雛鳥と籠の鷹   作:筆折ルマンド

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山城由依編かつ中編イベント
『呪いの灼刀』 編

始まります。

*姫和編を待っていた方申し訳ありません



人智のありか

 ガリガリガリガリ

 

 何かをかきむしる音が響く。

 

 ガリガリガリガリ

 

 何かを書き綴る音が響く。

 

 ガリガリガリガリ

 

 何かを乱暴に研ぐ音が響く。

 

 ガリガリガリガリ

 

 ほの暗い部屋の中、一人の男が無心で何かを刻む

 

 ガリガリガリガリ

 

「成果を、力を、示さなければ」

 

 ガリガリガリガリ

 

「足りない……」

 

 ガリガリガリガリ

 

 焦燥が男を駆り立てる。

 

 先日、言い渡された辞令が男の思考を蝕む。

 

『研究規模の縮小』

 それは科学者にとって死よりも屈辱的な裁可だった。

 

 ガリガリガリガリ

 

「何が新技術だ……。何が最新鋭だ……ッ! アメリカからの潤沢な援助とオレたちの研究成果のお陰だろうが! 条件が同じならばッッ!!」

 

 ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ

 

 バキッ

 

 ペンが折れ、漏れ出たインクが無数の言葉を黒く塗り潰す。

 

 慌てる男を尻目に、流れたインクの池があっという間にデスクを覆う。

 

 それはまるで男の言葉を遮るように、男の成果を無碍にするように。

 

 広がるインクの黒

 

 そのじっとりとした黒に、男はとある女を連想した。

 

 自分たちの技術を「無駄」だの「劣化品にすぎない」と断じた憎き女。

 

 男は憤り、紙が舞うほど強くドンと机を叩いた。

 

 その衝撃でうず高く積まれた書類の山が崩れる。

 

 バサバサと紙が舞い散り男の神経を逆撫でる。

 

 崩れた紙はインクの飛沫と共に男の白衣をまだらに染め上げ、数十回の書き直しの末にようやく仕上がった一枚の紙を台無しにした。

 

 書類がハラハラと桜吹雪のように舞う中で、一枚の紙がひらりと男の前に舞い降りた。

 

『ノロを利用した擬似御刀の量産計画』

 そう銘打たれた紙には踏み潰すように、大きな赤い二文字が刻まれていた。

 

 

『不可』

 

 

「ふざけるな!!」

 

 その紙が目に映ると同時に男は吠えた。

 その書類は男が書いたものであった。

 

 男は白衣が汚れるのも構わず机の上のあらゆるものを薙ぎ倒した。

 ペン立て

 無数のペン

 中身が入ったままのカップ

 電気スタンド

 紙

 紙

 紙

 それら全ては砕けんばかりに壁に叩きつけられ、散った何かの飛沫が男の頬を濡らした。

 

 男は荒んだ心のまま荒れ果てた書斎を飛び出す。

 

 通りがかる研究員は男の顔を見てギョッとした。

 

 痩せぎすの男の顔は病人のように生気を失い、頬は痩せこけ目元は黒く落ち窪んでいた。

 しかし、その瞳だけは異様なほど生気に満ち満ちていて、銀メッキのようにギラギラと輝いていた。

 

 男は、男にしか意味のわからない何事かを叫びながら実験室へと駆け込んだ。

 

 そして実験室から発せられる奇声はその日一日止まることはなく、同僚は誰もが不気味がって一人としてその部屋に近づくことはなかった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 飛鷹恭侍の朝は早い。

 

 仕事が無ければ日が昇ると同時に起きる。

(先日に任務があればこの限りではない)

 

 うっすら薄明るくなった空。

 太陽はまだ地平線の彼方で光だけを届け、姿を見せない。

 

 カーテンが白んだ瞬間、軍隊の即起訓練ばりの速度で布団を飛び出す。

 

 40秒を待たずに支度を済ませ、行く先は剣道場。

 合鍵待ちの恭侍は自由に出入りできるのだ。

 

 その習慣は剣術道場の門下生だった頃から変わらない。

 何か事情がない限り、恭侍は朝のおきぬけには棒を振る。

 

 棒と言ってもただの物干し竿や、子供が道端で拾うような棒きれではない。

 

 全長110cm

 目の詰まったイチイの木で出来た本物の刀なみに重い木刀だ。

 

 それを使って、

 素振り

 形稽古

 足運び

 ついで技の研究

 と朝の鍛錬をこなすのだ。

 そして日がすっかり昇り影ができる頃、誰にも気付かれないように部屋に飛んで帰るのが、彼の日課だ。

 

 そして、彼に何か用事がある場合。

 

「飛鷹、君に頼みたいことがあるのだが時間はあるか? ──」

 

 そのルーチンは彼を捕まえる絶好のチャンスとなる。

 

 

 ──────

 ────

 ──

 

 

「や、山城由依って言います! よろしくお願いします!」

 

「よろしく。俺は飛鷹恭侍だ」

 

 差し出した右手を両手で握りかえされる。

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

 にこにこ眩しい笑顔。

 青い髪をポニーテールに結いあげた女の子。

 山城由依ちゃん

 

 彼女をエスコートするのが今日の俺の任務。

 今朝、学長の顔より見たことのない担任の先生に請われて彼女の事を頼まれたのだ。

 

「んぅ? どうかしましたか?」

 

「いや、なんでもない。さ、行こうか」

 

 ──

 

 あぁ、これが、仕事のある自分の代わりに姪っ子を遊園地に連れて行ってあげてくれ。とかだったら最高だったのになぁ。

 

 だがしかし

 

 この万年竹刀袋を背負った怪しい折神家直属査察官様に、そんな頼みが来るはずもなく

 

 今日の行き先は郊外に佇む俺行きつけの研究所。

 

 伍箇伝最長の歴史を誇る綾小路武芸学舎が持つ長船で研究されるほど新しくないけど、価値のある研究を長く続けている息の長〜い研究施設だ。

 

 その外観はさながら……なんて言えばいいか。

 息が長いがゆえの増改築で盛りに盛られ、モダン+和風+近代みたいなミックスキメラな外見をしている。

 

 そんな某珍百景に登録されそうな見た目をしているその研究所の名は

 

『京都特異災害研究所』

 

 俺にとってその珍妙な館は、遊園地並みかそれ以上に心躍る場所なんだが、客観的に女の子を送り届ける先としてこれ以上ないほど「無い」

 

 そんな場所に小学6年生の女の子を連れてく様は、さながらマッドサイエンティスト。というか単純に怪しい人。

 

 おじょーちゃん、飴ちゃんあげるからついておいで

 てなもんで

 

 仕事を選べない世知辛さと、この女の子が自分でそこに行く選択をしたという驚きで、俺の心中、大嵐。

 

「うわぁ、なんだか凄そうな研究所ですね!」

 

「そうだな。あの見た目はなかなか奇抜だ」

 

 表面上は大人な対応をしつつも、心の中では女の子心がわからないと七転八倒していた俺は、その時、この少女とこの先濃い付き合いになるとは全く想像していなかった。

 




一つ、精神疲労による更新速度低下にお詫びを
二つ、筆が進まない故、姫和編後編の執筆中止のお詫びを
三つ、本当に申し訳ありません
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