ジョニィ・ジョースター、杜王町で撃つ   作:澱粉麺

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飢えた男、イタリア料理を食べに行くの巻

 

信頼できる仲間が出来、衣食住もまあまあ安定した。そうなると人間は欲が出てくるものだ。

 

そしてその欲が最も向けられたもの…

つまり、僕が一番欲っした物。

それは嗜好品だった。

 

嗜好品というと一見それといった意味も無いような物に思える。だが、そうじゃない。むしろ、士気を落とさずに何かを成し遂げるには必須といってもいい物だという事を、僕は最近よく思い知った。

 

……つまり、何が言いたいのかと言うと、

『ジャイロのコーヒーが飲みたい』

と言う事である。

 

コールタールのようにドロドロのあのコーヒーは、SBR中での殺伐とした日々の格別の楽しみだった。苦く甘く、それでいて信じられない程香りが良い。正に『大地の恵み』だった。

 

だが今、当然、杜王町には彼はいない。

(彼の名を騙る自称友人ならここに居るが)

 

更に、この町にはそもそもイタリアンコーヒーを置いてある所自体少ない。ホテルに置いてある物も、アメリカ式の物だけだった。自分で淹れればいいかとも思ったが、結果は金と豆とを無駄にしただけだった。

 

そんなこんなで悶々としていたある日の事。

トレーニングを兼ねた散歩をしているさなか、

ある一つの看板が目に入った。

 

 

「……イタリア料理、『レストラン・トラサルディー』?」

 

 

最近出来た店なのかは判らないが、看板は真新しい物だった。

その看板によれば、この道を200mほど先に行けばある店らしい。

 

「…成る程…」

 

お誂え向きだ、と思った。

ここらは急な斜面も無く、その上、200mなら車椅子の僕でも通える距離だ。そしてイタリア料理店なら当然コーヒーもあるだろう。カネは余り持ってきていないが、まあ足りない事も恐らくは無いはずだ。

 

 

(ま、どうせ暇な身だ。

冷やかしにでも行ってみるか…)

 

 

と、言うことで。

僕はそのレストランへ行く事にした。

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

 

 

 

10分ほど車椅子を漕ぎ、

『レストラン・トラサルディー』へ着いた。

 

店自体はあまり大きく無く、見た目もちょっとボロい。店の隣に霊園がある事も手伝って、雰囲気は少し不気味だ。

 

しかし、窓には光が灯っており、入り口にも営業中との看板があるので、やっていない訳ではないらしい。

 

 

それでも少し入るのを戸惑っていた、そんな時だった。中から悲鳴が聞こえて来たのは。

 

 

幸か不幸か僕はその声を知っていた。

 

 

「…ッ!?今の声はッ…オクヤス!?」

 

 

間違いない。あのダミ声は確かにそうだ。

店内ではスタンド使いが悲鳴をあげるような、

そんな事態が起きているのか?

つまり…スタンド攻撃が起こっているのか!

 

 

そう思った途端、肌がピリつく。

 

 

(助けに行くか?

正直ここから立ち去ってもしまいたいが…

いや、ダメだッ!行かなくてはならないッ!)

 

 

そう考えた僕は、『タスク』を発動させて、

周りを見渡し…そして、店内に飛び込んだ!

 

 

そこで僕が見たものは…!

 

 

 

 

 

「うンまぁ〜〜い!」

 

 

 

 

 

…いかにも幸せそうなアホ面でプリンを食べているオクヤスの姿だった。

 

 

「あれ?ジャイロじゃあねえかよ?どうしたよそんな怖え顔して。ひょっとしてトイレか?」

 

 

彼はそう言って、ぎゃははと笑った。

 

 

心配と極度の緊張下にあった僕はその能天気な物言いとツラについムカッと…いや、ブチッとキてしまって…

 

 

まあ、その、何というか…

 

 

…一発撃ったのはやりすぎたと思う。

 

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

 

 

 

「ジャイロさんも来たんすか…『スタンド使いはスタンド使いに惹かれ合う』か…最近、ほんと実感するぜ」

 

 

三角巾にエプロンとの似合わない格好で仗助が話す。隣にはオクヤスが座る。笑いながらその格好の事を聞くと、かれは顔をリンゴのように赤くしながら顛末を話した。

 

要約すると、彼は店主を敵だと思い込み、厨房に突撃をかまし、結果こうなったのだという。最初こそ笑いがこみあげたが、もし僕がこの店に最初に来ていたらと思うと、笑えなかった。

 

 

 

「お待たせいタしました、カプチーノです」

 

 

そうこうしていると、店主…『トニオ・トラサルディー』がコップを片手に厨房から出てきた。

 

 

どうも、彼もスタンド使いらしいのだが、オクヤスや仗助曰く、ただ善意で能力を扱っているという、『良い人』だそうだ。

 

…正直言って信じられない。まるで壮言大語だ。

そう思った上、実際に仗助達にもそう言った。

 

 

だが、オクヤスはそんな事を言った僕に対して言い聞かせるでもなく、否定するでもなく、ただ、にやけてこう言った。

 

 

「料理を頼んでみなって」 と。

 

 

結局、コーヒーだけ頼むつもりだった僕はその謎の圧力に負けてしまい、フルコースを食べる事になった。

 

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

 

 

この味を作れる料理人というのは、天使に違いない。そう思う他は無い。美味しいという言葉で足りない程には美味しいと思った。有り得ない味覚の衝撃だった。

 

成る程オクヤスが言ってたのはこういう事か。

 

その美味しさもさることながら、何より凄いのは、食べていく内に身体の不調がどんどんと治っていくということだ。

イエス様が槍で突かれた際、その血を浴びたロンギヌスは、不自由だった目が治ったと言う。この現象はまるでそれだ。

 

もしこれが『スタンド能力』と解っていなければ、僕は本当に彼を天使か何かと勘違いしてしまっていたのではないだろうか。

 

一つ一つの料理に感銘を受けながら、僕は身体の不調を治していった。

それは、慣れない生活による胃の荒れ、頭痛やめまい、寝不足などを嘘のように解消させしめたのだ。

 

そんな中の事、一つだけハプニングがあった。

 

四品目のデザートを食べている最中の事。

ゼリーを頂きながら、コーヒー(本来の目的はここでようやく果たされた)を飲んでいた。

 

それまでと同じ様に何かしらの変化が起こるのだろう。そう思っていた。

 

しかし、幾ら待っても何も起こらない。

 

それまで得意げな表情で傍にいたトニオも、困惑と怪訝をありありと浮かべていた。

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

 

 

結局、フルコースは

「お代を頂く事ができません」との事で、料金を払う事を許されなかった。彼の中のプロとしての自信や矜持がそうさせたのだろう。

 

少しでも不完全な物に対しては妥協を許さないその厳しさこそが彼をこの境地に立たせたのかもしれない。

 

 

そんな事を思いながらも、僕は帰路についた。

 

 

(本当に、信じられないほど美味しかった…

こんな料理を、ジャイロにも…

……ニコラス兄さんにも…)

 

 

墓地が近くにあるからだろうか?

ついセンチメンタルな気分になってしまった。

 

 

(ダメだ、こんな事。

僕らしく…否、『ジャイロ』らしくない。)

 

 

そう思いながら、目元の雫を拭った。

一度流れた雫は止まらず、暫くの間、自分でもよくわからないままに泣いてしまっていた。

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

 

「仗助サン、お掃除お疲れ様でス。

もういいですよ。アリガトウゴザイマシタ。

お礼と言ってはなんデスが…警告を」

 

 

 

「…?いきなり、何を言っているんすか?」

 

 

 

「……ワタシの『パール・ジャム』は確かに、外傷などを治す事は正直難しいでス。しかし全く反応しないというのも考えにくい」

 

 

「待て、トニオさん…何を言っている?」

 

 

「ジャイロさんの事です。イエ、あの人の脚の事と言った方が良いでしょウか。…仗助サン、貴方。あの人の脚を

『クレイジー・D』で治そうとした事は?」

 

 

「…ある。…なあ、何が言いたいんだ?」

 

 

「結果は?」

 

 

「あの車椅子を見ればわかるだろ?」

 

 

「…ワタシはそれが言いたいのです」

 

「外傷を全て治す事の出来るスタンドと、病気のような内面的症状を治せるワタシのスタンド。この二つが揃い、治せない傷とは一体、何なのデショウか?」

 

 

「……ッ!」

 

 

「…先程、何が言いたいのかと言いましたネ、仗助サン。それは、ワタシにもわかりませン。

…しかし、これだけは言っておきたいのでス」

 

「彼のあの脚…ひいては彼は、相当に異常である事を」

 

 

「…つまり、何か?ジャイロは敵だとでも?」

 

 

「イイエ、とんでもない!…ただ、何か、変な感じがするのです。得体の知れないというカ…」

 

 

「…解ったよ、トニオさん。ありがとう」

 

 

「…スミマセン、適当な事ばかりを」

 

 

「いや、いいんだ…ありがとう。

…それじゃあな、トニオさん」

 

 

「…ええ、またのご来店をお待ちしてオリマス」

 

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

 

 

帰路の中、仗助は考える。

 

 

(ジャイロは信頼できる人間だと思っている。だがトニオの言うように謎が多いのも事実だ。…そして、億泰の家でのあの残虐性…)

 

 

彼は、当然のように殺しをするつもりだった。

それを忘れてはいなかったか?

 

 

(だが…クソッ!)

 

 

 

足元にあった石を蹴り飛ばす。

苛立ちは、増す一方だった。

 

(あの笑顔が…あの楽しそうな顔が嘘であってたまるか?騙そうとすれば、人はあんな顔を嘘でも出来るのか?そんなの…わからねえ!)

 

 

苛立ち、そしてやるせなさを胸に空を眺める。

 

そして仗助は、こう呟いた。

 

 

「ジャイロ、アンタは何者なんだ?」

 

 

問いは誰にも届かず、ただ静かに町へ溶けていった。

 

 

 

 

⇒to be contenued…

 

 

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