ゴブリンスレイヤー『恐ろしい詩』取得RTA三英雄討伐ルート   作:N系

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しばらくは先駆者様のルートを辿る感じなのでみどころさんが無いかもしれません。


一話・裏

 季節は春。暖かな風はこの世界のあらゆる生命にいろんなものを運んでくる。

 

 植物の芽生え、動物たちの活性化。淡い希望でいっぱいに満たされているときに、若い冒険者たちも動くのだ。その杯のそこに何が沈んでいるかもわからずに。

 

 この季節は決していいことばかりではない。

 

 三つ編みが特徴的な受付嬢はその事実をイヤというほど思い知っている。通常の業務に加えて右も左もわからない新人のお守りまでしなくてはならない。

 さらに言えば、春は動物もとい魔物たちも活性化するのである。当然依頼が増えれば人も増えるため一概には言えないが、人が増えれば仕事はおろかトラブルだって増えるのだ。

 

 多忙の日々を極め、貼り付けていた笑顔に固さがましてきた彼女だったが、そんな彼女の顔をこの春最初に思いっきり曇らせたのは一人の新人冒険者だった。

 

「ようこそ冒険者ギルドへ!本日はどのようなご用件でしょうか!」

 

「冒険者登録をしに」

 

「字は書けますか?」

 

「いいや」

 

「では代筆をしますので、いくつかの質問にお答えください」

 

「ああ」

 

 この世界の識字率は低い。高い身分の子息、神殿や魔術学院の出ならばまず書けるが平民のほとんどはそのような教育を受けていない。だからこそ身分の良さや育ちの良さがはっきりとわかるひとつの指標なのだ。

 

 そして、彼女がひどく違和感を感じたのは字が書けないのに仮面を被っていることだった。

 

 冒険者というのは顔を売るのが仕事の一つと言われるほど、知名度にこだわるものだ。(そこに信用があればなおいい)まず顔は隠さない。

 

 もちろん顔を隠して活動するものがいないわけではない。

 

 商人の子息だったり貴族や騎士の出の人間が身分を隠して酔狂で始めたりすることもある。だが文字を書けることまで隠すようなことはしない。身分、育ちの良さを暗にアピールできるからだ。徹底的に身分を隠すために、文字が書けないなどという嘘を吐くこともない。そこまでの頭があるなら冒険者など始めないからだ。

 

 つまり、ものすごい怪しいのだ。

 

「……はい、質問は以上となります。晴れてこれであなたは白磁の冒険者となりました。……今後のご予定は?」

 

「考え中だ」

 

「では、またご用があれば遠慮なくどうぞ。依頼の代読、選定も行っていますので是非ご利用ください」

 

 疾走闘士と名乗った鉄仮面の男は、登録を終えるとドカッと椅子に腰掛けまるで誰かが来るのを待つようにジッと入り口を見据えたまま動かなくなってしまった。

 

 もうなにもかも怪しいのだが、まだまだ忙しい時間である。彼に対する懸念を頭の隅に追いやって、彼女は業務を続けた。

 

*****

 

 登録を終え、さあどうしようとクエストボードの前に立った女神官はまるで見図られたように後ろから声をかけられた。

 

「そこの」

 

「ひゃいっ!?」

 

 妙にくぐもった低い声に彼女は声をあげて驚いた。振り返ると飾り気のない安っぽい鉄仮面を被った男が立っていた。腰には作業に使うようなこれまた安っぽい手斧を提げていて、一見すれば山賊のような出で立ちの男の姿にごくりと唾を飲み込んだ。

 

「……すまない」

 

「い、いえ……こちらこそ変な声をあげてすみません」

 

「……」

 

「……」

 

 嫌な間が数瞬流れる。自分が変に驚いたために出来た空気を変えようと彼女は意を決して口を開いた。

 

「「あの」」

 

 ……またも数瞬の沈黙が流れる。いけない、かなり気まずい。女神官は冷や汗がつうっと背中を撫でるのがよくわかった。

 

 誰かどうにかしてください……

 

 そんな祈りがどの神に届いたかはわからないが、たしかに通じたようで沈黙はある少年の声によって破られた。

 

「なあ、君たち冒険者だろ?」

 

「あ、は、はい!」

 

「ちょうどよかった!俺の一党に一緒に来てくれないか?急ぎの依頼があるんだ!」

 

「急ぎといいますと……?」

 

 少年剣士は勇んだ表情をこちらに向けた。

 

「ゴブリン退治さ!」

 

 すると、受付嬢が少し困ったような呆れともつかない顔をして、

 

「え……っと皆さん白磁等級ですよね?もう少ししたら他の冒険者の方も……」

 

「いいや」

 

 ……そして表情を曇らせた。彼女の言葉は鉄仮面の男……疾走闘士によって遮られた。

 

「時間が惜しい。助けを求める人がいるなら、急がない理由はない」

 

 いままで沈黙を貫いてきた彼のその言葉は正解のような文面とは裏腹にひどく平坦で感情があまり、というか全く感じられなかった。

 

「……あ、ああ!そのとおりだな!行こう!」

 

 彼のそんな様子に面食らっていた少年剣士だったが、すぐさま賛同すると足早にギルドの外へと向かった。武道家も女魔術士もそれに続いた。

 

「急ぐぞ」

 

くぐもった低い声のその言葉が、いやにひどく受付嬢の印象に残った。

 

*****

 

 ほどなくして依頼にあった洞窟に一行は辿り着いた。

 

 不気味なトーテムがあったが、それすらも話の種にして前進する剣士の緊張感のなさに女神官は溜息をついた。剣士の後ろの疾走闘士はさっきから周囲の警戒でもしているのか、はたまた剣士に呆れているのかはわからないが、黙ったまま松明を掲げている。

 

 これはこれでやりづらいなぁ、と女神官はまた一つ溜息をつこうとしたがそれを飲み込んで闘士に話しかけることにした。彼女もまた気が緩んでいたのかもしれない。

 

 あのー、と声をかけようとした瞬間、闘士がピタッと足の歩みを止めた。その間にも前の剣士と武道家は奥に進んでしまう。

 

「ちょっと、あんた何して……」

 

 闘士は右手の壁を一瞥すると腰を落とし盾を構えた。と、その瞬間壁が崩れ小さな影が闘士に飛び掛った。

 

 「GOBUO!?」

 

 声をあげたのは小さな影、ゴブリンのほうだった。闘士は目の前のゴブリンを松明で殴って床に転がすと、壁の奥の方に向かって松明を投擲しすばやく腰の手斧を抜いた。床でのたうちまわっているゴブリンの胴を足蹴にして、薪でも割るかのようにまっすぐ頭に振り下ろした。

 

「まだ何匹も来る。奥からもだ……逃げるぞ」

 

「奥からもって……じゃあ先に行ったお二人は……」

 

「手遅れだ」

 

「そんなこと……」

 

 ない、といえばそれが無責任な言葉になると女神官はすぐにわかった。奥の二人は両の手では数え切れないほどのゴブリンに囲まれていて、さらに奥の方からは明らかに位階の違う大きな影が見えたからだ。

 

「あああああぁぁぁ!!」

 

 少年剣士の断末魔が聞こえる頃、三人は駆け出していた。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

  闘士が殿となって後ろからのゴブリンの気を引いていた。しかし、不運なことに放たれた矢が女魔術士の足に当たってしまった。

 

「あっ!!?あ、い、いやあ……たすけっ……!!」

 

 女魔術士の助けを求める声は、神どころか殿を務める闘士にすら届きはしなかった。かぼそい彼女の声はやがて小鬼の嘲笑に飲み込まれていった。

 

「……」

 

「置いてけ。構うな。仕方ない」

 

 平坦なトーンの闘士の言葉に、女神官は表情を殺して涙を流すばかりだった。

 それでも足は逃げることをやめなかった。

 

「まあ、こんなものか」

 

 光が強く差し込むのがわかるくらい洞窟の入り口に近づいたころ、そんな言葉が聞こえた。薄汚れた鎧姿の胸元に銀に輝く認識表、在野最上位の銀等級の冒険者。彼はこう名乗った。

 

 小鬼を殺す者(ゴブリンスレイヤー)と。

 

*****

 

 銀等級の冒険者、ゴブリンスレイヤーの動きはとても洗練されたものだったが美しいとはいえないものだった。

 

 中途半端に短いショートソードともダガーともいえない数打ちの剣を用い、刃こぼれしたり血塗れになれば投擲し、ゴブリンの武器を拾っては同じようなことを繰り返す。そして罠を使って確実に、そして合理的に殺していく。何度も同じことをやってきたのだとわかるその手際に、女神官は頼もしさと同時にゴブリンに対する彼の殺意にほんのすこし恐怖をおぼえた。

 

 だが、女神官がより恐怖を感じたのは疾走闘士に対してだった。

 

 それは彼の順応性。ゴブリンスレイヤーのそれに合理のみを求める彼の姿勢。殺すことに効率を考える、本来なら長い時間をかけて正しく歪めなければならないものをもう持っていること。

 

 これが熟練の狩人、冒険者なら納得できる。彼らにとって殺しは仕事だから効率を求めなかればならないといけないとわかってくる。ゴブリンスレイヤーにも、根底にあるものが違っていても同じようなものがあるのだろう。

 

 だが、彼は……あの鉄仮面の闘士はそうではないはずなのだ。

 

 彼には、殺すということが、ただの作業としてしか、認識していない?初めから?

 

 ゴブリンスレイヤーの殺意とも小鬼の悪意とも違う、疾走闘士の根底にあるものはまるで……

 

 女神官の背を冷や汗がつうっと撫でた。初めて会ったときのそれとは全く違う、恐怖を煽る撫で方だった。

 

 ……彼女は、疾走闘士が奥に隠れていたゴブリンの子供を見つけたとき半ば確信しながら彼に問い掛けた。

 

「子供も…殺すんですか?」

 

 まだ質問の途中だったが、彼は何も言わずに斧を振り下ろした。何度も。何度も。

 

「……早く報告に戻らねばな」

 

「……」

 

「急ぐぞ」

 

 暗い洞窟の中でうずくまり、彼女はあることを思い出していた。途中、疾走闘士が女神官がワイヤートラップで引っ掛かってもいいように近くにいたのだ。

 

 彼は、意味の無いことは絶対にしない。女魔術士を見捨てたのは意味が無かったから?

 

 つまり……。

 

 女神官は暗闇の中で、この鉄仮面からまだ逃げられないことを悟った。

 




筆が乗ったので初投稿です。
他に書かなきゃいけないのがあるのにこっちのがネタが出易くてヤバイヤバイ。
次話は期待しないで待ってください。待つ人いるかはわかりませんが。
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