ジョニィ・ジョースター、杜王町で撃つ   作:澱粉麺

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不随のガンマン、狩りに行くの巻

 

 

「ジャイロ…これから狩りに行く。

一緒に来てくれ」

 

「…何?」

 

 

急にそう言われたのはついさっき。

承太郎が僕を呼んだ場にてそう言った。

 

 

「狩り…かい?随分とまた唐突だな…

…それに、必要性も感じないけど。」

 

 

正直言って。

僕はこの空条承太郎という男をよく分かってないし、知ってもいない …いや、知る機会が無かったというのが正しいだろうか。

 

僕がこの男と関わる時は、基本的に仗助達と一緒の時だ。

…詰まる所、僕と彼には会う理由というものが無い。スタンド使いの仲間だから何か事件があった際には呼ばれるが、あくまでそれ以上に交流はほぼ無い。

 

…だから、ただ一つ。僕が彼についてわかっている事といえば、彼が恐ろしく優秀だという事のみ。

 

 

「それに、この国では銃を持ったりだとか…そもそも野生動物を狩る事自体すらかなり面倒くさい事になるんじゃあないのか?そこまでして、狩りなんてする必要があるのか?」

 

「…チリペッパーの音石明が昨日、財団にて自白した」

 

「財団…またSPW財団かい?」

 

 

話は聞いている。承太郎が属し、そしてスタンドに理解を示し、協力する財団。彼らの、ジョースターの。強力な後ろ盾。 気にしてもいなかったが、成る程、音石はその後そこに護送されていたのか。

 

「ああ。最も信用できる団体だ。…話を戻そう。音石は俺たちに正体がバレる前、一匹の鼠にあの『矢』を射っていた…」

 

「…ネズミ?」

 

「そしてその鼠は射られても死なず、もがきながらも刺さった矢から自力で脱出し、逃げ去ったという…」

 

「…!という事は…!」

 

「その鼠は確実に『スタンド』能力を身につけている事になる。どんなスタンドかは判らないが、何かが起こる前にその鼠を狩らないとならない」

 

「…成る程、そういうわけで僕を呼んだのか。確かに、僕の『スタンド』能力は、狙撃して、動物を殺すなんてのにうってつけだもんな」

 

 

「そういう事だ。悪いが、拒否権は無い。

是が非でも協力してもらう」

 

「…やれやれ、この『狩り』…

スゴク危険な物になりそうだな」

 

「(…出来れば断りたいが、拒否権は無い、とこうも言い切られちゃあな……しかし、スタンドを身に付けた動物か…)」

 

 

動物(それも恐竜に!)へ姿を変えるスタンドならば出会った事があるが、スタンドを身に付けている動物なんてのは初めてお目にかかる。

正直、人間相手よりは楽だろうが、それでも手強い相手である事に変わりはないだろう。

 

「…後でそれ相応の報酬は払ってもらうよ。

…そうだな、暇つぶし用の本なんてどう?」

 

「わかった。手配しておこう」

 

 

…ジョークのつもりだったんだがな。まあいい、それよりも僕は、さっきからずっと疑問に思っている事があるんだ。

 

 

「…ところでなんだが。

僕は見ての通り脚を動かす事が出来ない。

下半身不随ってヤツだ。そんな僕が鼠が居る場所に移動できるのか?」

 

「心配するな。俺が『スター・プラチナ』で車椅子ごと君を運んで行く」

 

…何?

 

「…はは、君にも冗談が言えるんだな」

 

「悪いが冗談じゃ無い。これでも結構切羽詰まっているんでな。

こうしている間にも鼠が民間人へと危害を及ぼす可能性もある。なりふり構ってる暇は無い」

 

 

そういうや否や彼は…彼のスタンドは、僕を肩の上へと担ぎ上げた!

 

 

「お、おいッ!」

 

「悪いが、少しの揺れは我慢しろ」

 

「そういう問題じゃあないだろう!一般市民に見られたらどうするッ!杜王町の七不思議に僕らが加わる事になるぞ!!」

 

「ここらは人通りが少ない。大丈夫だ。

…多分な」

 

「多分!?今アンタ多分って言ったな!?」

 

…訴え虚しく、僕はそのままスター・プラチナの雄大な肩に揺らされながら、目的地まで運ばれる事となった…

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

 

 

「…アンタ、割と破茶滅茶やるんだな」

 

「仕方がなかったからだ」

 

「…まあ、そう言うことにしておくよ」

 

10分程肩の上で揺らされ、運ばれて行った先は用水路。移動中に承太郎から聞いた話によると、音石はこの用水路にてネズミを射ったらしい。

 

 

「間違いなくこの排水口の奥に巣がある。

ここに罠を仕掛けておこう。君はビデオカメラの準備をしていてくれ」

 

 

その洞察力、周到な準備、そして迅速な行動に只々驚かされながら、言われた事を行なっていく。

 

「(この様子なら、この『狩り』もかなり早く終わりそうだ。…というか、僕がいなくても良かった気すらするな)」

 

そんな風に油断をしていると、ふと蝿が顔に止まる。

僕は、うんざりとそれを払う。

 

そして、その時初めて気づいた。

…その蝿の数の異常さに。

 

ぞくり、と何かを感じ、僕はその蝿を手繰るように辿っていった。

するとそこには…

 

 

「…なッ!承太郎ッ!これはッ!!」

 

「…!何だ、こいつは…!」

 

 

 

…『異常』があった。

肉、肉、肉。

その箱にも見える物は、その全体が赤黒い血肉の色。

唯一残っている赤以外の色は、鼠の毛皮の薄汚い灰色と、尻尾の穢れたピンクのみ。

 

そこにあったその『異常』。それは即ち、鼠が一度溶かされ、そして固められた、おぞましい物体であった。

 

 

「皮膚の内側から溶かされて死んでいる…

こいつは、俺たちの追っている鼠の仕業と見ていいぞ、ジャイロ」

 

「こ、こいつらは一体何をされたんだ…?

いや、どうすればこんな事になるんだ!?」

 

「…スタンドの正体はわからんが、この排水口の奥にヤツがいるのは確実になった。」

 

ただそれだけを言うと、承太郎は再び僕を担ぎ上げる。排水口の先へ行こうというのだろう。

 

 

「(…人間相手じゃないから楽、だって?

僕はとんだマヌケだったようだ…)」

 

改めて考えれば、ネズミなんて生き物は『食う』『寝る』『繁殖する』の三つしか無いような生き物だ。人間のような複雑な煩悶に気をとられる事も、その必要も無い。

 

だからこそ、スタンドもシンプルな筈。

 

…そして、スタンドはシンプルな程強い。

そんな簡単な事を忘れていた。

 

 

「(この鼠のスタンドは手軽な相手かも、なんて予想は止しておいた方が良さそうだ。…厄介で、害意に満ちている能力でなければ、あんな死体は出来ない筈だからな)」

 

 

おぞましく、そして、正直言ってかなり怖い。

 

ただそれでも、心の救いなのは、彼が…

空条承太郎が居てくれている事だろう。

 

彼が居るならば何とかなる。

そんな確信じみた予感を胸に、僕は再び肩の上で揺らされ続けた。

 

 

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

 

 

 

「人の気配が無いな…」

 

「…それは、『もうあの家の住人は生きてないって思った方がいい』って事かい?」

 

「…ああ。その可能性は高いだろう」

 

「…クソッ!」

 

「取り敢えず家の中に行くぞ。…悔やむのはその後だ」

 

 

そうして、その家の中へと乗り込んでいった。

 

 

家の中を、僕をずっと肩に乗せて歩き回る訳にはいかなかったらしく、承太郎は一人で別の部屋に歩いていってしまった。

「もし発見したら声を上げてくれ」と言われはしたものの、それでも少し心細い。

 

ふと。

カリカリという音が聞こえた。

ビビっていた僕はその音を注意深く聞く。

 

すると、その齧るような音だけではない。

地鳴りのような呻き声までもが聞こえた。

 

 

「…ッ!」

 

 

承太郎を呼ぶか?いや、まだ鼠がいると決まった訳では無い。それで彼を呼び出して彼を邪魔してしまったら…

…手伝う為に呼ばれた僕が邪魔をしちゃ、元も子もないだろう。

 

ならばせめて、確認をしてから彼を呼ぼう。そう思い車椅子に手をかけ、その二重の音が聞こえてくる台所の方へ歩を進めた。

 

 

 

当然ながら、その現場へ向かえば向かうほど音は段々と大きく、ハッキリしたものになっていく。増幅していく恐怖を振り払うようにして僕は確実に、しかしゆっくり台所に入る。

 

 

そこに居たのは汚れた灰色の体毛を持つドブネズミ。…ターゲットだ。

カリカリという音はコイツが飯を食べている音だったのだ。

 

 

じゃあ、あの呻き声は?

 

 

その答えは鼠のすぐ近くにあった。

鼠の近くの冷蔵庫の中身。そこに…

 

 

「…ッ!承太郎ッ!鼠がいるッ!ここに敵がいるぞッ!!」

 

 

そう叫ばずにはいられなかった。それを…

冷蔵庫に入っている、住人達の末路を見て。

 

ドロドロに溶かされ、冷凍保存され、ゆっくりと身体を削られ、食われ…そして、哀れにもまだ生きている彼ら。死ぬ事すら許して貰えていない彼ら。僕は、その悪意の塊を見た悲鳴の代わりに承太郎を呼んだ。

 

鼠はその声に当然反応し、その音源を…

僕を、見た。

 

 

「くッ…!」

 

 

その目を、僕も見る。その、感情を読み取れない害獣の目を。

 

 

(普通の鼠ならば人間を見ればそそくさと逃げ出す…が、それは自分より強い奴に殺されない為だ。なら、人より強い力を持ったコイツらがやる事は…)

 

鼠は威嚇のようにフゥッと息を吐くと、その場に腰を据えた。

…そして、背後に不定形の何かを発現させ始めた!

 

「クソッ!やっぱりかッ!」

 

負けじと『タスク』を発現させ、鼠に構える。

そしてヤツが攻撃をする前に…

二発、爪弾を撃った!

 

その二発はヤツが机の陰に隠れていた事もあり、ただ床と机に穴を開けるのみで終わってしまう。そうしている間にも、鼠の背後のシルエットは既に不定形では無くなっていた。

 

そこにあるのは、動物にしてはやけに機械チックな見た目の

『スタンド』。

 

スコープが付き、支えがあり、そして先に付いている円筒…

まずい。あの見た目、まさか…!

 

 

「何かを打ち出すタイプの『スタンド』かッ!」

 

 

僕の発言を合図にしたかのように、ヤツは円筒を…

否、銃身をこちらに構え…

 

そして次の瞬間、針の様な物が発せられた!

 

 

「(どうする!?受けるか?

…いや、ダメだ!何が条件で溶かされるかわかってない今、ヤツの攻撃は絶対受けてはならないッ!ならば撃ち落とす?馬鹿か!そんな事は出来る筈が無い!)」

 

 

下半身が動かない僕には、腹部の辺りを飛んできたそれを避ける術が無い。走り、投げることが出来ないのだ。

 

 

「…クッ!!」

 

苦肉の策。僕は上半身を横に乗り出して、自分から『転んだ』。

それは何とか功を奏してくれて、ヤツの『針』を何とか避けることが出来た。

 

(だが、僕はもうこれで全く動く事が出来ない! …攻撃を避ける事は…!)

 

鼠がその目をギラつかせて僕を見る。

 

そして身体を、砲身を。

再びこちらへと向けた!

 

「…ッ!!」

 

…ヤバい。ヤバい!

 

(どうすれば生き残れる!?

考えろ、考えるんだ!!)

 

僕は冷蔵庫の中の被害者を横目で睨み、考えた。

何発喰らえばあれくらいドロドロに溶ける?

一発だとするなら僕はもう終わりだ。だが、数発の必要があるなら!頭や首などの重要な器官だけ守れれば、或いは…!

 

僕は目を閉ざし、頭を腕で庇う!そして、執行人の合図を待つ死刑囚のような心持ちで、ただ攻撃を待った…

 

 

…だが、二発目の針が飛んでくる事は無かった。恐る恐る目を開くと、鼠は既に絶命していた。その身体には、二つの穴。

 

『タスクact2』

 

『黄金の回転』爪弾は、回転が穴になっても死なない。その回転は穴となっても敵を追尾して、敵を確実に穿つのだ。

 

(ぎりぎり、穴が到達するのが間に合ったのか…それとも、ヤツは致命傷を負った状態で僕に一撃をかましてきていたのか…何にせよ、助かったみたいだ。)

 

そこに、ようやく(といっても、僕は戦っていたから長く感じていただけで、実時間はかなり短いものだったらしい)承太郎が来た。

 

彼はまず、心配をした。その、不器用な態度で。怪訝な顔をしたのはその後だった。

 

 

「…ジャイロ…君は」

 

「…?どうしたんだ?」

 

「…いや、何でもない。

…これで任務は完了だ。ご苦労だったな」

 

「ん、ああ。…すまない、取り敢えず手を貸してくれないか?車椅子に座らせてくれ」

 

「…ああ」

 

 

…こうして、僕の奇妙な狩りは危険な目に遭いながらも、何とか無事に終わった。

 

被害者の人々も、仗助のクレイジー・Dで治してみるらしい。心の傷は残るかもしれないが、身体の傷は恐らくは治るだろう。

その効果は僕の身体が実証済みだ。人間が生み出した公害って感じで複雑ではあるが、何とか円満に収まり良かった。

心からそう思う。

 

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

 

 

「……」

 

 

 

ホテルの、自分の部屋。

そこにて、空条承太郎は考える。

奇妙な『彼』を。

…ジャイロを名乗るあの少年を。

 

あの少年が戦った後の奇妙な現場を。

 

 

「(彼は本当に脚が動かないのか?)」

 

 

…ジャイロの悲鳴を聞いた承太郎は、彼の元へ急いで駆けつけた。

そして、着いた承太郎は彼を見た。

彼と、その周りの状況を。

 

埃が被った部屋の中。そこでの少し破損した机、椅子。冷蔵庫の中の被害者。床に倒れた車椅子。

 

そして、真新しい、脚を這いずった後。

 

 

「(…あの場に人間の脚を持つ物はジャイロしかいなかった。なら這いずり跡を残したのはジャイロしかいない)」

 

「(それなら、彼は脚が動くのか?動くのに、動かないフリをしているのかだけか)」

 

 

そう考えたが、それは違うと思った。

何故なら、彼は本当に死にかけたのだ。

鼠に襲われ、銃身を向けられ。

 

そんな状況で、脚が動かないフリをしているだけの人物ならば脚を動かして当然だ。だが、そんな状況ならば這いずるでもなく、立ち上がり、走り逃げる筈。

では何故、這いずった跡が付いたか?

 

 

「…彼もまた、脚が動く事に気がついていないのか」

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 

 

ホテルの、自分の部屋。

そこで、僕は頭を悩ませる。

 

 

「…確かに本を寄越せとは言ったさ。

だけど、こんな大量に送られてもなぁ…」

 

 

僕の部屋に、一区画小山が出来ていた。

その山は全部本で出来ている。小説、絵本、参考書、漫画まで。本ならば何でもと言った風な本の山だ。

 

「…ま、いいか。どうせ暇な身だ。これ位の本なら案外読み切れるかもしれないな」

 

そう独り言を言いながら僕は、その山の一番上に置かれていた本を一冊、手に取った。

 

 

『ピンクダークの少年』。

そう書かれた漫画を。

 

 

 

⇒to be contenued…

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