『かみさま』にはなれなくても 作:夢の理を盗むもの
昔、一次ですぐに筆を折った俺が書いてるんだし皆も書きたいものがあるなら書いてみようよ(奈落に引きずり込む手)
この物語は異世界迷宮の最深部を目指そう《最終章》並びに9章までのネタバレがあります。危険だと思った方はブラバしてください
誤字脱字あったら教えてください
新暦1013年 迷宮1層 『帰還』の日
──薄暗い回廊を一直線に進む。
既に『正道』を外れてどれくらいだろうか。
必要最小限の灯しかない石床を迷うことなく進んでそれなりに時間が経ったと思う。
やろうと思えば距離も時間も簡単に計れるが、今はそれすらも惜しかった。急がなければ最後の確認が出来ない。
「こうなるんだったら予め《コネクション》を用意しておけばよかった……!」
用意周到なつもりで案外抜けているのは自覚しているつもりだったが、これでは今から目を覚ます友人の事をとやかく言えないだろう。詰めの甘さを自嘲しながら足は止めない。
今日、目を覚ます彼を影ながら上手く誘導しなければこの世界は滅びる。
ぼくが何かせずとも大まかには知っている流れには沿うだろうが、稀に別の結末を迎えることもある。それだけはなんとしても避けなければならなかった。
その為に拙いコミュニケーション能力を使って人脈を作った。手頃な師を見つけてその過程にある危険をやり過ごすための力も得た。
後はいつでも動けるようにスタンバイしておくだけだった──が、直前で急用が入り本土に向かう羽目になったため急いであちらでの用事を終わらせて戻ってきたらコレだ。『
帰ってきて早々知人の『胡散臭い騎士』から話を聞いて急いで『迷宮』に潜り込んだため、正直なところ色々と準備不足だが文句を言ってる暇はない。
ここが重要な分岐点だ。この世界の命運を大きく左右するこの『帰還』の日に起きる出来事を把握しなければ、予定外の
思考しながら移動方法を小走りから全力走行へ移行、丁度いい通路は
既に目的地までの道程は観測済みで周囲を徘徊する「モンスター」の位置は捕捉してある。後は
「──ッ、やっぱりそう上手くはいかないか……!」
そう吐き捨てるぼくの目の前に立ち塞がったのは人の大きさ程の虫。クワガタに近いが一緒くたに語るにはあまりにもふざけた大きさのソレが、石柱に何匹も巻き付きながらこちらをその複眼で見つめている。
こうなっては戦闘は避けられまい。少なくともあちらは既に攻撃対象として此方を捕捉していた。
巨大な虫の群れという生理的嫌悪感を催す光景で震える足を止めようと、心を落ち着けながら敵を見据える。
──ここは第一層。『管理領域外』とはいえ驚異的なモンスターではないだろう。
少なくともこの『迷宮』を創った者は王道を好む。序盤に訪れる可能性がある場所に規格外の敵を配置することはない筈だ。──多分。
「いや、どうだろう。先輩なら脇道にFOEとか置くかも……?」
『ちょっとしっかりしてよぉ……。君が死んだら困るのはボクなんだよ?』
「彼なら案外やらかすかもしれないなー?」と疑っていると、脳裏にオドオドとした同居人──厳密には違う──の小さな声が響いた。
声は女性、年齢はハッキリとは分からないが年配ではない。そもそも
彼女こそはこの世界で生き延びるための力を授けてくれた親愛なる(?)我が師。
普段は黙りこくってアクションを起こそうとしない癖に、身の危険を感じるとこうしてこっそり声をかけてくれるので鉱山の金糸雀くらいには頼りにしているが……流石に今の発言には物申したかった。
「いやいや、流石にそれはあんまりじゃないですかね? お師様はまさかこんな低層にいるモンスターにぼくがやられるとでも? 貴女の薫陶を受けたどこに出しても恥ずかしくない自慢の弟子ですよ?」
『そう言うんだったらせめてその足の震えを止めてくれないかなぁ? ボクには君の心が伝わるんだよぉ……?』
「ふ、震えてないですよ! この程度なんとか出来ますから! ええ!」
『本当だね……? 君のようなもしもの
「あ、心配するのはそこなんですね……」
珍しく会話に乗ってきてくれた師とじゃれ合いながら彼我の立ち位置を調整していく。
相変わらずのビビリだな……と呆れながらもこの会話で少し落ち着けたのか足の震えは止まっていた。
そこは感謝しなくてならないだろう。口には出さないが。
傍目から見ればモンスターと遭遇して発狂したのか一人で叫んでるように見えるだろうが、ここに他の人目は無いしそもそも今更そんな事は気にしない。
気を取り直して相手を注視……うん。距離は十分、これならば一息に詰め寄られることはないだろう。最悪、接近されてもやりようはある。
問題は数だ。ざっと目視で数えただけでも30を越える数の虫が辺りの石柱から這い下りて少しずつこちらに向かってきていた。
全てを一々相手にするのは若干骨だが、難しいわけではない。が、そもそもそんな時間はない。既に別の視界には『
急がなければ彼が起きてしまう──その前に
「──大丈夫、ぼくは死にませんよ。死ねない《未練》がある。ご存知でしょう?」
『……うん。知っているよ。君がその《未練》を遂げるのはボクたちの《契約》が終わるその時だ。その時まで君は死なない。絶対に』
「ええその通りです。だから心配しなくても平気です。ぼくを──」
言葉を発しながら戦意を装填し、全身から魔力を放つ。いつでも魔法を使えるように。
その魔力の色は紫。
そのままイメージの通りに術式を構築する。想像するのは爛漫と咲き乱れる紫の花園。
「──ぼくを殺せるのは『彼女』だけですから」
踏み入れた者を捩じり殺す、美しくも悍ましい処刑場だ。
「──《
瞬間、ぼくの身体から魔力が堰を割ったように噴出して虫たちのいる方向へ向かっていく。
その尋常ならざる様子に本能的に危険を察知したのか此方へ向かう動きを止める虫たち。
足を止めた虫たちの身体が捩れ弾ける。食事中に見てはいけないスプラッターな光景の後に残されたのは捩れた空間が生み出す紫色の魔力の花だ。
更にそれだけでは終わらない。弾けて飛び散った
飛び散った肉片そのものを種子・苗床として魔力の花が寄生繁殖・連鎖爆発するかのように範囲を拡大して更なる虐殺の版図を広げていく。
それはまるで無尽に咲き誇る毒花の庭園のような光景だった。
「……ごめんね」
あっという間に周囲のモンスターは一掃され、庭園に足を踏み入れる事が無かった幸運なモンスターも恐れをなしたのか周辺から遠ざかっていく。
ぼくは苗床として死して尚利用されながら魔力の粒子として『迷宮』へと還っていくモンスターに謝意を示した。
かつて友人が開発した攻撃手段に乏しい次元魔法の中で、比較的扱いやすく殺傷性の強い魔法をぼくなりにアレンジしたものだがこれでも本家本元には遠く及ばない。『彼』はアレンジせずともこれくらいの性能で発動できるだろう。
とは言え現代においてこの魔法は御覧の通り強力だった。だがぼくの精神衛生上においてはあまりよろしくない。
師が先程ぼくを心配したのもぼくのこういう面を理解してくれているからだ。ぼくの
なにせ今の行為にさえなんとも言い難い不快感を味わっているのだ。かつて《契約》の一環で
『……大丈夫ぅ?』
「ええ。なんとも」
だからこんな強がりも伝わってしまっているから本来意味なんてない。意味なんてないが彼女に強がる事自体は意味がある。
出逢って間もない頃ならばともかく、もう長い付き合いだ。中途半端とはいえ『親和』もしたのだし彼女の心の傷が何なのかは何となく当たりをつけている。
そしてその傷はぼくとは
ぼくはこの人には期待しない、願わない、捧げない。彼女の心は、そういったもので押し潰されているのだろうから。
「さあ、行きましょうか。あと少しで例の祭壇です」
『……分かった。なら見届けに行こう、ボクたちを救ってくれる《救世主》の目覚めを。いつか世界の《最深部》に至ってくれるみんなの──全ての人の《理想》の《世界の主》になってくれる人の目が開くその時を』
「ええ……でも酷いですねお師様。さっきも言ったでしょうに」
『うん?』
程なくして
まず視界に飛び込んできたのは暗い回廊。
奥に小さな、今にも崩れそうなほど風化している祭壇のようなものが鎮座している。
小さな石舞台に、二本の燭台。
石舞台には動物の皮のようなものが供えられており、それには古びた矢が刺さっていた。
祀られなくなって既に久しい、寂れた祭壇だった。
次にこの周辺にモンスターが湧き出てくるまでに暫く時間を必要とするだろう。その間に『彼等』が『迷宮』に足を踏み入れれば『彼』が目を覚ます。
多くの人を救う《英雄》が。
この世界を救う《救世主》が。
《未練》を抱えた亡霊が全てを託していける《理解者》が。
この『物語』を紡ぐ運命が選んだ《主人公》が。
「《救世主》ではぼくを
だけど、そう──
何故ならば──
「──ぼくを
──ぼくが真実求めるものは、理解ではなく断罪なのだから。
ずっと、ずっとずっと、ずっとずっとずっと、そのまたずぅっと昔に、ぼくは未来を見た。
見た、というには語弊があるかもしれない。正確に言うならば、ぼくは未来を知っていた。
それは心が苦しくなって、悲しくなって、辛くって、吐き出しそうで、泣きたくなるようで、目を背けたくなるような絶望と悔恨に塗れた、そんな物語
それは心が熱くなって、嬉しくなって、前向きになれそうで、笑いたくなるような、ずっと見つめていたくなるような希望と明日に満ちた、そんな物語
だからいつかそんな物語の舞台に立てるのだとその頃のぼくはとても興奮した。
魅力的な登場人物、心躍る冒険劇、切なくも哀しい悲劇、心折れて道を間違えてしまった人たちをカッコよく救う英雄譚。
……訂正。英雄様はカッコよくはなかった。むしろ情けなくてヘタレで何度も同じ間違いを繰り返しては、その度に痛い目にあうバカだった。
まあ、バカがバカだったのは理由があったし、とても辛いものだった。だから彼は何度同じことを繰り返そうとも読者に愛されるバカだったのだ。
勿論ぼくはそんな彼が大好きだった。ぼくがその物語の事を知るのは
きっと彼はこれからもバッキバキに心を圧し折るだろうし、むしろその清々しい表情をした彼の心は、ぼくの知る限り過去最大の精神的ダメージを受けてると言っても過言ではなかった。
けれどもきっと彼はハッピーエンドをその手に掴むだろう。彼は独りではなく、彼の周囲には一癖も二癖もある個性的な仲間がいるのだから。
また彼が道を間違えても首根っこを引き摺り回してその手を掴んでくれるだろうから、彼の幸せについては安心していた。
だから──ぼくが思ったのは終わってしまった人物たちの事。
最期まで英雄様を振り回した物語の黒幕。情状酌量の余地あれど多くの人たちを巻き込み、苦しめてしまった悪女たちの事だった。
果たして彼女たちはああまでならなければ救われることはなかったのだろうか? と。
彼女たちの人生は壮絶だ。
片やプロメテウスのように生きながら死にも等しい責め苦を受け続け、心を凍てつかせてしまった生まれつき特別過ぎた少女。
片やイカロスのように天上に光り輝く光に向かって羽ばたき続け、燃え尽きてしまいながらもその手に光を掴んだ普通のお姫様。
彼女たちは、その結末こそハッピーエンドだがそこに至るまで多くの人を苦しめた。
片方は望まずともそれしか手段がなかったが故に全てを捨てた。
片方はそれしか手段がなかった故に望んで全てを捨てた。
けれども、けれども彼女たちは望もうとも望まなくとも捨てたくて捨てたわけではないのだ。
だから、だからそう──きっとどこかに彼女たちが何も失わずとも幸せになれるハッピーエンドがあるのではないかと夢想した。
今にして思えばなんたる傲慢、思い上がっているにも程がある。
例え物語であろうともあの結末は彼女たちが瞬間瞬間を必死に生きて掴み取ったものに変わりはないのに、それを上から目線で「
それがどれだけ愚かなことでどれだけ罪深いことなのか、ぼくはまだ知らなかった。
幸せ──誰かの理想の終わりを選ぶという事は結局のところぼくには出来なかった。
なにかを選ぶということは、結局のところなにかを選ばないという事になるということにぼくは気付いていなかった。
それこそ『かみさま』にしか、全てを救うことは出来ないのだと。
──
ぼくがその事実に気付いたのは全てが手遅れになった時。
ぼくが未来を変えられる唯一にして最後のチャンスを、目の前で見送ってしまった瞬間だった。
──そして
『
転がり落ち始めた運命の車輪は止まることなく、やがて『
そして、ぼくの
『彼』の物語を始めたのも、ぼくの物語が始まったのも全て『彼女』からならば。
『彼』の
だから──だから最期に君に聞かせて欲しい。
ぼくは──『かみさま』になれなくても、君を救えたのだろうか?
一応連載って事にしてるけどもしかしたらモチベ続かなくてここで終わるかもしれんね?
その時はその時だけど取り敢えず今は少しずつでも進めていく所存であります。
お師様って誰なんです?さあダレダロウネー
原作でまだ掘り下げられてない重要キャラと一時的にとはいえ若干『親和』してトラウマを「なんとなく分かったわ」とか言ってる奴がいるらしい。大丈夫か?だいじょばないよ。
だってしょうがないじゃないか…最初はオリ主君に戦闘能力持たせる気はなかったけど、どう考えたって主要登場人物に関係持とうとして戦えませんなんてキャラすぐにおいてかれるじゃんか……あ、シアちゃんだけは別です。
だから最低限今後の活動に必要な力を手に入れる必要があって、上手く話を通せばその力を教えてくれるかもしれない最適な人がいて、目的も過程は近いし取引材料になるかもしれない知識はオリ主君持ってるんだもん。使うじゃん普通。
でもお師様ヒロインじゃないから。割とビジネスライクな関係だから。お師様にとってのオリ主君はいざという時のサブカメラ兼セーフハウスだから。
性格違くね?って言われるかもだけど色々とお互い《契約》で縛ってるから嫌々渋々でも面倒見てくれてるのが当作のお師様です。許せ、ユニバースが違うのだ。
あと物語としての『ヒロイン』は『彼女』でオリ主君にとっての『運命の女』も『彼女』だけど、『彼女』の『運命の相手』はオリ主君じゃないよ。