雛鳥と籠の鷹   作:筆折ルマンド

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展開に困ると戦い出すバトル漫画仕様。
なんとかしたいですよね(ひとごと)

単語紹介
写シ
自分の身体を一時的に質量のある霊体に変える刀使の基本能力。
写シ発動中は身体的ダメージを無効化することができる。
迅移
現実世界より時間の流れの速い亜空間に接触し、ほんの少しの間、加速する能力。


折神の名の下に

 白刃二閃

 

 赤灯四合

 

 ギラギラと銀に輝く刀と、緋色の尾を引く赤錆色の剣がぶつかり合う。

 

 無数の剣戟音が、クワンクワンとこだまする。

 

 折神家本邸地下。

 

 ノロを祀る地下殿の手前、古風にも松明に彩られた洞穴の中。

 4本の刀が瞬き、長身の女性と少年が剣を交わしていた。

 

 ────

 

 長身の女性の長く艶やかな、ぬばたまの髪がはらりと広がる。

 直後、彼女の手に握られた二本の御刀が襲い来る。

 直撃すれば必殺であることは必至。

 

 輝く二刀に立ち向かうのは鈍く光る二本の剣。

 

 刀身に息衝くように輝く(だいだい)色の血管が走る荒魂のように禍々しい意匠の赤錆色の剣と、同じ御刀であるもののその鈍色の輝きから、女の握る刀よりも数段格で劣る事が分かる御刀。

 

 それらを構える少年の顔は、まるで100年の因縁がある敵を前にしたように険しく、女はそんな少年の表情を見て薄く笑った。

 

 ガギン

 

 と一合。

 

 間合いが詰まり、わずかな隙間に刀をねじ込み合う。

 

 女の振り下ろした剣を少年が払い、もう片腕で突きを狙う。

 女の腕がわずかに振られ、繋がる刀の切っ先がピンと少年の刀を弾いた。

 返しの逆袈裟斬り。それを少年は腰を落としながらのけ反り躱す。屈んで足に溜めた力を使ってトーンと飛んで間を開ける。

 

 

「今日はいつになく好戦的だな。飛鷹」

 折神紫がどこか上機嫌に言う。

 

「一つ壁を越えられたもんで──ねッッ!!」

 恭侍が跳んで間合いを詰める。

 

 再び鋼が交錯し火花を散らす。

 

 恭侍の迷い無く、どこまでも実直に真っ直ぐに力強さを求めた太刀筋。

 ともすれば短調になりかねないその剣は、しかして不規則、それでいて機能的。

 身体負荷を度外視して、最短距離をひた走る剣は、20年前の現役から今に渡って刀使最強を謳われる折神紫を前にして、正面からの打ち合いを五分に持ち込んだ。

 対する折神紫の剣は流麗。

 恭侍のような後先考えない、その場その場の最速を狙う太刀ではなく、あらゆる剣に対応できるように緩く広い構え。

 飛び込むように躍りかかる恭侍の剣の尽く(ことごと)をいなす。

 

 ガツガツと普通の刀なら折れてしまうほどの激しい打ち込み。

 機動力を重視する刀使の試合ではそう起きない一点からのラッシュ。

 それを折神紫は顔色一つ変えずに捌く。

 その事は彼女が高度な二刀流使いである事を如実に証明していた。

 

 折神紫の刀が自身の肩を抱くように交錯する。

 挟み込むように、喉元を喰い裂くように双方から御刀が放たれる。

 

 恭侍が選んだのは前進。

 

 刀に速度が乗るよりも早く、根本で押しとどめ、押し返そうと剣の根本で折神紫の刀を受け止める。

 そう思っていた。

 

 身体が軋んだ。

 

 折神紫の髪がざわりと蠢く。髪の中で目玉がキロキロと蠢くのが見えた。

 折神紫の外法(げほう)がほん少しだけ解放されたのだ。しかし、それだけで気迫が一層強まり、物理的にも力が一層増す。

 

 

 ──大人げねぇ!! 

 

 恭侍の刀のつばがギチギチと悲鳴を上げる。

 

「どうする? 飛鷹」

 

「ぐぬぁ!!」

 

 恭侍は力を振り絞り、わずかに折神紫の御刀を押し返すと、状況を打開するため片足を上げた。

 折神紫の胸を蹴り上げ、引かせる狙いがあった。

 

 直後

 

 ギョヂィッッ!! 

 

 と刀が激しく擦れる恐ろしい音を立てて、刀で出来た(あぎと)が閉じた。

 

 片足では折神紫の剣を抑えきれなかったのだ。

 

 体勢はそのままに、恭侍は大きく吹っ飛ばされて、その身体は宙に泳ぐ。

 

「迅移」

 折神紫の姿が霞み、刹那、いまだ宙を揺蕩う少年の前に立った。

 

 ぞふ

 

 無造作に突き出された二本の刀が少年を貫いた。

 

「ガッッ!? あ゛あ゛あ゛ぁ!!」

 

 とっさに恭侍が放った蹴りが、今度こそ折神紫の胸に刺さる。

 串刺し状態から身体がずるりと抜けて地面に転がる。

 

「がぷっ……ぐぅぅ」

 薄暗い地面に黒い染みが広がる。

 

「良い判断だ。刀使の死因の多くは、物体が貫通したまま写シを解いてしまい、肉体に致命傷を負うこと。お前はそれを見事に回避した」

 

 

「……フゥゥゥ──」

 

 ざっけんな!! 

 俺は刀使じゃねぇんだよ! 致命傷は致命傷なんだよコノヤロー!! 

 

 恭侍は、片手の刀を置いて、口をモゴモゴと動かし、ベッと吐き出した血の塊を傷口に塗り付けた。

 血は瞬時に凝固し、傷口を塞いだ。

 

 

 折神紫がその様子を見てまた何か言い出すよりも早く、気持ちを切り替え、恭侍が立つ。

 

 構えをとる。身体は反身。右手は中段、刀を斜めに構え、左手は上段突きの構え。

 あからさまな攻撃姿勢。

 すいっと感情の失せた顔で、折神紫に迫る。

 

 折神紫の間合いに踏み入るその刹那、最後の一歩で恭侍の体が入れ替わり、上段に構えた御刀が、折神紫に向かって投げつけられる。

 

 カンと簡素な音で投げられた御刀が弾かれた。

 

 残る左手が恭侍の胴を薙ぎに迫る。

 

 ギン

 と強く短い音が鳴り、折神紫の刀が弾かれた。

 

 恭侍は刀を投げた地点から踏み込んでおらず、それ故に冷静に剣を弾くことが出来た。

 

 ──ほぅ、私に攻めろと言うのか。面白い。

 

 折神紫の攻勢。

 恭侍は丁寧にそれを捌く。必ず五分以上で打ち勝てる場合のみ刀を振るい、それ以外は避けて、そらす事に徹する。

 

 

 ──壁を越えたと言うだけの事はある。だが

 

 ギィ──ン

 

 恭侍の身体が意図せずのけ反る。

 折神紫の剣を捌ききれなかった故。疲労が恭侍の剣を鈍らせた。

 

 袈裟斬り。

 骨切り包丁よりもなお鋭い御刀が、不可避の軌道で恭侍を両断

 

 するはずが、

 

 恭侍はぐっと後退するだけだった。

 

 赤錆色の剣を横にし盾として、片足立ちであえて吹き飛ぶことで威力を殺したのだ。

 

 左手がダラリと垂れ下がる。

 赤錆色の剣の腹に押し当てていた方の腕だ。

 折神紫の一撃を剣越しとはいえ直撃したのだ、無事では済まない。

 

 それでも恭侍は痛みを忘れたかのように、左腕すら気合で動かし、刀を構える。

 

 両手は緩く、刀は腰だめ、中段突きの構え。

 

 屈み

 

 跳ぶ。

 

 間合いに入る。

 折神紫の剣、二歩目で横にすっ飛び躱す。

 

 切り上げを避けられたことによって、斜め上に揃えて構えられた二本の御刀。

 

 突かれたと同時に振り下ろし、両断する。

 相討ち狙い。

 

 ズンと恭侍が最後の踏み込み。

 

 刹那

 

 刀が翻る。

 

 突きの型が消えた。

 

 横一閃

 

一門字切り

 

 

 剣は振り抜かれ、折神紫の胴に白い刀傷が走る。

 

 恭侍はそのまま二の足を忘れ、地面にゴロゴロと転がった。

 

 

ギ──ィ────!! 

 

 

 一拍置いて、状況を理解した折神紫の背後の髪の毛の化け物が金切り声を上げた。

 

 一瞬にして折神紫の身長の倍以上に身体を膨れ上がらせた化け物は、その無数の目に憤怒を滾らせ、恭侍に手を伸ばす。

 

 鋭利な刃物のごとき爪を生え揃えた腕は、しかして恭侍の身体に触れる前に、全く同じ大きさの3本の腕に絡め取られ、地面に叩き伏せられた。

 

『殺すには惜しい』

 折神紫の口から何人かの声が、同口異音に小さく漏れた。

 

 

 化け物は影の中にぬるりと消えて、かすかに松明が爆ぜる音だけが響く。

 

 

 立とうする恭侍。

 だが、ぐっと力を入れた瞬間、正真正銘の限界を迎え、プッツリと糸の切れた人形のように力が抜けて、地面に突っ伏した。

 それっきり、意識を失ったのかピクリとも動かない。

 

 その後ろで、折神紫は自身の腹部に走る白線を愛おしそうに すい となぞり、ほんの少しだけ頰を緩めた。

 

 ────

 

 折神紫は自身の髪に憑いた目玉の一つをもぎ取ると、グチュンと握り潰した。手の隙間から煌々と光る橙色の液体が溢れる。

 

 手の中でトロリと転がり光る緋色の蜜を、折神紫は恭侍の傷口に丁寧に塗り込む。

 すると恭侍の傷口は淡く光り、ビデオの早回しのようにくちくちと音を立てながら口を閉じた。

 傷は全てたちまち治り、かすかに傷跡が肌を通して赤く光るだけになった。

 

 折神紫はそれを満足げに見届けると、白魚のようにきめ細かな手で少年の頬を優しくなぞった。

 

「私を斬るにはまだ足りないぞ。恭侍」

 

 折神紫が恭侍を抱き上げる。

 

 松明の明かりがシュンと消えた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 目が覚めて、見知った天井。

 

 折神家本邸

 来客用宿泊室

(基本誰も使わないから 別名 物置)

 

 枕元には、鶴に交差した刀をあしらった折神家の家紋入り置き手紙が。

 

 俺と紫様の立ち合いは極秘らしいので、十中八九、俺を部屋まで送り届けてくれたのは、()()折神紫様だろう。

 わー、紫様に運ばれた男って多分俺が初なんじゃなかろうか。

 

 ……

 

 だからどうした。

 

 のっそり起きて、電気を付ける。

 おまけみたいな部屋なので、窓は小さく陽の光も期待できない。

 こんな所で暮らしてたら、ビタミンDが枯渇しちまうな。

 

 と、微妙に逃避していた思考を嫌々ながら現世に戻し、恐る恐る手紙を開く。

 そこには手紙の外側に大きく余白を残し、中心にさらさらと流れるような文字綴られた随分と達筆な文が。

(ジジイの圧縮ミミズ語に比べればまだ読みやすい)

 

 思ったより文量が少ない。

 

 もっと紙の隅から隅までお小言がびっしり書かれた呪いの手紙を想像していたんだがな。

 気が軽くなり、何の気なしに手紙を読む。

 

 パタン

 

 うん、これは酷い。

 

 ────

 

 〈手紙の内容〉

 

 お前の報告書から、若芽が育っていることを知り安心した。

 任務ご苦労。

 

 で、話は変わるが、

 今回、見てやったお前の剣術だが、いまだ赤点だ。

 確かに腕を上げたと豪語するだけのことはあったが、あくまで上手くなったであって、強くなったとは言えない。

 特にお前が攻めに使っていたあの太刀。剛剣としては確かに優秀だが、場当たり的で、相手を詰ませる事ができないという致命的な欠陥が

 うんぬんかんぬん──

 

 つらつらつらつら

 

(中略)

 

 つらつらつらつら

 

 ──と言う訳で、お前のために練習カリキュラムを用意してやる。感謝するんだなガハハ。

 

(以上、意訳)

 

 ────

 

 手紙の9割剣術のダメ出しってなんすかソレ。

 しかもなんかスゲー雅な言葉回し。

 それが無性に腹が立つ。

 

 しかも手紙の末尾には、「私を倒したくば、まずは御刀に認められる事だ」ですって! 

 奥様ぁ、どう思います? ここ数百年に渡って、誰も成し遂げてない男による御刀の神気解放をお前がやってみろ、ですって。

 言外に「やれるもんならやってみろww」の文字が見えるぞ、俺には。

 

 ……

 

 やってやろうじゃねぇかコノヤロー! 

 お前が大荒魂ってのはバレてんだコノヤロー! 

 いずれぶっ飛ばすから覚悟しろやコノヤロー! 

 でも別に俺がぶっ飛ばす必要はねぇんだぞ

 コノヤロー!! 

 

 ……

 手紙にイキってどうすんだよ。

 

 さて、から元気で気分を盛り上げた所で、朝ご飯を食べよう。

 そんで練習しよう。あ、いや勉強もしないと──まだ大丈夫か? いや、でもなー

 

 肌寒さを振り払い、ガバっと起きて、

 ツカツカツカ。

 ヤカンに火を掛けつつ、戸棚を開ける。

 この部屋には、誰かのストックなのか、戸棚に山ほどカップ焼きそばが収納されている。その中から、ちょっとお高めの丸っこい奴を選んで取り出す。

 これだけ有るなら一つぐらい減ってもバレないだろう。

 

 お湯が沸くまでの間に、寝ている間に身体から剥がれて布団に散らばった、ノロが凝固した石を拾い集める。

 一言で言うならノロで出来たカサブタだ。

 大した代物ではないが、万が一、荒魂になったら大事なので、丁寧に集める。

 

 集め終わったら、缶のような回収箱に入れる。

 ちなみにコレ、集めた後はどっかの研究機関に持ってかれて、研究に利用されるとの事。俺も恥ずかしいが、カサブタなんかを大真面目に研究させられる研究者も災難だな。

 

 小さなカケラまで丹念に回収している間に、ピーっとヤカンが鳴った。

 火を消して、バリッと焼きそばの包装を破って──

 

 ピンポーン

 

「はーい」

 

 ピンポンピンポンピンポン

 ピ──ンポ──ン

 

 俺が部屋のドアを開くまで、ずっとピンポン連打。

 俺はこんな事をする子を一人しか知らない──でもなんでここにいるんだ? 

 

 扉を開ける。

 

「結芽」

 俺の胸ぐらいまでの小さな背に、不釣り合いな刀を携え、長い桃色の髪を流しつつちょこんと小ぶりなサイドテールを結った女の子。

 

 燕結芽がそこにいた。

 

「久しぶりー」

 むぎゅうっと結芽が俺の腹に抱きつく。

 胸のあたりで明るい桃色の髪が犬の尻尾のように揺れる。

 

「会いたかったよぅ、お兄ぃさん」

 寂しそうな声色。

 なんの気なしに頭を撫でてやる。

 

「ごめんな、最近忙しくて」

 中部地方の道場視察。

 趣味と実益を同時に満たせる実に楽な(楽しい)任務だったが、毎日増量した鍛錬と、その日訪れた流派に関するレポートを纏めなければならない過重労働生活では、ゆっくりする時間は皆無に等しく、LINEの返信もままならなかったほど。

 幸い、LINEに毎夜毎夜カラにしても次の日には100通以上送られてくるメールのほとんどが結芽と薫(昨日は可奈美のも増えていたが)のモノだったお陰で返信は割りと楽だった。

 だいたいが何してた? って言うメールだから同じ文面を流用できるのも良かった。

 

 何故そんな事を聞きたがるかは知らん。

 女心は海よりも深く、冬の夕日よりも変わりやすいのだ。

 つまりよく分からん。

 

 むーっとふくれっ面の結芽が俺を睨んでいる。

 切れ長の瞳は、燕と言うより鷹のよう。

 

「本当は昨日のうちに会いたかったのに、お兄さん部屋にいないし」

 

「面目ない」

 

「紫サマには邪魔されるし」

 

「うん?」

 

「なんでもなーい」

 

 俺の腹に顔をうりうりと押し付けていた結芽の動きが止まる。

 バッと服を剥かれ、歳のわりにカッチカチのお腹が露わになる。

 

 結芽が俺の腹をジーっと見つめる。

 

 俺はでべそでも無いし、そんな見るようになモノは何もないぞ。

 

「お兄ぃさんさぁ、なんか凄い紫サマの匂いするんだけど、何かしたの?」

 

「昨日の夜立ち合いはしたな」

 

「……へー。にしては匂いが濃い気がするんだけど」

 結芽が腹に顔を埋めてスンスンと鼻を鳴らす。

 止めろぃ、恥ずかしい。

 

「そうか? ──うーん分からん」

 

「まぁ、お兄ぃさんからじゃないなら良いけどさー」

 

 ズボッと服の中から頭を抜いた結芽が、俺の周りをろくろのようにしがみついたまま回る。

 ギリギリとまるで何かの絞り機のように胴が締まる。

 止まれ結芽、俺を絞っても何も出ないぞ。

 

 俺の想いが届いたのか結芽は回るのをやめて俺の背中に飛び乗った。

「ね! お兄ぃさん遊ぼう? 久しぶりだし、いっぱいやろう!」

 

「あぁ、分かってる。でもその前に朝ご飯な。お腹空いてんだ」

 

「えー、もー仕方ないなー」

 

「ちゃちゃっと食べたらすぐやるからさ」

 

「オッケー、じゃあ結芽は、このままお兄ぃさんの上で待ってるねー」

 

「いや降りろよ」

 

「やだー」

 がぶー

 

「あづっ、おい噛むなよ」

 

「ひゃふぁー」

 ガジガジ

 

「ったく」

 

 食事が終わる頃には恭侍の両肩は真っ赤になっていた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「飛鷹はいるか」

 

 折神家敷地内に建てられた剣術道場で結芽と立ち合い稽古をしていた所に、藍色の髪の妙齢の女性が現れた。

 

 俺と結芽が在籍している学校「綾小路武芸学舎」の学長 相楽結月先生だ。

 流派は天然理心流で、俺の師匠の弟子。つまりは俺の姉弟子と呼ぶべき方であり──

 ほんっっとうに、色々お世話になりまくって、頭が上がらない大恩人。

 

 現在は、色々と事情のある結芽の保護者になってくれていて、初等部に結芽を通わせる傍ら、天然理心流の剣を仕込んでくれている。

 

 と言うのに

 

「何の用?」

 結芽、そんな邪魔者を見るような目で先生を見るんじゃない。

 先生が可哀想だろう。

 

「います。相楽学長、何か御用ですか?」

 

 俺と結芽を交互に見て、学長が渋い顔をする。

 

 このまま行ったら(呼んだら)結芽がご機嫌斜めになるんだろうなぁ。

 って顔。俺も同じ顔をしている自覚がある。

 

「少し話したいことがある。来てくれるか」

 

「はい、結芽少し待っててくれ」

 すっごい不服そうな顔。

 

「……少しで済めばいいねー」

 結芽が拗ねた様子で言う。

 相楽学長が、ギクリと肩を強張らせた。

 

 なるほど、任務か

 

「──それは、どれくらい掛かりますか?」

 

「大した日数は掛からない。ちょっとしたお使いのようなモノだ」

 

「えー。ならさー、別にお兄ぃさんじゃなくてもよくない? なんでわざわざお兄ぃさんにやらせるの?」

 

「飛鷹が最適なんだ。断言するが、こんな事滅多に起こらない」

 

 そう相楽学長が説き伏せようとするが、結芽の瞳は冷たいまま

「へー、その滅多にないが、最近二回連続で起きてるんだけど。2度有ることは3度有るって言うよね」

 

「……3度目の正直と言う言葉もある」

 

「2回嘘をついた時点でどうだか」

 

「結芽!」

 そう叱るように言うと、結芽がもっとふてくされた顔で俺を見る。

 咄嗟に頭を撫でるが、嫌だったのかすぐに払い落とされてしまう。

 

「……相楽学長。その任務が終わったら、しばらく任務を遣さないで貰えますか?」

 

「私のできる限りの事はしよう」

 

「ありがとうございます」

 

 いつの間にかしゃがみ込んで本格的にいじけ始めていた結芽の身体を覆うように抱きしめる。

「結芽、この任務が終わったらお花見に行こう」

 

 我ながら背筋ガガガ、我慢我慢

 

「……信じられないよ、その約束は──前にパパとしたんだもん」

 

「……すぐに帰ってくる。美味しいうな重屋さんがあるんだ。一緒に食べよう」

 そう言って立とうとする俺の腕を結芽の小さな手が掴んだ。

 もう片方の手が小指を立てて突き出される。

 

「……指切りして」

 

「ああ」

 小指と小指がしっかりと絡む

 

 ゆーびきりーげんまん

 嘘ついたら

 はりせんぼんのーますっ

 指きった

 

「……約束だからね?」

 

「ああ」

 

「嘘ついたら本当に丸呑みだからね」

 

「魚っ⁉︎まぁ、いいさ。嘘になったらその時は、煮るなり焼くなり好きにしてくれ」

 

「うん、ちゃんとハリセンボン用意しとくから」

 

「煮焼きの方がマシかなー」

 

 下手をうてば、本気で食わされかねない。そうでなくとも、約束を破れば今度こそ結芽に嫌われてしまうだろう。

 それだけは避けねば

 

 ◇◇◇

 

 相楽学長の私室にて、俺は一枚の紙を渡された。

 

「それで、俺が適任の任務って言うのは何ですか?」

 

「これだ」

 

 紙に記載された写真に写るのは、どこかの制服を着た髪も目も真っ直ぐな少女。

「女の子──制服は伍箇伝のモノではないですね。彼女が何か」

 

「正確には彼女の母に用がある。彼女の母 十条篝は、20年前刀使として活動していたんだ。私たちと共に。──そして、紫様のかけがえのない友人だった。今回、お前には紫様の縁者として、彼女の弔問(ちょうもん)に行ってもらいたい」

 




開示資料

折神紫
人々を荒魂から守る折神家の当主
20年前から大荒魂に取り憑かれており、現在は身体のほとんどを乗っ取られている。が、なんだか最近盛り返してきていて、4分の1を取り返した。
荒魂の意思は3つに分裂しており、恭侍に対しては、殺1 観1 研1 で、紫の育成する意思を含めて、現在は保護観察中。
折神紫と恭侍の関係は、例を挙げるなら無惨と鬼(*鬼滅の刃)のソレに近い。

燕結芽
現在 綾小路武芸学舎初等部5年生
恭侍の妹分。
天然理心流の剣士で、昔は神童としてあちこちでブイブイ言わせていたが、その後、呼吸器系の病で長期療養。紆余曲折の末、ノロによる延命治療を受け入れ、現在は京都の綾小路武芸学舎で生活している。

恭侍の剣術適性
機先を制するのが得意。
二天一流は、刀を2本持っているから使ってみている。
柳生新陰流◎
二天一流◎
神道無念流◯
鹿島新當流◯
天然理心流◯
*そもそも不得手は無い。

恭侍の身体
恭侍はノロの人体への医療転用の実験に協力し、ノロを投与した結果、常人よりも強靭な肉体を得た。
しかし、実験としては失敗しており、恭侍の肉体は常にノロの侵食を受けている。
それにも関わらず、今も人のままでいられるのは、折神紫が体内のノロを制御しているから。

恭侍の刀
赤錆色(荒魂柄)の剣
刃長88cm
持ち主を侵食する危険な鋳造剣。
恭侍は前述の通り侵食を抑制されているため、使用できるが普通の人間の場合、どうなるか分からない。
御刀のような鍛造ではなく、鋳造のため切れ味が悪い。

豊後高田長盛
刃長78cm
太刀としてド平均
名前は有るが量産品。
ゲーム風に言うなら星2
もっとも、恭侍は刀使でないため、そもそも神力は使えない。

[本日のあらすじ]
インターバル

次回 姫和編
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