体はウィルスの影響を受けてきており、その姿も人間のものから離れようとしていた。自身のことよりも大樹に逃げるように言ったのだ。
「置いて行けるか、置いて行けるかよ!!」(大樹)
「もう手遅れなのはあんたも分かるでしょ。それだったらあんただけでも逃げるべきよ。」(鈴)
「俺は何のために、これじゃあ皆を守るために一人で戦った意味がない。」(大樹)
「もう良いじゃない。あたしはあんたの頑張りを認める。だから、もう。」(鈴)
ここまでの中で鈴の姿が刻々と変化していく。それでもなお大樹は逃げようとは思えなかった。
「さて、最後にしてやるよ。」(勇吾)
そこに遂に勇吾が来た。
大樹は心が折れそうになりながらも立ち上がる。そこに、半人半獣となった彼女たちの姿が目に入って来てしまった。
「ええ、最期よ!!」(鈴)
そう言って鈴は勇吾に向かって行った。その鈴に対して勇吾が瞬時に距離を詰めて強烈な掌底を当てて鈴を地面に倒れ伏せた。
「鈴!!」(大樹)
大樹が鈴の名を呼ぶ。すると鈴が立ち上がった。その姿はすでに彼女たちと同じになってしまっていた。
「よし、やれ。」(勇吾)
勇吾は自身の傀儡になった鈴たちを大樹にけしかけた。
「辞めてくれ!目を覚ましてくれ!!」(大樹)
大樹はインベスとなった彼女たちに必死に声を掛ける。だが、彼女たちの攻撃が止まることは無かった。そこに、鈴が大樹を押し倒した。
「-----。」(鈴)
小声で集中しないと聞けない言葉だった。それを聞いた大樹は仮面の下で歯を食いしばった。
「ごめん。」(大樹)
そう言って大樹は鈴に無双セイバーの刃を突き立てた。そうしたら鈴が一切動かなくなった。
鈴の死体をどけて、大樹は次々とインベスとなった彼女たちを切り捨てていく。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアあああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」(大樹)
セシリアを斬った、シャルロットを斬った、ラウラを斬った。潰れた右目、いまだに光をとらえ続ける左目から涙を流して大樹は勇吾に向かって行く。そこを勇吾は大樹の顔面に強烈な掌底をそのまま浴びせた。それにより、完全に仮面が壊れ、中から大樹の素顔が現れた。勇吾の掌底によって大樹の残った左目も潰れてしまった。
「おら、死ねええ!!」(勇吾)
遂に勇吾の剛腕が大樹の腹部を貫いた。その瞬間、大樹は自身の心が完全に粉々になった音を聞いた。
同じ頃、IS学園を目指す一団が居た。マドカ、一夏、箒、千冬だった。彼女たちは千冬が使う車に乗りひたすらに走っていた。道路は至る所で渋滞していた。そこを千冬の運転する車を渋滞の車が向かう先とは逆の方向を進んでいた。車の中で彼らは無言だった。ただ、マドカだけは両手を固く握り祈っていた。
「やっと、やっとだ!もう、俺を邪魔する者はいない!!」(勇吾)
そう言って勇吾は大樹の腹部から手を抜こうとした。だが、すでに死に体である大樹が信じられない力で勇吾の腕を掴んだのだ。
「フー!フー!フー!ウウウウウウ、ガアアアアアアアアアア!!」(大樹)
獣がごとき叫びをあげると大樹は無双セイバーの刃を勇吾の頭部に力づくで食い込ませた。
「がっ!てめえ!!」(勇吾)
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」(大樹)
≪ドラゴンフルーツスカッシュ!!≫
炎を帯びた無双セイバーがゆっくりと勇吾を切り裂いていく。
「ギャアアアアアア!!」(勇吾)
勇吾は痛みの叫びをあげながら大樹から離れようとするがそれも叶わなかった。ゆっくりと、ゆっくりとあらん限りの力で押し込まれる無双セイバーは勇吾の頭、胸、腹と下がっていき、最期には勇吾を両断した。
「ギャアアアアアア!アアアアアアア!」(勇吾)
勇吾は最後まで苦悶の叫びをあげ続けた。勇吾の肉体が灰になるまでその叫びは続いた。
勇吾を倒したその瞬間に大樹は地面に倒れた。その大きく開いた腹の穴から血を流し続け、潰れてしまった両目は虚空を眺めていた。