スカジに人肌のぬくもりを思い出させる話   作:ペトラグヌス

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ドクターがスカジとちょっと交流する話

深夜の食堂での出来事の後から僕とスカジとの交流が始まった。

交流と言っても、ほとんどこちらから一方的に話しかけているだけだけれど。

 

はじめのうちは無視されてばかりだったけれど、粘り強く話しかけ続けた結果、素っ気ない返事はもらえるようになった。

自分でやっていて言うのもなんだけど、無視し続けるのって結構難しい。

あまりにも鬱陶しいと、それが相手を喜ばせるとわかっていてもつい怒鳴りつけてしまうものだ。

その点彼女は、よく自分をコントロールできている。素っ気ないながらも返事をすることで相手を多少たりとも満足させその場をしのぎ、いつか飽きるのを冷静に待っているのだ。

本当に手馴れていて、手強い相手だと思う。

 

それでも、そんな気のない態度の中にも見るべきものがある。

例えば、僕のくだらない話に返事するときの呆れたような目。

いつものこちらを射竦めるような目とは全く違う目だ。

例えば、食堂の美味しいご飯を食べているときの表情。

鉄仮面のような彼女の表情が、この時ばかりはほんのわずかに緩むのを僕は知っている。

 

少しずつ、彼女のことを知っていく。一度の会話で得ることのできる情報は、本当に僅かなものだ。

でも、だからこそ、その僅かな情報の一つ一つが力を増す。さながら、水鉄砲のように。

 

そんな毎日はとても楽しい。

目標に一歩ずつ着実に迫っているという確かな実感が、僕に愉悦と安らぎを与えてくれる。

 

だから僕は、彼女との会話が好きだ。

 

 

 

 

「そうだ、スカジ。聞いたかい?」

 

「……何をよ」

 

「近くの都市で暴動が発生したって話だよ」

 

ある日の夜。0時近くの人気のない食堂で、僕とスカジは話していた。

近頃は感染者の暴動が多い。まあ、現状の各国政府の感染者への処遇を考えると致し方無い部分もあるとは思う。

だけど、個人的意見としては暴動は好ましくないかな。そんな非合法手段に出られてはこっちもあまり擁護できないし、要請を受ければ処断しなきゃいけなくなる。

僕も医者の端くれではあるし、あまり殺したくはない。

まあ、この仕事もケルシー先生のお願いだからやってるだけだしね。

 

「……へえ、そうなの。興味もないし、知りもしなかったわ」

 

「……まあ、スカジの出番はないだろうけどさ」

 

そう、まず間違いなく彼女の出番はないだろう。まだ稼働中の都市だ。損害賠償はもう勘弁して欲しい。

だが、そこが恨めしいところでもある。

 

「……やだなあ」

 

「?」

 

「……いや、しばらく会えなくなると思うとね」

 

聞いた感じだとかなり規模が大きく、当局だけでは対処しきれないようだった。

ということで、スカジは留守番で確定。僕は駆り出されることで確定。

暴動が落ち着くまでは、向こうから帰ってこられないだろう。

 

「……いいじゃない。これで厄災に会わずに済むわよ」

 

「いいわけないさ。これでも僕はスカジと話すのを楽しみにしてるんだ」

 

「……本気で言ってるのかしら?」

 

「本気だよ」

 

「……はあ。……あなた、本当におかしい人ね」

 

そう言う彼女の瞳は、見たことのない色をしていた。また、僕の知らない彼女だ。

蔑むような、憐れむような、そんな目。なのに、あの鋭利な冷たさを感じないのはどうしてだろう?

彼女が何を考えているのか、何を感じているのか、僕にはわからない。

でも、そう悪い事ではないんじゃないかって思う。

……あくまで希望的観測だけどね。

 

「…………」

 

 

 

 

次の日の朝。アーミヤから暴動の鎮圧を指揮するように言われた。予想通りだ。

まあ、心の準備はできていた。特に驚くこともなく、淡々と準備を進める。

わかる限りの情報──暴徒の規模、武装、現地の地形──から、最適な人員をピックアップ。

シチュエーションに応じた人員の配置を想定。

 

ここまでやれば、僕の仕事は九割が終わったといっても過言ではない。戦いは準備の段階でほとんど決着がつく。

僕は残りの一割のために現地へ赴くというわけだ。

ただ、この一割が腕の見せ所でもある。不測の事態に対応するためには、現地にいるのが一番だ。

 

準備はあらかた終わった。オペレーター達も準備が終わる頃だろう。連絡があり次第出発だ。

ところで、僕には特に戦闘能力はない。

一応護身のために銃は持ってるけど、別に使えるわけじゃない。アーツも使えないしね。

移動手段も乗り物か徒歩かだし、戦えもしなければ逃げることもできないというわけだ。

別に最前線に出向くわけではないし、後方の指揮所にいるだけだ。そう危険はないと思うけどね。

だけど、最近ロドスの名も結構売れてきたし、あんまり無防備なのも考え物かもしれない。

特別に護衛でもつけたほうがいいかな?今度アーミヤに相談してみよう。

……ケルシー先生に言っても却下されそうだし。

 

トントン、とノックが聞こえる。出撃オペレーターの誰かだろう。準備が終わったのを知らせに来たのかな?

なら、わざわざ入ってもらう必要もない。こっちから出るとしよう。

 

「ああ、今行く。ちょっと待っててくれ」

 

声をかけてからドアを開けると……

 

「……」

 

そこにはスカジが立っていた。

……なんとも意外な人物だ。今までスカジのほうから話しかけてくることなんてなかったのに。

 

「スカジ……?そっちからくるなんて珍しいな」

 

「……勘違いしないで。仕事を頼まれただけよ」

 

「仕事?」

 

「……そう。代表からあなたの護衛を頼まれたのよ」

 

「代表?……ああ」

 

アーミヤか。相談しようと思っていた矢先にもう寄越してくるとは……やっぱり頼りになるな。

でも、アーミヤのお願いとはいえ、まさか受けるとは意外だ。

 

「……しかし、頼まれたとはいえ、まさかスカジが護衛してくれるなんてな」

 

「嫌ならいつでも変わるわよ」

 

「嫌なわけないさ。頼もしいよ。これなら何が来ても安心だ」

 

スカジの身体能力はオペレーター達のお墨付きだ。これ以上の人材はない。護衛なら建物を壊すようなこともないはずだし。

 

「……はあ。厄災に会わないように祈ることね」

 

「……でも、その厄災とやらからも守ってくれるんだろう?」

 

「…………はあ」

 

そう言って彼女は大きなため息をついた。暫しお互いの間に沈黙が広がる。

それを破ったのは、オペレーター達の準備完了の知らせだった。

 

「よし、じゃあ出発だ。護衛を頼むよ」

 

「……わかったわ。……あまり私から離れないで」

 

いつもと真逆のことを言われるので、すごく変な気持ちだ。すごく快い。

少しの間だけのこととはわかっていても、それでも僕は胸の昂りを抑えられなかった。

 

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男の子の入った組織は、とても大きな組織でした。一員になったとはいえ、男の子は一介の研究員です。

組織が何をしようとしているのか、何のためにあるのか。そんなことは知りようがありませんでした。

男の子もまた、それを知ろうとはしませんでした。彼にとって重要なのは、ここでは大学以上の研究ができるということだけだったのです。

男の子をスカウトしたケルシーもまた、研究員の一人でした。

ただ、男の子のような平の研究員とは違い、指導的立場にあるようでした。

加えて、研究者としても彼女は超一流でした。鉱石病のみならず、あらゆる学問に精通しているのです。

男の子は、天才というのはこの人のことを言うのだろうと確信していました。

彼女は、自分では超えようのない才能の持ち主だと。

だからこそ、男の子は彼女についていくことを決めたのです。

男の子はどこまでも純粋でした。ただただ純粋に、自らの知識欲を満たしていきました。

そこには、他の多くの研究員達が持っていた嫉妬や諦めはありません。

男の子はただ純粋に、自らの手で助けられる人が増えるということに喜びと価値を見出していたのです。

 

間もなく、男の子は大学を辞め、組織での研究に没頭するようになりました。

その没頭のしようは半端なものではありません。

24時間365日、男の子の意識が研究から離れることはありませんでした。

寝る間を惜しみ、食事の間ですらペンは止まることを知らず、誰よりも早く研究室に入り、誰よりも遅く出ていく毎日を繰り返しました。

 

その様子を見たケルシーは、男の子に問いかけました。

どうしてそこまでするのかと。

それは、純粋な疑問でした。彼女から見ても、男の子は紛うこと無き天才です。

いつ組織から放り出されるかわからない木っ端のような研究員達とは違い、彼はこの先も組織に求められるような人材です。

研究者にとって命の次に大事な研究は、これからも思う存分できるはずなのです。

一体何が彼をこうも駆り立てるのか、ケルシーにはわかりませんでした。

 

問われた男の子は、ただこう答えました。

それが生きる意味だからと。

 

やはり、ケルシーにはよくわかりませんでした。

そんなことは生まれてから一度も考えたはありません。

ただ生きている。それ以上でも、それ以下でもなく。ケルシーにとっての生など、精々そんなものでした。

だから、理解のしようがなかったのです。

 

それでも。表情一つ変えることなくそう言ってのけた男の子のことを、ケルシーは少しだけ羨ましく思いました。

生まれて初めて、羨ましいと思いました。

 

 

 

 




アークナイツはどのキャラも魅力的なんで、もっといろんな子の話が見たくなりますね。


アークナイツ作品増えろ(他力本願)

次回はドクターとスカジのイチャラブデートの予定です。
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