スカジに人肌のぬくもりを思い出させる話   作:ペトラグヌス

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ドクターがスカジに興味を抱く話

僕は正直なところ彼女、スカジのさまざまに逸話について、どれも誇張されたものなのではないかと考えていた。

常識的に考えて山を消し飛ばすなどできるはずがないし、一振りで百人をなぎ倒しただの言う与太話が信じられるわけもない。

彼女の経歴と言動とが生み出した、根も葉もない噂だと思っていたのだ。

 

そして今、僕はそんなことを考えていた過去の僕をぶんなぐってやりたいと思っている。

結論から言えば、彼女の噂は本当だった可能性が高いということだ。ケルシー先生の助言を受け入れていなければ、危うく部隊が全滅するところだった。

 

彼女の初陣は、ちょっとした感染者の武装蜂起の鎮圧だった。当初の計画では、彼女は前衛オペレーターとして他のオペレーターとともに投入する予定だったのだが、ケルシー先生から珍しく横やりを入れられたのだ。もちろん、僕がケルシー先生に逆らえるわけもなく、彼女は強襲偵察を行うことになった。そして、それが蜂起した彼らの運の尽きだった。

 

他のオペレーターが現場に到着した時に見たのは、瓦礫の山と地面に横たわる何十人という蜂起の参加者たちの姿だった。彼女は、その中心で一人佇んでいた。

 

偵察班の子が震えながらに話してくれたことによると、彼女は真正面から敵のアジトに突っ込み、剣の一振りであの現象を引き起こしたのだという。俄かには信じがたいが、同様の証言が複数のオペレーターから得られた。ということは、それが真実なのだろう。

 

これ以降、彼女には単独行動が命じられた。それを告げられた時の彼女は、いつもの如く短く返事をしただけであったが、どこか安堵しているように見えた。

 

問題はまだまだ続く。彼女の作戦行動に伴って発生する、近隣住民への補償の数々。このままではロドスの財政状況は火の車だ。

それに、何よりの問題はやはりコミュニケーションの部分だろう。

彼女の戦いぶりに加えその人を寄せ付けない言動、さらには過去の様々な噂が広まったことによって、彼女はロドスにおいても完全に孤立してしまったのだ。

 

問題も多いとはいえ、彼女がロドスにとって重要な戦力であることは間違いない。このまま孤立が続き、それが彼女の排斥へと発展するようではまずい。

そこまで至らなくとも、コミュニケーションの不足は作戦において重大な過失を招く恐れもある。

それに、僕自身、組織内の空気が微妙に変わってきているのを感じているのだ。いい変化ではないのは間違いないだろう。

 

 

 

 

「それで、アーミヤはどうすればいいと思う?」

「……私も、スカジさんの悪い噂を言うのは控えるように皆さんにはお願いしているんですが……人の口には戸が立てられないということかもしれません」

 

夕方の執務室。僕は、この小さな少女、アーミヤと一緒に作戦会議を開いていた。ロドスのリーダーであるアーミヤのお願いであっても、噂というのはどうにもならないらしい。まあ、仕方のないことではあるが。

 

「うーん、しゃべるなと強制はできないし……噂は誰かに話したくなるものだからなあ……」

「……あっ!ならドクター、スカジさんのいい噂を流すのはどうでしょうか?」

「いい噂?」

「はい。皆さんが噂を話してしまうのなら、その内容をなるべく良いようにとらえたものにすればいいんです。それで悪い噂をかき消してしまえば……」

「おお!なるほど!……アーミヤは賢いな……」

 

そういう手もあるのか。なるほど、話したくなってしまうのならむしろ積極的に話させればいい。こちらがなるべく感じ良い噂を流せばいいわけだ。

例えば、スカジへの恐怖を畏敬の念に変えるような、そんなふうにベクトルを変えられれば。

 

……それにしても、アーミヤは分かりやすくていいな。今も嬉しそうに耳をぴくぴくさせている。どれ、頭も撫でてやろう。

 

「ドクター……えへへ……」

 

かわいい。スカジも、これくらいわかりやすければもっとどうにかなるだろうに……まあ、そうじゃないからこんなことになっているんだろうけど。

 

「あとは、やっぱり本人の態度だな……」

「えへへ……」

「アーミヤ?」

「あっ、はい。やっぱり、スカジさんの皆さんへの態度もこの状況を作ってしまっている原因だとは思います」

「見かねて声をかけた皆さんも、にべもなく断られてしまったようで……」

 

そうだろうな。あの目といいあの言葉といい、彼女自らが人を遠ざけているのが最大の原因なのだ。その度合いは、もはや一人が好きだという次元を超えている気がする。

何か理由がなければ、あそこまでかたくなな態度はとらないだろう。

 

「じゃあ、そっちについては僕が何とかするよ。アーミヤは噂のほうをよろしく頼む」

「わかりました。ドクター、頑張ってくださいね」

 

頷いて親指を立てて見せる。これにて作戦会議は終了。あとは各自の仕事だ。

また一対一で彼女と話し合うのはきついものがあるが、実は少し楽しみでもある。

 

父さんには顔向けできないけれど……やっぱり、人を助けるというのは最高に気持ちがいい。自分の存在意義をありありと感じられるんだから。

 

もしも彼女の孤独が望まぬもので、もしも僕が彼女をその孤独から救うことができたら。

いったい僕は、どれほどの価値を自分に見出すことができるんだろうか。

 

 

 

 

 

「前に言ったわよね。私に近づかないほうがいいって」

「そうもいっていられない状況になったんですよ、スカジさん」

 

一言目からこれだ。善意で声をかけてこれを言われたらかなり精神的に来るし、怒りすらわいてくるのではないだろうか。

 

「……スカジでいいわ。あまり畏まられても困るの」

「……じゃあスカジ、単刀直入に言うぞ。……なぜそうやって人を遠ざけようとするんだ?」

「……これも前に言ったわよね。私といると面倒事に巻き込まれる。あなたも困るだろうし、私も困るのよ」

 

……そうだ。彼女はずっと言っているじゃないか。”私も困る”と。なぜ僕が面倒事に巻き込まれると彼女が困る?

誰かといるのが嫌で孤独でいるのならば、他人が巻き込まれてどうなろうが彼女の知ったところではないはずだ。

 

「僕が面倒事に巻き込まれたとして、どうしてスカジが困るんだ?別に何も困ることはないだろう」

「……目覚めが悪いのよ」

 

目覚めが悪いということは、少なくとも心のどこかで他人に対して心遣いがあるということだ。他人を思いやる心があるということだ。

そうやって言葉だけ自分本位なように見せかけても、その心根までは隠し切れない。

本当に自己本位な奴は、そんなことは考えない。自分が満足さえできれば、行為の対象がどうなったところで感じるのは快感だけだ。

 

なら、彼女は……

 

「……要するに、自分に巻き込まれて誰かが傷つくのを見たくない。誰かを傷つけたくない。そういうことか」

「…………」

 

「……そうよ。だからもうあなたも近づかないで。私の戦いを見たでしょう?あなたを危険な目にあわせたくはないから」

 

彼女は、救われるべき存在だ。誰かを傷つけないために他人を遠ざけようとする、そんな優しい心の持ち主は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小さな男の子が目を覚ますと、そこは見知らぬ天井でした。意識がはっきりしてくると、それ以外のことにも気づき始めます。自分が仕立てのいい服を着せられていること。

自分がふかふかのベッドで、暖かい布団をかけられて寝ていたこと。どれも、男の子が生まれてきて初めて経験したことでした。

しばらくすると、優しそうなおじさんがやってきました。そのおじさんこそが、道で倒れていた男の子を助けた人だったのです。

 

おじさんはお医者さんでした。男の子がベッドで横たわっている間にも、たくさんの人がおじさんのもとにやってきます。おじさんは、その一人一人の悩みを次々と解決していきました。おじさんは、たくさんの人を救っていたのです。

 

やがて、男の子はすっかり元気になり、おじさんは男の子を家まで送ろうとしました。しかし、男の子に家などありません。孤児院に戻れば、きっと殺されてしまいます。

男の子はおじさんに必死にお願いしました。手伝いでも何でもします。だから、おじさんの所に居させてください、と。

 

おじさんは独り身でした。おじさんは、その人生のほとんどを医者の仕事に費やしてきた人でした。人並みの恋など、しようともしてこなかった人でした。

後悔などしていません。ですが、子供がいないということには、すこし寂しさを抱いていました。

 

男の子は、受け入れられました。おじさんは男の子をまるで我が子のように扱い、男の子もまた、おじさんが本当のお父さんのように感じられるようになりました。

二人は、家族になりました。

 

幸せな時間はあっという間に過ぎていきます。男の子はすくすくと育っていき、やがておじさんと同じように医者になるといいました。

 

男の子は、医者という仕事こそが自分の天職であると考えました。人を救う仕事。そのような仕事をすれば、自分はとても価値のある存在になれると思ったからです。

 

おじさんはとても喜びました。我が子が自分と同じように人を救う仕事をしたいといってくれたことが、本当にうれしかったのです。

 

おじさんは男の子にいろいろなことを教えてくれました。医者はどうあるべきか、人を救うとは何であるか、人はどうあるべきか。いろいろなことを教えてくれました。

 

そのすべてが男の子の血となり肉となりました。もともと優しい心の持ち主であった男の子は、立派な人物へと育っていきました。

ですが、育っていくにつれてある一つの葛藤が生じました。人を救うのは患者のためである。社会のためである。自分以外のすべての存在のためである。男の子は、そうおじさんに教わってきました。また、自分もそうでありたいと思っていました。

でも、ダメなのです。男の子は人を救ったとき、確かな満足が得られました。自分が生きている価値を感じることができました。人を救うことによってのみ、自分の存在意義を見出すことができました。男の子は、自らのために人を救っていたのです。

男の子は苦しみました。もちろん、そんなことをおじさんに言えるわけもありません。男の子は一人孤独に、自分の理想と現実の欲求との間の齟齬を乗り越えようとしました。

 

そうして、男の子は考えることをやめました。自分が生きている限り、この欲求からは逃れられないことを悟ったのです。

 

それから、男の子はこれまで以上に熱心に人助けをしました。人を救っている時の自分だけが、男の子にとっての価値ある自分でした。

 

そんな男の子がそれと出会うのは、必然でした。

 

 

 

 




なんかアーミヤがヒロインみたいに……(公式だけど)
次回からはポンコツ系クールお姉さんのスカジさんが書けるといいな……

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