『かみさま』にはなれなくても   作:夢の理を盗むもの

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前回このssの方向性についてはあとがきで説明したけど、一々トール君の地獄の残業を書いてたら何年経っても完結しないままエタると思うのでサクサクダイジェストで行くよ。
既に提示されているIFを潰すのがメインでそれ以外の「あるかもしれないIF」については「アレコレああなりそうだったので色々あってなんとかイベントを潰した」とかそういう感じになる。
かといって既にトール君という異物は存在しているのでそこそこ変化は起きる
というか既に変化は起きているから頑張って影響が最小限になるように、最後には自分でそのずれを修正しないとね

今話半分くらいはカナミさんの近況報告会みたいな感じになってるからちょっと今後の視点比率を考えたいなぁと思う所存


新暦1013年 迷宮連合国ヴァルト 『同窓会』

 昨日あの『ラスティアラ』という少女に助けられた後、なんとか僕は『迷宮』から生きて外に出ることが出来た。

 その後何とか情報を集めつつあの『迷宮』で手に入れた品々を換金することで、何とかフーズヤーズの安宿に一泊するだけの金銭を得て宿泊する。

 だがその夜、例の『ラスティアラ』に寝込みを襲われて意識を失い強制的な『レベルアップ』をさせられてしまう。

 そして意識を取り戻した翌日、僕は換金所の人に教えてもらった同じ迷宮連合国であるフーズヤーズ東の『ヴァルト』へ向かった*1

 国境越えというイベントに少々緊張していたが、意外にもあっさりとヴァルトに入国することが叶う。

 ここからこのヴァルトで、僕の『帰還』の道程が本格的に始まる。

 この国で迷宮探索にリトライするにあたり現状を整理した。

 まず僕の第一目標については確認するまでもない事だが元の世界への『帰還』だ。

 ゲーム染みたシステム、命のやり取りが身近にある物騒で不可思議なこの世界で暮らしていれば僕は直に狂ってしまうだろう。

 なによりも元の世界には妹──陽滝がいる。

 陽滝は病弱な子だ。両親のいないあの家で、今も僕の帰りを待ち続けているに違いない。

 もしかしたらこの世界と元の世界には時間のずれがあって、帰ってみれば何事もないように「お帰りなさい、兄さん」と声を掛けてくれるかもしれない。

 でも、だとしても、たとえ一瞬であろうとも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 僕たちにはもう他に家族がいない。だから何があろうともお互いを支え合って生きていくと──僕が絶対に守るのだとあの日そう誓ったんだ。

 だから早く戻らなければならない。こんな、訳の分からない世界から、早く。

 その為に必要な物がある。──お金だ。

 知識を得るのにも、衣食住を整えるためにも、迷宮探索に必要な物を揃えるにも、何にしてもお金が必要になる。

 正直手持ちのお金は心許ない。何らかの手段で金銭を稼がなければならないが迷宮に潜るのはしばらく控えたい。

 まだ、あの命のやり取りや毒で死にかけた恐怖が心に残っている気がする。

 謎の「???」というスキルで何度か冷静さを取り戻せてはいるが、その度に「混乱」の値が加算されているのを思うにこれは多用してはいけない類のものだ。

 ハッキリ言えば迷宮になんて潜りたくもないし見たくもない。

 だから間を開けて他の方法でお金を稼ぎたい。その方法を今、僕は探していた。

 だが中々ピンとくるものが見つからない。ヴァルト中を歩きながら考えを巡らせていると、迷宮入り口近くにある酒場がふと、目に止まった。

 

「──? ここは……?」

 

 そして僕はその酒場にて「従業員募集中」の張り紙を見つけ、試しに嘘の設定を固めてから面接を受けたところ一発合格してしまう。

 その際、昨晩あの『ラスティアラ』に名前を知られている事、本名で活動を続ければ再びあの少女に遭遇してしまう可能性を考えて偽名を名乗ることにした。

 名前を聞かれ、時間が無かったので即席で考えたその名前は──。

 

「キリストくーん、これお願い!」

「はい!」

 

 

 ──『キリスト・ユーラシア(大陸を救う者)

 

 


 

 

『それで、どんな設定で行くのかはもう決めたのかい?』

「ええ。基本設定(プリセット)を調整して、先輩に興味を持ってもらえるようなものにしました」

『ふーん? ……なるほどね。確かにこれなら興味は持たれるけど……分かってるよねぇ? ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「勿論分かっています。それでも既に迷宮でティアラの駒(ラスティアラ)に接触してしまった以上、感知出来ない何者か(トール・ヘルブスト)の存在はバレています。ならば──」

『背後関係が明らかになっていない現在、面通しを済ませておいた方が後々初対面になるより介入がやりやすくなる……そんなところかな?』

「はい。それだけじゃあないんですけどね」

『そこに関しては理解しているから安心してほしい。……頑張って』

「はい。それじゃあ、ちょっと早い同窓会に行ってきます」

 

 


 

 

 僕がこの世界で目を覚まして早『四日目』。

 今日の日中は迷宮へのリベンジをしてきた。

 ソロでは心許ない為、誰か協力者を募ろうとしていたのだが酒場で働き始めた日、僕はとんでもない逸材と出会う。

『ディアブロ・シス』という名の、剣士になる事を目指す少年だった。本人は「ただのディアだ」と名乗っていたため僕はディアと呼んでいる。

 三日目に試して気付いたことだが、僕は『表示』で個人の名前やレベル、スキルやステータスを視認することが出来る。

 それを指標に一緒に迷宮を潜れる人を探していた際にディアの『表示』を見たところ、彼は一日目の僕と同じレベル1でありながら数多くの高数値スキルと高い魔力のステータスを持っていた。

 僕は仕事が終わった後彼となんとか交渉することに成功し、明朝二人で迷宮に挑む約束を取り付けることが出来た。

 そこでディアの『魔法』の強力さを目の当たりにすることとなった。本当に凄かった。《フレイムアロー》という初級の魔法らしいが、アレは『火の矢』というよりは『レーザー銃』だった。

 僕も接近戦用に改良した《ディメンション》──《ディメンション・決戦演算(グラディエイト)》を用いる事で陽動と索敵を担当したが、敵を発見して僕が隙を作ってからディアが《フレイムアロー》を撃つだけで敵が倒せてしまっていた。

 活躍したいという気持ちが無かったかと言えば嘘だが、『帰還』を目指す僕の方針は安全第一。僕の索敵とディアの狙撃があれば一層の殆どの敵は倒せていたので、感謝こそすれ不満はない。

 そうして快進撃を続けるうちにMPが切れてしまったので僕は撤収を提案したが、僕はそこでディアの抱える事情に少し触れる事になってしまう。

 その人間的交流がトドメだったのか迷宮から引き上げる頃には僕はディアを、『帰還』の為の道具としてではなくこの世界で初めて得た同年代の知人、友達として認識してしまう事になった。

 その事について心に一つ重しが加わる事になってしまったが、気を取り直してその夜は酒場で仕事をしていた。

 とはいえ迷宮帰りの客はもう殆ど帰ったのか、酒場はしん……と静まり返っており直に店じまいというところだ。

 

「もう客は来ねぇだろうな……キリスト、店じまいだ」

「分かりました」

 

 そうして店長と先輩従業員のリィンさんが帰った後、僕は作った賄いを食べながら明日の計画を練っていた。

 ──僕の経験値の伸びが思ったより悪い。

 この調子ではレベル5になるまで6日ほどかかるだろう。それでもこの世界の常識から考えたら驚くべき速さなのは他の人のステータスを見れば一目瞭然だった。

 ただし、僕が目指すのは早期の『帰還』。悠長に6日かけてチマチマとレベルを上げるわけにはいかない。

 もっと早く多くの経験値を稼がなければならなかった。その為の情報は先程店長から聞いている。

 あとはどれを、どのようにして倒すかを検討している時に──

 

「……?」

 

 店に張った《ディメンション》が外に人がいる事を感知した。

 前にもこういう事があったなと思いつつ、《ディメンション・多重展開(マルチプル)》で感知範囲を広げ、その人物をよく確認する。

 背は低く、体格も良くはない。コートのようなものを羽織ってその上からすっぽりとローブで体を包み込んでいた。

 性別は男、少年のように見える。だが、僕は初対面の際にディアの事を少女だと勘違いしていた。*2

 この人物の性別にも確証が持てない。

 痩せているので身体つきが悪く、性差が分かりにくいという事もある。

 取り敢えず少年という事にしておいてそのまま彼の動きを観察した。

 彼は店の大扉の前までのそのそと歩いてくるとその右腕で扉をノックを──しようとして前のめりに倒れた。

 

「って、ええぇぇぇ!?」

 

 急いで扉を開けようと駆け寄る。

 だが閂を外そうとした瞬間、僕はこれが「衰弱者を装った物取り」ではないかという可能性を考えた。

 彼は痩せているしヴァルトはあまり治安が良いとは言えない。

 浮浪者が一夜の暖を欲しがると見せかけて売り上げや食料を盗ろうとやってきたのかもしれない。

 ここを開けて彼が襲い掛かってきても即座に取り押さえる事が僕には出来る。

 問題はその後、どうするかだ。多分、どういう結末になっても僕は……。

 閂を外そうとしたまま5秒、いや10秒程経っただろうか。

 ふと僕の耳に扉越しに大きな音が聞こえた。

 この音を僕はよく知っている。それどころか人であるならば誰だって知っているだろう音だった。

 オブラートに包むのを止めて明言するのなら腹の虫が鳴る音だった。

 扉越しに微かに唸る声が聞こえる。

 

「……ぉ、ォォぉ…………し、死ぬ……」

「…………」

 

 僕は閂を外した。

 

 


 

 

「いや、ありがとうございます、これ旨い!? すご、これ本当に賄いなんです……?」

「あ、あははは……そんなに焦らなくても無くならないよ……」

 

 店内にあげて賄いの残りを差し出すと彼は飛びつくように掻き込み始めた。

 余程空腹だったのだろう、既に4回目のお替りを完食している。

 まるで腕白な弟を見ているような気分になってちょっと面白かった。

 

「いやー、ご馳走様でした。店じまいしているのは外からでも分かっていたんですが、灯がついているから誰かいるかもと思って……」

「お気に召したらなによりだよ。……しかしこんな時間まで外を歩いていて大丈夫なのかな? ご両親とか心配しているんじゃ……?」

「あ、ぼく孤児なのでそういうの全くないから平気です」

「えぇ……?」

 

 そういうものなのだろうか。確かに僕も両親はいないし陽滝と二人暮らしだけど、ここは僕の世界より危険な異世界だ。

 親という保護者がいないというのをここまであっけらかんと語れるのだろうか? それとも親がいないからこそここまでタフなメンタルを育むことが出来るのだろうか? 

 水を一杯飲みながら彼は溜息を吐く。そして「あっ」と声を漏らしながらこちらに真っ直ぐ向き直った。

 

「すみません、命の恩人だというのにフードをしたままで。今外すので少々お待ちを」

「ああ、いいよ気にしないで────!?」

 

 そう言いながら外したフードの下から出てきたのは、黒に近いこげ茶の髪をした年若い少年だった。

 年齢はおそらく15歳ほど。印象としては小動物のように感じるが、目に「何が何でも生き延びてやる」というような強い意志を感じる。

 だが僕の頭にはそんな印象は入ってこなかった。まるで脳が漂白されたかのように頭が真っ白になって何も考えられない。

 気を抜けば僕の身体そのものがバラバラになってしまいそうな程の驚愕。何より不可解なのは、僕自身何故ここまで驚いているのかが分からないという事だった。

 まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()ようだ。僕の感情を不自然なまでに冷静にさせる「???」の事もある、もし本当に誰かが勝手に僕の感情を操っているのなら憤りを感じてもいい筈なのだが……不思議と何故か今はそういう気にもならない。

 僕が自身の感情を整理しようとしていると、少年はこちらの顔を見てギョッとした表情になった。

 

「泣いてる……!? す、すみません! ぼくの顔、なにか不快感を与えてしまいましたか!?」

「な、泣いて……?」

 

 彼のその言葉に慌てて目尻を拭うと、確かに僕は泣いていた。

 分からない……何も分からない。何故僕はここまで驚いているのだろうか? 何故彼を見て泣いてしまったのだろうか? 

 何故──()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()? 

 ……知りたい。彼が一体何者なのか知りたい。僕が忘れているだけで昔会っている? もしかしたら偽名を聞いてやってきた僕の同郷なのかもしれない。

 

「な、何でもないよ。それよりも自己紹介をしないかな? 僕はキリスト・ユーラシア。昼は迷宮探索、夜はこの酒場で働いているんだ。君は?」

「自己紹介、良いですね。ぼくはトール・ヘルブストって言います。貴方と一緒で兼業で迷宮探索者をやっています」

 

 お互い名乗り合いながら僕は彼を『注視』して視る。

 

 

 

 

 名前:トール・ヘルブスト HP100/173 MP34/67 クラス:導者

 レベル16

 筋力2.67 体力4.55 技量10.28 速さ3.25 賢さ8.12 魔力4.32 素質2.00

 先天スキル:次元魔法2.11

 後天スキル:投擲3.57 隠れ身2.98

 

 

 

 

 ──違った。僕の同郷ではなかった。

 だが収穫がゼロという訳ではなかった。むしろ落胆した分を補って余りある。

 次元魔法。僕よりも数値は低いがこの世界で初めての、僕と同じ次元魔法使いだ。

 それにレベルも店長より高い。もしかしたら迷宮についてもかなり知識を持っているのかも。

 クラス名がよく分からないが……『導者』? 導く者……という意味だろうか? 気にはなるがあまり深く探りを入れると警戒されるかもしれない。

 僕は内心の昂揚を務めて隠しながら、彼から次元魔法について聞き出すための話題を振り直す。

 

「……君も? すごいな、何層まで潜ったんだい? 僕はまだ仲間と1層を周るので精一杯なんだ」

「んー、10層辺りまでですかね。ぼくはソロで潜ってるし戦闘もあまり好きじゃないので、逃げ隠れしながらだとこれ以上行く気にはなれなくて……」

「へぇ……? ソロでそこまで潜れるなんてすごいね。逃げ隠れしながらって言ってたけど何か見つからない為のコツとかがあるのかな?」

「うーん、昔から足は遅いんですけど隠れるのが得意で……あとマイナーなんですけど敵の位置とかが分かりやすくなる魔法がありましてそれで」

 

 その発言を聞いて僕は内心でガッツポーズをとった。

 ここだ。この話題から次元魔法について聞き出す。

 取っ掛かりとしては苦肉の策だが僕も次元魔法を使える事を明かそう。あまり情報をバラしたくはないがその方がスムーズに進みそうだ。

 

「敵の位置が分かりやすくなる魔法……? 奇遇だね、僕もそういう魔法を持っているんだ。《ディメンション》って言うんだけれど……」

 

 僕がそう言うと、彼はテーブルに勢いよく両手を突きながら僕の方へ身体を乗り出してきた。

 一瞬、触れ合うような距離で彼の目を覗き込んでしまう。

 力強い、強い目だ。絶対に死んでなるものか、と生への執着が滲み出る様に燃え上がっているような。

 そのまま見つめ合っていると、今度は彼の目に涙がにじみ出した。

 

「い、いたんだ……。ぼく以外の次元魔法使いが、この時代に……」

「え、えっと……?」

 

 僕が困惑していると、彼は「ご、ごめんなさい」と言いながら目を拭って離れる。

 

「さっきも言った通り次元魔法使いってマイナーなんですよ。大昔には殆どの人が扱えたらしいんですけど今じゃ魔法屋でも中々見かけない上に品揃えが悪くて……」

「そ、そうなんだ……」

 

 マイナ―……しかも魔法屋でも品揃えが悪い……。事前に情報を集めていたため予想は出来ていたが、その答えを聞いて僕のテンションは下がっていた。

 ゲームや物語では一人しか使えないオンリーワンな固有属性なんてものは、大抵有用だったりパワーバランスがおかしいくらいに強力だったりするものだ。

 だが現実となればそこまでいいものではないというのが良く分かる。《ディメンション》は有用だが、次元魔法そのものを使っている人自体が少ないのであれば常に活用方法は手探りになってしまう。

 既に《ディメンション・多重展開(マルチプル)》や《ディメンション・決戦演算(グラディエイト)》といったようにコストを増やす事で範囲を拡大したり、逆に範囲を絞る事でその他の機能を先鋭化させるなどの工夫はしているが、こういうのは何人かで話し合った方が新しい着想を得ることが出来るだろう。

 三人寄れば文殊の知恵という奴だ。僕一人での発想ではそのうち限界が訪れる。なので彼から他の次元魔法使いについて聞き出せれば、と思ったがこの様子では彼も他には知らなそうだった。

 それならそれでも構わない。むしろ今日彼という同類を見つけられたのは幸運だった。

 彼から他の次元魔法についてや魔法の応用法などの情報を得ることが出来る。

 仮に今僕が把握できている事しか知らなくとも、お互いの魔法についての所感や実践する際の不満点なんかを話し合えば改良点も見つかるだろう。

 魔法はイメージだ。いきなり全ての問題点をカバーできなくても、個々の問題点それぞれに特化した魔法を想像して適宜使い分けていけば対応力が上がる筈だ。

 

「トール君……でいいかな? もし君が良ければなんだけど次元魔法について教えてくれないかな? 僕、あまり詳しくは無いんだ」

「構いません。ぼくも初めて同じ次元魔法使いと会えて嬉しいので、答えられることならなんでも答えますよ」

 

 そう言ってトール君は微笑んだ。

 ──まただ。また胸がざわつく感じがする。

 彼は僕と同じ世界の人間ではない……筈だ。『表示』に出ている名前からそう思う。その筈だ。

 内心に湧き上がる不安を抑えながら「???」が発動しないか気にかける。

 不穏なところもあるが今まで僕を何度も救ってきた謎めいたスキルは、しかしこの場面においては不気味なほど沈黙している。

 その事実に一段階、「???」への警戒を強めながら僕はトール君と話を続けた──。

 

 


 

 

「それじゃあぼくはこれで帰ります。ありがとうございました!」

「ううん。ちょっと作りすぎて僕一人じゃ食べきれなかったし丁度良かったよ。今晩は家に帰るのかい?」

「いいえ、ぼくの家は本土のフーズヤーズにあるので……三か月前に来てからずっと宿暮らしです」

「そうなんだ……。また何かあったら来なよ。出来ればお店が開いてる時間帯に」

「アハハ……。その時は今日の分も含めてたっぷりとお金を落としていくので楽しみに待っててください」

「期待してるよ。それじゃあお休み」

「お休みなさい」

 

 酒場を出て真っ直ぐと歩いていく。当然だが《ディフォルト》は使わない。

 なんなら何時でも使っていたい便利な魔法だが、今はこの気分のままゆっくりと歩きたかった。

 

「~♪ 、~~♫」

 

 すっかり記憶から薄れてしまった懐かしいメロディを鼻歌にしながら、酒場近くの裏路地に向かって歩いていく。

 久しぶりに先輩の手料理をいただいた。味だってぼくが先輩に料理の基本的な事を教えたのだから()()()()()()()()()()()

 なんなら師にも分けてあげたかった。

 理論上領域を介した物々移動は可能なのだし、手元にタッパーがあればそれに分けてもらって《ディスタンスミュート》でタッパーごと胸に腕を突っ込めば領域内のバックドアから渡せたのだが、この世界には残念なことにタッパーもジップロックもない。

 

「……さて」

 

 出不精且つ対人恐怖症でビビリで引きこもりな師にどうやって料理を与えるか考えながら裏路地に到着。

 空を見れば白い魔力の粒――ティアーレイがゆっくりと降り注いでいた。

 懐かしい気持ちになりながら、気持ちを奮い立たせて背中を伸ばし覚悟を決める。

 これから来る光景に足を竦ませることはないが、視覚的にはインパクトが強いのでちょっとビビっていた。

 だがこれが久しぶりの再会となるのだ、せめてカッコつけたいと思うのは男のサガなのだ。

 

「機を窺わなくても平気だよ。ぼくはここから動かないし逃げるつもりもない」

 

 ぼくのこの言葉も、恐らく『彼女』には届かないだろう。

 今の彼女の受容感覚は先輩のを借りなければたった一つしかなく、それはぼくには効果がないものだからだ。

 それでも口にしたのは、ぼく自身に言い聞かせる為だったのかもしれない。

 ぼくは両手を広げながら振り向き、

 

 

「久しぶり、陽滝ちゃ」

 

 

 白い津波に呑み込まれた。

*1
部屋の修繕費に関しては事情を説明してなんとかまけてもらうことに成功した

*2
今も少女にしか見えないがディア本人が男だと言っているので僕も男として接している




今回のトール君の仕事
カナミさんが億が一全く関係ないところで死なない様に次元魔法についてのチュートリアルをする
今後2章で覚えるだろう次元魔法の基礎魔法(フォーム)他、上級魔法(コネクション)について軽く説明する
異なる魔法の合成については一旦置いて今使える魔法をちゃんと扱いこなせるようにした方が良いとアドバイス(《次元の冬》などの合成魔法習得タイミングを調節)

道中あり得ない事ではあるが事故死しないように次元魔法の理解度を高めつつ、1章ボス戦が楽になってしまわない程度の些細な強化イベント

正直1,2章はガチガチにスケジュールが埋まっているので本当にやることがないのだ
カナミさんが変なイベントに顔を突っ込まない様に注意しておきながら、訳分かんないところで事故死しない様にほんのちょっと強化して、予定通りティーダに苦戦してもらうのが目的

次回、散々匂わせてきたコイツのこの世界で生きていくために必須だった前提チートについて語るけど大体もう分かってるでしょう
取り敢えずヒントは「『彼女』の情報戦での強みは全てにおいて『例のアレ』ありき」という事ですかね
勿論それを扱いこなすための馬鹿げた能力も大変危険ですがそれも『例のアレ』あっての事でアレが無ければ盤面も制御出来ないし、4つのあれらもその真価を発揮できないでしょう
なのでアレが通じなければ、『彼女』は過去と未来が視えて滅茶苦茶頭の回転が良すぎて最終的には何でもかんでも凍らせて力技で解決できてしまうだけの何処にでもいる普通の女の子です。お水飲んでフラフラするような可愛い子ですから
とはいえ「はい、いぶそうにおける最強チート能力の一角を無効化ー!」と簡単にはならない様に弱点も用意しています
トール君と『彼女』ではまさに「生まれ持った違い」で情報戦の優劣がありますがそれも不安定なシーソー状態です
気を抜けば、アレでどうにかできなくともやりようがあるというのは原作でも既に明らかですね
その辺り俺も注意していきたいです

ところでこのss読んでくれてる人なら言うまでもないと思うけどトール君のステータス全部嘘ですからね
カナミさんの視点を信用している人は勿論いないでしょうけど
トール君は次元魔法使いで、当然カナミさんに覗かれるのも分かっているので対策はちゃんとしてますよそりゃ

次回更新は結構遅れます
ちょっとキャンピングカーで全国世直しの旅に行ってこようかと思いまして
また世界救ったら書き始めるんでしばらくお待ち下さい。

誤字脱字訂正はいつでもおkです

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