ジョニィ・ジョースター、杜王町で撃つ   作:澱粉麺

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ジョニィ・ジョースター、忙しい日々を送るの巻

 

 

キラヨシカゲ。その名前こそがヤツの慢心、油断から僕の記憶に残る事になった、殺人鬼の唯一の手がかりだ。

 

最早この街…いや、この世界には『そいつ』は存在しない。だがそれでも『そいつ』が過ごした残穢は確かにあるのだ。そしてそれには、ヤツに辿り着ける手がかりがあるかもしれない。

 

そんな藁をも掴む思いで僕は今、殺人鬼の元私邸に来ている。勿論僕だけじゃあなく他の皆…仗助、承太郎、億泰も居る。

 

 

「ふぅん……」

 

 

思わず、そんな声が出る。家自体は中々に立派でデカい代物だったからだ。両親はすでに死んでいながら…いや、死んでいるから、かもしれないが、のびのびと暮らしていたようだ。

 

「冷蔵庫とかに何かねぇかな。

よくあんだろ、殺人鬼とかが肉とかを入れてよォ〜」

 

 

「…いや、そんな物は残さないんじゃあないか。

残しておく必要もなさそうだしな」

 

 

「?」

 

 

…物的な証拠をわざわざ『残す』というのは、主に二つの理由がある。

一つは示威的に、誰かに何かをしたということを自慢したい気持ちがあるから。もう一つは、上手く『エモノ』が手に入らない場合、それで自己を慰めるためだ。

 

そして、『キラ』にはどちらも噛み合わない。ヤツの消しとばす能力は見せびらかすだとかの思いとかとは無縁のもの故だろう。

エモノが手に入らないなんて事は、更に無縁だ。ヤツはこれまで何食わぬ顔で、自由気ままに、思うがままに殺人を行なっていたのだから。

 

 

「しっかし、全然なんもねぇなぁ。

ひょっとして何も手がかりなんて残ってねぇんじゃねぇか?」

 

「ま、泣き言はもーちょい探してからだな」

 

 

それを言ったのは僕じゃなかった。

 

 

 

「おお、仗助。どーよそっち」

 

「全然だぜ。一応まだ承太郎さんが探しちゃあいるが、少なくとも俺がさっきまで探したところは何も無さそうだ」

 

「あれ、というか仗助。君だけこっちに来たのかい?」

 

「承太郎さんにあっち手伝ってもいいすかって聞いたら許可貰えたからな。多分必要ねぇんじゃないと思ったんだろうぜ」

 

「おお、んじゃあ俺が代わりにあっち行ってみっか。承太郎さんが見落とすこたぁねぇと思うけど一応見ときてぇしよぉ」

 

 

そう言うや否や、億泰はそのまま行ってしまう。

仗助と、僕だけが残った。

 

 

「…で、その様子からしてそっちもみてぇだな」

 

 

「ああ、ボウズも良いところさ。突発的にこの家を出なきゃいけない羽目になったんだから全てを処理している筈は無いとは思うんだが…」

 

 

「ったく、幽霊でも出そうで気味わりぃぜ。 こちとらちゃちゃっと見つけて帰りてぇっつーの」

 

 

幽霊。その言葉に少し、どきりとする。

無論そういった意味でなんか言っては無い。

だが、それでもどこか…

 

 

「ジャイロ?」

 

 

心配そうに、仗助が声をかけてくる。

 

 

 

「…すまない、何でもないんだ。しかしそれより…」

 

 

今、ふと違和感を感じた。

『僕の名前』を呼んだだけなのに、何か不自然なような。

 

それを本人も分かったようで、バツが悪そうに頬を掻く。

 

 

「…悪りぃ、承太郎さんから聞いたんだ。それが偽名だって」

 

 

「やっぱり、そうかい」

 

 

…反射的に、タスクの発現準備をする。だが、やめた。敵意は感じないし、何しろこの距離での勝負となったら勝ち目は0だ。

 

 

 

「いや……それで別に疑うって訳じゃあ勿論ねぇんだけどよ。俺あんま頭よくねぇからさ、なんつーかキチンと教えてほしいんだよ。名前とかそういうの」

 

 

「…そうだな。君、母親にポルノ紙の場所、教えたりしてるかい?自分の性癖とかは?」

 

 

「…はぁ!?何言ってんだよ、教えるわきゃねぇだろ!一体なんのこった…」

 

 

「親しい人にも教えたくないプライベートな部分は、誰にでもあるはずだ。それが僕には、『本名』とか『来歴』とかも含まれているんだ。だから、すまない」

 

 

仗助はぐっと、おし黙る。あまり納得はいってないようだが、これ以上聞いてはこなかった。

 

…少し前であったなら、言ってしまっても良かった。ただ験担ぎの為に、警戒のために偽名を…ジャイロを名乗っていた頃なら。

 

だが今は、名乗れない理由がある。

それを露伴との邂逅により知ってしまった。

 

ジョニィ。ジョナサン・ジョースター。

その僕の名前は、今や新たな混乱を呼びかねない。

 

別にそれは、大した事じゃあないかもしれない。それならそれでいい。だが今はただでさえ皆が一つのことに集中しているんだ。そんな中に新たな問題を出したら、予期せぬトラブルが起こるかもしれない。

 

それだけは避けたい。

せめて、あの殺人鬼を斃すまでは。

…僕の今の状況がわかるまでは。

 

 

「…わぁーったよ、んな顔されたら納得しねぇ訳にはいかねぇな」

 

 

と、溜息をつきながら仗助は言い、片方、手を伸ばした。

 

 

「それじゃ名前とかは今は聞かねぇけどよ。

お前が味方っつーのは確かでいいんだよな」

 

 

「…ああ、勿論。君たちに拾われた命だ、精々役立ってみせるさ。」

 

 

 

僕も手を出す。そうして、握手をした。

納得はまだいってないかもしれない。

それでも彼は人懐こい笑みを浮かべていた。

 

釣られて僕も笑う。

…何だかすっかり毒気が抜かれてしまった。

 

 

 

–––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

この後、本物の幽霊がここに出る事になる。

仗助と承太郎、僕と億泰のコンビに戻って家捜しをしていると、何とキラの父親だという幽霊が彼らを襲ってきたのだ。

 

が、そいつは承太郎の機転であっさり敗北。

閉じ込めているうちに改めて調べるとそこには……

 

 

 

「…ッ、これは、『弓と矢』!?」

 

 

 

あの、忌々しい弓と矢があった。

成る程、アイツもまたこれで『スタンド』を身につけたのか。

 

そう思っていると、閉じ込められていた筈のキラの父親…写真のおやじが、執念により捕縛から抜け出してその矢をひったくっていったのだ!

 

それは、これから始まる数日間が、奴が息子を守る為に生み出した『敵スタンド使い』により、戦闘に次ぐ戦闘の、苛烈な日々になるという事を意味していた。

 

だが僕はその時、その事よりも逃げ去った写真のおやじの事を考えていた。死してなお(歪んでるとはいえ)愛情を向ける父親。ほんのちょっぴり、殺人鬼が羨ましく思えてしまっていたからだ。

 

 

 

–––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

 

必死に車椅子を漕ぎ、猛スピードで走る。

向かう先はぶどうヶ丘病院。

目的はスタンド、『ハイウェイ・スター』…その捜索だ!

 

 

……あの時、逃げ出した写真のおやじ。

ヤツはやはり、息子を守る為になりふり構わず矢で『スタンド使い』を増やしていた。そしてそれは結果的に、奴の思惑通り。僕たちを次々と襲ってきていたのだ。それが今回襲撃しているのは、仗助だ。(どうやら露伴も既に襲われているらしいが)僕は襲われていない。

 

じゃ、何で病院に急いでるかって?答えは簡単だ、仗助に助けを求められたから。

 

というのも今回彼を襲っているのは『自動操縦型』のスタンド。いくら攻撃してもフィードバックがないそれを倒す為には、本体を狙うしか無い!最近の事故情報から本体を推測した僕達は同時に、その本体がいると思われる場所、即ちぶどうヶ丘病院に向かっている、というのが今走ってる事の顛末だ。

 

 

(良し、着いた!)

 

 

仗助はやはりまだか。よし、この間にせめて本体の居るだろう病室を確かめないと。

 

 

「なあ、すまない!その…2日前に杜王トンネルで事故を起こした少年の病室が知りたい。何処か教えてくれ!」

 

 

受付へと、そう言葉をかける。

だが返事は帰ってこない。

 

 

「…おいッ!」

 

 

「…あんたねぇ。そこに書いてあるのが見えない?『本日の面会は終了してます』。」

 

 

「見舞いじゃなくて、だ!病室を知りたいだけなんだ!」

 

 

「あなた、少年の家族?

ま、違うわよねェ〜〜、どう見ても。

ご家族以外にはお教えできません〜」

 

 

「クソッ、必要なんだよ!頼む、教え…」

 

 

「いいから帰んなさいよ。あんたみたいなくだらないガキはメーワクなのよ、カタワ仲間だからって親近感でも湧いたの?頭は最初から沸いてるみたいだけど」

 

 

……ッ、ラチが明かない。

しかし諦めるわけにも、これ以上時間を費やす訳にも行かない。ならどうする?

周りを少し見渡した…

 

……

 

「…病院にしちゃ、相当無用心だな。もしそれでトんでる奴が暴れたらどうすんだ?」

 

 

「は?」

 

 

刹那。僕は目の前のカウンターに、無造作に置いてあったハサミを手に取り。

 

そして、思い切り僕の脚にぶっ刺した!

 

 

 

「グッ……痛ッ…!」

 

 

「ッ!?な…何してんのよ!?イカレてんじゃないの!?」

 

 

 

勿論その脚からはドクドクと血が流れ出す。

この怪我自体は、後で仗助に治してもらえればそれで構わない。この痛みも必要経費だ。

 

 

「…これを、もし君がやったと言ったらどうなるかな」

 

 

「はっ?」

 

 

「どうにもならないかもしれないな。ただの頭のおかしいバカが急に錯乱して自傷しただけ…そうなるかもしれない」

 

「だが、そうならないかもしれたいぜ。僕は見ての通り社会的弱者だからな。言ったらそのまんまロクすっぽ調べられないで通る、かも」

 

 

「…なっ…」

 

 

「そうでなくとも、出血沙汰が起きた病院なんて相当噂になるだろうな。それも悪い意味で…そうすりゃ病院はかなり損をする。それを引き起こした君はクビか、いや、運が悪けりゃ、それとも…」

 

 

「ご、525号室よ!言やいいんでしょ!?

何なのよまったく…!」

 

 

…脅すというよりは気味悪がられたようだが、まあいい。部屋番号は知れた。

 

 

その瞬間、エンジンの音が病院の入り口をブチ破った。仗助だ!確認し、すぐに叫ぶ!

 

 

「525号室だッ!

本体の場所は5階の525!」

 

 

「サンキューッ、ジャイロ!」

 

 

そのままバイクは轟音をあげながらエレベーターへと突撃する!そしてそれを追うのは、不気味な黒々とした足跡!あれが、『ハイウェイスター』か!

 

 

「『タスク』ッ!」

 

 

スタンドを発現させ、即撃つ!

弾はその足跡と共にエレベーターのドアに阻まれてしまう。だが、それでいい!

 

 

『足跡』はそのへばりついたエレベーターのドアの隙間から入ろうと蠢く。が、その内の1つに穴が空き、それはぼとりと落ちる。

act2。穴が攻撃をする!

 

まだ終わらない。その穴から僕の左腕を出し、更にへばりつく足跡を爪弾で撃墜した。

act3!

 

だがしかし、その合わせ技をしようとそれはまだまだ無数に飛び出ていく。

換気口を通り、彼を追っていく!

 

 

「クソッ!」

 

 

それを追おうと、車椅子を漕ぐ!

さっき刺した脚の痛みに耐えながらなんとかエレベーターに向かっていこうと…

 

 

(……待てよ)

 

 

 

今、何と考えた。

今も、いや、思い返せばさっきも。

 

 

『脚の痛みに耐えて』?

 

そんな筈は無い。だって、この脚には、もはやなんの感覚もないのだから。

 

なのに。でもしかし、今僕は、痛い。

確かに脚は痛みを伝えてくる。

 

 

 

(……!!『これ』は……!まさかッ!)

 

 

 

「あぶぎゃうううーーっ」

 

 

…思案は、その悲鳴によってかき消される。

 

聞き覚えの無い声だ。恐らくは例の本体。

その後に聞こえる、バシャーンと、水の音。

 

仗助、彼は相当派手にやったらしいな。

 

 

……しかし、早くこの傷を治してもらわなければ。

どうしても試したい事が出来てしまった。

 

 

 

 

 

–––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

……一人。ホテルの自室に居た。

 

心臓がバクつく。

 

心の準備が必要だ。ぬか喜びかもしれない。もし、そうだった場合に心が折れてしまわないように、心の準備を。

 

 

(……)

 

 

脚に力を込めた。

そう、『脚に力が入る』のだ。

 

これはそれまでとは間違いなく違う。

これが意味することは恐らく…

 

…この脚が、動くようになっている。

 

その証明をしようと、手すりを前に立ち上がろうとする……

 

 

 

…その時だった。

 

 

パリン。音がした。

窓の方からだ。何の音だ?割れるような音。

 

不審に思い、見に行く。

窓ガラスが割れていた。侵入者か?

しかし、ここは3階部分だぞ?

 

 

 

「『恐怖を感じない人間はいない』…」

 

 

「なッ!?」

 

 

 

振り向くと、そこには一人の少年が居た。

褐色の肌を持つ精悍な…いや、そんな事はどうでもいい。

こいつ、いつのまに此処に居たんだ?

さっきまで居なかっただろ?

 

 

 

「怖い、という態度や表情を隠そうともダメだ。心の奥底の恐怖っていうのは取り除く事は出来ない。誰だろうとね」

 

 

「だ…誰だ貴様ッ!どこから入ったッ!」

 

 

「……今見て分かったんだが。君、怖がった時に『息が荒くなる』ね。過呼吸気味になるというか。どんな人間でも、無意識のサインをビビった時は出すものだ」

 

 

 

…今分かった。コイツは敵だ!

躊躇いなく指を向け、撃つ!

 

 

 

「……なッ!?」

 

 

馬鹿な。あれはなんだ?ただの紙じゃあないのか?わからない。ただ、あれに僕の爪弾が吸い込まれるように行ってしまった。

…僕の攻撃を、無力化できるのか?

 

 

 

「…ほぉら。今また、息が荒くなっている。

やはりそれが君のビビった時の『サイン』だッ!」

 

 

 

まずい。逃げないといけない。

動け。脚が震えてる。

そうだ、歩ける。走って逃げろ!

 

 

 

「そしてそのサインを見つけた時!

我が『エニグマ』は攻撃を完了するッ!」

 

 

 

 

–––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

……僕の意識はそこで途切れている。

 

一つ覚えているのは、紙に『挟まれ』た事。

挟まれ、一つの紙と一緒になり…

 

 

(…ああ、そういえば。ここに来る時。 

僕は星条旗に挟まれたんだったな……)

 

 

 

この期に及んで何故か、そんな関係のない考えが頭を支配していた。

 

 

 

 

–––––––––––––––––––––––––––

 

 

 

 

エニグマの紙。

開けば中身は出てくる。

 

 

エニグマの紙。

紙そのものが死ねば、中身も死ぬ。

 

 

 

じゃあ、『その紙すらなくなれば?』

 

 

それはきっと、誰にもわからない。

死んでるのかも、生きてるのかも。

 

 

それが、『どんな世界にいるのか』さえも。

 

 

 

 

………

 

 

………………

 

 

………………………………

 

 

 

「……おいッ、吐けよ!言えッ!!

これ以上殴られてェかッ!」

 

 

「よせ、仗助!もう話せる状態じゃねえ!」

 

 

「噴上ッ!

探せよ、無ぇはずがねぇんだよ!」

 

 

………………………………

 

 

 

「クソッ!あいつは…

ジャイロを、何処にやりやがったァーッ!」

 

 

 

 

 

⇒to be contenued…

 

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