ガタンゴトン、ガタンゴトン
線路の繋ぎ目、足音鳴らし、ゆられゆられて電車旅。
車窓を開ければそこには雄大な
なんて映えるような事はなく、
あるのは海原のごとき鬱蒼とした山と森。
トンネル入って
トンネル抜けて
現れるのは
山、森、野原、それと畑と民家がぽつぽつと。
田舎電車から見える風景なんてそんなもの。
見飽きた風景だと恭侍は思ったが、はしゃぐ可奈美の横、その言葉は口の中に転がすだけに留めた。
言ったが最後、可奈美に幻滅されてしまうと思ったからだ。
兄は妹より、強く、賢く、芸術にも見識豊富であるべきというのが、恭侍の自論である。
簡単に言えば、恭侍は見栄っ張りなのだ。
ジャ──っと電車の走る音が変わり揺れが収まる。
ザァっと青葉の余韻を残して、電車が林を通り抜けた。
電車が高架橋に乗り、町が見える。
少し視線を上に向ければマンションの上に山が見えるのはご愛嬌。
どこに行ってもビルしか見えない都会の方が異常なのだ、と恭侍は思う。
「恭侍さんアレ! あのデパート、看板に書いてあるのと本当の名前違うんだよ!!」
向かいの席、2週間ぶりの地元に興奮を隠せない可奈美が車窓にべたーっと張り付いている。
指差す先には少し大きめな建物。ピンクの看板にJUSCOの5文字。
たぶん、中身はAEONだろう。
「へー、懐かしいな」
恭侍がジャスコとイオンが同じ会社だと言うのを知ったのは割と最近。
電車が走る。
田舎と言ったが、県庁の近くの駅には、デパートもあり、それなりにお店の密集していて、なかなか栄えている様子。
もっとも、可奈美の家はもう数駅先の住宅地なので、栄えた町はあっという間に後ろに消えた。近代的な町並みは離れていき、また果樹園と畑と一軒家ばかりの風景が現れる。
可奈美の町を恭侍が見るのはこれで3度目だが、そのどこにでもある町の姿からは、どこか懐かしさを感じられた。
見知らぬ町の見知った風に、不思議と恭侍の顔が綻んだ。
それを目敏く可奈美が見つけて、あっ、と声をあげると、バレたのが気恥ずかしくて、恭侍はいつもの2倍顔をしかめた。
可奈美があたふたと慌てて、恭侍は仏頂面でプイっとそっぽを向いた。
すぐに馬鹿らしくなって恭侍が笑う。
つられて可奈美もくすくす笑った。
「2週間あっという間だったね」
しみじみと可奈美が言う。
……
「ソウダナ」
帰ってきたのは大人の返答。
どこか寒々しいその言葉に、可奈美が悲しそうな顔をして、恭侍が慌てるのはそのすぐ後のこと。
────
恭侍にとって、この二週間はとてもとても長かった。
だいたい可奈美の悪癖「剣術馬鹿」のせい。
(オブラートは捨てた)
可奈美は、ただでさえ、最強無敵の超天才なのに、鍛錬も大好きだった。
移動、食事、睡眠以外は、だいたい竹刀を持ち出そうともぞもぞしていて、その度、恭侍に首根っこを猫のように掴まれること多数。
それでも空き時間を見つけては、剣術の鍛錬に恭侍を付き合わせた。可奈美としては無理強いするつもりはなかったのだが、恭侍は全ての鍛錬に付き合ってみせた。
なぜなら彼は負けず嫌いだったからだ。見栄っ張りとも言う。
そんな恭侍の方はと言えば、毎日毎日、各流派の報告書制作と可奈美の勉強に付き合いつつ、夜は可奈美と立ち合い、更には睡眠時間と自由時間を切り詰め、兄役の威厳を保つための自主練まで行なっていた。
まさにセルフ苦行。
「キツいなー、休みたいなー」と本能が訴える時もあったが、そんな時は必ず「そういう苦難を受け止めながら笑えてこそ、自分を誇れるのだ」となんだか意識高い系の理性がでしゃばり、結果、恭侍はキリキリと働いた。
全ては自分のお兄さんとしての尊厳のため。
尊厳は時として、命よりも重いのだ。
ひとえに彼がこの苦行を成し得たのは、彼の背中を熱き羨望の眼差しで焚きつけた可奈美の存在が大きい。
恭侍は、女の子の前なら、空だって飛べちゃう人種であったのだ。
……
見栄っ張りというより
飛鷹恭侍はとにかくカッコつけたがりな人間であった。
閑話休題
────
──可奈美にも、剣術で本気になれる友達が何人かできたようだし。
中部地方の有力な刀使候補生の選抜も、可奈美の相手が務まるかどうかでその道場の期待値が出せたお陰で、簡単だった(可奈美が基準とか強すぎる気もするけどな)。
可奈美の師範の無茶振りは、結果としていい方向に働いた(でも娘を家族の承諾なしに人に預けるのは許せん)。でもまぁ、俺は寛大な心で許してやろうではないか。師範だって悪気は無かったんだろうし(イタズラ心はあっただろうけどな!)
そう大人ぶって、恭侍がむふふと笑った。
「恭侍さんどうしよう!? みんなへのお土産が多すぎて持ち切れない!!」
「半分持ってやるから貸しな」
可奈美は、腕いっぱいにお土産を抱えて、胸いっぱいに沢山の実りを抱えて故郷に帰る。
そして俺は、小さい頃結婚の約束をしたお兄さんのように、あっという間に忘れ去られるのだ。
それで良い。
そう、恭侍は思っていた。
……
二週間の共同生活を経ても、飛鷹恭侍は、
天才 衛藤可奈美 を見誤っていた。
卑屈な自負も過ぎれば傲りに変わる。その事に彼が気付くのは、もう少し後の話。
作風悩んでおります。
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[本日のあらすじ]
飛鷹恭侍は見栄っ張り。