ジョニィ・ジョースター、杜王町で撃つ   作:澱粉麺

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ジョニィ・ジョースターは漫画家の元を訪れるの巻

 

ここは一体何処だ?

 

僕はある一軒家の前に立ち尽くした(車椅子に座っているのだが)ままに、考え込む。

 

と、いうのも。

この家は一体、何の家だったか?

…それを思い出せなくなってしまったのだ。

 

(…おいおい、しっかりしろよ僕。物忘れなんてレベルじゃあないぞ、これは)

 

 

…こういう時こそ冷静に。

ゆっくり考え直してみよう。

思い出せる、最近の記憶を思い出すんだ。

 

僕は最近、『鼠』を狩りに行った。

そしてその報酬としてSPW財団から大量の本を貰った。

 

…ここまでははっきりとしている。

 

だが問題はそこからだ。

 

その本の山に手をつけ始め、何かを読んだのだ。…その『何か』がハッキリしない。ハッキリしないし、思い出せそうにない。

印象にも残らないようなつまらない本だったからか?

 

嫌、それは違う。

それは確実に面白かったのだ。それも衝撃を受けてしまう程に。

 

その感じた情動を覚えており、その時だってハッキリ覚えてる。なのにその本、それからの記憶を…そして僕が今、中にいるこの家の事を全く思い出せない。

 

 

…『僕が今、中にいる?』

 

 

そこまで思案をし、始めて気がついた。

僕がさっきまで立ち尽くしていた一軒家。

そこに僕は『無意識に』入り込んでいたのだ。

 

 

「な…何をやってるんだ、僕は?

こんな、勝手に他人の家に上り込むなんて」

 

 

こんな事をしてはいけない。

そう思いながら僕は…

…更にその家の奥へと進んでいった。

 

 

(僕は何をやってるんだ!?

こんな事をしちゃあいけないッ!

こんな、こんな…)

 

(…この家から出ようとするなんて!)

 

 

…気づけば僕はある部屋へと来ていた。

 

 

そこに居たのは、奇妙な服装をした20代前半の男。横に流した髪と、前衛的なファッション。その手にはペンが握られている。

手元には一枚の紙。

 

 

「…やあ、待っていたよ。ジョニィ君」

 

 

その男は僕を呼んだ。

僕はそれに頭を擡げて、ゆっくりとそっちに向かおうと…

 

…待てよ。僕を、呼んだ?

馬鹿な、有り得ない!

僕はここに…杜王町に来てから。

一度でも『ジョニィ・ジョースター』と名乗ってはいないのだ。

 

なのに、この男は易々と僕の名前を呼んだ!

 

こいつは一体何だ!?

いや…そもそもッ!僕に何が起きている!?

 

 

「お前は…お前はッ!」

 

その男の手元にあるもの…

原稿を見た途端、僕に雷が落ちたかのような衝撃が走る。

ああ、そうだ。こいつは…この男は…!

 

「そ…そうだ!

思い出した…思い出したぞッ!!」

 

この男は『岸辺露伴』!

『ピンク・ダークの少年』の作者である漫画家であり…

そして、『スタンド使い!』

 

『天国の扉』を持つ、スタンド使いなのだ!

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−–

 

 

「煩いね、そう叫ぶなよ…もうそろそろペン入れが終わるから、大人しく待っててくれないかい?」

 

「黙れッ!」

 

僕は指先を露伴に向ける。

それは『脅し』では無い、明確な敵意と害意を持っての行動だった。

…が。

 

 

「何度やっても無駄だよ…君も、そんな事を分からない人間じゃあないと。僕はそう思ってるんだけどね。ジョニィ君」

 

「…ッ!」

 

…そう。僕は分かっていた。

ついさっき、僕は全てを思い出していたから。

 

それはつまり、岸辺露伴の家へ僕が行った時の事。家へ上がり、その先で『スタンド攻撃』を受けた事を。そのスタンド…

『ヘブンズ・ドアー』のその恐ろしい能力を。

 

全てを本にし、その身体に染み付いた記憶の総てを読み取るスタンド、『天国の扉』。

だから僕の本名を知っていた。

だから僕の能力も知っていた。

…それだけじゃあない。

彼は、その本に何でも『書き込』める。

 

そして、生き物に書き込んだ文字。

それはその生物が絶対に逆らえない命令となる。

 

例え、生命の危機に瀕しようと、人間の身体の限界を超えた行動であろうと、全てを実行させてしまう。

 

だから僕は『牙』を射てない。

だから僕は…

 

 

「クソッ!」

 

 

咄嗟に車椅子に手を掛けて部屋を…家を出ようとする。

だがそれが出来ない事は分かっている。

 

…イヤ、正確には出来ないのでは無く、しても意味が無いのだ。

何故なら…

 

 

「そう。僕は既に書き込んである。

『私は漫画家、岸辺露伴を攻撃出来ない』とね」

 

 

…攻撃とは。

 

それはもちろん暴力を振るったり、それこそ『タスク』を放つ事も含まれるだろう。…だがそれだけでは無い。

 

攻撃とは。

 

例えば僕がここを出て、頼れる人物に…承太郎や仗助に。この話をしたとしよう。そうなったならばどうなるか?この男を…岸辺露伴をどうにかして無力化しようとするだろう。

そしてそれはつまり『攻撃』という事に他ならない。

 

ならば、それを許さない僕の脳髄の文字は…僕の頭をラクガキ帳にして書かれたその命令は、僕に一体どんな作用をもたらすか?

 

答えは簡単だ。忘れるのだ。

露伴に不都合な事、全てを。それが分かるのは、さっきまでの忘れていた自分を明確に覚えているから。

 

この家から出たら最後、僕はまた全てを忘れ、能天気にこの家を訪れるのだろう。そして、また思い出すのだ。何度も、何度も…

…どうする事も出来ないままに。

 

…無敵だ。

これに抗う術は、無い。

 

 

「……ッ」

 

 

絶望感に歯噛みする。

 

 

(…僕はここでお終いか?嫌だ。まだ何も成し遂げていない。僕はジャイロの元へ戻る。そして遺体を手に入れて…)

 

 

僕は、こんな状況にあってもピクリとも動かない自分の足を恨めしげに見つめる。

 

 

(…僕の『マイナス』をゼロに戻すんだ!

諦めてたまるか…ッ!)

 

 

僕のその決意は無駄なものだ。

どう決意しようと、記憶が文字に克つ事は出来ない。チェスや将棋でいう『王手』の状態…いや、『詰み』を目前にただ足掻いているだけだ。

 

だが、その足掻きは奇跡を呼んでくれたようだった。

 

 

「!!誰かがこの屋敷内に…入っている!

ジョニィ君!何をやって来たッ!!」

 

「おお〜っと…

振り向くんじゃあねぇぞ、テメェ〜ッ!」

 

「!!」

 

 

その聞き覚えがあるしゃがれ声。

今の僕には天使の福音のようだった!

 

半ば信じられないような心持ちで声がした方を…窓を見る。そこには…

 

 

「お…億泰ッ!!」

 

 

仗助の友達であり、スタンド使いである男…

虹村億泰が悠然と窓枠に足を掛けていた。

 

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−–

 

 

 

「何処ぶっ飛んで行きやがったァ!

出て来やがれコラァッ!」

 

「ば…馬鹿な?仗助は完璧に原稿を見てしまったじゃあないか。

一体、何故…」

 

「い…いや。ありゃあ見えてねーよ。

目は空いちゃいるが…見えてねぇぜ」

 

「…つまり、仗助は目の前の物すら見失うくらいにキレてるって事か?髪型を貶されたくらいで?」

 

 

…あの後、岸辺露伴の魔技により『ヘブンズ・ドア』の術中に嵌ってしまった億泰。億泰と共に僕を助けに来てくれていた仗助は、目を閉じて近づくという苦肉の策を行ないながら露伴を倒そうとしていた。

 

だが、髪型を貶され。

目を見開いた彼は間違いなく原稿を見た。

見てしまったのだ。

 

 

…だが、そのキレ具合。

それは彼の…いや、彼が『読ん』だ、僕の予想を超えていた。

結果として、今、岸辺露伴は棚に押しつぶされ、ボロ切れのようになりながら『殴られた体験』を書き記している。

 

 

……

 

 

……仗助は前が見えない程にキレて。

億泰も、仗助を止めようとしている。

今なら、岸辺露伴を殺しても誰も気付かないだろう。

 

僕は、そっと指先を向ける。…

 

 

(…いや、やめておこう)

 

 

殺す事を辞めた理由は3つある。

 

1つは、彼は僕の事情を知った。つまり『違う世界の人間』だと知ってくれたのだ。それが重要だ。

 

2つめは、仗助だ。

…確かに殺した後、弾痕の穴を『act2』で何処か別の場所に移してしまえば、僕が殺したなんてのはバレない。完全犯罪になるだろう。

 

だがそうすると、仗助は、『自分が岸辺露伴を殺した』と思ってしまうだろう。それは、高校生の…心優しい、彼の十字架になってしまう。それも無実の罪で。

 

それは…それだけは避けたかった。なにせ彼はこれで3度も僕を助けてくれたのだ。その恩を仇で返す事はしたくない。

 

さて、そして3つ目は…

 

 

「そこにいやがったなァ、漫画家ッ!

まだ殴りたらねぇぞコラァッ!!」

 

 

僕の思案は、仗助の怒声に遮られた。

見ると彼は既に再起不能に見える露伴を更に殴ろうとしているのだ!!

 

 

(コ…コイツッ!ひょっとして殺しても負い目なんて感じないんじゃあないのか!?)

 

 

…結局、僕と億泰は怒り狂う彼を止め、僕らを再起不能にまでしようとしていた男の為に救急車を呼んでやるのだった。

 

 

 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−–

 

 

 

「525号室…あそこか」

 

 

僕は今、病院に来ている。

というのも、風邪を引いた訳では無い。

足が悪い…のは事実だが、要件はそれじゃない。

 

受付で聞いてきた。彼が…

岸辺露伴が入院している部屋は525号室。

僕はどうしても彼に会う必要があった。

その為に今日、ここにいるのだ。

 

車椅子を漕いで、やっとこさ着いた時には少し日が暮れ初めていた。

早めに、要件を済まさなければ。

 

 

「やあ、岸辺露伴。」

 

 

部屋へ入ってみると、彼は窓から見える景色のスケッチをしていた。

その姿はある種荘厳であり、そこには、彼の譲れないプロフェッショナルな部分の発露を見られた気がした。

 

 

「ようこそ、来訪者。ええと…ジャイロ君、だったかな」

 

彼は僕に気づくと、余裕たっぷりといった風に、

キザな挨拶をかました。

それに構わず、話を進める。

 

 

「…アンタに聞きたい事が有って来たんだ」

 

「聞きたい事…?僕の『天国の扉』ならもう効力は切れているぞ。

だから安心して––」

 

「…惚けるな。僕が言わんとしている事、わかっているんだろう」

 

 

岸辺露伴は、心底愉快そうに笑った。

 

 

「…ああ、良く分かってるさ。『ジョニィ・ジョースター』君」

 

 

「…ッ」

 

 

「…本名、ジョナサン・ジョースター。高名なジョッキーの家に生まれ、英才教育を受けて来た、正真正銘天才ジョッキー。幼い頃事故が原因で兄を亡くしており、それに対して負い目を持っている。親との不仲のせいから自暴自棄になり自堕落な生活を送っていた所、銃に撃たれ下半身付随に。」

 

「…そして、超大規模な大陸横断レースを観に来た際、その動かぬ下半身を治してくれるかもしれない男に出会う。その名前は…」

 

「…もういい。僕が言いたいのは…」

 

「解っているさ。…君が19世紀の人間だっていう事だろう?」

 

「……今。ここ杜王町には僕のその事情を知っているのはアンタしか居ない。仗助も、億泰も。知っちゃいない」

 

「まどろっこしいな。つまりは君は『僕に協力しろ』と。そう言いたいんだろう?」

 

「…ああ」

 

 

「断る」

 

 

「ッ!!」

 

 

「と、言いたい所だが…いいよ。OKだ。協力してやる。君とは是非とも、個人的な付き合いを続けて行きたいからね…」

 

 

「…ああ、僕も是非ともそうしたい」

 

 

「資料としての面白さだけじゃあ無い…

君を『ヘブンズ・ドアー』で読んだ時。僕は君に同じ波長を感じたんだ」

 

 

「……」

 

 

「『目的の為なら何でもする』…フフ、なんか君とは気が会う感じがする。そう思わないかい?」

 

 

「…そうかもしれないな。そうだったら、嬉しい。」

 

 

僕は車椅子に手をかける。

見ると、外はもうすっかり夕暮れ。

付随者である僕に夜道は辛すぎる。

そろそろ帰らないといけない。

 

 

「ただ、岸辺露伴。…一つだけ言っておく」

 

「…僕がアンタ以外に喋っていない。それがどういう事を意味するのか?良く考えろ」

 

「へえ。君に不利益が生じるような事を喋ったら。

僕はどうなるのかな?」

 

 

「…何処であろうと追いかけて、殺す」

 

 

 

少しの、間。

 

 

「ハハ、成る程、殺すと来たか。…脅しじゃあ無いね。

マジで言っている。君はそういう奴だ」

 

「にしても殺す、か…。死ぬっていうのはどういう気分か。ちょうど体験してみたかったところだ」

 

 

「…!!」

 

 

「が、…遠慮しておこう。つい最近死ぬような思いをしたところだし、何より。死んじまったら漫画が描けないからな」

 

 

「…僕だって、そんな手荒な真似はしたくない。それさえしなければ、僕はアンタに、僕の居た時代のどんな情報だって与えるよ。…それこそ、僕の頭の『ページ』を破っても構わない」

 

 

「…」

 

 

「…契約成立だな。」

 

 

…その言葉を最後に、僕は病室を出た。

 

…悪魔との契約。

そんな言葉が脳裏をかすめた。

もしかしてこの契約は、僕の身を滅ぼすものだったのかもしれない。

でも。それでも決めたんだ。

 

僕は例え悪魔に全てを渡すことになろうと、元の時代へ戻る。

戻って、もう一度君達に会うんだ。

スロー・ダンサー。ヴァルキリー。

 

そして……

 

 

「あ、忘れてた。」

 

 

僕は、Uターンで病室に戻る。

しまった、こっちのがメインの目的だったのに。

 

 

「おや?どうした。まだ何か用かい?」

 

「ああ、一番大事なのを忘れてた」

 

 

そうだ。いつか言い忘れた、彼を殺さない理由の3つ目。

それは至極単純だ。

 

 

「ええと…その、腕を怪我してるアンタにお願いするのは申し訳なく思うんだが…」

 

「けど、どうしてもして欲しくってな」

 

 

 

その理由…それは、そう。『彼の漫画を見れなくなる事があまりにも惜しいから』である。

 

そもそも、僕が彼の家を訪れたのだってそれが目的だったんだ。

しかし、まさかこんなに時間がかかるなんてなぁ…

 

 

「岸辺露伴…いや、露伴先生。

僕にサインを描いてくれないか?」

 

 

 

僕は万感の思いを込め、そう言った。

 

 

 

⇒to be contenued…

 

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