空が割れた日から数日、特に何もなかった。
あれが異常事態なのは理解できているが、被害はなかったので安心だ。
今日は1日休みにしようということで村中がまったりモードだ。
これは俺が言い出したことで目的はアーデに休んでもらうためだ。
アーデの仕事量は他の人よりも遥かに多い。
朝からまず朝食を作る。そして皆んなが食べ終わると食器を洗い、午前の仕事に入る。
主な仕事は村の問題の解決をすること。
更にお昼には昼食を作り、午後にはまた仕事に戻る。
夜には夕食を作って、洗濯や掃除をして就寝。
これがアーデの1日だ。
1日中働いているため休みがないので強制的に休みを取らせるのだ。
「あの……レーベ様。朝食なら私が作りますので…。」
「いや、アーデは休んでおけ。アーデは働きすぎだ。」
今は俺が朝食を作っている。前世でもよく料理をしていたので慣れたものだ。
朝食のメニューはご飯に味噌汁、それから玉子焼きだ。もちろん、材料は光力で想像した。
「いつもアーデが作ってくれているからな、ほらできたぞ。」
皿に盛り付けてテーブルの上に置いた。もちろん4人分だ。
「うわー!美味しそう!」
「お兄様、お料理できたのですね。少し意外ですわ。」
「レーベ様の手料理が食べられるなんて…。嬉しいです…!」
アーデが何か言っていたような気もするが、今は食欲が優先だ。
「それにしてもこの黄色い食べ物はなんでしょう?」
よくぞ聞いてくれた、アーデ。
「これはな、玉子焼きと言ってな自分で言うのなんだが、めちゃくちゃうまいぞ。砂糖の配分の匙加減も研究に研究を重ねて作り上げた逸品なんだよ。俺の自慢の一品だ。」
よくこれをあの子にも食べさせていたなぁ…。元気にしているだろうか…。
「玉子焼きというのですか…。この綺麗な形を崩すのも勿体無いですね…。」
「とりあえず食ってみろ。」
「では、頂きますね。」
「いっただっきまーす!!」
「頂きますわ。」
頂きます。やっぱり食事の前にはこれをしないとな。この文化も俺が村中に教え回った。その結果、この村では食事の前には頂きますをする習慣が根付いたのだ。
「あっ!甘くて美味しい!」
「これは美味しいですわね!」
「ご主人様!おかわり!」
俺の作った玉子焼きはとても人気だった。やはりこうやって喜んでもらえるのは嬉しいな。
「夜は俺とレイラが作る予定だから楽しみにしておけよ。」
「お昼は私わたくしが作りますわ。」
「レーベ様…レイラ様…。ありがとうございます。今日は精一杯お休みさせていただきます。」
そうそう、アーデは働きすぎなんだよ。
「お外で遊んできてもいい!?」
「おう、遊んでこい。お昼には戻ってこいよー。」
「はーい!」
「それレーベ様が言います?」
「うっ…。」
それから俺たちは家でくつろいでいた。
トランプ(光力で創造した)で遊んだり、雑談をしたりゆったりと過ごすことができた。
レイラが作った昼食を食べ、ゆっくりとしている時だった。
ガリガリガリガリガリィィ!!
突如、村中に嫌な音が響いた。
この音は村に張ってある結界に何者かが攻撃してきた音だ。
ガリガリガリガリガリィィ!!
俺の張った結界は特殊なもので既存のものではない。
俺が改良した結界だ。
効果は悪意あるものの侵入、又は攻撃を通さなくすること。
そして攻撃に対しては物理攻撃の場合は衝撃吸収で攻撃力をなくし、魔法を使った攻撃は結界に当たった瞬間魔力が霧散するように作ってある。
更にこの結界は俺の魔力がある限り、消えることはない。
なので当分の間は村の中にいれば無事なのだ。
「お兄様!ハクちゃんが…!」
そうだった。ハクはお昼を食べた後またすぐに遊びに行ったんだった。
「ハクの行き先に心当たりは!?」
「恐らく森を走り回ってるかと…。暇なときはいつもダイナウルフと一緒に森を走り回っていますから。ハクちゃんたちが走っているコースは覚えているので、私が案内します!」
「頼んだ、アーデ!」
今日はアーデに休んでもらう予定だったのに、まさか敵が襲ってくるなんて。
運が悪いぜ。
☆
「はあっ…はあっ…。」
「あははっ!あなた可愛いわね!私の眷属にしてあげるわぁ!」
女がハクに向かって腕を振ると、ブワッと何かが吹き出し進路上にあったものを飲み込んでいった。
そして運悪く女の攻撃に当たった魔物は、全身の血が吸い取られ干からびていた。
「アオォォォォォォン!!!」
ハクの叫びに答え続々とダイナウルフが集まってくる。
この叫びはハクのスキルで【狼王の咆哮】と呼び最近身につけたスキルだ。
周囲にいるウルフ系の魔物を呼び寄せ、一時的に自分の配下になってもらうスキルだ。
「あはぁ…。こーんなにいっぱい…。ますます気に入っちゃうわぁ!」
「ガウッ!」
囲んでいたダイナウルフ達が一斉に女へと飛びかかっていく。
しかし女は余裕の笑みを浮かばせてい。
ダイナウルフ達の爪が命中する寸前、女の体が消え、周囲には大量の蝙蝠が浮かび、飛びかかってきたダイナウルフ達を襲った。
飛びかかったダイナウルフ達は倒され、大量にいた蝙蝠はまた1つとなって女の姿となった。
「ご馳走さま。」
ペロリと女は妖艶に唇を舐めた。
(こんな危ない人を絶対に村に連れて行っちゃダメだよ!どうしよう…どうしよう!)
「あらぁ…?もうお仲間は呼ばなくてもいいの?クスクス…。」
(ご主人様はきっとこの事に気付いているはず…。時間を稼いでいればご主人様がくるはず…!)
「うふふ…。余所見なんてつれないわねぇ…。」
(わっ!?)
女は瞬時にハクの背後を取り、横薙ぎに腕をふるった。
だがハクはギリギリのところでそれを回避することができた。
そこから怒涛の肉弾戦が始まった。
女はハクがギリギリ避けられるか避けれないスピードで攻撃し、ハクをいたぶり始めたのだ。
ハクはなんとか反撃しようとするものの、相手の隙がなく反撃することができなかった。
次第に女の攻撃が当たるようになっていき、ハクは大量の傷を受けてしまった。
「ギャンッ!!」
遂に女の回し蹴りが当たってしまった。
「もう、終わりかしらぁ?」
(クッ…。ご主人様…ごめんなさい…。)
「さぁ、私と1つになりなさい…!」
ヒュンッ!
ハクに伸ばしかけていた手に矢が刺さっていた。
「あら…?」
「そこまでだ。」
女が後ろを振り向くとそこには今回の任務の対象がいた。
☆
戦闘音が聞こえてきたからそこに行ってみれば、ハクと女がいた。
しかもハクは全身血だらけで今にも倒れそうだ。
「アーデはハクを村に連れて行ってくれ。」
「わかりました。」
「レイラ。」
「はい、お兄様。」
レイラは腕を女の方へ向けるとこう呟いた。
「【咲キ誇レ常夜ノ花】。」
女の周りに黒い花が咲き、そして女を拘束した。
拘束している間にハクは擬人化し、アーデに助けられて村へと向かった。
「おい、女。よくもハクをいじめてくれたな。目的はなんだ?」
「うふふふ…。あなた強いわね。あなたが気に入られるのもわかるわぁ。こんなにもオーラが違うんだもの。」
「何を言っている?」
「私は、強欲の魔人アヴァツィア。七大魔人の1人よ。」
強欲の魔人?七大魔人?なんだそれ?
まぁいい。そんなことより鑑定だ。
名前 アヴァツィア
種族 ヴァンパイア・ロード
Lv87
筋力 8900
耐久 5000
俊敏 10000
魔力 15000
スキル 【強欲】【吸血】【超回復】【弱点克服】【吸血鬼の女王】【闇魔法】【霧状化】【コウモリ化】【飛翔】【剣術】【格闘術】【縮地】【状態異常耐性】【限界突破オーバーリミット】【火魔法】【風魔法】【魔力操作】【気配察知】【危険察知】【魔力察知】【忍び足】【禁忌魔法:烈火】【韋駄天】【立体起動】【】
【強欲】…対象から3つのスキルをランダムに強奪できる。更にステータスも3割を強奪可能。スキルは元に戻すか、スキルを持っていた対象を殺すことで自分のものとし、再度強奪できるようになる。
【禁忌魔法:烈火】…自分の保有する全ての魔力を使って発動する魔法。使用者と指定された範囲の全てを焼き尽くす。魔力を持っていれば持っているほど範囲が広がる。
ヴァンパイア…。つまり吸血鬼の王…いや、女王だったのか。
「あなたを我等の主の元に連れて行くわぁ。それが命令、それが主の望み。」
突然口調が変わったな。大丈夫か、こいつ。
「さぁ、私と一緒に来なさい。」
「え、やだ。」
そう答えると同時に俺とレイラはアヴァツィアに向かって拳を振るっていた。
しかしアヴァツィアは花の拘束を瞬時に解くと軽々と避けて行った。
「うふふ…。さっきのワンちゃんを殺し損ねたのは痛いはね。仕方ないわ。そっちの女の方のを貰うとするわぁ。」
「ッ!?」
「レイラ!?」
よく見てみるとレイラの足元には1匹のコウモリが噛み付いていた。
「はい、まずは1つ目よぉ。」
「なっ!?私わたくしの【徒手空拳】が…!」
名前 レイラ(シャルテン・ラーマ・ドラグイユ)
種族 影刃龍
Lv 85
筋力 20000(50000)
耐久 10000(30000)
俊敏 10000(27000)
魔力 10000(15000)
影力 110000
スキル 【影刃】【影の王】【夜の王】【闇の導き】【鑑定】【影魔法】【闇魔法】【空間魔法】【全魔法耐性】【全状態異常耐性】【不老不死】【擬人化】【魔力操作】【魔力感知】【気配察知】【怪力】【筋力強化(極大)】【金剛力】【防御無視】
名前 アヴァツィア
種族 ヴァンパイア・ロード
Lv87
筋力 8900
耐久 5000
俊敏 10000
魔力 15000
スキル 【強欲】【吸血】【超回復】【弱点克服】【吸血鬼の女王】【闇魔法】【霧状化】【コウモリ化】【飛翔】【剣術】【格闘術】【縮地】【状態異常耐性】【限界突破オーバーリミット】【火魔法】【風魔法】【魔力操作】【気配察知】【危険察知】【魔力察知】【忍び足】【禁忌魔法:烈火】【韋駄天】【立体起動】【徒手空拳】
確かにレイラの【徒手空拳】が無くなりアヴァツィアのスキル欄に載っていた。
恐らく【強欲】の発動方法は対象の身体に触れる必要があるのだろう。
ならば…!
「レイラ!遠距離で戦え!恐らく奴は身体に触れなければスキルを奪えないはずだ!」
「もうバレちゃった?なかなかやるわね。でも、果たしてそれは正解かしら?」
「なに!?」
突然アヴァツィアの身体は消えてしまった。否、霧となってしまった。
周囲に立ち込める霧は、俺たちを囲むように広がって行く。
『あはははっ!それじゃあステータスも頂くとするわぁ!』
「させるか!【エアロバースト】!」
中級の風魔法で霧を吹き飛ばす。
「【ダークプリズン】!」
そして風魔法で集めた霧を闇の檻に封じ込めた。
バリィン!!
しかし闇の檻もすぐに破壊されてしまった。
「ふぅ…。そろそろ終わりにしましょうか。」
そう言った途端アヴァツィアの姿がブレた。そして次の瞬間に、レイラが吹っ飛ばされていた。
「余所見はダメよぉ?」
「チッ…。」
更に俺の背後に回ると回し蹴りを繰り出してきた。
それをなんとか躱すものの追撃により防戦一方となってしまった。
アヴァツィアのスピードがさっきよりも速くなってきている。
ハクのスキル【韋駄天】の効果だな。
「【アブソリュートゼロ】!」
水魔法の中でも最上級の魔法。
超広範囲攻撃ならば避けきれまい。
パキパキ…パキーン!
「無駄ね。私に状態異常は効かないの。」
「おいおい……マジかよ。」
というかアヴァツィアのスキル欄に【状態異常耐性】があったのを忘れていた。
「うーん、それだけの力を有していながら戦闘が雑ね。はっきり言ってあなた弱いわね。ちゃんと自分の力を発揮できていないわ。こんな奴を気にいるなんて主は何を考えているのかしらねぇ。まぁ、いいわ……あなた、結構頑丈みたいだしあれを使っても大丈夫そうね。頑張って生き残って見せてね?」
そう言った瞬間、アヴァツィアから莫大な魔力が発せられた。
これはまずい。
下手をすれば村にまで届くだろう魔法だ。
どうにかして突破口を見つけなければならない…!
…
……
………
いやちょっと待て。
俺は1つ重大なことを忘れていた。忘れてはいけないことを忘れていた。
俺は、龍だ。
前世は人間だったが今は、龍なのだ。
なぜ、人間の姿で戦わないといけない?
「ハハッ。……ほんと、笑えてくるぜ。」
「……?何がおかしいのかしらぁ?あなたの大切な村ごと焼かれるというのに。」
「いやいや、俺の馬鹿さ加減に呆れていただけだ。それにお前の魔法は村どころか、俺にすら届かない。」
「ふんっ!何を今更言っているのかしら?強がりを見せたかったらもっと速く見せるべきだったわね!喰らえ!【禁忌魔法:烈火】!」
「【四重結界】!」
アヴァツィアの魔法の発動と同時に、アヴァツィアを囲むように結界を発動させた。
だがすぐに結界が破られるのは目に見えていることだ。
俺はその間に龍の姿、元の姿に戻り更に結界を発動させて時間を稼ぐ。
そしてーーーーー
「グルオォォォォォォォオオオオオオオ!!!!」
【龍の咆哮】
莫大な音で対象を動けなくする攻撃。
本来の使い方は動きを止めるためだが今回は別の目的で使った。
それは、魔法を使う際は一定以上の精神力が必要だ。つまり、とても焦っている時には発動せずファンブルとなる。そして持続型の魔法の場合は発動中にイレギュラーを起こせば途中でファンブルする。
この【龍の咆哮】により、アヴァツィアは精神力を乱され、途中で魔法を中断させられた。
「なっ!?ドッドラゴン!?そんなバカな!ドラゴンは絶滅したはずよ!」
俺は全身に【光刃】を纏った。
こうすることで防御力や攻撃力を向上することができる。
俺は【空の王】を使って空を飛び、更に上から【光刃】で大量に生成した光剣をアヴァツィアに嗾ける。
「このっ…!」
アヴァツィアはヴァンパイア特有の羽を広げ、飛び立ちながら器用に避けている。しかし、
『アヴァツィアの【飛翔】を禁止する。』
途端、アヴァツィアの羽が機能しなくなり、地面に落下していく。
「どうして!?なんで飛べないの!?……ガッ!」
落下する途中光剣がアヴァツィアの腹部へと突き刺さる。
ドサッ!
「どう…して…?スキルを…封印するなんて…聞いたこと…ない…わ。」
『さぁな、お前に教える義理はなかろう。』
「あなたは…一体…なに…ものなの…?」
『俺は、ただの龍だ。…そんなことより色々と話せ。主とやらは誰なんだ?』
「ふふふ…。かのお方は…世界…の…破滅者…よ。我等の…悲願を果たすための……希望なのよ!」
アヴァツィアは俺に向けて腕を振るっていた。
今までのスピードとは桁違いの速さで、だ。
それにアヴァツィアの身体からは、青白いものが迸っている。
「あはははっ!油断したわね!その油断が命取りなガハッ!?」
アヴァツィアには3本の光剣が刺さっていた。
もちろんこうなることは予想していた。
【超回復】である程度回復し、相手が油断しているうちに致命傷を負わせる。
作戦としては効果的だ。
俺は最初から俺の背後に光剣を創り出し待機させていた。
そして俺に一撃を入れ、油断しているであろう時に光剣を射出したのだ。
アヴァツィアはこれにより完全に死亡した。
そして灰となって消えていった。
☆
俺はその後気絶していたレイラを連れて村に帰った。
「戦闘の途中で気絶してしまうなんて…情けないですわ。」
レイラが起きた時にいっていた言葉だ。
俺たちが村に戻ると村は歓声の嵐が巻き起こっていた。
村人が次々と『ありがとう』という言葉を贈ってくれた。
感謝されるのって結構いいものだな。俺はとても嬉しくなった。
「レーベ様!レイラ様!ご無事でしたか!」
「アーデか。ハクは大丈夫か?」
「はい、回復魔法で一通り怪我は直しましたが、安静のためにベッドで横になっています。」
「そうか…。無事だったか。あとで見舞いに行くとしよう。」
「そうしてあげてください。」
強欲の魔人アヴァツィア。
彼女はとても強かった。
そして彼女のいっていた主と呼ばれる存在。
分からないことだらけだ。
でも確かに言えること、それは、世界の危機。
だから、俺はーーー
「アーデ。」
「なんでしょうか?」
「俺は決めたよ。人間の街に行く。