野比のび太の物語    作:宇宙戦争

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第14話 復讐

◇西暦2011年 6月12日 カナダ オーセール

 

 

「・・・一通りなんとかなったな」

 

 

 クリスはそう言いながら、辺りの警戒を続ける。

 

 ちなみに辺りには彼が倒した元隊員のゾンビやクリムゾンヘッドの山が倒れている。

 

 

(この人、本当にただの人間か?BOWかなんかじゃないの?)

 

 

 そんなクリスを見ながら、のび太はそう思う。

 

 ちなみに何故そう思ったのかと言えば、クリスはクリムゾンヘッドの殆どを倒したのだが、アサルトライフルや拳銃はおろか、素手まで使って倒したのだ。

 

 普通ゾンビなどを相手に素手で戦おうとする者は居ない。

 

 百歩譲ってナイフが良いところだろう。

 

 何故なら、効率が悪い(弾薬節約という意味なら話は別だが)し、一歩間違えれば感染してしまうからだ。

 

 のび太でさえ、BOW相手に銃の銃弾が足りないときはナイフを使うが、素手で戦おうとはしない。

 

 ナイフさえ無い時は逃げるか、足を引っ掻けて転ばせるかするくらいだ。

 

 それをいとも簡単にやってのけたクリスに、本人のゴリラのような体格も相俟って、本当に人間なのかどうか怪しく思っていた。

 

 今なら人間型のゴリラBOWと言われても信じられそうである。

 

 

「大丈夫か?」

 

 

 一通り警戒が終わったところで、クリスがのび太に声を掛ける。

 

 

「あっ、はい。なんとか・・・」

 

 

「そうか。今、応援を呼ぶからもう安心して良いぞ」

 

 

「そ、そうですか」

 

 

 不味い、とのび太は思う。

 

 元々のび太の用事はすぐ目の前にあるあの建物を調査して、島田透関係の物が有れば破壊し、本人が居ればその本人を殺すこと。

 

 ここでBSAAに保護されれば、それは不可能になる。

 

 しかし、だからと言って実力行使をすることも憚られる。

 

 この人達は善意でやっているのだろうし、気絶させるにしてもここはバイオハザード発生地点のど真ん中。

 

 気絶などすれば、生き残れる可能性は全く無くなるだろう。

 

 どうしようかとのび太は考えるが、そこで“何故か”建物の前に据え付けられていたマイクから声が聞こえる。

 

 

『やあ、野比のび太君。そして、英雄、クリス・レッドフィールド。ようこそ、私のテリトリーへ』

 

 

 それはのび太にとって忌々しい聞き覚えのある声だった。

 

 クリスは警戒しながらも、何が起こっているのか分からないと言った顔をしていたが、のび太には分かる。

 

 

「今さっきゾンビ達を放出したのはお前だな!」

 

 

『如何にも。だが、仕方ないだろう。あの程度のBOWの攻撃に耐えられない人間など、生きている価値はない』

 

 

「・・・なんだと?」

 

 

 透の言葉に対し、低い声でクリスは問い返す。

 

 ちなみにのび太と透は母国語である日本語を使っていたが、クリスも元アメリカ空軍所属であったし、日本語は朧気ながら理解できる。

 

 しかし、理解できたからこそ、当然の事ながらクリスは怒る。

 

 何故なら、さっきのゾンビやBOWの攻撃によって、クリスは部下を3人も失ったのだ。

 

 ましてや、クリスは人並み以上に仲間思いだ。

  

 怒るのも道理と言える。

 

 しかし、島田透にとってはそんなことはどうでも良い話だろう。

 

 彼にとって、凡人というのはなんの価値もないものなのだから。

 

 

『何故怒るのかね?君も普段から思っているだろう?凡人に生きる価値はないと』

 

 

「!お前!!」

 

 

『ふむ、どうしても言いたいことが有るなら、私の研究室まで来たまえ。そこの建物の入り口から入れる』

 

 

「・・・折角だが、遠慮しておこう。要救助者が居るのでな」

 

 

 クリスは一瞬怒るが、要救助者であるのび太の存在を思い出し、頭を冷やす。

 

 しかし、それすらも透にとっては想定済みのようだった。

 

 

『では、これを見たまえ』

 

 

 透がそう喋った直後、映像が映し出され、その映像にはピアーズら、残りのアルファチームの隊員8名が映っていた。

 

 

「! どういうつもりだ!!」

 

 

『どういうも何も、これから彼らを殺すのだよ。当たり前だろう?』

 

 

 あっさりとそう言う透に、クリスは唖然としながらもこう確信する。

 

 こいつはウェスカー以上の狂人だ、と。

 

 しかし、もしここに居ないかつてラクーンシティのバイオハザードを生き残ったクリスの妹であるクレア・レッドフィールドやレオン・S・ケネディが居たらこう思うだろう。

 

 こいつはウィリアム・バーキンと同類である、と。

 

 まあ、この場にはウィリアム・バーキンを知る者は居ないので、意味の無いことであったが。

 

 

「ピアーズ、急いでそこから離脱しろ!」

 

 

 クリスは慌てて通信をピアーズに向けて繋げ、危機を伝えようとする。

 

 しかし──

 

 

 

ガーーー

 

 

 

 そんな雑音が入り、通信は一切繋がらなかった。

 

 

『無駄だ。私が妨害電波を流しているからな』

 

 

「・・・くそっ!」

 

 

 クリスは通信機を思わず叩き付ける。

 

 しかし、そんなことをしてもはっきり言って無意味だ。

 

 何故なら、部下が人質に取られている状況には変わりなかったのだから。

 

 

『ふふっ、どうやら分かったようだね。では、招待に応じてくれ。以上だ』

 

 

 透はそう言うと、マイクと映像の電源を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇同日 カナダ オーセール 建物内

 

 クリスとのび太は建物内に入り、そこで見つけたエレベーターに乗って下へと降りるボタンを押した。

 

 

「しかし、あの男は何者だ?君を知っているようだったが?」

 

 

 クリスのそんな問いに、のび太はM4カービンの30発用STANAGマガジンをフル装填された物に交換しながら答える。

 

 

「おそらく、このバイオハザードを起こした張本人でしょう。島田透(トオル=シマダ)、と前に会った時に言っていましたよ。あの時はフローズンでしたが」

 

 

「フローズンだと?」

 

 

 クリスはその町の名前に聞き覚えがあった。

 

 約1年半前にバイオハザードによって消えたイギリスにある町。

 

 それだけならば、流石のクリスの記憶にも残らなかっただろうが、問題なのは生存者が全く居ないという点だった。

 

 それどころか、原因と思われる透の研究室が粉々に爆破され、資料が持ち去られた事で、新型のウィルスによるバイオハザードということ以外、何も分からない案件だったらしい。

 

 しかし、何故この少年があの町に居て、生き残ったのかは気になった。

 

 

「何故、君がフローズンに?」

 

 

「観光ですよ。家族と一緒にね」

 

 

「その家族は?」

 

 

「・・・」

 

 

 のび太は沈黙を以て答える。

 

 

「・・・そうか、悪いことを聞いたな」

 

 

「いえ」

 

 

「しかし、何故、保護を求めなかったんだ?」

 

 

「求めて、どうなるんです?」

 

 

 のび太はクリスを見上げながら、彼に対して光の無い目を向ける。

 

 

(この子は・・・)

 

 

 クリスはその目を見て、のび太の闇が深いという事を理解してしまった。

 

 

「ええ、確かに保護を求めれば身の安全は保証されるでしょう。たぶん、僕自身も叔父さんが引き取ってくれるでしょうし。でも、心の中はそうはいかない」

 

 

 だからこそ、のび太は復讐の道を選んだ。

 

 その根幹にあるのは『自分の心がスッキリしないから』。

 

 普通の人間からしてみれば、それだけか?と思えるような事だが、これはケースによっては重大な意味を持つことが多い。

 

 例えば、虐められている人間が居たとして、学校側が上手く対処できず、そのまま泣き寝入りという事態になってしまえば、虐められた当人の選ぶ道は精神的に追い詰めら、この世と自分に絶望するか、それとも逆に怒り暴力をその虐めた当人に向けて自分の気を晴らすかのどちらかでしかない。

 

 こういうのは現代の日本では大抵の場合は前者である。

 

 これは『暴力はいけないよ』という事無かれ気質がそうさせるのだが、それでも稀に後者の人間も居る。

 

 そして、のび太はその稀である後者の人間だった。

 

 ただそれだけの話である。

 

 もっとも、こんなことをフローズン・バイオハザード以前ののび太に言っても全然信じないだろう。

 

 何故なら、のび太は虐められっ子であり、常に誰かに劣等感を抱いていたのだから。

 

 しかし、幾度もの冒険を見ていれば分かる通り、のび太は一線を越えると、その内に秘められた凄まじい潜在能力を解放するのだ。

 

 

「だから、僕はあの男に復讐する道を選んだんですよ」

 

 

 のび太はそう言ったが、実を言うと、もう1つ理由があった。

 

 保護を求めた結果、もし自分の体の中のS─ウィルスの存在がバレれば人体実験送りにされるのではないか、そして、今後、自分の意思で生活を送れなくなるのではないかという疑念があったのだ。

 

 ちなみにこののび太の懸念は全くもって正しかった。

 

 実際に13年前のラクーンシティ事件で起きたバイオハザードでは、G─ウィルスを宿した12歳の少女であるシェリー・バーキンが事件後にアメリカ合衆国によって保護という名の軟禁、そして、人体実験が行われたのだから。

 

 ついでに言えば、2年前にクリスがウェスカーを倒したことによってその保護は必要なくなったが、自由の身にするには合衆国のエージェントにならなければならないという条件がアメリカ政府より出されている。

 

 もっとも、このあまりに鬼畜すぎる現実をのび太は知らないし、知っていたとしたら益々自分がS─ウィルス完全適合者であるという事は言わないだろう。

 

 そして、今もクリスにそこまで言うつもりはのび太にはない。

 

 だが、クリスはそれで納得したようだった。

 

 

「そうか。辛かったな」

 

 

 そして、クリスがそう言った直後、エレベーターは目的の場所へと着いた。




今思ったんだけど、シェリー・バーキンの境遇ってあまりにも厳しすぎないですか?折角解放されたと思ったら、完全に解放される条件が合衆国のエージェントになることとか。シェリー自身がエージェントになりたいという心境だから良かったものの、なりたくないと思っていたらどうだったのやら。

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