五代由紀:クリスの同級生その2 生徒会副会長
鏑木乙女:クリスの同級生その3 生徒会書記 雪音クリスファンクラブ会長
神からの独立、人類の未来の奪還の日から一月程が経ち、爆破伐採され姿を消したユグドラシルの爪痕が残りつつも、多くの場所では日常と呼べる平穏が取り戻されていた。ここリディアン音楽院でも日常の風景が戻っていた。この時期は授業も午前で終わり、昼からをどう過ごすか友人と話しながら帰る生徒とすれ違っていく。
「雪音さーん!!」
職員室での用事を済ませて廊下を歩いていたあたしを見るなり突撃してきて訳の分からんことを捲し立てきたのは、あたしがリディアンに入った時からなんだかんだとあたしを気にかけご飯に誘ったり学校行事に
こいつらは3年になるといつの間にか生徒会に所属していて、思い出作りと称してよりあたしをイベント事に巻き込むようになった。
三人であたしを囲むと真ん中の小路が手を合わせた。
「お願い雪音さん! もう雪音さんしかいないの!」
「はぁ? 待て待て待て! ちゃんと説明しろ!」
いつもと勢いは変わらないが行事に巻き込む時とは違って本当に切羽詰まってるように見えた。
手を合わせたままお願いだよ~とうなる小路を見かねて由紀が事情を説明しだした。
「卒業式の卒業生代表のことなんだけどね」
「はぁ? そんなもん生徒会長なんだからお前がやればいいじゃねえか」
あたしの言葉に乙女が困った顔をする
「それがですね…」
「去年が翼先輩だよ! 私には荷が重いよ! それに私は雪音さんがいいと思ったの、お願い!」
「と小路が言うからな、雪音を探してたんだ」
「いや、あたしは…」
「お願い雪音さん! 私たちもできる限り手伝うから!」
「卒業式で雪音さんの歌聞きたいです!」
そんな言葉に返答に詰まる。
あたしが代表…こいつらの…
「少し考えさせてくれ、近いうちに返事はするから」
♪ ♪ ♪ ♪ ♪
SONG本部での訓練後、あたしは休憩室で一人考えていた。
あたし自身はどうしたいのか自分でも分からなかった。あの場ですぐに請け負うつもりにはなれなかった。あたしが代表として歌うことを考えたときあたしはもっと他にふさわしいやつがいるんじゃないかと思ったからだ。でも、こんなあたしに歌って欲しいと言うやつもいる。あたしの歌が好きだと言ってくれる。そんなやつらがいるのなら、あたしの歌で何か返せるものがあるのなら…
ふと思い出すのは去年の卒業式、卒業生代表として堂々とした
「わっ!」
突然後ろから聞こえる声に体が跳ねる。
「ひゃぁ!! お、おどかすなよ!」
「ごめんなさい、何か落ち込んでいたようだったからね」
マリアはそう言いながら少し笑うとあたしに両手に持っているコップの片方を差し出してくるのであたしが渋面でそれを受け取ると少し笑い横に座る。
「何か悩み事?」
「はっそんなたいしたもんじゃねえよ」
「あらそう? さっきの訓練いつものキレがなかったわよ」
「うぐぅ…」
確かにさっきは少し集中を欠いていたとはあたしも思うけどそんな見て分かるような程ミスしたつもりでもなかったぞ…?
「そんな気づく程集中してなかったか?」
「うーん、そうね。例えばほかの人が普段のあなたを見てから今日のあなたを見ても特に気にならないくらいの違いかしらね」
「なんだそりゃぁ…」
「でも気づくわよ? それに気づいてるのは私だけじゃないみたいだしね」
マリアがドアの方を指さしながら言うのでそちらを向こうとするがその前に衝撃に襲われる
「クリスちゃーん! どうしたの!? 大丈夫!? 怪我してたりしてない!?」
「うぎゃぁ! やめろ! 抱き着くな! 揺らすな! 離れろこのバカ!」
耳元で騒ぐバカの頭に拳骨を落とすとあたしに抱き着いていた
「酷いよクリスちゃーん」
そんなバカの後ろからさっきの特訓に参加してた
「響さん早すぎるデスよ…」
「そんなに急がなくても…あっマリアもいたんだ」
「そもそもあたしは怪我なんかしてねえぞ! どっからでてきたんだその話」
「だってクリスちゃん調子悪そうだと思って二人に聞いたらどっか怪我でもしてるんじゃないかって言うからー」
調子悪そうってマリアはともかくこいつら全員私が集中できてないの気づいてたのか!? いやいやいやそんな大崩れしてないぞ!?
「あたしそんな分かりやすく調子悪かったか!?」
「えっ、どうだろう? 切歌ちゃんと調ちゃんと話したけどなんとなーく普段より調子悪いのかな? くらいだったんだけど」
「デスデース」
「ちょっとした違和感があるなぁって感じです」
「まあこれだけ一緒に死線を潜り抜けたんだし普段との違いがちょっとした違和感として伝わったんじゃないかしら?」
マリアの解説にバカが目を輝かせる
「それですマリアさん!! そういうことなんだよクリスちゃん!」
「ところで怪我じゃないならクリス先輩はなんで調子悪かったんデス?」
「確かに…何かあったんですか?」
「ちょっとした悩みがあるらしいわよ」
「おまっ!? 何言ってんだ!?」
「あら、さっき悩みでもあるの? って聞いたら大したことじゃないって言ってたからちょっとしたことならあるのよね?」
こいつ人の言葉尻取るようなことしてきやがって…
その言葉に今度はバカだけじゃなく後輩二人もがこっちに詰め寄ってきた
「クリスちゃん大丈夫!? 何があったの!?」
「相談に乗るデスよ!」
「大丈夫ですか?」
「だあああああ! ほんとに大したことじゃねえんだよ!!」
純粋に心配してるような目しやがってこいつら…
あたしがそう言っても三人は引く気がないように見えるし…
「ったく…」
別にそんな心配されるようなことじゃないんだけどなぁ…あたしは今日学校で卒業生代表として歌ってくれるように頼まれたことを話す。
「ってわけでどうするか考えてたからちょっと集中できてなかったんだろ。な? たいしたことじゃねぇだろ」
「「卒業生代表(デス)?」」
「卒業生代表!? 凄いよクリスちゃーん!」
私の隣で飛び跳ねるようにはしゃぐバカとは対照的に後輩二人はピンと来てないみたいだ。
そういやこいつらは一年でまだうちの学校の卒業式を見たことなかったな。
「確かに代表は凄いことなんデスが」
「響さんがこんなにはしゃぐようなことなんですか?」
二人の疑問にバカが勢いよく顔を向ける。
「凄いんだよ! リディアンの卒業式では卒業生が全員で校歌を歌った後最後に代表の子がステージで歌うんだけど代表に選ばれた子が自分で曲を作るんだよ。それでその曲はリディアンにずーっと残るんだよ! それに去年は翼さんが代表だったんだよ! クリスちゃんがやるなんて凄いよ! さっすがクリスちゃん!」
「およよー! それは凄いデスね! さっすがクリス先輩デス!」
「だあああああ! まだやるとは言ってねぇだろ!」
ったく…盛り上がるバカ共につい笑いが零れる。
「クリス先輩断るんですか?」
「いや、実際難しいんだよ。曲も自分で考えなきゃいけねぇしなぁ…」
「だったら翼に聞いてみたら?」
話を聞いていたマリアがそんなことを言った。
「先輩にか?」
「翼が去年の卒業生代表だったんでしょ? だったら経験者に聞いてみればいいじゃない。ちょうど今日あの子もいるでしょう。さっき司令と何か話してたわよ」
先輩にか…確かにあたしの中ではこのまま答えが出る感じはしねぇ。先輩も多分その年の生徒会長に頼まれた口だろ。だったら何か思うところがあるかもしれねぇ。
「そうだな、そうしてみる。…あーなんだ、心配かけて悪かったな」
♪ ♪ ♪ ♪ ♪
あいつらと別れた後、先輩を探して指令室に向かっていた。おっさんと話してたらしいしおっさんは大体ここにいるだろ。そう思いながら指令室の前に立つ、ドアが開くと予想通りそこにいた何か話していたらしい先輩とおっさんがこちらに気づく。
「おや? クリス君どうかしたか?」
「いや、ちょっと先輩に話っつーか、聞きたいことががあるっつーか…」
「私にか?」
先輩が意外そうな顔でこちらを見ている。そういやこんなの初めてじゃねぇか? …なんか恥ずかしくなってきた。先輩もおっさんとなんか話してたみたいだしな! 別にそんな急ぐことじゃないしな。
「いや、別に急ぐ話でもねーしなんか話してたんだろ? また今度にするわ」
「構わんさ。こちらの話は丁度終わったところだったしな。翼今日はもういいぞ。それにクリス君が相談事など珍しいしな」
相談なんて言ってねぇだろっと思っておっさんの方を見るがおっさんはどこ吹く風で笑ってやがる。
「分かりました。なら雪音少し行きたい店があるのだ。付き合ってくれないか?」
♪ ♪ ♪ ♪ ♪
あたしは先輩に連れられて来た喫茶店で先輩と向かい合って座っていた。
「それで、私に聞きたいことというのはなんだ?」
「…今年の卒業式の代表で歌ってくれないかって頼まれた」
「あぁ、雪音もやるのか?」
「…まだ悩んでるんだ。あたしが代表でいいのかとも思うし、曲もどうすればいいかわかんねぇ。…それで…あー先輩は去年どうだったんだ?」
あたし自身、ふわふわした質問になったと思った。でも少しして先輩は思い返すように口を開き始めた。
「どうだったか、か…そうだな…私は知ってる通り学園は仕事でよく休んでいたし、周りとの壁が無くなるのにも時間がかかった。私も代表を頼まれた時、最初は断ろうと思っていたな。もっと毎日をリディアンで過ごしている者がやるべきだと思ったしな」
「なら、どうして結局受けることになったんだよ」
「それでも私に歌って欲しいと言われたからだな。学校での最後の日に私の歌を聞きたいと言われたんだ、そう言われては断ることもできないだろう」
先輩は少し笑いながらそんな風に言った。そんな言葉に今朝、学校で三人に言われたことを思い出す。あいつらもあたしに歌って欲しいと言っていた。
「あたしも言われたな、そんなこと」
「なら歌うといい。歌を聞きたいと言ってもらえることは誇らしいことだからな」
そう言われるとそうなんだろう。あたしの歌を聞きたいと言ってくれるやつがいることは、あの場所の最後の時間をあたしの歌が務めることは、先輩の言う通り誇らしい凄いことなんだ。
…あたしがあのあったかい場所に、帰るとこをくれたあの場所にあたしの歌で何か返せるのなら。
「…歌はどうやって考えたんだ?」
あたしの質問に先輩は笑みを零す。
「私は、メロディーはある程度の形を決めて先生方や作曲科の同級生に手伝って貰ったな。歌詞の方はあの時私が伝えたいことを詰めたつもりだ。私は曲作りも仕事で少し触れることがあったのでな」
「気持ちを詰める…」
「まだ時間はあるんだ。それにきっと雪音のやりたいことにも通じるものがあるんじゃないか? 歌で世界を救うんだろう?」
そんな先輩の言葉に思考が全て真っ白になる。
「んなぁ! なんでそれを!? おっさんか!? おっさんが話したんだな!?」
「ん? いい夢じゃないか」
「だあああああああ! そういうことじゃねぇよ…」
自分でもテーブルに突っ伏した顔が赤いことが分かる。確かにおっさんには学校で進路選ぶときに確かに啖呵切ったけどよ…あのおっさんから漏れるなんて想定外だ。
──まさか他の奴にも広まってねぇだろうな!?
先輩に確認しようとすると丁度店員が先輩の頼んでいた抹茶パフェ持ってくる。
「ここの抹茶パフェが美味しいと立花に聞いてな。うむ、美味しいな」
目の前で美味そうにでパフェをたべだす先輩に、さっきの事を聞くタイミングを逃してしまう。どうしようかと先輩を見ているとその視線に気づいた先輩が何を思ったのかパフェをスプーンで掬ってこちらに差し出してくる。
「雪音も食べてみろ。美味しいぞ」
「なっ? は!?」
この人こんな真顔であーんなんてしてくるキャラだったか!? あたしがどうすればいいか戸惑っていると、垂れてしまうから早く食べろと催促される。なんかこっちだけてれ照れてるようで気に食わねぇ、せめてもの抵抗に差し出されたパフェをに乱暴に食べるが、先輩は満足そうに聞いてくる。
「うむ、どうだ?」
「…うめぇ」
あたしがそっぽ向いて言うと、先輩が少し笑う。
「まぁ、雪音がどうしたいか考えるのはいいことだと思う。だが先人のアドバイスとすれば雪音は少々気負いすぎだな。大切なのは雪音がどうしたいかだと思うぞ」
「あたしがどうしたいか…」
クリス視点で文章書くの難しいわ…
続くとしたら中編と後編が出ると思います