テストの前日って何故か突然アニメ一気見とかしません?
時は過ぎ去り、あっという間に土曜日が来たる。
俺たちは既に京都特異災害研究所の中。
研究所に入って早々、見知った顔に俺たちは出迎えられた。
「久しぶりだな恭侍くん!」
「本間先生、そうは言っても先週来たばかりですよ」
小柄な男性が手を伸ばす。
ハグをしてくれようとしているのだが、いかんせん背が低いので俺の方が屈んでそれに答える。
短くハグをして
「はっはっは、そうだったね」
彼が笑うとその特徴的な大きな鼻がふるふる揺れた。
──
大きな鼻にてっぺんはつるり、左右にふさふさの白い髪が生えた頭に小柄でふくよかな体型。
名を本間
名前の「博」と「博士」の文字が似ているため、知り合いはもっぱら教授か先生と呼ぶ。
朗らかで茶目っ気のあるお爺ちゃん。
この京都特異災害研究所の重役の1人だ。
──
本間先生が由依ちゃんの方を向いた。
「君も、久しぶりだね。山城ちゃん。今日もよろしく頼むよ」
「は、はい」
本間先生は若干カタくなってしまっている由依ちゃんに優しい眼差しを向け、俺たちを研究所内へ誘う。
「さぁ、行こうか2人とも。高田くんが待っている」
────
本間先生と共に研究室に入ると、駆け寄ってくる男が1人。
右手の義手が目を引く、ひょろりとした男性。
本間先生の教え子の高田博士だ。
「教授! どこへ行ってらしたんですか」
「いやなに、2人を迎えにな」
「お久しぶりです。高田博士」
「飛鷹くん! それに山城ちゃんも! よく来てくれたね。さっそく今日の実験の話をしようじゃないか」
ワクワクとした雰囲気を出しながら、俺の手を取った高田博士に、本間先生が待ったをかける。
「まぁ、待ちなさい。恭侍くんたちは来たばかりだし、高田くんも朝から準備で忙しくしていただろう。実験の話は、お菓子でも食べながらしようじゃないか。みんなも、一旦休憩にしよう」
研究室内から歓声が上がった。
────
来客用のふかふかソファに腰を沈めつつ、4人が一つのテーブルを囲う。
「それで今回も、2人には『
「了解しました。山城はどうだ?」
「大丈夫です!」
「僕としては、飛鷹くん同伴の元、山城さんにも荒魂との戦闘をしてもらいたいところですが」
「高田くん」さん」
「──失礼しました。こんな小さな女の子に危険な事はさせられませんもんね」
「私は大丈夫ですよ?」
「いやダメだ。いくら安全策を付け足そうが、荒魂との戦闘は危険なものだ。山城にはまだ早い」
おそらくお給金の値上げチャンスと思っていたであろう山城が頰を膨らませる。
俺は山城にそっと耳打ちした。
「山城がお金を必要としてるのは分かってる。でも、俺たちが容認できるのはここまでなんだ。もう少し待ってくれ」
お目付役として、そして俺個人としても山城を実戦に出すのはまだ早いと、いや、家族のためとはいえ、小さな女の子がお金のために自身の身を危険に晒すことを俺は忌避しているのだ。
「……はい」
「さて! お菓子を食べようじゃないか! 色々と取り揃えているよ」
「ありがとうございます。山城もどうだ?」
「えと、じゃあこのバタークッキーを」
「ほぅ、それはここの研究員が焼いたものでね。お味はどうかな?」
「ん〜、美味しいです!」
「それは良かった。山城ちゃんが良ければ後で持って帰るかい?」
「え!? いいんですか!」
「良いとも」
「ははは、教授が頻繁にお菓子を買ってくるせいで、研究室にお菓子が余っていますからね。どうせなら大事に食べてくれそうな子にあげた方が作った人も喜ぶでしょう」
「それじゃあ頂きます! 後で!」
「へー、あ、なら俺もこのチョコの袋貰っていいですかね?」
「400円になる」
山城には甘かった顔が真顔になり、コーヒーをすする本間先生はにべもない。
「なんで!?」
「飛鷹くんはもう十分稼いでいるだろう。自分で買いなさい」
ど正論
言葉のパンチがクリーンヒット
「そんなぁ」
うなだれ机に顔を埋める俺を見て、山城がくすくすと笑った。
──良かった。
道化を演じたかいがあったな。
元々の原因は俺だけど
──────
今、俺がいるのは無骨な金属の箱の中。
家の二階ぐらいの高さに貼ってあるガラスから、本間先生たちの顔が見える。
ここは研究所の第3実験場。
荒魂との戦闘実験や訓練に利用される場所だ。
俺は綾小路武芸学舎の制服の上に黒の防弾チョッキのようなものを着ていた。
それのいたるところに施されたポケットには鉄札が満載してある。
『それではこれより第14回目の鉄札の運用実験を行います』
「OK」
目の前の落とし戸が持ち上がり、兜型荒魂が一匹現れた。
二本角の鎧兜の兜に虫の足を付け足して、後ろに車輪をつけたような形状のよく見る雑魚荒魂だ。大きさは大型犬ぐらい。
もっとも、危険度Dと言えど、包丁のような形状の鋭いツノを持ち結構な速度で突っ込んでくるので、刃物を付けた暴走自転車ぐらいには危ない。
荒魂は俺を見るなり、尻尾の車輪を回転させ、ブゥンと音を立てながらこっちの方に突っ込んできた。
位置は低くそれなりに速い。が、それでも俺なら容易に見切れる速度。
一合で決着はつけられるが、そんなすぐに倒してしまっては実験の意味が無い。
「八幡力」
鉄札の神気を使い筋力増強。
強化した足で荒魂を蹴り飛ばす。
俺に蹴られた荒魂はひっくり返ったが、すぐに車輪を回転させて起き上がった。
さて、ひとまずジャケットの鉄札が品切れになるまで、遊んでやるか。
────
『
一般に護符と呼ばれるもので、御刀の原料となる珠鋼を板状に加工したもの。
珠鋼を御刀に加工する技術は失われてしまっているため、現在は珠鋼をそのまま何かに使えないかとあれこれ研究されていて、
鉄札もその研究成果の一つ。
刀使でない人間でも鉄札の中に貯められた神気を御刀を媒介とすることで使用できるようになり、刀使でないにも関わらず、荒魂を倒せるようになるという革新的な発明なのだ。
……
まぁ、一回の効果はもって数秒。
しかも一度使えば普通の人なら数十分。刀使でも数分の神気を貯め直す時間が必要になるため、鉄札を装備した非刀使の実戦投入は不可能と判断されたんだけどな。
(俺は特例)
それでも、鉄札は刀使の強化アイテムとしての配備を検討されていたんだ。
……
ところが最近になって、
稼働時間無限
能力の使用回数無制限、
自動発動
とかいう、とんでも性能の強化装甲
『ストームアーマー』
が開発されてしまったため、鉄札は配備計画が丸ごとポシャッてしまった。
両方の運用実験に関わったことのある俺としては、製造コストがかかり、嵩張るストームアーマーと、コンパクトさが売りの鉄札は競合しないと思っていたんだが、
ストームアーマーはバッテリーに珠鋼を使用するため、同じ珠鋼を元に製造される鉄札に使われる分の珠鋼をストームアーマーに回したいという思惑が上の方にあったのだろう。
ストームアーマーは刀剣類管理局が海外技術者と提携して作った肝いり装備。
優先度とか……な?
……世知辛いねぇ
────
そんなこんなで荒魂をこれでもかといたぶり終えて、充填状態の鉄札が減ってきたので、
最後に鉄札限定の能力を使う。
御刀に神気を纏わせる
『神居』だ
それを使って一刀両断
俺の実験は終了した。
◇◇◇
さて、交代して山城の番。
今、彼女は第3実験場内で鉄札を媒介した場合と御刀だけの場合の能力の差異を観測するため高田博士の指示の元、御刀を振るっている。
俺と本間先生はその様子を一歩引いた場所から眺めていた。
「鉄札、研究費増額してもらえると良いですね」
「そうだな。増やしてもらわないと鉄札の研究速度が大幅に落ちてしまう。高田くんのためにもなんとかしたいものだよ」
本間先生の高田博士を見る目は親が子供を見守るように優しい。
──だけど、
実のところ、高田博士に本間先生はどんな事を思っているのだろうか。
鉄札は高田博士主導の研究で、本間先生の研究は別にある。
それなのに、最近の本間先生は高田博士の研究に協力してばかりだ。
「……本間先生。先生はご自身の研究、『偽神刀』はいいのですか?」
本間先生は俺の言葉にピクンと肩を震わせた。
──
本間先生の研究。
御刀の製造技術が失われて久しい現代。
新たな神器を製造する研究を本間先生は行っていた。
その研究の成果が
『偽神刀』
一部界隈(というか俺)からは荒魂刀と呼ばれる擬似御刀のことだ。
──
本間先生は俺の方を見ず、どこか遠くを見るような目で高田博士の背中を見つめている。
いや、見つめているのは高田博士の鉄の右手だろうか。
「……良いのだよ。偽神刀は一応の完成に至った。その結果、その危険性が露呈した。そして私は自分の意志で研究は凍結したんだ。私はその判断は正しかったと思っている。研究の結果がどうであれ、今の私に悔いは無い」
「本間先生……」
「今は、鉄札を刀使の少女たちに広く配備することが儂の望みなのだ」
「──そうですか」
◇◇◇
山城由依にはお金が必要だった。
男には実験の試行が必要だった。
利害の一致。
『それでは、抜刀お願いします』
「はい」
少女の腰から抜き放たれたのは、赤錆色の刀。その刃は橙色に怪しく輝く。
『荒魂、開放します』
グッと山城由依が偽神刀を構える。
現れるのは兜型荒魂。
愛と勇気が荒魂を誘惑する。
本間 博
京都特異災害研究所に勤める教授
朗らかで茶目っ気のある性格
専門分野は「神通力および神器の理論化」と「神器の再生」
主な研究は「擬似御刀『偽神刀』の実用化(凍結中)」
親類に猿田さんがいる。
高田 正太郎
本間先生の教え子で京都特異災害研究所に勤める助教授
人に比べ神経質な性格
専門分野は本間教授と同じ。
主な研究は「珠鋼を使用した護符『鉄札』の実用化」
アレキサンダーという名前の犬を飼っている。
鉄札
神力を放つ金属「珠鋼」を材料に作られた特別な護符
御刀を媒体とすることで刀使でなくとも能力を使えるようになる
使える能力は
「八幡力」
「金剛身」
「神居」(基底状態の御刀を励起状態にする)
の三種。
一枚につき数秒しか使えないが、八幡力を使えない下位の刀使にとって戦闘における決定打になりうると期待されていた。
しかし、鉄札を上回る性能を持つストームアーマーの台頭により、研究規模の縮小を余儀なくされる。