うつらうつらと
遊びに行った山からの帰り道。
紅茶色の空。気の早い月がポカンと浮かび、カフェオレみたいに昼と夜がトロリと混ざる黄昏刻。
「腕、痛くないか?」
「足が痛いぞ。おんぶしろ」
「してんだろ」
ぶっきらぼうな物言い。
それでも、一人で山奥に消えたオレを、探しにきてくれたコイツはなんだかんだ優しい。
それ以上に、怖いもの知らずとも思うけどな。
でも、崖の下でぐずっていたオレを迎えにきてくれた時は、本当に嬉しかった。
太陽が山の影に入った瞬間、カァっと森が真っ赤に染まる。
真っ赤な空に真っ赤な森、目がチカチカしてきて目を瞑ると、目蓋が二度と持ち上がらなさそうなぐらい重くて、そのままスーっと意識が遠のく。落ちないように手を回して恭侍を抱きしめる。
「お前、暖かいなぁ」
「そりゃ、薫の無茶に付き合わされてたらな」
「そういうことじゃねぇ」
擦りむいた膝の痛みを忘れて、コクリコクリと舟を漕ぐ。眠い。けど、腕の力だけは絶対に抜かない。
ギュッと抱きしめたコイツの熱。
暖かい……コイツは……オレだけのモノだ。
◇◇◇
「よぉ、久しぶり」
「久しぶり」
「ハァイ! お久しぶりデース!」
オレと恭侍の間にエレンがヒョコっと身体をねじ込む。
ギッ
エレン、恭侍はオレの方を向いて言ってただろ。割り込むんじゃねぇよ。
「薫? どうした?」
「なんでもない」
一年ぶりに会った恭侍はすげぇ甘ったるい匂いがした。品の無い砂糖菓子みたいな匂いだ。
それと荒魂の匂い。
どちらにせよ酷い匂いに変わりはない。
その匂い、誰に付けられたんだよ。恭侍はオレの「幼なじみ」だぞ。
お前もお前だ。気付け馬鹿。
オレの知らない所で知らない女にべたべたされるのは分かる。恭侍はモテるからな。いつも一緒にいれない分は多少は見逃してやるよ。
けど、だからってオレに会うのにそのまま来るのは失礼ってもんだろ?
まったく、身嗜みには本当頓着しねぇのな。それとも頓着する時間が無いのか?
なんなら昼寝でもオレは構わないぞ。その間にオレが服を洗ってやる。
ウチはそれなりに名のある家だ。花嫁修行だって実はそれなりにやってんだぜ?
お前以外に見せてやるつもりはないけどな。
そうだ。それか実験をサボって遊びに行くか? オレはそれでも構わねぇ
「あづっ」
「お前の怠け癖も相変わらずだな。簡単な任務なんだからさっさと終わらせて、それから寝ればいいだろ? OK?」
ったく、冗談だろ? それぐらい分かれよ。
「おー、流石はキョージ。薫の幼なじみなだけはありマスねぇ」
いーやエレン。コイツは幼なじみ力がまったく足りてねぇ。
この朴念仁の唐変木は、人の気持ちってのが全く
「俺とそんな薫とは親しくねぇよ。せいぜい友達止まりだ」
……
ナンダヨソレ
無意識にアイツの首に手が伸びた。
憤怒、困惑、恐怖、悲嘆
混沌とした想いが手に宿る。
刀使の特殊能力「八幡力」
その力は鋼鉄を素手でねじ切る。
この馬鹿の首を胡瓜みたいにへし折ってしまおうと手が伸びる。
スカッ
まるで分かってたみたいに簡単に躱された。
……
……分かってたみたいに
お前はオレと親密な関係にあることを知られたくないのか! それに、実はオレと幼なじみ以上の関係になりたいと思っているんだな? 仕方ない男だなぁ、そういうのはキチンと人気の無い場所で言うべきだろ。
まったく、予め言っておけよ。危うく殺しちまう所だったじゃねーか。
なぁ?
◇◇◇
恭侍は嘘が下手だ。
「お前の先生は綾小路の学長なのか」
「ああ」
違うらしい
「危ない実験はやらされてないか」
「ヤバいのは断ってる」
けど危ない実験はやってる
エレンとの内緒話。
髪の色のこと。
その服、入学時に貰った奴じゃないだろ? その腕の傷はどうしたんだ? お前荒魂について何か知らないか? そういや足捌き変わったな? 昨日夜遅くまで起きてたんだろ? 眠くないか? 腹の怪我痛いだろ?
え? なんでそんな事まで分かるんだって?
分かるに決まってるだろ? お前はオレの
ああ、後一つ良いか?
前までご執心だった女はどうした?
なるほどなるほど、治ったのか。良かったな。
……嘘だな
嘘。嘘。嘘。嘘。嘘。嘘。嘘。嘘。嘘。嘘。
オマエノ答エ、ゼンブ嘘ダ
…………はっはっは
お前、努力を人に知られるのが嫌いだもんな!
どんな辛いことでも自分から助けを求めたりしねぇもんな!
分かるんだよ
当然だろ?
オレとお前の仲なんだからよ。
嘘じゃないからバレないだろう。だろ? お前、本当に隠す気あんのかよってぐらい分かりやすいぞ。
そんなんで騙せると思ってんのかよ。
思ってんだろうな。分かってる。
お前が隠しているのが何に関係しているのか
お前がどんな状況下にあるのか。
何もかも分かる。
全部「折神家」が悪いことだって分かってんだ。
だから、お前の言葉が嘘だらけなのも許してやるよ。
その事をオレに相談しないことも
エレンにだけ内緒話をしたことも
全部
全部
許してやるよ。見栄を張らせてやるのも女の甲斐性だもんな。
お前は嘘も隠し事もするけど、騙しはしない。
その違いは重要な違いだ。
込められている思いの違い。お前の嘘に込められているのは優しさだ。
オレに心配させまいって言う想いがこもってる。
嬉しいぞ。本当に。
だからオレもそれに答えたい。
折神家をぶっ潰して、お前がもう嘘をつかなくてもいいようにしてやる。
そしたら一緒だ。
お前はオレの一番大切な人で、
益子薫
長船女学園所属 原作では高等部1年。
無口で面倒くさがり。ただスペックは高い。
恭侍とは昔からの友達で一番の親友()。
自分が愛しているのと同じぐらい恭侍が自分を愛してくれていると信じて疑わない。
そのため、鼻が効くが、背信行為に比較的寛容。(恭侍の意思じゃないから)
今はまだ互いのしがらみが有って、一緒になれないけど、いずれは迎えに行くつもり。
恭侍もその時を待ち望んでいる()。
[本日のあらすじ]
益子薫は良妻を気取る