雛鳥と籠の鷹   作:筆折ルマンド

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戦闘描写は楽しいぞい

ただ会議シーンで台詞と動きの比率をどれくらい描写すべきなのかが難しいねんな




偽神刀

『偽神刀』

 

 珠鋼の原料である神気を秘めた砂鉄とノロを配合して造られた『負の神性を持つ合金』で製造された御刀もどき。

 

 常に神気を放出していて、使用者を問わず、荒魂を切断した際に御刀と同じように荒魂をノロに還元することができる。

 

 しかしながら、誰でも荒魂を倒せるというメリットと引き換えに、「荒魂誘引効果」と「使用者を侵食する」という2つの重大なデメリットを持ち合わせている。

 

 

 ──────

 ────

 ──

 

 

 とまぁ、そんな理由もあり、研究の第一人者である本間先生から直々に「コイツは実用化できない」と悪い意味で太鼓判を押された偽神刀の研究は、結構前に凍結が宣言されていたんだけど──

 

 とぼとぼと眉をひそめながら歩く俺の後ろから、威厳のある女性の声が響いた。

「どうした飛鷹」

 

「いえ、なんでも」

 即座に背筋を正す。

 

 後ろに立つのは刀剣類管理局局長折神紫様。

 最近ぐんぐん背が伸びて、身長はほぼ同じになったというのに今でも自分よりずいぶん大きく見えるのは、目の錯覚か、俺が萎縮しているのか。

 ──まぁ、後者だな。

 

 この圧迫感をなんとか乗り切るために、偽神刀再研究の謎で気を紛らわせていたが、態度に出るようではこの手はもう使えない。

 

 出来るだけ早く紫様を研究室に届けることに集中する。

 

 ──

 

 いや心臓バックバク(恐怖)で集中できないわ。

 

 ──どうして紫様が、京都特異災害研究所に偽神刀の視察に来ているんだよ!! 

 

 ああ、この胸の高鳴り

 そう、これはきっと恐怖。

 

 強い想いを胸に秘め、俺は京都特異災害研究所の白亜の廊下を紫様と共に歩く。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 事の発端は数日前

 最後に鉄札の運用実験をした日から数週間が経過した頃

 

 俺のスマホに届いた1通のメール

 差し出し人は高田博士

 

 その内容は「偽神刀の侵食効果を克服したから見に来て欲しい」とのことだった。

 

 まずその一文に驚いた。

 なぜなら侵食能力を克服すれば、偽神刀は実用化の目処が立つからだ。

 

 偽神刀の問題点のうち荒魂の誘引効果は実はそれほど問題ではない。

 偽神刀は珠鋼と抱き合わせることで荒魂誘引効果を打ち消すことができるのだが、そのために必要な珠鋼「持ち主のいない御刀」は日本に数千本単位で存在するからだ。

 

 元々、戦国時代に戦で使うために量産されていた御刀は、その普遍性から400年以上経った現在においてもその価値を損なわず、その数は刀使の総数よりもはるかに多いのだ。

 

 ◇

 

 いや、一本一本が海外で伝説になるレベルの神剣(御刀≒デュランダル)が量産されてたとか、戦国時代の日本マジヤバい。

 マジ修羅の国だわ。

 銃弾を御刀で弾く技術とか真面目に剣術書に書いてあったし。

 歴史考察で、信長が天下取るか秀吉が長生きしてたら、今頃アメリカは半分が日本国土になってたとか大真面目に考察されるだけのことはあるわ。

 

 ……

 

 こほん、話が逸れた。

 閑話休題

 

 ◇

 

 で、問題の、まさしく致命的な問題になっているのが、使用者に対する侵食効果だ。

 人道的な面で偽神刀に完全に身体を乗っ取られるまで侵食を受けた人間が存在しないため、侵食の効果は想像の域を出ないのだが、荒魂が人間に寄生し人型荒魂に変化するという例は古来からいくつもの文献に記されていて──というか20年ほど前までは、その実例が何度も観測、記録されていた。

 

 ──俺はその状態に常時リーチかかってんだけどな

 

 そのため、偽神刀の侵食能力も最終的には人が荒魂になってしまうと考えられている。

 

 まぁ、この話は、まるっきりお伽話に出てくる呪いの武器そのままだな。

 

 当然、そんな危険なモノを実用化なんて出来るはずがなく、危険な荒魂刀……ではなく偽神刀は本間先生が研究を中止したはずなんだけど──

 

 高田博士、本間先生に内緒で研究続けてたんだなー

 越後屋そなたもワルよのぅ

 

 もっとも、高田博士は元々、神器開発の研究をするために本間先生の弟子になったらしいし、既存のモノを整形しただけの鉄札は性に合わなかったんだろう。

 ちょっと分かる、鉄札にはロマンが足りない。

 

 了承の返事を出すと、すぐに追加でメールが届いた。

 なんでも、俺が来る時に貴人を呼ぶのでその人のエスコートを俺に頼みたいとのことだった。

 

 ははーん

 つまりは、高田博士からの本間先生を一緒になだめて欲しいというお願いだな。

 

 仕方ないなぁ、と思いつつ、そのお願いにも俺は了承したのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 まさか、その貴人ってのが紫様とは全く想像していなかったけどな!! 

 

 いや、そもそも本間先生が相手なら素直にそう書くはずだわな。

 ぬかったのは俺だ。しまったなぁ

 

 たぶん紫様の視察は前々から予定されていたんだろう。

 でなけりゃ、政府要人の紫様がそんな数日で呼ばれた場所に来れる訳無い。

 

 ……

 

 でもそんな事情、こっちは知る由も無いじゃんか! 

 紫様が来るなんて考えてなかったから邂逅一番、内心ビビリ散らしたぞ!? 

 

 表面は取り繕ってみせたけどさ! 

 

 ドラクエVで例えるなら、パパスを探しに村の洞窟に行ったら、ゲマが居たって感じだ! 

 

 ぷるぷるボク悪い魔物じゃないよ

 

 じゃないわい! 

 不意打ちすぎて心臓止まるかと思ったわ!! 

 

 ──

 

「飛鷹、ここではないのか」

 

 ハッと飛んでた意識が現世に舞い戻る。

 いつのまにか俺たちは目的の会議室に到着していた。

 

 やったぜ、お役御免だ。

 

「それでは紫様、俺はこのへんで──」

 

 さながら千の風になるように、気配を消してフェードアウトしようとした俺の右肩を紫様の手がガッと掴んだ。

 

 ぎゃぁぁぁ! ミシミシ言ってる! 肩軋んでる!! 

 

「何を言っている。お前も折神家直属の査察官として、研究発表に立ち会うのだ」

 

「うぉはい」

 マジかよレフェリー

 

 

 ◇◇◇

 

 

「ようこそ紫様、本日はご足労ありがとうございます」

 

 招いた紫様にそう物腰低く語りかける高田博士。

 その様子、実にレア

 

「御託はいい。早速、その侵食能力を克服した偽神刀とやら見せてもらおう」

 

 大⭐︎切⭐︎断

 まぁ、送られた書類には目を通してるだろうし、なんだかんだ紫様って視察とか割と面倒くさいがるタイプだし、この物言いも仕方ないか。

 高田博士は気の毒だけど

 

「え? いや、その……確かに危険性取り除けたと申しましても、紫様に直接お渡しするのは──その」

 表情は変わらないが紫様の圧が強まる。

 

 止めてください、高田博士は間違ったことは言ってません。

 

「紫様、高田准教授の言う通り、紫様が直に触れるのは危険です。高田准教授の想い、どうかご理解ください」

 高田博士に助け船を出し、頭を下げる。

 

 紫様は数秒置いてすぐに答えた。

「それもそうだな。無理強いをしてすまなかった。──では飛鷹。お前が私の代わりに偽神刀の査定しろ。ただし、知り合いだからと世辞は無しだ」

 

「承知しました」

 ま、こんな所だろう

 たぶん紫様も話を短くするために俺を連れてきたんだろうなぁ。

 

 内心うんざりしながら紫様に深く頭を下げ、高田博士が台に乗せて運んできた鞘に入った御刀──偽神刀を手に取る。

 

 柄の手触りを確認して、鞘からわずかに刃を抜く。

 覗く刃は俺の持つ偽神刀一号より鉄の比率を増やしているのか、荒魂っぽさは薄れていて、均一な赤錆色に、鋭く砥がれた刃は橙色に鈍く発光していた。

 

「ふむ」

 なるほど侵食効果を克服したと言うのはあながち間違いではないみたいだ。

 今までの偽神刀は、侵食能力の片鱗なのか、触れると手にちりちりと猫の舌で舐められるような感触があったんだけど、この偽神刀にはそれが無い。

 

「どうだ」

 

「良好です。確かにこうしてただ触れた状態では、以前のような偽神刀が人体に対して特異な反応をしているようには感じられません」

 

「そうか」

 

「い、いかがでしょう」

 どもるな高田博士。小物臭さが半端ないぞ

 もっとどっしり構えろ准教授! 

 

「いかがも何もあるまい。飛鷹はただ刀を持っただけ、荒魂と戦わせなければ実戦も何もないだろう」

 

 そりゃそうだ

 

「実験室を用意しろ。荒魂との戦闘を見る」

 

 ◇◇◇

 

 さて、数週間ぶりの実験場。

 一応の備えで俺の御刀と鉄札ジャケットを身につけての実験だ。

 今なら三刀流行けるぞ。

 鬼斬りとかしてみるか、荒魂って顔 鬼みたいだし。

 

 ──

 

 恭侍の頭上

 実験場と隣接した制御室内

 

『今まで戦わせてきた荒魂の最高危険度はどれぐらいだ?』

 

『Dランクです。なにぶん偽神刀の使用者が普通の研究員だったもので、高難易度の荒魂相手は……』

 

『そうか、では今回は絶好の機会と言えるな。今用意されている荒魂を飛鷹が狩り終わったら、次は危険度B+の荒魂を放ってみろ』

 

『え──』

 

『案ずるな。飛鷹の腕は私が保証する。飛鷹ならば危険度Aの荒魂でも危なげなく倒せるだろう』

 

『わ、分かりました』

 

「──さて、足は用意してやったぞ。お前はどうする」

 

 

 ──────

 

 

 最初に出てきたのは前にも戦った小型の兜型荒魂。

 今回は時間をかけて倒す必要もないのでとっとと片付けることにする。

 

 尻尾の車輪が回転する予備動作。

 次いで突進。

 

 避けつつ、逆袈裟斬りですくい上げるようにッ

 

ガイーン

 

 重い手応え

 真っ二つにするつもりで振り上げた剣だったが、兜型荒魂は割れた卵のようにノロを吹き出しながら吹っ飛んでいった。

 

 やっぱり御刀に比べて切れ味が悪いな。

 御刀は鍛造だが、偽神刀は鋳造なのだ。

 

 割れてノロを吹き出していた荒魂は、しばらくすると砂の城が波を受けて崩れるように橙色に光るノロに戻った。

 

 ふむ、荒魂と接触して活性化するでもなく、俺を侵食する感覚も無い。

 これはひょっとするかもしれないな。

 

 

『飛鷹、何を呆けている。次が本番だ』

 紫様の声が実験場に響く。

 

「──了解」

 そりゃそうだ。危険度D程度の荒魂じゃ査定にゃならん。

 

 気を引き締めて、俺が下段の構えをとると同時にさっき兜型荒魂が出てきた落とし戸が再び開く。

 

 さて、何が──

 

 ボゥと何かが燃える音が聞こえた。

 

 火球が迫る

 

 右足で地面を蹴るようにして左に避ける。

 

 俺の後方で火球が壁に当たりボンと弾けた。

 

 落とし戸から音もなく荒魂が現れた。

 それも当然、その荒魂には足が無かった。

 

「幽霊型荒魂か」

 その名の通り幽霊のように足のない荒魂がふよふよと俺の前に浮かんでいた。

 

 ──

 

 荒魂の危険度は、主に「攻撃の当てやすさ」と「攻撃の避けやすさ」で決められる。

 

 意外かもしれないが、攻撃力と耐久力はあまり考慮されない。

 だって基本的に荒魂の攻撃を一度でも食らえば戦線離脱だし。

 逆にほとんどの荒魂は御刀の一撃を喰らえばノロに戻る。

 ゲームみたいにやれ攻撃力だ、防御力だなんて話は一切無い

 一発当てるか当てられるかの世界なのだ。

 

 そんな訳で荒魂の危険度は機動力や特殊能力が重視されている。一太刀で倒せないような大型の荒魂の場合、話はまた変わってくるが、

 基本的に空を飛べたり、ほぼ群れでしか存在しないとか、そういう奴らは危険度が高く設定されている。

 

 その中で『幽霊型荒魂』は危険度Bに数えられるかなり危険な荒魂だ。

 足がないために動きの先読みがし辛い点。

 低空とはいえ浮いていることによって未熟な剣では弾かれて剣が通らない点。

 さらには遠距離攻撃も可能。

 

 兜型の群れに一匹混ぜるだけで群れ全体の危険度が跳ね上がると言われている。

 

 ──

 

 飛来する火球を切り捨てる。

 

 火の玉と言っても神力の塊が炎のような見た目をしているだけで、実際の性質はドラゴンボールとかの気弾に近い。

 

 触れると爆発し、ボクサーのパンチを受けたぐらいの衝撃を受ける。

 キチンと構えておけば大したことではないけど、実力不足の刀使の場合完封されてしまう可能性もある。

 

 

 まぁ、

 

 火球

 切る

 3歩歩く

 

 火球

 切る

 3歩歩く

 

 そもそも荒魂の危険度は、下位から中級の刀使が撤退の目安に使うものであって。

 

 火球

 切る

 2歩歩き、足捌きを変える。

 

 最上位の刀使にとっては中型までの荒魂なんて、ただのカカシと同義だ。

 

 間合いが詰まった。

 

 荒魂の口から火球が吐き出される瞬間、火球を切っ先で切って一気に飛び込む

 

 大股二歩の間合い。

 

 八幡力を使えばもっと楽に射程に収められたけど、これはあくまで偽神刀の運用実験。

 だから、別の装備を使うのは極力控える。

 

 とんとん

 

 ズバッと

 

カツン

 

 お? 

 

 偽神刀の切っ先を打ちつけられた荒魂が、さきほどの兜型荒魂のように吹っ飛んだ。

 しかし、壁に打ち付けられたのちに、幽霊型荒魂はまたふわりとその姿を浮かせた。

 

 どうやら俺の方が偽神刀の刃渡りを勘違いしていたことと、幽霊型荒魂が俺が目測した時点から少し後退していたのが原因らしい。

 御刀なら多少ズレてもスッと切れるだけで吹っ飛ぶなんてことは無いんだけど、これも偽神刀、鋳造剣の限界か。

 

 何はともあれ紫様の前でコレは割と失態だ。

 

 汚名返上とはならないけど、直ぐに終わらせよう。

 

 大上段、とんぼの構えに近い形で偽神刀を構えて素早く走りこむ。

 

 幽霊型荒魂が口に火球を溜めているが構わない。

 

 火球が発射されるが

 

 それは軽く斜めに蹴り飛んで

 

 とんっとん

 

 と平べったい二等辺三角形を描きながら避けて、

 

 あっという間に荒魂は目前。

 

 

 しっかりと射程に収めて大上段。

 

 頭部から正中線を割るように真っ二つ

 

 ……

 

 に

 

 ならない。

 

 

 ずぶ……

 

 偽神刀が不自然に荒魂の胸に相当する部分で推力を失い止まった。

 

 

 幽霊型荒魂は頭部を両断され胸に偽神刀を生やしているが、まだノロに戻るほどのダメージは受けていないのか割れた頭で唸り声を上げる。

 

 そして顎がはずれるほど大きく口を広げる。

 

 バイオハザードのゾンビ犬のように顔面がべろりと四当分して広がる。

 

 そしてその顔に今までのものとは比較にならないほどの神力が凝縮していた。

 

 第六感が警鐘を鳴らした。

 

 とっさに偽神刀を掴む手を離し、目の前で腕を交差させる。

 

「金剛身」

 

ドォン

 

 金剛身を張った直後に荒魂の頭部が炸裂し、俺の身体が吹っ飛ばされた。

 

 

 

 ────

 

 

 一瞬気を失っていた。

 

 その遅れを取り戻すように即座に立つ。

 

 同時に背中の竹刀袋から御刀を抜刀。

 

 俺の目の前には、頭部を失い代わりに偽神刀が刺さった岩のような風貌となった幽霊型荒魂の姿。

 

 思考が渦巻く。

 ──何故偽神刀で切れなかった? 

 ──頭部が損傷するほどの攻撃は異常だ。

 

 ──いや、それよりも

 

 逡巡など許さず、刹那に結論を出す。

 

 ──とりあえずぶっ倒す。

 

「八幡力!」

 強化は脚部を重点的に

 

 一足飛びで、間合いを零に

 

「神居!!」

 御刀が白銀の炎を纏う

 

 

ギャリィィィィィィ

 

 

 俺の御刀と荒魂の身体で激しく火花が散った。

 

 ブンと御刀は降りぬかれ、荒魂は再度実験場の壁に激突した。

 

 手に残る芯の通った手応え。

 

 今の感触は……

 

 もはや幽霊型の形を失った荒魂が再度ふわりと浮き上がる。

 

 ──コイツ、動体に刺さった偽神刀で俺の太刀を受け止めたぞ。

 

 振り向く俺の前で浮き上がった荒魂に

 

 じるじるじるじるじるじるじるじるじるじるじるじるじるじるじるじるじるじるじるじるじるじるじるじるじるじるじるじるじるじるじるじるじるじる

 

 と、さっき吹っ飛んだ頭部のノロと、さっき倒した兜型荒魂のノロが偽神刀の刺さった荒魂に吸い込まれている。

 刺さっていた偽神刀が徐々に立ち上がり、荒魂に呑まれる。

 

 そして、みるみるうちに動体しか残っていなかった荒魂にすっきりとした丸い頭と、すらりとした真っ直ぐの足が付いた。

 

 俺が構えている前に

 

 すとん と()()荒魂が地に足を付けた。

 

 

 ──なぜ人型

 

 ──ノロを吸収

 

 ──偽神刀はいったい

 

 まずは斬れ(後で考えろ)

 

 八幡力

 

 間を詰める。

 

 神居

 御刀に神気をのせる。

 

 胴は偽神刀が入ってて切れない。

 

 狙うならもも。

 

 そこから円を描くようにノロを削ぎ落とし、偽神刀を取り戻す。

 

 プランニングは一瞬

 

 即座に

 

 低く一刀

 

 すらりと線を引く

 

 手応え無し

 

 

 ──

 ──

 ──

 

 

 人型荒魂は実験場から消滅していた。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 荒魂の思考のほとんどは人に対する敵意で占められる。

 神気を秘めた砂鉄として安定した状態にあった『神性』を人間が自分たちがいいように利用するために無理やり『正の神性を持つ珠鋼』と『負の神性を持つノロ』に分離させたからだ。

 

 そして、その深い恨みを持つ故に、荒魂は一度隠世から現世に現界すると人が周囲に居るかぎり隠世には戻らないはずなのだ。

 

「それなのに何故」

 あの荒魂は俺を前にして隠世に撤退したのか。

 

「簡単なことだ」

 俺の呟きを紫様が拾った。

 

「どういうことですか」

 

「さきほどの荒魂の主導権を握っていたのは荒魂ではなく、偽神刀だったと言うことだ」

 

「偽神刀……。確かに偽神刀にも意志はあるでしょう。でも何故そこから荒魂に取り憑いて何処かに行くと言う発想になるんですか」

 

 紫様がフッと笑う。

 

「荒魂は意思を持つ。御刀は持ち主を選ぶ。ならば偽神刀も同じであろう。そうと考えれば偽神刀がお前を侵食しなかったのにも理由が付く」

 

 うん? どういうことだ。

 荒魂は感情的な思考で、御刀は使い手を選り好みする。

 偽神刀がその両方の性質を持ち、荒魂を制御できるとするのなら──

 

「──まさか。侵食効果が無くなっていたのは、既に心に決めた人が居たからで、他の人に浮気しようとしていなかっただけだって言うんですか!? それで、今、荒魂を乗っ取ったのは、荒魂の身体を使ってその持ち主候補に会いに行きたいからだって! そう言うんですか!?」

 

「そうなるな」

 

「……なんてこった」

 

「そうなると問題になるのは、その偽神刀に選ばれた幸運な人間は誰かと言うことだ。飛鷹でも、高田准教授でも無いのなら、いったい誰を偽神刀は主人に選んだのか」

 

 紫様の話を聞いて、高田博士が腰を抜かし、自分の顔を覆った。

「……山城さんか」

 

 それは呟きだったが、手狭な制御室に響くには十分だった。

 

「何だって!? 高田博士!! それはいったいどういうことですかっ!!」

 

「飛鷹、山城という名の人間に心当たりはあるか?」

 

「山城は綾小路武芸学舎の初等部に在籍する刀使候補生です!」

 

 高田博士の胸倉を掴んで無理やり立たせる。

 

「アンタ何をやってんだよ!?」

 

「──すまない。彼女とはキチンと話し合った上で──」

 

「それ以前の問題だろうが!!」

 

「待て飛鷹。今、脱走した荒魂は十中八九、その娘の元へ向かった。ここは私が治めておくから、お前は事が大きくなる前に荒魂を討伐してこい」

 

 喉から吹き出しそうな古今東西のありとあらゆる罵声を、奥歯を噛み砕くような勢いで噛み殺し、俺は高田博士を乱暴に離した。

 

「……アンタはもっと研究に誠実な人だと思ってたよ」

 

「ごふ、──私ほど研究に誠実な人間はいない。山城さんとも誠実に対話した上で彼女の自由意志で実験に参加してもらった」

 

「屁理屈を」

 

 バンッ! 

 

 と制御室の扉を閉めて、俺は山城に電話を掛けた。

 




一方、本間先生はと言うと
本間先生はお爺ちゃんなので、病院に行ってました。

一方、山城由依はと言うと
久しぶりのお休み。妹へのお土産を物色中

設定資料
『偽神刀』
現代において失われた「御刀」引いてはその材料となる「珠鋼」の製造技術に変わる新たな神器を製造する研究によって生み出された魔剣。
 原料は、御刀の材料の「珠鋼」の精錬前の物質である日本国内で多く産出される神気を秘めた砂鉄『御砂(おいさご)
 御砂から珠鋼を精錬する際に分離された不純物であり、荒魂の元である『ノロ』
 この二つを配合し造られた
『ノロに比べてある程度緩和された負の神性を帯びた合金』
 それを鋳造することで偽神刀は出来上がる。
 鋳造である以上、御刀に比べて切れ味で劣るが、そもそも鍛造はノロの影響が強く出て危険なため製造法として採用できなかった。
 偽神刀は持ち主を選ばず常に神気を放ち続けており、偽神刀で切断された荒魂は、御刀で切り祓われた時と同じようにノロへと還元される。
 この事から、一時期は偽神刀が量産され自衛隊員がコレを標準装備するようになれば、刀使は要らなくなるかもしれないと言われたほどで、偽神刀は革命的な発明だった。
 ……
 しかし実際のところ、偽神刀には珠鋼と抱き合わせておかないとノロを引き寄せる「荒魂の誘引効果」と、材料として使用されたノロを由来とする「使用者を侵食する不可避の危険性」があり、それが発覚したことによって上記の話は全て夢物語になってしまった。
ちなみに
偽神刀はノロの持つ意思を御砂が補強した結果、質量の割に高度な知性を有している。
また、ノロの持つ『負の神性』とは別の、人間に対する負の感情の原因である『穢れ』を御砂が中和した結果、ノロ本来の喪失感を埋めたいという欲求が強く反映され、人に対してより強力な侵食効果を引き起こすようになっている。
なお、御刀と同じように持ち主は選り好みする模様。
㌔㍉コン



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