ゴブリンスレイヤー『恐ろしい詩』取得RTA三英雄討伐ルート   作:N系

4 / 6
更新速度が落ちると思います。ゆるして
ちょっと修正しました。


二話・裏

 冒険者の酒の種になるような話といえばなんだろうか。

 

 盗賊団の根城を壊滅させた自慢話、過去に討伐した岩喰怪虫の思い出話……今日はこなしてきた依頼の失敗談のようだった。

 

 やれ剣を巨大鼠に奪われただの、ドブに顔面から勢いよく突っ込んだだの、今日も下水路での笑い話……当事者の間ではそこそこ深刻であろうものではあるが、他人事であれば人間だれしも同情よりも笑いが込み上げてくるもの。それも聞くほうは喋れば喋るほど顔を歪ませる当事者たちがおかしくてたまらないので笑いが止まらない。そんな様子を見て話す方はさらに顔を歪ませるのだが、酒の入った冒険者にとってそれは最高の肴だ。今日も宴は盛り下がることを知らない。

 

「下水路か。俺も昔はよく潜ったな」

 

「街の中だから比較的安全なのは良いが、臭いがな……私は二度と行きたくない……」

 

 重戦士と聖騎士の一党に混ざって、新米戦士と見習聖女の二人はひどく疲れた顔で今日の下水路での顛末を話していた。

 

「っとにもう……早く抜け出したいですよこんな生活。いつまでこんなことを続ければいいのか……」

 

「そんなのいってもしょうがないでしょ。もう……。でも確かに今日みたいなトラブルが続いたらと思うとね……いずれ借金抱えてあんたは農奴墜ちなんかしちゃって……」

 

「おまえは娼婦にか?……うーんその体じゃ」

 

 スパーン、と小気味いい音が酒場に響く。頬をぶたれた新米戦士は椅子から転げ落ちてしまった。

 

「下水路といえば、なんか最近面白い噂があるらしいな」

 

「なんだそれは?」

 

 聖騎士が酒で少し上気した顔を重戦士に向けながら問い掛ける。重戦士が麦酒を一息に飲み干して、ふぃー、と息を漏らす。

 

「あいつだよあいつ。ほら、受付んとこの斧持ってる仮面野郎」

 

 重戦士が顎でぐいと指し示した先には、ある程度手入れされてはいるが全体的に赤黒い血の色が落ちきっていない装備を纏った鉄仮面の男……疾走闘士と名乗ってはいるが誰もが「鉄仮面の変なの」と呼びそれで通じる人物がいた。

 

 もう日もとっぷり暮れて冒険者たちの宴も半ばといった時間なのに、今ようやく下水路から戻って来たらしい様子だった。

 

「なんだ、あいつがどうかしたのか?確かに怪しげな風体だが……気にする程か?」

 

「それがなんでも、朝早くから下水路に潜っては片っ端から依頼を片付けてるらしいぜ?ドブ浚いまで進んでやるんだってもんでギルドの奴等が喜んでたぞ」

 

「ふん、勤勉なのは美徳だが私には真似できんな。したいとも思えない」

 

「そんで、ここからはあくまで噂。噂なんだけどよ……」

 

 重戦士が炙りたての肉汁滴る牛の腿肉にかぶりつこうとすると、一党の視線が自分に集まっているのに気づいた。やれやれと思いながら右手に持った肉を皿に置くと話を続けた。

 

「……ギルドの職員が言うには、あいつの拾ってくる認識表の数がいやに多いらしい」

 

「なんだと?まさか……それは騎士として捨て置けんな。よし」

 

「まてまて」

 

 いうがはやいが、聖騎士は剣を片手に立ち上がる。隣に座っていた重戦士が慌てて彼女の肩を押さえた。

 

 聖騎士がはやとちりするのも仕方ない。冒険者を冒険者と証明する認識表、それだけを持って帰るということはつまり、その持ち主が死んだか少なくとも無事では無いことを示すからだ。無くした場合は落とし主がギルドに報告するよう厳しくいわれているため、ギルドにそのような報告がないままで持ってこられた認識表の持ち主はまず無事ではない。

 

 そして、当たり前ではあるが認識表を無くなるような状況というのは間抜けがポロっと落とした場合を除きただ事では済まない状況だ。そんなことがあったのならば認識表も無事では済まないことの方が多い。ことが終わった後の現場も危険なため、認識表を拾うということ自体が珍しいことなのだ。

 

 それなのにあの鉄仮面は何回も拾ってくる。それが意味するのはつまり……

 

「そんなのあいつが死体を目的に探索してるか、自分から死体にしているかのどちらかしか考えられんだろう!」

 

 …・・・聖騎士は大きな声でこう結論づけた。重戦士が慌てた様子で彼女を窘めた。

 

「だから噂だって噂。声がでかいぞ、酔いすぎだ……ってお前等どうした、そんな青い顔して。腹でも壊したか?」

 

 重戦士が喚き騒ぐ聖騎士を横目に、新米戦士と見習聖女の方を向くと二人が顔を青くしながら俯いているのがみえた。

 

「い、いや……ちょっと思い当たる節があって……なあ?」

 

「う、うん……」

 

「「なんだと?」」

 

 二人の言葉に、重戦士と聖騎士の声が重なる。

 

「やはり捨て置けん!この私が直々に―――」

 

「馬鹿。だが詳しいことを教えろ。まさか何かされたのか?」

 

 重戦士も酔いを吹き飛ばして新米戦士と見習聖女に迫る。二人はその様子に少したじろいだが、話を続けた。

 

「そういうわけじゃないんですけど……実は、今日の下水路の依頼をこなしているときにアイツと会った……といえるかどうかは微妙だけど、とにかく出くわしたんですよ」

 

「そうなんです。そのとき戦闘中で、前で戦ってたコイツはしっかり見れなかったんですけど……他になにか来てないかアタシが周りをみていたときにはすでに後ろに立ってて、後ろから冒険者が来てるなら安心だなって思ってたんです。そう思ってたんですけど……なぜかアイツずっと後ろからじーっとこっちを見てきて、気味が悪かったんです」

 

「運が良かったな」

 

「「え?」」

 

 重戦士の言葉に聖騎士も眉を顰めながら賛同する。

 

「全くだ。考えてもみろ、もし後ろから来てるのに気付くのが遅れていたら?その前に剣を無くしていたら?証拠の残りにくい下水路でのことだ。そいつはきっと『実行』に移していたぞ」

 

 聖騎士のその言葉を聞いて、新米戦士と見習聖女はあの時おかれていた状況とその先にあったかも知れない『もしも』を想像して一層青くなった顔を互いに見合わせた。

 

「……確たる証拠がないからなんとも言えないがな。まあ、しばらくは下水路に潜るのをやめて大人しく雑用でもこなしてろ。どうせ替えの武器もないんだろ?」

 

 それから重戦士は、黙りこくってしまった二人と騒ぎたてる聖騎士を思考の外に放りだして、食事を続けることにした。

 

 ぬるくなった酒と冷え切った肉は、悪魔に捧げる供物のそれのようで重戦士はひどく顔を強張らせた。こんな風にした元凶である、鉄仮面のことを考えながら。

 

*****

 

 その翌日。

 

 朝早くに冒険者たちがめぼしい依頼をとり、人も閑散としてきた頃に女神官はギルドに向かって歩いていた。ゴブリンスレイヤーと会うためだ。

 

 ゴブリン退治の依頼というのは人気がない。

 新人の冒険者にとってみれば最弱の魔物を退治したところでなんだという感じだし、少し経験を積んだ冒険者ならばゴブリンの恐ろしさを少なからず知っているので報酬が割りに合わないと考えて受けないし、この街に長いこと住んでいる冒険者ならばあの「変なの」がその内にひっぺはがして持っていくことをよく知っているので受けない。

 

 その人気のないゴブリン退治の依頼を片っ端から受けては返り血塗れになって帰ってくる「変なの」……ゴブリンスレイヤーとも呼ばれる無愛想な男と、女神官はここ最近よく連れ立って冒険に行っている。

 

 確かに言葉足らずで無愛想なんですけど、あれで結構優しいところもあって良い人なんですよね。と、女神官は道すがらそんなことを考えていた。

 

 最近になって彼の魅力に気付いた彼女は、自分でもわかるくらいに顔を綻ばせながらギルドの扉を開いた。

 

「ゴブリンスレイヤーさん!」

 

 見慣れた鎧姿の男に向かって、とてとてと駆け寄る女神官。しかし、すぐにその軽やかな足取りは綻ばせた表情と一緒に固まることになる。

 

「来たか。今日はこいつも同行する」

 

 ゴブリンスレイヤーの後ろに立っていたのは、「下水路の変なの」と呼ばれる鉄仮面の男、疾走闘士だった。彼も彼で人気のない下水路の依頼を朝から晩までこなす狂人ともっぱらの噂である。

 

 だが彼女はそんな噂からではなく、実際の体験から他の人間よりいち早く彼の狂気の片鱗を知っていた。

 

「……こうしてしっかり顔を合わせるのは久しぶりだな」

 

「え、ええ……そう、ですね……」

 

 さっきまでの彼女の明るさはどこに行ってしまったのか。そこで三人の会話は途切れてしまう。そんな様子を見かねてかは定かではないが、ゴブリンスレイヤーが口を開いた。

 

「コイツは昇級試験の一環として参加する。人手が多いに越したことはない」

 

「と、いうことだ。よろしく頼む……」

 

 女神官は何も言わなかった。……何も言えなかった。

 

 

 

 辺境の外れにある古い森人の山砦。もはやかつての面影もなく枯れ果てたこの砦は、小鬼たちの根城として使われていた。

 

「数日前に冒険者が向かったらしいが、時間が経ち過ぎている。虜囚も冒険者ももう生きてはいない」

 

「はい……分かっています」

 

 ゴブリンスレイヤーの言葉に女神官が意を決した表情で返す。

 

「仕方の無いことだ」

 

 疾走闘士も、底冷えするような低く平坦な声で返した。

 私のほうは最近になってようやく踏ん切りがついたというのにこの男は……女神官はごくりと唾を飲み込んだ。

 

 

 疾走闘士が砦の正面のひらけた所に踊り出でると、中のゴブリン達はこちらの存在に気付いたようで好き勝手に騒ぎ立てながらこちらに駆け出してくる。疾走闘士は近づいてくるゴブリンを両の手で握り締めた戦斧で薙ぎ倒していく。少しの暇ができようものなら、奥の方で弓や投石機を構えるゴブリン達に向かって器用に石を当てて気を引く。そこにゴブリンスレイヤーが火矢を打ち込んで確実に数を減らしていく、なかなかに役割の分担のできた連携だった。

 

「ゴブリンスレイヤーさん!火矢の残りが……」

 

「分かった」

 

 それだけ短く答えると、番えた火矢をゴブリンにではなく砦に向かって放った。

 

「枯れた森人の砦はよく燃える……【聖壁】で入り口を閉じろ」

 

「はいっ!『いと慈悲深き地母神よ、か弱き我らを、どうか大地の御力でお守りください』!【聖壁】!」

 

 ゴブリンスレイヤーと女神官が砦に近づく。すると、疾走闘士がなにかに憑かれたような様子で燃え行く砦を見つめていた。そして、女神官は聞いてしまった。

 

「……素晴らしい」

 

 心臓を悪魔にでも握られたのかと錯覚してしまうほど、女神官は生きた心地がしなかった。

 

 普段の彼からは想像もつかないほどの、恍惚とした声。平坦なトーンではない、情感のこもった言葉。

 

 これが彼の本性……?

 

「何を呆けている。残りを始末するぞ」

 

 ゴブリンスレイヤーの言葉に、彼女はすぐに反応できなかった。

 

「……今日はなかなかに効率が良かった。また頼むかもしれん」

 

「銀等級の冒険者にそういってもらえるのなら箔がつくというものだ。……ゴブリンスレイヤー殿、女神官殿」

 

 疾走闘士がゆっくりと女神官の方を向く。鉄仮面に着いた返り血と、鏡のように写し出された火の光の赤色が彼女の目に焼き付くようだった。

 

「また、よろしく頼むぞ」

 

*****

 

「―――――本当に、彼を黒曜にあげてよかったんでしょうか?」

 

 

 冒険者の宴もお開きになる頃になってもギルドの職員たちの仕事は続いていた。静かになったギルドの中で、三つ編みが特徴的な受付嬢は監督官……至高神の司祭に問いを投げかけた。

 

「彼って……ああ、あの鉄仮面くん?確かに怪しいけど、【看破】の奇跡に反応なかったんだし、大丈夫よ」

 

「そう、ですか…そうですよね。私の考えすぎですよね」

 

 この春にやってきた新人冒険者。そのなかでも一際異彩を放つ鉄仮面の男……疾走闘士と名乗る冒険者が、受付嬢は気になってしょうがなかった。

 

 身分の高い出でもなく、育ちが良いわけでもないのに顔を隠す。逃げ出してきた奴隷かはたまた山賊か。処刑から逃れた犯罪者?

 

 否、どれでもなかった。

 

 単独で依頼をこなす力量があるのに他の冒険者と一党を組まない。大きな依頼はこなそうとしない。いつも一人で下水路に向かう。度々冒険者の認識表を拾ってくる。

 

 後ろめたいことがあるのは確かなようだったが、では実際になにか法を犯していたか?……【看破】は反応しなかった。

 

 冒険者は信用が第一だ。上の等級いけばいくほどその傾向は強い。力量ではなく依頼の達成率だったりギルドに身を置く上での人物像などのほうが重要視される傾向にある。

 件の冒険者である疾走闘士、実力も実績もそこそこあるのだが彼からはあまりいい噂を聞かない。だからこそ今回の審査でなにか分かれば……と、受付嬢はそんなことを考えていたのだ。

 

 その疾走闘士に対する懸念が晴れたというのに、受付嬢は納得いかないようだった。

 

「あんまり悩んでると疲れちゃうわよ。至高神さまが『法は犯してない』っていってるんだから、気にしなくて大丈夫よ」

 

 法は犯していない……その言葉に少し引っ掛かる所があるような気がしたが、疲れた頭ではそれ以上の思考を続けることができなかった。

 

 春の日の忙しさとは違った疲れに、受付嬢は深く溜息をついた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。