スカジに人肌のぬくもりを思い出させる話   作:ペトラグヌス

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ドクターとスカジの物語に、これからもどうぞお付き合いください!


ドクターがスカジに護衛される話

僕はオペレーター達を引き連れて件の都市へと到着していた。

僕たちのいるエリアの治安はまだ保たれているようだけど、遠方に黒煙がちらほら見える。

このままでは、情報が提供された時から事態がどう進行しているのかどうかもわからない。

何はともあれ、まずは情報収集だ。偵察部隊を派遣して、僕はクライアントに会いに行くとしよう。

 

 

数時間後。治安当局から提供された建物で、僕たちはこれまで得た情報の整理をしていた。

僕があってきた局長さんは、ロドスはあくまで有事の際の備えであってゆっくりしていただいて構わないだとかなんとか言っていたけれど、本当のところはどうだろうね。

事態が好転しかけたから手のひらを返しただけならいいんだけど、正しく状況を認識できないでいるだけなら僕たちの身まで危うくなる。

 

偵察部隊からの情報をまとめるとこうだ。

現時点で路上の暴徒はほとんど姿を消し、散発的な当局への攻撃が行われているだけで全体としては終息へ向かっているように見える。

がしかし、暴徒のほとんどは地下に潜伏して体制を整えており、散発的な攻撃もハラスメント目的によるもの。

恐らくは近日中に総攻撃を開始するだろう──。

 

それを聞いた僕は頭を抱えたくなった。何がゆっくりしていて構わないだ。そんな組織された暴徒だなんて聞いてないぞ。

当局はいったいどういう情報収集をしているんだろうか。

とにかく、この事実をすぐに当局と共有したほうがいいだろう。それに、ロドスのほうにも応援を要請したほうがいい。そこまでやる気のある相手だとは考えていなかった。

 

にしても、この暴徒達の組織化はどういうことだろうか。

暴徒は基本的にただ暴れているだけだ。特に具体的な計画があるわけではない。

ただ漠然と現状への不満を抱き、たまりにたまったそれを取り敢えず爆発させているといっていい。

だから、対処は単純だ。シンプルに当局側の力を見せてやればいい。

いくら不満があろうと、それを具体的にどうこうする手段がなければ、圧倒的な力の差を前にできることは無い。

できることがなくなってしまえば、後はおとなしく家に帰るしかなくなるだろう。

 

ということは、逆説的に今回の暴徒はそれをどうにかできるだけの手段を持っているということだ。

それも、ただの暴徒を組織だって行動させることができるほどの。

 

こうなってしまえば、もう敵の頭を狙い撃つしかないだろう。

この規模の組織が今の今まで摘発されてこなかったというのは不自然だ。

恐らくは、感染者達を煽った上でこの計画に参加させた奴がいるはず。

ただの暴徒をまとめ上げるカリスマの持ち主だ。そいつがいなくなれば、暴徒たちはたとえ力を持っていたとしても、内ゲバを起こして自滅するだろう。

最も、まだ推測でしかないし、外れていたら最終手段を取らなきゃいけなくなるけど。

 

取り敢えずロドスに応援要請をし、局長とのアポもとった。明日の早朝には話し合いの場を持てるだろう。

もうすっかり夜も遅くなってしまったし、明日に備えて僕もそろそろ寝るとしよう。

会議室を出て寝室に向かう。外は曇りなのだろうか。窓の外からの光はない。

深夜の廊下は、非常口の標識の緑でうっすらと照らされていて気味が悪かった。

何かが出てきそうな雰囲気だ。あまり幽霊の類を信じていないとはいえ、一人では歩きたくない。

まあ、今なら例え幽霊が出ようと安心だけれども。

 

しばらく廊下を歩いて自室の前までたどり着くと、僕は後ろにいる彼女に声をかけた。

 

「とりあえず、今日は一日お疲れ様。また明日も頼むよ、スカジ」

 

そう。今日は一日中、彼女が僕の護衛についてくれていたんだ。

局長と面会した時も、会議中も、さっき廊下を歩いている時だって、ずっと。

いやはや、それにしても変な気分だよね。いつもは僕が近づいて彼女が離れていくのに、今日は僕が離れて彼女が近づいてくる。まるっきり反対だ。何だか距離が縮まったみたいな錯覚を覚える。

これを機に本当に距離が縮まったら良かったんだけど、そういう雰囲気じゃなくなっちゃったから残念だ。

 

「……はあ。暢気なものね。……ここは直に戦場になるわよ?」

 

呆れたような声が背中越しに聞こえてくる。まるで僕の心の内を見透かしたかのような彼女の科白だ。

光のなかった廊下に、雲の晴れ間からの月光が差し込む。

僕は立ち止まって振り向き、彼女と対峙した。

彼女の長い銀の髪は、月光を湛えて光り輝いている。

輝く眩しい白と、こちらをのぞき込む真っ暗な赤。

このまま絵画に閉じ込めてしまいたいような、そんな光景。

ああ、なんと神々しいのだろう。

ああ、なんと醜いのだろう。

 

僕が欲しいのは、こんなものじゃない。

 

「……まあ、そうだろうね」

 

「……なら、もっと用心することね。あなた、もういつ死んでもおかしくないわよ?」

 

「いや、僕は死なないさ」

 

「……はあ。どこからそんな自信が湧いてきたのかしら。あなた、もしかして自分だけは大丈夫だとでも思っているの?いい、厄災は……」

 

「こんなにも僕のことを案じてくれる君がいるんだ。死ぬわけがないさ」

 

「………っ」

 

彼女の表情が僅かに歪む。

神の設計した完璧が崩れる。

彼女の表面に張り付いた、造られた完璧の奥にある生身の彼女。

 

これだ。これを僕は救い出したいんだ。

 

「……あなた、やっぱりおかしいわ……」

 

「……私は厄災を呼び寄せるの。……私がいるから、みんな死んでいくのよ」

 

「あの時も、あの時も、みんな……」

 

「……あなたには、死んでほしくないの。だから……」

 

ポロポロと音を立てて彼女の表層が剥離していく。

壁を隔てた先の、生身の人間がほのかに伝わってくる。

彼女は、本当に僕の身を案じてくれているのだと伝わってくる。だからこそ、僕に離れるように言うのだろう。

でも、彼女には悪いけれど、僕に離れる気はこれっぽっちもない。

好きなように生き、好きなように死ぬ。他人のことなど気にも留めず、ただ自分のために。

それが僕の生き方だ。彼女の気持ちなど知ったものか。

 

「嫌だ」

 

「……っ」

 

「僕はスカジのことをまだ知り足りないんだ。こんなところで終わりだなんて勘弁だ」

 

まだ僕のしたいことの十分の一もできてないんだ。

 

「これから先、危険な目に合うことがあるかもしれない。だから頼む。僕を守ってくれ」

 

こんなに楽しいことが残ってるんだ、このまま死んだら死んでも死にきれない。

ただでさえ人手不足なんだ。厄災だか何だか知らないけれど、こんな最高の人材に守ってもらわない手はない。

現状、一番信頼できる護衛はスカジなんだ。

 

「……本当に……それでいいの?」

 

彼女が戸惑いながらも問いかけてくる。その声は、ほんの僅かに震えていた。

そこに込められた意味が、僕にはよく分かった。そして、それと同時に確信した。

彼女はまだ救える。僕の見込んだとおりだ。

だから、返事は決まっている。

 

「ああ。僕は、スカジだからお願いしてるんだ」

 

僕の発した言葉が遠ざかっていき、沈黙が生まれる。

果たして彼女のうちにどんな感情が渦巻いているのか、僕にはわからない。

これは飽くまで僕の自己満足。頼まれもしないで勝手に手を伸ばし、勝手に腕をつかんでいるだけだ。

振り払われても仕方がない。

でも、もし彼女の中にほんの少しでも救われたいという気持ちがあるのならば──

 

「……そう。……わかったわ」

 

「……なら、相応の覚悟をしなさい。私と一緒に居るというのは、そういうことよ」

 

「そっか。わかった」

 

僕は絶対にその腕を離さない。そのまま僕の”救い”へと導いてやる。

 

「……まったく、あなたという人は本当に頑固ね。……これじゃ私、もう全力であなたを守るしかないじゃない」

 

呆れたような、嬉しそうな、そんな声色で彼女が呟いた。

 

 

 

ようやく寝床に入り、うとうとし始めた時だった。

ドアを蹴破るようにしてスカジが部屋に入ってくる。

 

「敵襲よ!早く!」

 

その怒鳴り声で意識を覚醒させた僕は、ベッドから飛び起きた。

懐の通信機を取り出して、警備班と連絡を試みる。

 

「状況は!?」

 

「現在応戦中!敵は武装した暴徒と思われる!少数につき、現状での撃退は可能!」

 

爆音と銃声混じりの声が応える。あまり時間の余裕はないとは思っていたけど、もう来るとは思わなかったなあ。

数が少ないことが不幸中の幸いか。

 

「そのまま現状を維持だ。増援も寄越す。後の指示は追って連絡する」

 

「了解!」

 

「ほら、行くわよ!」

 

 

 

 

一先ずどうにかなりそうなことを確認して、僕たちは作戦室へと向かった。

各地から情報が次々と集まってくる。

街のいたるところで武装した暴徒達が一斉蜂起したこと。その暴徒達が治安当局の駐屯所を次々と襲撃していること。入ってくる情報は、どれも芳しくないものばかりだ。

特に襲撃を受けた駐屯所から武器が持ち出されているというのがまずい。

段々と彼我の戦力差が埋まってきている。力で押さえつけられる限界は近い。

唯一のいいニュースは、治安当局本部が健在で、連絡路は確保されているということか。

状況は刻一刻と悪化している。

都市コントロールが奪われる前に事態を収拾するためにも、まずは情報を当局と共有するべきだろう。

 

「……よし。ここを撤退して、治安当局の本隊と合流する。狙撃オペレーターを殿に順次撤退だ!」

 

その一言で、皆があわただしく動き出す。

情報処理、通信などの後方要員が重装オペレーターとともにいち早く立ち退き、前衛、術師、先鋒が続く。

幸いにも敵の襲来はなく、残ったオペレーターと僕、そしてスカジは、無事に撤退することができた。

 

爆破処理された建物から吹き上がる噴煙が遠ざかっていくのを眺めながら思う。

この暴動を収めるには、もはや敵の頭を刈り取るしかない。

だが、それは本当にあるのだろうか。あったとして、見つけられるのか。殺れるのか。

道のりは険しく、今はおぼろげにしか見出すことができない。

果たして、この暴動を収めることはできるのだろうか。

 

 

 

 




イチャイチャさせたいのにさせられないというジレンマ。

とうぶんは他所で摂取するしかないのか……(掛詞)
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