その日、私の住んでいたエルフの里はアイルラーゼン帝国の軍人によって滅ぼされました。これまでアイルラーゼン帝国とは友好的な関係を築いていましたが、前皇帝が崩御した後に新たに即位した現在の皇帝が、大の亜人嫌いだったそうです。
街にいた亜人は捕らえられ、奴隷にされたり処刑されたりしていました。そしてここエルフの里も同様にアイルラーゼン帝国に攻められました。私の父が中心となって里の戦える人と共に反抗していましたが、戦況は著しくありませんでした。
帝国の兵が使っていた魔導銃や魔導航空と呼ばれる新兵器により、次々と殺されてしまいました。私は母と共に里の人たちと逃げていました。私が最後に父から聞いた言葉がこうです。
「よいかアーデ!いずれ我らエルフ、いや、我ら亜人を救ってくださるお方が現れる!その時まで生き延びるのだ!」
父の言っていたことはハイエルフだけに伝わる伝承のことです。伝承の内容は実にシンプルな内容です。
『世界二光満チル時、我ラノ救世主ガ現レル。カノ者ヲ讃エヨ。』
私達は戦火から逃れるために人類未踏の地、キュクロ大森林を目指しました。しかし、帝国の軍人はしつこく私たちを追いかけ続け、逃げていたエルフがどんどん減っていきます。
逃げている途中で私の母も亡くなりました。私を庇って亡くなったのです。
結局、帝国の軍人達からの追撃が無くなり逃げ切った時には、僅か200名のエルフとたった1人のハイエルフだけとなりました。
これまでキュクロ大森林について触れてきませんでしたが、説明しておきましょう。このキュクロ大森林がなぜ人類未踏の地なのか、それは2つの原因があります。
1つ目は魔物が奥に行けば行くほど強くなるからです。これはダンジョンと同じ原理ですが、強さが違います。キュクロ大森林の浅い場所でさえレベル30を超える魔物がウジャウジャといるのです。噂ではキュクロ大森林の奥の方では、伝説級の魔物も存在するとか…。
2つ目がキュクロ大森林特有の異常気象です。このキュクロ大森林で最も厄介な気象が霧です。霧が出ると1メートル先も見えなくなるほどの霧で、方向感覚も失ってしまいます。しかもこの霧の中で魔物は正確に攻撃を仕掛けてくるのでとても厄介です。他にも豪雪があったり、豪雨があったり魔力だまりがあったりと危険です。
こんな危険な場所に私達はやってきました。ここに新たにエルフの村を作ることにします。私達は悲しみに暮れる暇もなく、家を建てます。家を建て終わると村の防衛です。
生き残るためには魔物の襲撃を退かねばなりません。ここで活躍したのがエルフとドワーフのハーフである、ガンテツさんでした。彼は里にいた頃は鉱石を集める変人扱いされていましたが、彼のおかげで武器を作ったり防具を製作してくれたりしてくれました。
私は魔物との戦闘に積極的に参加していました。私は力が欲しい。父と母を殺した帝国の人を殺せるほどの力が欲しかった。だから私は魔物と戦い続けました。
ある時は全身に魔物の返り血を浴びて帰ってきたり、またある時は右腕が皮一枚で繋がっていた時もありました。村のみんなにはたくさんの心配をかけました。でもその甲斐あってか村で1番の実力者になりました。
それから月日は流れ私達がこの地に来てから7年後のことでした。その日もいつものように村で過ごしていました。魔物を狩り村に向けて運んでいる時でした。
世界に光が満ちたのです。
私は村に何かがあったのではと思い、運んでいた魔物を一緒に狩りに行っていたエルフの方々に押し付け、全速力で村に戻りました。幸い村に異常はありませんでした。それでは先程の光はなんだったのでしょうか?
すぐさま村のまとめ役の5人を呼んで会議を始めます。
「…ひとまずアーデ様が無事で何よりです。」
「それにしてもあの光はなんだったんでしょうか?」
「わからない。この地に来て7年間、1度も起こったことのない現象だ。」
「村周辺の警戒を行うべきですな。」
「そうしたほうがいいだろう。」
「アーデ様はどう思われますか?」
「最終的な決定権はアーデ様にありますぞ。」
「………」
「アーデ様?」
「……私に1つだけ、心当たりがあります。」
「なんと!」
「本当ですかアーデ様!?」
「はい、今から話すことは他言しないようお願いします。これはハイエルフにだけ伝わる伝承です。『世界二光満チル時、我ラノ救世主ガ現レル。カノ者ヲ讃エヨ。』と。あの光が世界二光満チル時の光だとするならば、私たちの救世主が現れたということです。」
「「「「「……」」」」」
皆さんは無言になってしまいました。無理もありません。突然このような話をされても信じろというほうが難しいのです。
「アーデ様、明日は村の者総出で周辺を探索しましょう。」
「え…?」
「我々はあなた様を信頼しております。」
「当然今の話も信じますとも!」
「皆さん…。」
「アーデ様、あなたはあなたが思っているよりずっと皆から信頼されているのですよ。7年前、アーデ様が村を作ろうと言い出された時からずっとです。」
「ありがとうございます。それでは明日は周辺の探索を行いましょう。」
「「「「「はい!」」」」」
翌日、昨夜話し合った通り村の者総出で周辺を探索することになりました。村の者にも伝承のことについて話しました。今日の探索に向けてのやる気が一層高まったような気がしました。
基本的に私たちの行動範囲は村から10キロの距離まででしたが、今日は更に奥へと進んでみました。しかし森に変わったところありませんでした。
なんの結果も得られずに1日が終わってしまいました。
更に翌日、この日も周辺の探索に行こうという話になっていましたが、探索に行くことができませんでした。なぜなら、忌々しいものがやってきたからです。
空を飛んでいる鉄の塊、確か魔導航空機と呼ばれるものだったはずです。ですがなぜここまでやってきたのでしょうか?帝国がここまでくるメリットはそんなにないはずなのに…。もしかしたら帝国でも光が見えたのでしょうか?そう考えると辻褄が合います。恐らく光の調査のためにやってきたのでしょう。ですがここ周辺には光の痕跡はありません。早く帰ってもらいたいものです。
ですがその望みが叶うことはありませんでした。魔導航空機は遥か上空を飛んでいます。見つけるなというほうが難しいことでしょう。8機の魔導航空機がこちらに向かってきます。
あのようにはるか上空を飛ばれては、私の主武器である弓は届きません。これでは7年前と全く一緒ではないですか…。
「急いで森に逃げてください!」
「アーデ様もお早く!」
「いいえ、私はここに残ります!」
「危険です!早く逃げてください!」
「一矢報いたいのですよ!このままでは7年前と一緒です!せめて1機だけでも落としてみせます!」
「アーデ様…。」
もう逃げ続けるのは嫌です。私が何のためにこの地で魔物と戦っていたと思っているんですか。魔導航空機は魔弾を落とす際に高度を下げるはずです。その時を狙えば私の弓を届かせることができます!
「…わかりました。ただし、弓を射たらすぐに逃げるのですぞ?」
「私のわがままを聞いてくれてありがとうございます。」
「アーデ様の無茶振りもいまに始まったことじゃないしな!」
「ははっ!全くもってその通りだ!」
本当にありがとうございます。
では、派手にやってやりましょう!私の全身全霊を込めて撃ってやります!とはいえあまり時間がないのも事実。さっさとやります。
弓を引きながら風魔法と精霊魔法の同時行使。これはかなり神経を使うので連発はできません。文字通り私の全身全霊です。風の精霊も頑張ってくれています。
「おぉ…。」
「これが…。」
「アーデ様の本気…。」
……今です!
「いっけえええぇぇぇぇぇ!!」
パシュン!ガンッ!
派手な音を立てて、丁度高度を下げてきた真ん中の機体に向かって、矢は飛んで行き命中しましたが撃墜することはできませんでした。
敵機に魔弾を落とされ家々が燃えていきます。また私は守れなかった。あれだけの啖呵を切ったというのに傷1つつけられず、私たちの家が燃えていくのをただみているだけでした。
世界はこんなにも残酷だったのですか…。7年間魔物とひたすら戦い力をつけたと思っていたのに、これでも足りないというのですか!
助けてくださいよ…。私達はあとどれ程の時間を待てば良いのですか…?
「急いでアーデ様を抱えて逃げるぞ!」
「絶対に生き延びるんだ!」
どうして貴方達は立ち上がれるのですか…?
残っていた方のうちの1人が私を抱えて森に逃げてくれています。そして私が諦めかけていたその時でした。
唐突に魔導航空機が制御を失い墜落し始めたのです。
「何が…起こっているの…?」
「墜落するぞー!」
全ての魔導航空機が落ちるのにあまり時間はかかりませんでした。そして幸いなことに墜落地点はここからかなり離れた場所だったため、私達に被害は及びませんでした。
そして全ての魔導航空機が落ちた時、そ・れ・が姿を表しました。
全ての闇を消し去るようなそんなオーラを感じさせる龍でした。その圧倒的な存在感に、私は目を奪われました。
これが私と神龍様の出会いでした。