雛鳥と籠の鷹   作:筆折ルマンド

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前半オリ主の自分語り。
後半可奈美視点

独白の分量に悩む今日この頃。

アンケート協力、誤字報告
ありがとうございました。


剣術バカ2人〈衛藤可奈美〉

 負けた。

 

 可奈美に

 

 言い訳のしようが無いほど完璧に。

 

 敗因は分かっている。

 突き技に拘りすぎた事。

 そして、調子が悪いにも関わらず、手加減などした事だ。

 

 最後の攻防、俺は可奈美の剣を受け流し、可奈美の上体が泳いだ僅かな隙に左足剣(三段突き)をねじ込んだ。

 タイミングは完璧だった。

 

 だが負けた。

 

 そもそも、この技(三段突き)は、刹那の間に喉、胸、丹田を正確に狙った三種の突きを相手に連続して叩き込む正に()()技。

 当然、竹刀でも直撃すれば命に関わる。

 こんな技、立ち合いで使うような代物ではないのだ。

 

 しかし、俺はそれを分かった上で使ってしまった。

 理由は簡単で、恥ずかしい話だが、俺はその時、勝ちを確信していて、俗に言う魅せプに走ってしまったのだ。

 

 でなければ、なんで次の一撃で終わるのに、わざわざ3段突きを使ったの、とか、普通に袈裟斬りで良かったじゃないかとか、色々と問題点が湯水のごとく。ああ、頭痛い。

 

 当然の配慮だが、俺は可奈美が大怪我をしないよう、狙いを可奈美の右肩にずらして左足剣を繰り出した。

 

 この狙いをズラした事。そしてそもそも使う必要も無い突き技で勝負を決めに行った事。その判断……というか油断が、可奈美に付け入る隙を与えた。

 

 身体の中心を狙っていたならいざ知らず、身体の端を狙ったことによって身を翻すだけで俺の左足剣は、いつかの焼き増しのように簡単に躱された。

 そして、俺は自信を持って左足剣を繰り出していたが故に、避けられた場合を考えず、技を変化させる余地を残さず全力をもって突きを放っていた。結果、躱された際に盛大に隙を晒した。

 身体が伸びきった瞬間を的確に可奈美に狙われ、硬直した身体ではどうすることも出来ず、胴を薙がれた。

 

 ────

 

「恭侍さんがいつも通り本気を出していれば、私に負けること無かったのに」

 

 あぁ、分かってる。

 今回の立ち合いの可奈美は絶好調。ここ二週間で最強だった。

 

 それでも、俺の方が強かった。

 

 剣の知識も技も膂力も、可奈美に負ける要素は無かった。

 油断しなければ、最善手を選んでいれば──

 

 それでも

「俺は本気だった」

 それが尚更悔しい。なによりも油断に油断を重ね、勝てる試合を取りこぼした自分自身に腹が立つ。

 その時、自身に縛りを課して、縛りの範疇だけの全力で戦う事を選んだのも、それを貫いたのも自分だったのだから。

 

 たらればなど無い。あの瞬間の俺に選択肢など思い浮かばなかった。慢心し、己の判断を迷う事すら忘れていた。

()()()()()()()が思ったより上手くいって浮かれていたんだ。

 

 この敗北は、俺の傲りと迷いと油断のトリプル役満による自業自得に帰結する。

 

 ……

 

 可奈美が胡座をかいてうな垂れる俺の肩に跳び箱に乗るように手を掛ける。

 

「ね、恭侍さん。恭侍さんは何を悩んでたの?」

 可奈美の純粋な瞳、言葉が眩しく俺の頭に突き刺さる。

 

 正直言って、俺の悩みは大した事ではないのだ。ましてや年下の女の子に聞かせるようなものじゃない。

 

 できれば黙っておきたい。……だけど約束を破るわけにもいかない──か。

 

「……剣を」

 

「剣?」

 

「自分の剣の道を選びかねていた。我流に成り果ててでも強さを目指すか、それとも師匠の跡を継ぐために天然理心流だけを鍛えるか。そのどちらを選ぶか悩んでいた」

 

 この二週間、可奈美は目に見える形で沢山のモノを得たが、俺の方も、様々な流派の剣を見て、模倣して、理解して一つの答えを得た。

 

 まぁ、実の所、薄々気付いていたが、どこか認める気になれず、なぁなぁにして誤魔化していたのだが、この二週間でようやくはっきりと知覚した。

 

 俺のクセ。俺の剣士としての適性。

 

 俺は、積極的に斬り結ぶよりも、後の先を取る戦法の方が得意だった。

 

 今の今まで自分の得意分野が分からなかったなど、勉強なら言語道断なところなのだが、言い訳をさせて欲しい。

 俺は今まで自分と実力が拮抗、又はそれ以上の相手と立ち合う事が殆どで、それ故に後手に回る事を嫌って攻め手に回ることが多かった。

 立ち合いで不意に受けに回って上手く返せた事があっても、それは単純に俺の腕が良かっただけだと思っていたのだ。

 

 けど、この道場巡りで、何十人もの年下の剣士の攻めを外部コーチのような形で受けてみて、受け手として剣を捌いてみて、受け太刀が恐ろしいほど手によく馴染むことに気がついた。

 身体までもが、初めから知っているかのように躱し受け流し、太刀を返すことができた。

 ガツガツと剣をぶつけるのではなく、相手の動きを見切る方に楽しさを感じた。

 そして、俺が攻めの時に好んで使う剣、自分より格上の相手に対抗するために見出した「無形の剣」は固定された型を持たないが故に、必要なのは経験だけ。天然理心流に拘る必要はない。

 

 ……

 

 俺は、天然理心流では全力を発揮できないようになっていた。

 

 俺は……ただ純粋に剣の腕を求めるのなら、天然理心流を捨てるべきなんだろう。

 

「……でも、俺は師匠の弟子で居たいんだ」

 天然理心流は現在二つの派閥に分かれている。

 刀使用に簡易化、剣術特化させた女流と、師匠(ジジイ)が当主として座する源流だ。

 源流は剣術に加え、柔術、棒術を教える総合武術としての面を色濃く残している。故に人気が無い。

 萎びた爺と日がな一日、何種類もの稽古をするなど、並の人間には耐えられないだろう。

 その点、女流なら剣術だけだし、女の子はいっぱい居るしと、まぁ、その──自ずと人気に差が出るのはしょうがない。

 

 師匠もその事は理解していて、息子が早逝してしまい正統な血筋が途絶えた源流の引き継ぎは、既に免許皆伝した元門下生の誰かに源流を移すと、源流はそれで十分だと師匠は言っていた。所詮、権威だけの源流など肩書きさえ残ってさえいれば良いとさえ言っていた。

 ……

 それを嫌だと思った自分が居た。

 どうせ血の繋がりのない人間に源流の名が移されるなら、俺が欲しいと思った。

 

 どこぞの誰かが昔とった杵に、天然理心流源流という餅を与える気にはなれなかった。師匠の剣を継ぐのは俺だと言いたかった。

 

 ……だけど

 

 そう、ここでまた、『だけど』だ。

 

 相入れない二心を抱いて、片方を離せない自分が嫌になる。

 天然理心流の看板を継ぎたいという想いは二番めで、

 

 それは俺の一番の望みと両立できない。

 

 ……

 

 俺は強くなりたいのだ。

 

 誰よりも強くてカッコいい剣士になりたいのだ。

 

 今のままでも俺は十分強い。成長して身体が出来あがれば、それだけで、学生最強から日本最強になれるだろう。

 

 だけど

 もっと、もっと強くなりたかった。

 

 先の言葉には全て、*刀使を除いて。の注釈が付く。

 日本における個人として最強なのは刀使だ。刀使の最高峰ともなれば、銃を持った人間の集団にすら容易く勝てる。

 羨ましかった。そんな風になりたかった。

 いや、馬鹿な話だが、俺はそれよりも更に強くなりたかった。

 

 刀使すら守れるそんなヒーローに憧れているのだ。俺は。

 

「へぇ、それは難しい問題だね」

 

「あぁ。本当に難しい」

 本能と理性の選択。俺にとっては究極の二択だ。

 小さい頃から、業のように追い求めて来た夢と、生きてきた中で見つけた手に届く範囲にある望み。

 

 どちらを取るべきか、自分の心なのに決められない。

 

 可奈美が俺の肩を突いていた両手を曲げて俺の背中にのしかかる。

 

 振り向くと、可奈美が笑っていた。

 しかしその笑みはどこか可笑しそうに、面白そうにしていて、真っ直ぐ俺を見つめている。

 

 可奈美の腕がしゅるりと俺の首に絡む。おぶさるように可奈美が俺の背中に抱きつく。可奈美の腕に力が通り俺の身体を淡く抱きしめる。

 

 慰めているつもりか? 生憎だが、この悩みに可奈美ができる事はない。自分自身で決めなければならない事だしな。

 

 そんな俺の想いを知ってか知らずか、耳元に可奈美の顔が寄せられる。近い、吐息が聞こえる。

 

 細い、軽い、柔らかい。なにより甘い香りが。

 

 恥ずかしさがこみ上げる。ヤバイ平常心を

 

 そっと耳に柔らかいものが触れた。

「でも……さっきの恭侍さん、今までで一番弱かったよ……?」

 

 ア゛? 

 

 ──────

 

 一瞬意識が飛んで、いつの間にか可奈美が目の前に立っていた。

 そっと頰を撫でるように可奈美の両手が俺の両頬を這う。

 

 可奈美が にへら と、とろけるような笑みを浮かべていた。

 

「今、どう思った?」

 どろりと深い闇の底みたいな瞳が俺を吞む。

 

「義理とか恩とか吹っ飛んで、最後まで何が残ったの?」

 まつ毛が触れ合うぐらい。瞳がひっつきそうなぐらい可奈美が俺を間近で見つめてくる。

 

「……ハッ」

 この子はどうやら俺が思っていたよりずっと()()()だったらしい。

 

 あの一言で、あの一瞬で、俺の理性は焼き切れた。

 剣術一筋の己に、確固たる寄る辺が欲しいという小賢しい考えは頭からかき消え、残ったのは原初の願望。

 

『強くなりたい』

 

「大丈夫だよ。恭侍さんなら、天然理心流も3年も有れば完璧に使えるようにやるよ」

 可奈美が励ますように言った。

 腹が立った。

 

 3年だと? 

 ふざけるな。そんな時間があればいったいどれほど剣の道を深められると思っているんだ。一流派()()にそんな拘ってられるか。

 

 思わず可奈美を怒気を込めて睨みつけると、俺がハッと正気に戻るより先に、可奈美がいやらしく広角を上げた。

 

 唖然

 

 今……俺は何を考えて

 

「足りないんだ」

 にこにこと、愉しそうに

 にやにやと、いやらしく、

 にたにたと、意地悪く、

 嗤った。

 

 喜色満面。

 

 3年も、待ってられないでしょ? 

 

 ……当たり前だ

 

 もっと、強くなりたいでしょ? 

 

 当たり前だ

 

 もっともっと、誰よりも、何よりも強く! 

 

「当たり前だ」

 

 血潮がマグマのようにグラグラとたぎり、100キロぐらい余裕で完走できそうなぐらい身体に力が漲る。

 

 そこ意地悪い質問を続ける可奈美をギロリと睨むと、可奈美は口が裂けそうなぐらい凄惨な笑みを浮かべた。目玉はギラギラと獲物を狙う獣の輝き。その瞳に映り込む俺も、可奈美と全く同じ目をしているのが一目で分かった。

 強さだけを貪欲に求める魔物の瞳。相手を自分が強くなるための餌としか見ていない目。

 上等だ。それぐらいじゃなきゃ、今の俺には相応しくない。

 

 

「可奈美……もう一度立ち合わないか?」

 

 さっきまでの黒いオーラが霧散して、可奈美の背中からペカーっと後光が差し込んだ。

「もっちろん! いいですよ!!」

 にこーっと天真爛漫な笑みを浮かべ可奈美が元気に返事をする。

 

「OK、最強の俺を見せてやるよ」

 

 掴んだ竹刀の柄がギシリと軋んだ。

 

 

 ◇◇◇

 

「俺は……この二択を選べないんだ」

 恭侍さんは優しいなぁ。

 自分が強くなりたいのを我慢して、先生との絆を優先するなんて。

 

 いや、うん、きっとそっちが普通なんだと思うよ。

 剣術を好きなだけ楽しみたいっていう私の方がたぶん変なんだと思う。

 私はもう普通の楽しみと剣術を全く別のものとして扱ってるから、恭侍さんみたいに悩む。なんてことないんだけど、恭侍さんが真剣に悩んでいるのを見てると、なんだか自分の事のように思えて、なんとかしてあげたくなる。

 

 恭侍さんの考えてってアレだよね。ほら、室町幕府の、えーと、北条まさこ? のご恩と奉公って奴。

 師匠への恩が心に引っかかって、教えてもらった以外の剣を鍛えるのが、なんだか師匠を蔑ろにしているように思えて嫌なんだと思う。

 

 別に悪いことじゃない。むしろ恭侍さんの美徳だ。

 

 ……

 

 だけど、恭侍さんの本心はきっと──

 

 じゃあ、私が恭侍さんの背中を押してあげよう! 

 教えてあげよう! 

 

 恭侍さんの本当の気持ちって奴を。

 

 思い立ったが即行動。恭侍さんに抱きついて

 

 わ、恭侍さんの身体、硬い。けど筋肉だから弾力もある。ちょっと手に力を込めるとガチッと硬いけどほんのり柔らかい。感覚的にはゴムを巻いた棒に近いかな? 噛んだら気持ちよさそう。

 

 とと、そんな事考えてる場合じゃないね。

 

 恭侍さんの身体に腕を回して引き寄せる。

 後ろから内緒話をするみたいに耳元に顔を近付ける。

 

 人を怒らせるのは好きじゃないけど、恭侍さんのためだし仕方ないよね。

 今の恭侍さんの、ぐるぐるの頭をさっぱりさせる魔法の言葉はもう思いついてる。

 後は出来るだけ、劇的に、ジーンと胸に来るように。

 出来るだけ悲しそうに、出来るだけ哀れそうに、聴こえるように囁く。

 

「でも……さっきの恭侍さん、今までで一番弱かったよ?」

 

 えへへ、嘘。

 

 私のコンディションが最高だったから、相対的に今までで一番長く粘れたけど、本当に恭侍さんが弱かったなんて分からない。

 

 ──んふふー、でも。

 

 恭侍さんからゾワゾワゾワァってもの凄い悪寒が、手を伝い、背中を這って、全身に行き渡る。

 ゾクゾクして腰が砕けちゃいそうだった。

 殺意にも似た強烈な意思が私の身体を震わせた。

 

 恭侍さんがどんな表情をしているのか見てみたくて、名残惜しい背中を離れて、恭侍さんの前に立つ。

 

 恭侍さんは全くの無表情。

 それなのに眼はギラギラギラギラ。

 闘志爆発!って感じで、とってもとっても怖い顔。

 

 あはっ

 

 やっぱり!! 

 

 やっぱり同じだ!! 

 恭侍さんは私と同じだ!! 

 

 剣術以外にもいっぱい好きなものがある。スイーツも好きだし、アニメだって見る。四六時中剣術のことだけ考えてる訳じゃない。

 

 ──でも、一度剣を握ってしまえば、

 

 もう。剣の事しか頭に残らない!! 

 

 先生とか、師匠とか、どうだっていい!! 

 

 楽しければ(強ければ)、それで良い!! 

 

 恭侍さんが、プンスカ怒って私の頭をコツンと叩く。

 あー、やっぱり恭侍さんは凄いなぁ。

 一瞬理性が飛んだのに、もう冷静になりかけてる。

 やっぱり、一流を目指すなら、いつでも平常心でいれるようにならないとダメなのかな

 

 なんて思ってたけど、

 

 恭侍さんが優しくほんのり笑みを浮かべたのを見て、

 あ、そうじゃないんだ。

 目がぜんぜん笑ってない。

 心は熱く、頭は冷たく、って事なんだ。

 どこまでも剣士の鏡って感じ。私とは剣士としての完成度が違うね。

 

 恭侍の目玉はギラギラと獲物を狙う獣の輝き。その瞳に映り込む私も、恭侍さんと全く同じ目をしているのが見える。

 ともすれば命すら失いかねない本気の立ち合いに、快楽を覚える修羅の目。

 私たちは、遊び相手が欲しくて走り回る虎の子だ。

 

「可奈美……もう一度立ち合わないか?」

 

 そして、私たちは出会った。

 

 それならもう! 

 好きなだけ一緒に遊ぶ(鍛錬する)しかない!! 

 

「もっちろん! いいですよ!!」

 幾らでも! いつまでも!

 私なら、付き合ってあげられる!!




衛藤可奈美 *追記
 直情型に見えて、割と頭が回る。
勉強はからっきしだが、知恵はある。
 自分と恭侍は全く同じ人種だと認識しており、多少の差はあれど、自分と彼は同じ考え方をすると思い込んでいる。
 実際は、可奈美は超剣術バカ(剣術をやるのが目的)、恭侍は超練習熱心(剣術はあくまで手段)であり、その認識には齟齬がある。
 もっとも、このすれ違いが致命傷に至るかは不明。
・ヤンデレとしての傾向
 人付き合いは良いが、本質的には何か秘密(可奈美であれば剣術最強であること)を抱えており、孤独感を持ち、その孤独を共有、癒してくれる誰かを求めている。
洗脳・誘導型 箱庭タイプ
相手の思考を読んで、自分の都合の良いように動かす。健気を装って取り入り、相手にも自分が必要なのだと思わせ、共依存状態となる事を望む。
軽度なら、外もいいけどやっぱり我が家が最高!程度で済むが、重度になると、貴方じゃないと私ダメなの!と互いが離れる事を極端に嫌うようになる。

ちょっとオチが弱い気もしますが、一先ず、可奈美編終了。
戦闘シーンが絡むと途端に文字数が倍増。
そんな事より、女の子可愛く書けよ(自問自答)

[本日の(語弊しかない)あらすじ]
 女の子に背中から抱き付かれて、
耳元で生意気な事を囁かれる。
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