雛鳥と籠の鷹   作:筆折ルマンド

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見て見ぬ振りを

 やってきました岡山県瀬戸内(せとうち)長船(おさふね)地区。

 

 ここには伍箇伝の一つ。長船女学園がある。

 管轄内に最先端技術研究機関があり、ソレに協力している関係で伍箇伝の中でも特に最先端技術に造作が深い子が多いのと、生徒の自主性を重んじる校風が特徴。

 胸元の大きく開いたオレンジのベストと白いシャツを組み合わせたような制服は生徒に快活な雰囲気を与えている。

 ……妙に胸を強調しているように見えるのはきっと気のせい。心なしか胸が大きい子の割合が多いのもたぶん気のせい。

 

 ……

 

 あー、ま! そんな話は置いておこう! うん! 

 

 今回の俺の目的地は長船女学園じゃなくて、その近くの研究機関の方なんだからな。

 

 長船女学園なんてものが立ってるもんだから、長船市があると思ってたんだけど、調べてみるとすでに吸収合併されていた。

 有名だからと言って優先されるとは限らないらしい。瀬戸内の方が有名かもしれないけど。

 ちなみに瀬戸内市は瀬戸内海に面しているけど、特別、瀬戸内海と接点がある訳では無いらしい。

 東京ディズニーランド(千葉)みたいだな。

 

 長船と言う場所は古くから刀鍛冶で有名とのことだが、実際のところ、現在の観光資源の6〜7割は舞妓さんならぬ刀使さんだったりする。

 

 刀使の方が分かりやすく目立つからだな。

 

 やっぱり学校が有るからか、他の町より刀使を見かけられるということで、舞妓さんほど露骨に脚光は浴びないものの、街を賑やかにさせるのに一役買っているそうな。

 

 特に長船女学園の制服は、

 ミニスカの美濃関学院、胸の長船女学園

 と(Web上で密かに)呼ばれるほど、伍箇伝の中では派手なデザインをしており人気が高い。

(なおこの話題が上がると戦争になる)

 

 そんな訳で瀬戸内市は、長船地区だけが長船女学園を中心に異様に栄えており、めぼしいモノは本当に長船女学園しか無いのに、何故か物価も高いとのこと。(これは伍箇伝の学校全てに言えることだけど)

 

 ははっ、なんでだろうねぇ〜

 

 そんなウェブサイトでは豊かな自然と謳ってるくせにいざ駅に着くとこれっぽっちもそれらしき自然が見当たらない長船地区の、長船女学園に一番近い駅。

 そのまんま長船女学園前駅に、俺は到着したのだった。

 

 ────

 

 改札を抜けると、そこには顔見知りの2人の刀使。

 

 金髪碧眼。背も胸もおっきい方が古波蔵エレン。

 

 桃色の髪をツインテールに結って、いっつも犬耳みたいな癖毛のついてる小っちゃい方が益子薫。

 

 薫とは昔からの友達。

 エレンは薫の親友で、お父さんたちがみんな研究所に勤めている関係でよく案内役に選ばれている。

 

 一応は任務扱いらしく、学校を休めるからジャンジャン来いと薫の言葉。

 ……勉強しろよ。

 

「よぉ、久しぶり」

 

「ハァイ! お久しぶりデース! 今朝、紗南先生から突然『今日、飛鷹が来るから迎えに行ってやれ』って言われた時は、ワタシすっごい驚きマシタ!」

 

「ははは、そっちもか。俺の方も今日の朝に突然『繰り上がった。行ってこい』って言われて、もうまたかーって感じだったわ」

 

「またかーって、キョージは割とこういう事あるんデスか?」

 

「あるねぇ。日付が変わる以外にも、試験内容が変わったりとか結構よく」

 

「おぉう、それはブラックデース」

 

「流石に対応できないレベルの変更は滅多に無いけどな」

 ま、とある学校の学長は俺を蛇蝎のように嫌っていて、よく実験と称して殺し(ガチ)に来るけどな! 

 そのせいで俺は、刀剣類管理局におけるほぼ全ての実験の中止権限を持っていたりする。マジで危険だから。

 

「絶対と言い切れない所に、深い闇を感じマース」

 

「何事にも絶対は無いからなー」

 

「そうデスねぇ」

 科学者の娘であり卵である彼女には何か感じる所があったんだろう。

 2人でしみじみしていると、薫が俺の腕をつねった。

 

「お前らよー、研究所に行かないのか? 行かないならオレは帰るぞー」

 

「薫ぅ、さっき起きたばっかりなんデスから眠くなんてないはずデスよ」

 

「いや眠い、めっちゃ眠い。春眠暁を覚えずって言うだろ。オレの二度寝は朝焼けを覚えないんだ」

 

「それ意味合ってるんデスか?」

 

「知らん」

 

 ったくコイツは

 

「薫」

 指スパーン(デコピン)

 

「あづっ」

 

「お前の怠け癖も相変わらずだな。簡単な任務なんだからさっさと終わらせて、それから寝ればいいだろ? OK?」

 

 手にOKマークを作ってにっこり笑う。

 当然、その指の正体は次弾だ。

 

「お゛おーけーだ」

 薫が額に手を当て、もう片方の手で待ったをかける。

 

「よろしい」

 

「おー、流石はキョージ。薫の幼なじみなだけはありマスねぇ」

 

「俺はそんな薫とは親しくねぇよ。せいぜい友達止まりだ」

 薫と知り合ったのは、薫がジジイの友達の爺さまの孫だったからで、会った回数なんて年に一回、合計しても両手で数えられる程度とかそんなもんだった。

 そんなんじゃ幼なじみと言うには接点が少なすぎるだろう。

 

「……は?」

 

「えっ」

 

 ……? 

 

「うん? 俺、何かおかしい事言ったか?」

 

 妙な沈黙。怒気を感じる薫に対して、心なしか嬉しげなエレン。

 

 その瞬間、親友のはずの2人の視線が敵を見るように交わる。

 

 ズゥンと重力がざっと百倍になったような圧。

 

 それが何故か俺にぶつけられていた。何故に。

 

 重苦しい空気、軽口回路が無理やり落とされた俺の頭は真っ白け。

 

 そんな重い空気を切り裂いて薫の背後から俺に飛びかかる影が一つ。

 

「ね゛ー!!」

 

「うぉ!?」

 俺の顔面に張り付き暴れる獣。

 キツネリスとピカチュウを足して2で割ってプリキュア風にデフォルメしたような生き物。

 

 益子家の守護獣と呼ばれている薫のペット

「ねね」だ。

 

「ねね──!」

 

「うぷ、離れろって、ア痛っ! 爪立てるなってアタタタタ」

 

 俺の顔面で暴れるねね。

 でもありがとうねね。お前のおかげで助かった。

 あ、でも地味に痛い。助けて。

 

「……そいじゃオレは荷物車に運んでるから」

 

「あ、薫ぅ、待ってくだサイよー」

 

 おいおい待て待て、オレの荷物なんて小さいキャリーケースと背中の竹刀袋だけだぞ!? 

 なんで2人ともそっちに行く!? 

 

「いぢぢ、ちょっと!? ねね退かしてくれねぇか!? 全然離れないんだけど!?」

 

「知らん。じゃれてるだけだろ」

 なんで機嫌悪くなってんだお前!? 

 

「うーん。キョージはちょっとデリカシーに欠けるのでねねのお叱りの言葉はしっかりと受けとくべきデス」

 え? 何かセクハラ発言したっけオレ。

 

「嬉しがってたくせに」

 

「はて? なんの事デショー?」

 

 ねねに覆われた視界の片隅で2人が遠ざかる。

 

「ぬ、うわっ、お叱りの言葉って、俺はねねの言葉分かんね、イテ、イテテ、止めぃ」

 

「ね──!!」

 

 俺がいったい何をしたって言うんだダダダダダダダ。

 

 

 ◇◇◇

 

 

「あ゛ー疲れたー」

 実験をすませた俺はあてがわれた部屋のベットに体を預ける。

 

 まだまだ試作段階の新型装備は宇宙服みたいに重く、実験の結果もあまり芳しくなかった。

 

 ま、まだまだ試作段階の技術なんだ。失敗する前提で実験に臨むべきなんだろうけどさ。

 

 現在、長船女学園の近くの研究所で開発されている「ストームアーマー」(通称S装備)は、日本とアメリカが共同で研究している対荒魂用強化装甲だ。

 御刀の材料である珠鋼を鎧に組み込み、刀使だけが使える特殊能力を普通の人でも使えるようにして荒魂と戦えるようにする装備だそうだ。

 

 ……もちっとカッコイイ名前の方が良い気がするんだが。

 

 ────

 

 ガチャン

 

 俺の部屋のドアノブがグッと下がって戻らず止まる。

 

「おーい、恭侍ー、いるかー」

 

「薫か。いるぞー、今開けるな」

 

 ノブが下がったままのドアを引いて開けると、反対側のノブにぶら下がったねねの姿が。

 

「ご苦労だなお前も」

 

「ねー」

 

 薫はノックの代わりにねねをドアノブに引っ掛けさせたらしい。

 ねねを抱っこして、悪い飼い主を見る。

 

「なんだよ」

 

 なるほど

 

「いや、なんでもない」

 薫は自分の肩幅に近い大きなグレーのゲーム機を両手で持っていた。

 そりゃそんなもん持ってたら扉開けらんねぇわな。仕方ないわ。

 

 にしても、でっけぇPSPだな。

 アレ? そもそもそんなもの発売してたっけか? 

 

 ……

 

 ま、いいか

 

「ほいよ、上がんな。空き部屋借りてるだけだから何も無いけどさ」

 

「知ってる」

 

 ────

 

 俺が本日借りているのは長船女学園女子寮の空き部屋。

 

 先に釘を刺しておくが誠に遺憾であるが。だ。

 

 いつもは研究所のどっか空いてる部屋に泊めてもらってたんだけど、どうやらソレは、研究機関の重鎮にしてエレンのお爺ちゃんのリチャード・フリードマンさんが無理を言って貸してくれていたようで。

 運悪くお爺さんが居ない時に来てしまった俺は実験の後、「フリードマン氏の口添え無しに、部外者を研究所に泊めるのはちょっと……」とやんわり追い出されてしまったのだ。

 

 困った俺はエレンに相談し、長船女学園の学長。真庭紗南先生の計らいで今日一日だけ寮の部屋に泊めてもらえることになったのだった。

(なお、事情を知らない学生に見られたら覚悟しとけよ? とのお達し。怖ァ!)

 

 ちなみにその時、何故か薫にスネを蹴っ飛ばされた。解せぬ。

 

 閑話休題

 

 ────

 

「で、何しに来たんだ?」

 

 薫が両手で持ったゲーム機を掲げる。

「お前、オレが持ってるモノが見えてないのか? ゲームだよゲーム。遊びに来たに決まってるだろうが」

 

「おう、そうか。じゃ、俺は報告書書いてるから好きにやってくれ」

 

 きびすを返した俺の腕を慌てて薫が掴む。

 

 ゲーム機落ちても知らねぇぞ。

 

「待て待て待て待て! どうしてそうなるんだ!? 1人でゲームするためになんでわざわざ他人の部屋に来る必要があるんだよ。それじゃまるで俺が意地が悪いみたいじゃないか」

 

 

「違うのか?」

 

 バン! 

 

 無言の張り手

 左肩に炸裂

 

「肩イッタ!?」

 

「ったく、いいから、やるぞ。エレンはあんま付き合ってくれねぇんだ」

 

「つっても、コレ1人用だろ? 結局俺遊べないだろ」

 

 そのPSPLLを2人でどう遊べと? 

 交代交代か、それても二人三脚か? 

 どちらにしてもそこまでしてゲームする気にはならないなぁ。

 

 とか思っていると、薫が、ねねまでもが変なモノを観るような目で俺を見てきた。

 

 その目やめろい。そんな目で俺を見るでねい。

 

「お前Switch知らねぇのか?」

 

「スイッチ?」

 

 うーん

 

「知らんな」

 

 ……

 

 謎の沈黙。

 ねねのアゴがカクーンと開いちゃいけない位置まで落ちている。

 

「……お前中学生じゃねぇよ」

 

「そこまで言うか!?」

 

「ウチの爺ちゃんですら知ってるのに、中学生で知らない人間がいるとは思わなかった」

 

「お前自分の爺様何だと思ってんだよ」

 

「田舎の爺ちゃん」

 

「そりゃそうだな!」

 

 

 ────

 

 

 ニンテンドーSwitch

 テレビに繋げられて持ち運び可能。かつ1台にデフォルトでコントローラーが2つ付属していてすぐに対戦可能という次世代の携帯ゲーム機。

 ただし、二つのコントローラーと共に持ち運びできるという利便性に重きを置きすぎてコントローラー自体の使い勝手はイマイチだったり。

 

「と言う割に随分動けてるじゃねーか」

 

「まぁ、マルスはそれなりに使い慣れてたから……な!」

 

 ────

 

 ガリリリリリ ドォン! 

 

 GAME SET

 

 マルス WIN

 

 ────

 

「はぁ!? 今オレ避けただろ!」

 

「俺もジャンプしたぞ」

 

「お前、マルスの切り札はずしたら自爆するの知っててやったのか!?」

 

「当たる気しかしなかったからな」

 

 お、今のは煽りポイント高けぇ

 

「な! に……ぬぬぬぬぅ」

 

「ねの?」

 

「うるせぇ! ……いいぜ、お前がその気なら、オレも本気出してやる。オレのイカでお前のマルスを真っ青にしてやるよ」

 

「マルスは元から青いぞ」

 

「そう言うことじゃねぇ」

 

 薫がスイッチの本体を俺たちの側に寄せる。

 そしてそのまま薫が俺の横に座る。

 

 ……何故に

 

 ギョッとしてみじろぎすると離れないように腕を掴まれた。

 当然薫の仕業だ。

 

 薫と俺の視線がぶつかる。

 

 薫が俺を見つめていた。

 

「……なんだよ」

 

「お前の方こそ何だ。急に寄ってきて」

 

「画面が小せえんだ。もっと詰めろ」

 

「薫の方に画面寄せるだけで俺はいいんだが」

 

「それじゃフェアじゃないだろ」

 

 ……

 

「そうか」

 

 ちょっと薫が何を考えているのか分からなかった。元からそんな察しの良い方ではなかったけどさ。

 

 

 ────

 

 カチャカチャ

 

「恭侍」

 

「なんだ」

 

 カチャカチャカチャカチャ

 

「お前、研究所でエレンと何話してたんだ?」

 

 ガチッ

 

 ……

 

「真庭学長に取り次いでくれた事へのお礼だ」

 

「オレが言ってんのは、休憩時間の直前にエレンと2人っきりになった時の事なんだが」

 

 ガチチッ

 

 ……

 

「そんな事あったか?」

 

「あった。休憩室に来る前に休憩時間の半分使っただろ」

 

「装備を外すのが遅れて「お前が装備を脱いでからが休憩時間の始まりだ」」

 

 ……

 

 ドォン

 

「おいおい復帰ミスとはらしくねぇな」

 

「エレンと何話したか思い出そうとしててさ」

 

「そうか。で、何話したんだ」

 

 なんで知りたがるんだお前!? 

 

 もしかして精神攻撃の一環か!? 

 

 それなら効果はバツグンだコノヤロー! 

 

 いやまぁ、別に話すのはいいんだ。やましい話でもないし。

 

 でも、やましい話ではないんだけど

 

 

 あんまり薫には聞かせたくない話なんだよなー

 

 ────

 

 実は今回、俺の長船での実験が繰り上がった理由の一つに、フリードマンさんの不在が挙げられる。

 

 リチャード・フリードマン博士は前述の通りエレンのお爺ちゃんで、S装備の開発主任だ。

 であるにも関わらず、彼は最近、研究所に居ることが少なくなっていて、たびたび行先不明で外出する事が増えているらしい。

 

 S装備は現在日本で開発されている──人聞き悪く言えば『世界最新鋭の()()()パワードスーツ』だ。

 

 当然ながら、そんなモノ外国が狙わない訳がないし、日本も奪われる訳にはいかない。

 すでに開発協力をしているアメリカとは、表面上手を取りながら裏では骨肉を洗う出し抜きあいが行われているそう。

 

 なお、折神紫様が全戦全勝らしい。パネェ

 

 そんな絶対に取られてはいけないS装備の設計に、最も深く関わったリチャード・フリードマン博士が、今回の運用実験に立ち合わないと言う事で、紫様は本格的に彼を訝しみ始めた。

 開発主任が自分の傑作の情報を部外者に横流しするとは思えないが、万が一と言うことがある。

 その確認(と言うか実質、脅し)を俺にさせるため、実験を数日繰り上げさせて、フリードマン博士を捕まえようとしていたらしい。

 

 新幹線に乗った後で送られてきた情報ファイルにそう書いてあった。

 

 まぁ、結局フリードマンさんはいなかったんだけどな! 

 

 ちなみに他にも最近、瀬戸内市周辺で色々きな臭い動きがあるらしく、自分で立ち上げた企業が成功して、かなりのお金持ちになっているフリードマンさんなら、そう言った近隣の動きについても何か知っている可能性が高い(意味深)とのこと。

 そんな訳で出来ればフリードマンさんと話をしたかったという裏があった。

 

 そして、俺はその話をそっくりそのままエレンに流した訳だ。

 

 二重スパイ? いやいや俺はただ世間話をね。

 

 まぁ、エレンは頭が良いからきっと上手く情報を使ってくれるはずだ。フリードマンさんの孫と言うのもポイントが高かった。

 

 対して薫は地頭は良いんだが、どうにも怠惰だからちょっと選外。

 ……それに、俺個人の感情として、薫にはそういったことには関わってほしくなかったりする。

 

 それは本当だ。

 

「フリードマンさんの話だ。フリードマンさんに聞きたいことが有ったからその伝言をエレンに頼んでたんだ」

 

 ふふふ、一流の詐欺師は嘘をつかない。

 ただ真実の全てを離さないだけ。

 

「ふーん、そうか」

 薫が興味を失ったように画面に顔を向ける。

 

 ふぅ、乗り切った。

 

 ドォン

 

「あ」

 

 GAME SET

 

 インクリング WIN

 

「よし」

 

「しまったー」

 まぁ、いいか

 

 これでやっと薫の話も

「そういやお前髪染めたんだな」

 

 なん……だと……っ!? 

 

 元黒髪が、髪を黒く染め直したのが何故バレる!? 

 

「ああ、別に話さなくてもいいぞ。お前が一時期、剣術に飽きてはっちゃけて、それを反省して黒く染め直したってことも有るだろうしな」

 

 なにおう!? 

 

 剣術には真面目な俺にその言い草とは。

 

 その言葉、今すぐ否定したい。

 

 否定したいが、不用意にたてつくとカウンターが怖い。この髪の理由は割と重大な機密事項だからだ。

 

 というかコレ完全に釣り餌だし。

 

「いやぁ、最近仕事がハードでさ。久しぶりに妹に会ったら白髪増えてるって笑われちまってなー」

 

「お前そんなん気にしねぇだろ」

 

 薫の言葉が正鵠を撫でる。

 ほんのちょっぴり掠めて囁く。

 

「お前、隠し事有るだろ?」

 と優しく、寝物語を聞かせるように、自白を促してくる。

 

 気分はさながら不貞のばれた旦那様。

 

 いやまぁ、薫の旦那様とかおこがましいにもほどがあるけどさ。

 

 薫。お前は何故そんなに俺の事を知りたがるのかッ!? 

 

 なんでだ!? 

 

 分からん!? 

 

 女心なぞ特撮は教えてくれなかったぞ!! 

 

「……ま、まぁ、人前に出ることも増えたからかねぇ。身嗜みに「ふーん」」

 

 薫の俺を見つめる目がいつになく痛い。

 勘弁してくれぇ……。

 

 ────

 

 その後、俺は薫の二重の猛攻を、穴あきチーズぐらいボロボロになりながらも耐えきり、次の日の早朝、長船女学園を後にした。

 

 なんか怖くなって逃げ帰ったとも言う。

 

 

 ◇◇◇

 

 人に見られないため&始発で帰るために外が明るくなる前に女子寮を出たというのに、何故か俺の手には二つのお弁当が握られていた。

 薫ぅ、お前そんな早起きできたのかよ……。というか何故2つ……。

 

「どっちのが美味しかったか、後で感想くださいネ?」

 

 バチーンとウィンク一つ。並の中学生ならイチコロだ。俺は並の中学生じゃないから致命傷で済んだがな。

 

 はっはっ……

 

 ゾッ

 

 背筋が凍った。

 

「どうしたんだ? 早く電車乗らねぇと車掌が困ってるぞ」

 

「あ、あぁ」

 

 薫に促されるまま電車に乗った瞬間、待ってましたと閉まるドア。

 

 後ろに流れる2人の姿。

 

 手を振るとエレンがにこやかに振り返してくれる。薫の方は気怠げに片手を挙げただけ。ははぁ、こういうとこにも性格が出るなぁ。

 

 とか思っている間に電車が曲がり2人が見えなくなる。

 

 さて、次の任務はなんだろうな。

 できるなら、その前に振替休日を所望するけど。




この作品は、
1.オリ主視点のストーリー解説
2.ヒロインの心情
を交互に繰り返すオムニバス風となっております。

ちなみに次回はヒロイン視点です。

[本日の(語弊のある)あらすじ]
幼なじみと2人っきりでゲーム三昧

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