スカジに人肌のぬくもりを思い出させる話   作:ペトラグヌス

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ドクターがスカジに近づく話

結局、話はそれっきりで終わってしまった。一応彼女には他のオペレーターとの接し方をもう少し差し障りのないものにしてほしいとお願いはしたが、いい返事をもらうことはできなかった。

まあ、いいさ。それ以上に、僕にはやるべきことができた。

 

スカジを救う。何と甘美な響きだろう。

 

僕は彼女の過去について、履歴書にある以上のことは知らない。けれども、その内容と数度交わした会話からだけでも、彼女の抱える深い闇を感じ取ることができる。

誰一人として彼女の傍に居続けることができた人さえいないのだ。彼女の闇を取り除くなど、到底できないことなのかもしれない。

そもそも、彼女は救われたいなどとは思っていないのかもしれない。

 

でも、それがイイ。最高だ。

今まで誰もできなかった?これから僕がやってやろう。

救われたいと思っていない?知ったことか。

彼女を救った暁には、僕はこの十年生きてきた人の中で、最も価値ある人間になれる。それだけで十分だ。

……僕は、それ以上を望める人間じゃない。

 

さて、これからどうしようか。最終目標は彼女の闇を取り除くこと。なれば、その前の段階としては彼女の傍で寄り添うというのが妥当だろう。今のところ、僕と彼女は業務の話しかしていない。まずは、日常的に会話ができるようになることが目標かな?アーミヤにも聞いてみよう。

 

 

 

「で、アーミヤはどう思う?」

 

次の日の朝。僕はアーミヤと一緒に朝食をとっていた。どうやってスカジに近づくかの作戦会議のためだ。

 

「……他のオペレーターの皆さんでは難しいと思いますし、まずドクターがスカジさんと仲を深めるのはいいことだとは思います。けれど……」

 

なんだろう。今一つアーミヤの歯切れが悪い。別に反対というわけではなさそうだけれど……

 

「けれど?」

 

「……いえ、大丈夫です。でも、それってかなり大変じゃないですか?」

 

「なら、僕の大好物じゃないか」

 

「ああ……そうでしたね」

 

どうやら納得してくれたようだ。……これで納得されるというのも考え物だけど。まあ、それなりに長い付き合いだ。アーミヤも僕のこの病的な行動についてはよく知っている。

 

「それで、当面の目標として日常的に話す仲になろうと思うんだけど、どうすればいいかな?」

 

「うーん、そうですね……」

 

「あっ、思いつきました!ドクター、こんな風に一緒に食事してみてはどうでしょうか?」

 

「……うーん、ちょっと段階を飛ばしすぎじゃないか?食事に誘うなんて、まるでデートだ」

 

「で、デート!?ち、違います!」

 

アーミヤの顔は真っ赤だ。やっぱり、そういうのにも憧れる年ごろなのか。誰か意中の相手でもいるんだろうか?

……しかしまあ、アーミヤは本当にわかりやすいな。それに比べて、スカジが赤面するところなんか……うん、想像もつかない。

 

「違うの?」

 

「違います!……オペレータースカジはいつも一人で食事をしているみたいなんです」

 

「一人で?自室でか?」

 

「いえ、食堂で食べているみたいです。皆さんとは時間帯をずらしているみたいですね」

 

「なるほど。そこに相席するわけか」

 

「はい。食事の場なら自然に向き合うことができますし、話題も出やすいですしね」

 

毎度のことながら、アーミヤのアイデアには感心させられるな。僕には思いつかないようなことをいとも簡単に思いついて見せる。

 

「よし、そうと決まれば早速やってみるか!ありがとうな、アーミヤ。いつも助かるよ」

 

頭をなでてやると、アーミヤは嬉しそうに耳を動かしながら小さく頷いた。

 

よし、早速食堂に行くか!

 

 

「あっ、ドクター。仕事はちゃんとしないとだめですよ?」

 

……はい。

 

 

 

……ドクターはずるい人です。

 

なでられた頭に手を重ねてみると、そこにはほんのりとドクターのぬくもりが残っていました。

胸がキュッと締め付けられます。頬が熱を帯びるのがはっきりとわかりました。

 

いつからでしょう。私が病気にかかってしまったのは。

この病気は、きっと世界中に誰にも治すことはできません。そう、一人の”お医者さん”を除いて。

 

でも、多分だめだと思います。この病気が治ることはきっとないでしょう。

 

だって、ドクターの眼に私は映っていません。

どれだけ必死に訴えても、届きはしないのはわかってます。だから……

 

……わかっています。わかってはいるんです。

 

……それなのに!

 

どうしてドクターは、私にやさしくしてくれるんでしょうか。

どうしてドクターは、私を頼ってくれるんでしょうか。

 

ある時は自分の子供に対するかのように。ある時は友人であるかのように。

 

そんな無茶苦茶なことをされたら、私の心まで無茶苦茶になってしまうじゃないですか。

 

いつかは私のことを見てくれるんじゃないかって、そう勘違いしてしまうじゃないですか……!

 

……ドクターはずるい人です。

 

 

 

仕事を終わらせると、もう時計の針は0時を回っていた。

ここ数日間のツケが回ってきたようで、結局食堂に行くどころではなかった。

幸いにも、ロドスの食堂は24時間営業だ。さて、ちょいと遅めの晩御飯と洒落込みますか。

 

食堂への廊下を歩いていると、何やら料理を作る音が聞こえてくる。どうやら先客がいるようだ。

こんな時間に珍しい。

 

食堂に入ると、先客が誰だかはすぐにわかった。長く、艶やかな銀糸が目にまぶしい。

向こうも誰かが来たとは分かったようだが、特に反応は帰ってこない。まあ、そうだろうな。

 

注文を終え、席に向かう。だだっ広い食堂に足音を響かせながら、少しづつ彼女に近づいていく。

やがて足音は止み、僕は彼女の向かいの席に座った。物憂げな瞳がゆっくりと持ち上がり、僕を射抜く。

はあ、とため息をつき、彼女は口を開いた。

 

「……あなた、人の話を聞いていたの?言ったわよね」

 

「近づかないほうがいい、だろう?そのことに関してはお互い様だ。スカジだって僕の言うこと聞いてくれないんだから」

 

「っ……」

 

僕の返答に、彼女は少々面食らったようだ。してやったり、といったところかな?

とはいえ、嫌みを言いに来たわけじゃない。弁明しようと口を開きかけたとき、彼女が再びため息をついた。

 

「…………はあ」

 

「……私のことを憐れんでいるのかしら?ひとりぼっちでかわいそう、そんな風に思っているのかしら」

 

「……だとすれば、勘違いも甚だしいわ」

 

「周りに居られると迷惑なの。邪魔でしかないのよ。表も裏もなく、ただ額面通りに」

 

「……理解したかしら?じゃあ、早く私から離れなさい。余計な同情も早く捨てることね」

 

淀みなく流れ出す言葉の数々。彼女はそれらを言馴れているように感じた。

きっと、これまでもこうして人を遠ざけてきたんだろう。

こうまではっきり言われてしまっては、同情心とやらも霧散してしまうことだろうな。

 

まあ、僕にはさして関係のない話だけれど。

 

「スカジこそ勘違いしているみたいだね」

 

「……?」

 

「僕は君に対してこれっぽっちも同情なんて抱いてないさ」

 

「それに好かれようとも思っていない。邪魔だとか迷惑だとか思われようがそんなことは別にいいんだよ」

 

「ただスカジと話したい。君のことを知りたい。ただただ僕の欲望のために」

 

善意なんかじゃない。飽くまで自分の欲求を満たすために。

きっと僕は彼女が今まで出会ってきた人間の中でも最低の人間だろう。

でも、善意なんかよりも純粋な欲望だからこそ、僕は彼女を救うことができるはずだ。

 

「……あきれた人ね」

 

「……好きにしなさい。ただし、死んでも文句は言わないことね」

 

「……ああ!」

 

思わず言葉から喜色が滲み出してしまう。これでようやく一歩前進することができた。

たかが一歩、されど一歩。このまま歩んでいった先で、僕はどんな景色に出会うことができるんだろうか。

 

「そういえば、スカジは何を頼んだんだ?僕は夜も遅いし、胃にやさしいお粥にしたんだけれど……」

 

「……」

 

「……」

 

「そういえば、スカジは何を頼んだんだ?僕は夜も遅いし、胃にやさしいお粥にしたんだけれど……」

 

「……はあ。……ラーメンよ。これで満足かしら?」

 

「なるほど、二回言えば反応してくれるのか……」

 

「……一回で十分よ。……はあ」

 

 

 

……千里の道も一歩より。このまま進んでいけば、いつかはたどり着ける……のか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鉱石病感染者。

 

男の子が彼らと出会ったのは、薄汚い路地裏でした。いつものように、そこに暮らす貧しい人たちを相手に診療をしていた時のことです。

全身をぼろ布に包んだ見慣れぬ男がやってきたのは。

 

初めはただの新入りかと思いました。ただ、どうにも様子が変です。

何かにおびえるように顔に巻き付けた布を握りしめ、血走った眼をあちらこちらに向けているのです。

男の子は、何らかの伝染病ではないかと思い、その男を違う部屋に隔離しようとしました。

その時です。診療を待つ人の中から、悲鳴とともにその言葉が発せられたのは。

 

「感染者だ!」

 

そこからはもう、地獄絵図です。怒号と悲鳴が辺りにまき散らされ、我先にと逃げ出す人々が事情を知らぬ幼い子とその母を踏みつぶしていきました。

そうして、すべてが終わったとき、そこには一つの死体が残されていました。

 

男の子は歓喜に震えました。世の中には、こんなにも救われぬ人がいるのかと。

 

それから男の子は、鉱石病について研究を始めました。

そのことを知ると、おじさんはいたく感激しました。我が子の救われぬ人を救いたいというその志にです。

おじさんもかつて、鉱石病の感染者を治療したことがありました。

あらゆる手を尽くしました。しかし、どんな手を尽くしてもその人を助けることはできませんでした。

そのことは、おじさんの心の中で大きなしこりとなっていたのです。

自分がかつて為し得なかったことを、この子には成し遂げてほしい。

そう思ったおじさんは、男の子を遠くの大学に行かせることに決めました。

鉱石病の研究で最先端を行く大学です。

 

それを知った男の子は、ますます勉学に励みました。

その環境ならば、自分の求めるものが得られるに違いないと確信したのです。

 

やがて、男の子は無事にその大学に入学しました。

 

エリートぞろいの大学にあっても、男の子の能力は頭一つ抜きん出たもので、たちまち花形の鉱石病研究室へと配属されました。

そこで、男の子は運命の出会いを果たします。

 

その人はとても優秀な研究者でした。

研究者として優秀なだけでなく、現実的な力も持ち合わせた人でした。

 

男の子は、優秀な研究者としてその人の組織にスカウトされました。

この人についていけばきっと自分はより多くの人を救うことができる。

そう思った男の子は、この申し出を受けることにしました。

 

男の子をスカウトしたその人は、組織においてこう呼ばれています。

 

”ケルシー”と。

 

 




やっとスカジとドクターを日常会話?させられました!
次回からはデレデレ系クールお姉さんのスカジさんが書ければいいな……()
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