スカジに人肌のぬくもりを思い出させる話   作:ペトラグヌス

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今回はタイトル通りのお話です。


ドクターがスカジにくっつく話

「では、局長はこの状況を打開する策を何かお持ちで?」

 

「いや、しかし…………」

 

「何もないのならば、我々の指導を受け入れていただきたい」

 

「……だ、だが、君たちは部外者だぞ!我々の……」

 

「じゃあ、僕たちは帰らせてもらうよ」

 

「は?」

 

「聞いていた話とはずいぶん違うみたいだし、これはもう契約の範囲外だ。じゃあ」

 

「ちょ、待ってくれ!」

 

「……何か?」

 

「……指導を受けよう。……この街を守る手助けをしてくれ」

 

「……わかりました。全力を尽くしましょう」

 

 

 

 

 

無事に脱出を果たし、治安当局本部でほかの人員との合流を果たした僕は、局長と面会をした。

期待していた情報については然したるものはなく、有力なものといえば暴徒の中にかなり強力なアーツの使い手がいるということくらいだ。それについても詳細は不明で、ただ一撃で建物を文字通り潰したということしかわからない。期待外れもいいところだ。

それで、せめて戦術・戦略指導にかかわらせてほしいとお願いしたんだけど、これもなかなか手こずった。

局長が指揮系統への介入は認められないといって、なかなか首を縦に振ってくれなかったんだ。

それだけならわからなくもないんだけど、僕たちを使い潰す気満々なのは頂けない。

まあ、最終的には納得してくれたので良しとしよう。

 

さて、ここに来た目的は当局との情報共有だ。それは、何も今持っている情報をすり合わせるだけではない。

既にロドスの情報処理班には当局の諜報部と連携して動いてもらっている。

当局上層部のお粗末な現状把握とは裏腹に諜報部員の能力は高く、優秀な人材が多いとの印象を受ける。

ただ、肝心の諜報網の方がかなり打撃を受けていた。聞くと、こちらのエージェントとして不穏分子に送り込んでいた感染者の協力者の多くが向こうに取り込まれているらしい。実態もつかめないというのが実情だ。

不幸中の幸いとして、まだある程度は信頼できるエージェントが存在しているということか。

とにかく、情報を集めるしかない。

 

実戦部隊の一部には、治安部隊の対感染者戦闘を指導してもらっている。

僕のほうも幹部クラスに戦術指導を行った。その甲斐もあってか、戦力の結集と防衛線の構築に成功しつつある。

都市インフラも今のところは無事だ。少なくない数の防衛部隊が居るし、防衛設備も強固だ。

ここの初動だけはどうにか間に合っていたのが幸いだった。

状況は膠着しつつある。

こっちの方が装備は整っているし、戦力的にも上だといっていい。

しかし、暴徒を叩き潰せるかといわれたらそれは無理だ。そこまでの優位はない。

一方、暴徒のほうも攻勢をかけるほどの戦力はない。防衛線が構築された今、攻撃は無謀すぎる。

ただ、その無謀に走らないというのがかえって不気味でもある。まるで統率された軍隊だ。

 

持久戦となればこちらが有利だ。援軍もやってくるし、物資の面でも優位にある。

それは暴徒側もわかっているはずだし、だからこそがむしゃらに攻勢をかけてくると思っていた。

長引けば士気も落ちるし、集団が自壊しかねない。だからこそ、短期決戦こそが唯一の勝ち筋のはずだ。

だというのに、暴徒達の士気が落ちる気配はない。むしろこの状況を望んでいたかのように活気づいている。

一見うまくいっているというのに、つかめない指導者の所在と暴徒達の様子がのどに刺さった小骨のように安堵しようとする心をつつく。周囲の雰囲気が和らいでいく中、僕だけがどうにもその空気に馴染めない。

……いや、僕だけじゃなかった。もう一人いる。このぬるい空気に馴染めずにいるのが。

 

「……スカジ。少し話をしないかい?」

 

「……ええ。ここじゃ何だし、一先ず出るわよ」

 

言葉に続いて廊下に出ていくスカジ。僕もその後を追って、周りに気づかれないようにそっと部屋を抜け出した。

 

 

先ほどまでは打って変わって、空気は刺すように冷たい。ただ、今は却ってそれが心地いい。

 

「……で、話っていうのは何かしら?」

 

「……暴徒達のことだよ。追い詰められてるのは明らかにあっちなのに、様子がおかしい」

 

「……なんだか嬉しそうな、楽しそうな感じだ。理解できないね」

 

「……あなたがそれを言うかしら……」

 

呆れた様子で彼女が言う。どうやら何か勘違いされているようだ。別に僕はマゾヒストな訳じゃない。

 

「いやいや、さすがに僕もただ追い詰められて楽しくはならないよ」

 

僕はただ、他の人ができそうにない難事をやってのけて得ることのできるあの快感を想像していい気分になるだけだ。……どうにもならない時は愉快でも何でもない。全くもって。

 

「……そう。まあいいわ。ただ、私に聞かれたところで分かるわけないじゃない。何で私にそんな話を?」

 

「いや、あの部屋の中で僕以外にはスカジだけがあの空気に馴染んでなかったからね」

 

「……そうね。ああいう空気は苦手だわ。安堵、歓喜。みんな私とは無縁のものだもの……」

 

……そうか!

頭の先からつま先まで、雷に打たれたかのような衝撃を受ける。

暴徒、士気、愉悦、安堵、歓喜。複雑に絡み合った歯車が、音を立てて噛み合っていく。

興奮した僕は、思わず彼女の手を取って口走った。

 

「スカジ、ありがとう!」

 

「なっ……!」

 

「おかげで分かったかもしれない!」

 

「~~!」

 

彼女は何が何やらわからないといった様子で口をパクパクしている。

一先ず彼女のことは置いておいて、僕は部屋へと駆け込んだ。

 

そうだ。この空気。安堵、歓喜。奴らの間の空気感は、この部屋の空気感なんだ。

ただ追い詰められて喜ぶ奴なんて世の中そう多くはない。何かしらの勝算が見えていないとこうはならないはずだ。まさに今の僕たちのように。

恐らく、暴徒達の狙いはこの膠着状態それ自体だ。だからこそ目標を達成して士気は高いし、安堵と歓喜が奴らの間に広がっているんだろう。

膠着状態に陥ったことによって、僕たちも暴徒達も下手に動けなくなった。

そこで、長期戦となれば明らかに有利という状況がこちらの思考を鈍らせた。

敵の意図したこの状況を、僕らは今まさに受け入れようとしているのだ。

ここで、情報にあった敵のアーツ使いが出てくる。

なぜ奴は姿を現さない?詳細不明ながらも、その破壊力は複数の方面から伝わっている以上本物のはずだ。

今僕らが敵を抑え込めているのも、そいつがいなかったからに他ならない。

では、そのアーツ使いはどこにいるのか。答えはただ一つだ。

そいつこそが暴徒達の用意した勝ち筋なんだ。戦力を保持しながらも運用できない状況に陥った僕たちに、致命的な一撃を叩き込むための。

暴徒の大群は単なる囮。少数精鋭によって都市の最重要地点を襲撃する。

なんて大胆な作戦だろう。こいつを考えた奴はよほどの切れ者か大馬鹿かのどちらかだ。

しかし、ともすれば見殺しにもされかねない作戦を暴徒もよく飲んだものだ。

もしかすると、この作戦を立てた奴こそが指導者、そして件のアーツ使いなのかもしれない。

まあ、今となってはあまり重要ではない話だけれど。

 

さて、もしことが僕の推測通りだった場合、問題となるのはどこが狙われるかだ。

行政府なんかは象徴的な意味合いは絶大だが、精神的な効果以外は薄い。

奴らの目的が名をあげることなら候補だが、ここまでの動きを見るにその線は薄いだろう。

そうだ、目的。奴らの目的とはいったい何だろう。

ここまでの行動を見るに、奴らは明確に都市を取りにきている。

単なるフラストレーションの爆発や、当局への抗議なんて生易しいものじゃあない。

そう考えると、やはりこの都市を感染者達のものにする、自分たちの国を創るといったところだろうか。

そうだとすれば、やはり都市インフラかな?でも、それで今後のますます開いていく戦力差までどうにかできるとは思えないし、明確な致命傷ではない。

そもそも、ここには一般市民が大量にいるんだ。自分たちの国を作るって言ったって、それをどうするのだろう?

追い出そうとしても、はいそうですかと大人しく出ていくばかりではないことは容易に想像がつく。

そんなことをしていたら、続々と他都市から増援が到着しておしまいだ。

もっと致命的な、増援云々の次元ではないところに話を持っていけるような場所……。

 

「あの、ドクター」

 

頭を抱えてうなる僕に、通信班のオペレーターが声をかけてきた。

いい機会だと思考を中断し、応対する。

 

「ん?なんだい?」

 

「ケルシー先生からの連絡なんですが、1、2ヶ月のうちにこのエリアで天災が発生するだろうとのことです」

 

「天災が?……いやいや、さすがにそこまではかかりませんよ、ケルシー先生……」

 

そりゃ大変だけど、さすがにそこまで長引くとは思えないし、そうなったら勝ちはもはや決まっている。

移動都市なんだし、移動すればいいだけの話だ。

しかし、なんで今そんなことを……まあ、本題ではないだろうけど。

 

「……それで、本題は?たぶん援軍のことだろうと思うけど」

 

「……ええと、追伸、精々頑張って早く帰ってこい。話したいことがある……だそうです」

 

「……」

 

「……」

 

「……わかった。ありがとう」

 

本当にあの人は何を考えているんだろうか。昔からよくわからないところがあったけど、今もよくわからない。

……いや、今のほうがもっとわからないか。

まあいい。天災が来るならロドスも早いことこのエリアを脱出しなきゃならないだろうし、ようは発破をかけられているのだ。きっとそういうことだろう。ようはあの人なりの励ましだ。

……そういうことにでもしとかなきゃやってられない。

 

「……でも、今天災が発生したらどうするんでしょうか?」

 

ふと、先ほどのオペレーターが呟く。

 

「まあ、どうにか動かすだけうご……」

 

……そうだ。もし、移動都市が動けなくなったら?

都市を動かす巨大な源石エンジン。あれを壊されたらどうなる?

移動できない都市。それは、いつ爆発するかもわからない時限爆弾のようなものだ。

破壊されたエンジンを直そうにも、同じ規模の都市を作り直した方がマシなほどの莫大なコストがかかる。

そうなれば、皆この都市を出ていく。都市は放棄される。

それこそが、奴らの国なんだ。

 

 

 

 

一時間後、僕は選りすぐりのオペレーター達とブリーフィングを開いていた。

防衛の必要はある以上、あまり多くのオペレーターを動かすわけにはいかない。

もどかしさはあるが、できる限りの精兵を選んだつもりだ。

それに、局長とも掛け合い、防衛線に影響の出ないギリギリの人員をこちらに割いてもらえることにもなった。

彼らのバックアップのおかげで、取れる作戦の幅が広がったのは大きい。

 

「よし、それじゃあ作戦を説明する」

 

作戦自体は非常にシンプルだ。身体能力に優れるオペレーター達によって、ビル伝いに都市の心臓部を目指す。

先回り出来れば敵を迎え撃ち、そうでなければ敵を追う。目標は敵の最大戦力、アーツ使いただ一人だ。

後続部隊によってそれ以外の敵は受け持つことで、近接高速戦闘に持ち込む。

大威力のアーツ使いを相手するには、この手に限る。

 

僕のほうも、現場に向かうことになる。

心臓部が地下空間にある以上、僕もその場に居合わせないと連絡が取れなくなる可能性がある。

地下はかなり入り組んでいるらしく、同士討ちは避けたい。

そのためにも、ドローン運用による状況確認と情報処理は必須だ。

そういうわけで、僕と情報班から数名が作戦に参加することになる。

僕らの移動はどうするんだっていう話だけれど、その辺も抜かりはない。

こんなことになるなんて、スカジが護衛についていてくれて本当に良かった。

 

 

 

 

ブリーフィングを終え、各自準備も完了した。いよいよ作戦開始だ。

 

「……ねえ」

 

「どうした?」

 

スカジが目を伏せながら訪ねてくる。さっきからずっとこんな調子だ。

いつものこちらをじっと見つめてくる彼女はどこへ行ってしまったのか。

しおらしい様子で尋ねてくる。

 

「……本当にそれをやらなきゃいけないのかしら」

 

「……そうでもしなきゃ、僕らはどうしようもないからね」

 

「でも……」

 

そうこうしているうちに、次々とオペレーター達が飛び立つ。

作戦の遂行上、これはどうしても致し方ないことだ。

彼女には申し訳ないけど、少し強硬手段に出させてもらう。

 

「……ごめん!」

 

そう一声かけて、僕は彼女の背中に飛び乗った。

 

「あっ……」

 

要はおんぶして連れて行ってもらうということだ。情けないことに、大した移動手段のない僕たちはこうしてもらわないと作戦に参加できない。

 

「頼む、スカジ!行くぞ!」

 

「ち、近いわ!……こういうのには、慣れてないの」

 

「スカジ!」

 

「……ああ、もう!」

 

彼女も腹をくくったのか、ようやく僕とスカジも飛び立つ。

と、すぐに感じる強烈な浮遊感。胃が上下に無茶苦茶にされるような、ゲッソリとする感覚。

周りの風景なんかに目をやったら、たぶん僕は正気でいられなくなる。目の前だけを見つめよう。

目の前に広がるのは、彼女の長い銀髪。回した手をなぞる銀糸はサラサラで、すごくきれいだ……

 

「ちょ、ちょっと黙ってなさい!」

 

彼女が叫ぶ。抱き着いた背中から感じる熱が、少し高くなった気がした。

どうやら僕は、何か彼女の気に障ることを口走ってしまったらしい。

余計なことを考えるのはやめて、僕はただ無心に彼女にしがみついた。

 

 

 

 

 

 




今回はようやくドクターとスカジをくっつける(物理)ことができました!

次回は過去編も挿入できたらいいな……
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