魔女の旅々、私の旅   作:緋色鈴

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-2- いつものように

とはいえ、旅をして暮らすには何をするにもお金が必要です。

不特定多数を相手にした商売ないし人助けによって臨時収入を得ていたのは過去の話で、私はそういった時、国やそれに属する機関や施設からの依頼を主に引き受けることにしています。

公的なお仕事であれば、余計なしがらみに囚われてしまうこともない。そう思ってのことです。

魔法統括協会を介さない分、そう都合のいい内容の案件というのは若干見つかり辛いものの、少なくとも、魔女の証たる星形のブローチを身に着けていれば、能力面でまず断られるといったことはありません。

国が困るほどのこととなると大抵は厄介事の規模も大きいのですが、そこは仕方がないと割り切ります。その分羽振りも良いですし。

今回、フェンベル山の観光云々の話を聞いた私は、そのあたりどうなのかと町を巡回していた衛兵の方を捕まえて問いかけてみることにしました。

「おお、君は魔女なのかい?!」

おや、さっそく食いつきが良いですね。

などと思ったのも束の間、衛兵さんは破顔してこう言いました。

 

「ああ、ちょうどよかった!さすがはこの国だ!」

「はあ、はい?」

 

意味を掴みかねて首を傾げる私に、衛兵さんは慌てたように続けます。

 

「ああ、すまない、もし良ければ城に行って、王の話を聞いてくれないか!」

「王様ですか」

「いやあよかった、ちょっと・・・いや、結構な問題が起きていたところでね、ちょうど魔法統括協会の方へ依頼状を送ろうかというところだったんだ!」

 

なるほど、それは確かに丁度よいところへ声をかけてしまったようです。

私は内心やったですと思いながら、顔だけは真面目な風を装って衛兵さんに頷きます。

 

「ではお城の方へ向かってみますね」

「ああ、ありがとう!案内を・・・」

「いえ、結構です。あちらですよね?」

「そうか・・・では、ぜひお願いするよ!門番に、衛兵から話を聞いてきたと言ってくれ!」

 

思いがけぬ幸運とはこのことでしょうか。

しかしむしろ、衛兵さんの方が私以上にそんなことを思っていそうな様子で、彼はほうきに乗って飛び立つ私に、いつまでも大きく手を振っていました。

魔女を必要とするほど結構な問題とは、いったい何が起きたというのでしょうか。

善は急げとほうきを飛ばしてみれば、その後もとんとん拍子に話は進みました。

門前に降り立った私が「衛兵さんから話を」と言いかけ、えい、のあたりで魔女のブローチに目を止めた門番の方が、名を問うよりも先に中へと引き入れてくれました。

城内では侍女さんに連れられて、そのまま直通で王様のいる部屋に通されてしまいました。

あれよあれよという間に話が進み、それ自体は喜ばしいのですが、こうまで手放しで歓迎されてしまうと逆に少し不安になってきます。

いくら平和なお国柄、探していた人材とはいえ「素性不明の旅人」のまま王へ謁見というのは普通ではありません。

そこまで魔女を必要としているということは、何か大きな厄介ごとが待ち受けているのではという予感がしてきます。

しかも王様の直々の依頼とは、よほど火急の案件か、はたまた。

これで迷子探しとかだったらどうしてくれようか、と思いながら白髭を生やした王様にお辞儀をし、挨拶もそこそこに話を聞いてみると、

 

「実は、観光地に魔物が出たとのことなのだ」

よほど火急の案件でした。

 

 

 

 

「魔物ですか」

「魔物だ」

オウム返しに聞いてから、私は首を傾げます。

 

「観光地とは、フェンベル山のことですよね」

「もちろんだ」

 

私は王様から告げられた事情を一つ一つ呑み込みつつ、疑問を投げかけます。

「・・・それにしては、皆さん随分と落ち着いていらっしゃるのでは?」

 

確かに衛兵さんや侍女さんは私のことを待っていましたとばかりに急ぎ足でこの場に案内してくれましたが、一方で、道中すれ違ったそれ以外の方々は概ね平常通りに仕事をこなしているように見えました。

お国を代表する観光地に化け物が現れたとなれば、城内は勿論城外も、何より麓の街中はもっと大騒ぎになっていておかしくないのではないでしょうか。

という意味合いで言ったのですが、王様はふむと白髭を指でつまみつつ、

「緊急時こそ落ち着いて対処するのが大人というものだよ」

などと少々ずれたことを仰っておいででした。

 

「いえそういうことではなく」

「え?うん」

「魔物というのはどのようなもので、現在はどのような状態なのでしょうか」

 

状況が掴めなかったので、私は淡々と、事務的に質問を口にしました。

王様はごほんと一つ咳ばらいを挟んでから、それに答えてくれます。

 

「ああ、うむ、観光地とは言ったが、目撃報告があったのはフェンベル山の山頂付近でな。そこまでいくと一般の国民や旅人には立ち入りを許可していない場所なのだ。故に、このことを知るのはまだごく一部なのだよ・・・今はまだ、これといって被害もない」

 

なるほど、それで騒ぎにはなっていないんですね。

思ったより火急の案件ではありませんでした。

 

「とはいえ、それがいつ山を降りてくるかも分からない。できれば早急に退治したいのだ」

「なるほど」

「・・・本来は現時点で、観光客ともども麓一帯の住民も避難させるべきなのだが・・・」

と、王様は急に歯切れの悪い言い方をしました。

 

国を象徴する山に、化け物が出たなどと悪評がついてほしくはない。

今後の観光客の入りにも影響するのは間違いないので、可能な限り穏便に済ませたい。

そんな思惑が透けて見えました。

わざわざ口にしてしまうあたり、人の好い王様なのかもしれません。

気持ちもわかるので非難する気はなかったのですが、あくまで確認として問う事がありました。

 

「私はまだその魔物とやらを見ていないのでなんとも言えませんが、少し悠長なのでは?」

 

最初に話を聞いた衛兵さんは、魔法統括協会に依頼書を出すなどと言っていた気がします。

協会に書類が届き、内容が吟味され、実際に魔女が派遣されるのにどう考えても数日はかかります。

それまでどうしているつもりだったのでしょうか。

衛兵さんたちが戦ってどうにかなる相手なのかどうかも分かりませんが、魔物がおとなしくしてくれるのを祈る、とかだというのならば、正直に申し上げて、無能と言わざるを得ません。

それについて、王様は苦々しい顔で唸りながらも言いました。

 

「うむ・・・その魔物についてだがな、我々も詳細を明らかに出来ていないのだ」

「はあ」

 

やっぱり無能ということでしょうか。

そう思った気配がちょっと滲んでしまったのでしょう、王様は困ったように言いました。

 

「目撃者の者達がここにおる。まずは、彼らが見た魔物の姿を聞いてくれ」

 

と、部屋の隅の方に控えていた兵士の方々のうち、三人の方が進み出てきて口を開きました。

 

「聞いてくれ魔女さん。山の上にいたのは、全身が血の色に染まった巨大な狼で・・・」

「いや違う、俺が見たのは首のない黒騎士だったぞ!」

「そんなはずはありません、彼らが言う魔物というのは、私の恋人によく似た女性でした!」

 

口々に彼らはそう言いました。

お三方はそれぞれ何を言っているんだと言い合う素振りを一瞬だけ見せましたが、さすがに王様の前だと思い留まったのか、それだけを喋って黙ります。

それを聞き届けてから、私は王様を見ました。

王様も私を見ます。

 

私の感想はこうです。

 

「みなさん私をからかってます?」

 

およそ偉い人に向けるにはあまりにも冷たい眼差しを、その時の私はしていたと思います。

 

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