サムライ8の化身が鬼殺隊で無双していースか?   作:ルシエド

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「大丈夫、打ち切りにはならない。サム8とドベには差がありすぎるの」


"捨てちゃったらもう二度と手に入らないから特に役に立つわけでもないのになんとなく取っておいたエロゲやフィギュアの箱"を失ったな……

「どうもコンニチハ。

 君は戦死せんから刀ばっか先に駄目んなってよく来るなぁ」

 

「その小柄な体躯……間違いない……

 里長にして日輪刀鍛冶免許皆伝……

 里一番の腕を持ち里一番のスケベジジイと呼び称される刀鍛冶……鉄地河原(てっちかわはら)鉄珍(てっちん)

 

「そ。里で一番小さくって一番えらいのワシ。八八殿は相変わらずで安心したの」

 

「こちら拙者の差し入れで御座います。

 カツ丼とうどんと菓子折りのセット……

 ……でしたが実はこっそりカツ丼とうどんのセット食べちゃいました! 菓子折りだけどうぞ」

 

「本当に相変わらずで笑ってまうわ」

 

 とても小さな体で、ちょっとお高い菓子を、ひょっとこのお面をズラして食べる鉄珍。

 この里では右を見ても左を見ても、ひょっとこのお面を被っている人間ばかりだ。

 その筆頭が彼、里長の鉄珍である。

 

 ひょっとこの語源は火男、火吹男といった言葉であり、鍛冶の竈門(かまど)に息を吹き込む男……すなわち、鍛冶師の男を指すもの。

 彼らは身に着けた仮面で、"自分達が何であるか"を示しているのだ。

 鬼殺隊が、隊服を身に着け、それを示しているのと同じように。

 八八がまだこの時代普及しきっていないメガネを身に着け、それを示しているように。

 

 ひょっとこのお面をズラした鉄珍に、八八は機敏に反応した。

 

「ズラしか……」

 

「ズラさんと食えんやろ」

 

「さようですね」

 

 もぐもぐと菓子を喰い、茶で流し込み、潤わせた喉で鉄珍は状況を説明し始める。

 

「里の位置は秘密やからの。

 ちょっと虚実混ぜて話すけど堪忍してな?

 この里からちょーっと南の方に、結構な人がおる地域があったんや。

 人が多く居る街が、いくつも密集するような地域……当然やけど、そういうとこは」

 

「鬼の餌場」

 

「そういうことや。一人二人居なくなっても誰も気にせん。

 結構鬼おったみたいやで。

 そこに君臨しとったんが、下弦の壱……やったらしい」

 

「過去形……なんとなく話が見えてきましたよ」

 

「そういうことやね。

 下弦の壱は討伐された。

 水柱の錆兎殿と、霞柱の無一郎殿がやったそうや。

 一番上の鬼がまとめとった鬼達が、頭潰されたらどうなるか。

 そらもう見事に、目を疑うほど見事に逃げたらしいわ。

 柱にビビった鬼は、南の方から北の方に……つまり皆里の方に逃げ込んで来たんや」

 

「人が集まってるこの里の周辺に散った状態になったと。もう……散体しろ!」

 

「散っとるは散っとるけどそのせいで散発的に里を襲撃してくるんや」

 

 なんという不運か。

 出会い頭の交通事故に近い状況である。

 隠れ里は人気の無い地域にある方が存在が発覚しにくいが、逆に言えばこういう悪い偶然で多くの鬼が近くに来れば、逆に突出して人の気配が濃く探知されてしまう。

 近くに人里が無いからだ。

 

 古今東西、人体の遺伝子多様性の問題で、他の里と交流しない独立独歩の隠れ里が成立するためには、一定以上の人口が必要となる。

 他の里と交流せず、独立した里として成立している刀鍛冶の里は、それ相応の数の里人口を抱えていた。

 鬼は感知能力が高い順に、この里に寄って来るというわけである。

 

 鬼舞辻は鬼殺隊ほど長期的視野を持ってよく考えて動いてはいない。

 が、その能力は恐ろしい。

 配下の鬼が得た情報を鬼舞辻も共有できる能力も、その恐るべき力の一つだ。

 このまま鬼がそれぞれ散発的に里に接近を繰り返せば、おそらくほどなくして里の居場所は鬼舞辻に知られてしまうだろう。

 

 今この里は、未曾有の危機にある。

 

「今は里の移転準備中でなぁ。鬼を全部片付け次第、村ごと移動や」

 

「一石二鳥。オレも鉄珍様の手伝いしていースか? 悲鳴八師匠」

 

「おんや。悲鳴嶼殿も来ていたんかね」

 

「いやいねースけど?」

 

「お、おお、そうか。まあ助けてくれるならありがたい」

 

 八八は自主的に里の守護任務を申し出た。

 おそらく音柱達も既に自分から申し出ていることだろう。

 真菰にもこの話をすれば同じことを申し出るだろう、と八八は読んでいた。

 相手が普通の鬼ならば戦力は十分すぎるほど足りている。

 だが、まずは。

 

「拙者がここに来たのは、色々あったが簡単に言うなら刀を受け取るためだ」

 

「そうやの。蛍が君を待っとる、行っておやり」

 

 『柄骨』も『真剣』も使えない侍である八八が、少しでも本来の全力を出すための、特別製の日輪刀―――八輪刀を受け取らなければなるまい。

 

「旧友に久しぶり……というほどではないが。再会するのは、拙者楽しみだ」

 

「あの子にそんなこと言うの君くらいやの」

 

 侍は本来、己の侍魂を変化させた『真剣』を使うが、八八は真剣の核となる『柄骨』を吐き出す『キーホルダー』を持っていない。

 そしてそれは、この世界に存在していない。

 だからこそ八八専用の日輪刀は、『柄骨』や『真剣』に僅かでも性質を寄せた、真に特別性な刀である必要がある。

 

 そんな刀を打てるのは―――性格に非常に問題があっても、非常に高い技能ゆえに、鍛冶師としてこの里で刀を打つことを許されている男。

 鋼鐵塚(はがねづか)(ほたる)を含めて、片手の指で数えられるほどしかいなかった。

 

 

 

 

 

 カン、カン、カン、と小気味良く木が音を奏でる。

 木刀と木刀が打ち合わされる、剣術の対人鍛錬特有の音だ。

 攻め手は善逸。

 受け手は獪岳。

 互いに自分の得意技は使わず、あまり全力を出さずに攻め、全力を出さずに受ける。

 

 競い鍛えるのは知力。

 要するに、駆け引きの訓練だ。

 攻め手と受け手を交互に入れ替え、互いが互いを攻め、互いにその攻めを潰していく。

 こうすることで、敵の防御を抜く『一撃必殺』や、一撃必殺を活かす『他技』、またギリギリの領域で『上手く生き残る術』を鍛えていくことができる。

 獪岳が器用さで勝り、善逸が思い切りで勝るため、両者の勝率は五分五分だった。

 

 だがこの鍛錬の本質は、互いが互いに対し対抗心を持つ限り、互いの攻撃の穴・防御の穴を互いが突き続けるため、際限なく両者の攻防技能が上がっていくという点にある。

 師が二人と共に居る時のみ、師が二人を鍛えられるのではない。

 師が傍に居なくとも、互いが互いを鍛えられる。

 二人が互いの師になれる。

 二人にこの鍛錬方法を教えた師は、鍛錬の理をよく理解しているのがよく分かる。

 

「くぅ……美人が増えたのにただただ悲しい……」

 

 だが今日に限っては、善逸の集中度合いが低く、鍛錬効率が低くなってしまっていた。

 日付が変わってもなお、善逸はまだ真菰とイチャついてるように見えた八八への嫉妬心に引っ張られているようだ。

 

「お前もうちょっと真面目にやれ、我妻善逸が我儘善逸になりかけてんだろ」

 

「だってさぁ……」

 

「つーか、宇髄の野郎の方がやべーだろ。美人の嫁三人持ちだぞ」

 

「そうなんだよなぁぁぁぁぁぁ……!」

 

「お、お前……血の涙を流すほどのことかよ……」

 

「だってさぁ! 気付いてますぅ! 昨日あの人嫁三人と風呂入ってたんだよ!?」

 

「は、マジか? やることやってんだなあの人……」

 

「股間の柱で何やってたんでしょうねぇ! なぁ獪岳どう思う!?!?!?」

 

「おいやめろカス!」

 

「獪岳知ってる!? 爺ちゃんから聞いたんだけどさ!

 11代目の将軍って16人奥さんが居て53人子供が居たんだってさぁ!

 それでオットセイ粉末の精力剤飲んでたからオットセイ将軍って呼ばれてたんだって!

 もうあの人も同じだよ!

 オットセイ柱がよぉ! 略して音柱! 二代目11代目江戸幕府将軍だよもうあんなの!」

 

「やめろつってんだろこのカスがぁ!」

 

 我妻(あがつま)善逸(ぜんいつ)

 桑島(くわしま)獪岳(かいがく)

 彼ら二人はかつて、最強の雷の呼吸の使い手『鳴柱』によって鍛え上げられた剣士。雷の呼吸の継承権を持つ者達である。

 元柱によって鍛え上げられた二人は柱ほどではないにしろ、それにかなり近い領域にまで手を届かせており、入隊時点で並みの隊士より遥かに強かった。

 両者共に孤児の出で、技と名前を師より頂いている。

 

 が。

 善逸は雷の呼吸の術理基本である壱ノ型しか使えず。

 獪岳は雷の呼吸の術理基本である壱ノ型だけ使えなかった。

 どちらも雷の呼吸を完全に継承できなかった半端者。

 一人だけでは継承者になれない半端者。

 この二人の中には、『自分が継承者になっても、敬愛する師の雷の呼吸は正しく継承できない』という苦悩が常にある。

 

 二人は互いが羨ましい。

 二人はいつも、自分に無いものを善逸/獪岳の中に見ている。

 兄弟子の獪岳も、弟弟子の善逸も、上下の関係なく、だから互いを無視できない。

 それはきっと、尊敬や嫉妬などという単純な一つの言葉では表せないものだ。

 

「オレがカスならアンタはクズだろ!」

 

「言ったなテメェ! 表出ろこの野郎!」

 

「出てやるよこの野郎!」

 

「音柱の指導受けるようになってから遠慮も敬意もなくなりやがってぶっ殺すぞ善逸!」

 

「爺ちゃんがアンタに甘すぎただけって気付いただけですぅー!」

 

「あのクソジジイは甘すぎるどころかテメェと俺をいつまでも同列扱いのクソだろうがァ!」

 

「爺ちゃんをクソとか言ってんじゃねぇ!」

 

「クソはクソだ早くあのジジイに俺がお前より上だと認めさせてやんなきゃなんねえんだよ!」

 

「爺ちゃんの気遣いを何も分かってない内は上になんて行かせるかよっ!」

 

 鍛錬の体を取り繕うことももうやめて、二人は木刀で互いをガンガン叩き合う。

 口論は加熱し、もはや本気の喧嘩となっていた。

 それでも体力こそ減っていくものの、体に木刀がぶつかる回数が異様に少ないのは、流石一流の呼吸の剣士といったところか。

 

 体力を使い果たし、二人は地面にへたり込む。

 

「はぁ、ハァ、はぁ……」

 

「つっ、はぁ、あァ……」

 

 善逸が、思ったことをポロっと零す。

 

「……爺ちゃんも、宇髄さんも、ちゃんと認めてるだろ。俺のことも、アンタのことも」

 

 なんで足りないんだ、もう十分貰ってるだろ、と善逸は言外に言う。

 その言葉が、"欲しがり"な獪岳を苛立たせる。

 『言いたいことをハッキリと言う』音柱の影響が、獪岳の本音を吐き出させた。

 

「……善逸、テメェはそれで満足かよ」

 

「何がだよ」

 

「皆大好きとか言ってる女の好きに価値はあるか?

 全員大切とか言ってる男の大切認定に価値はあるか?

 ねえよ。ねえんだ。

 テメェなんかと同列扱いな時点で俺は嬉しくねえ。

 他の奴より素晴らしいって言われなきゃ、褒め言葉にも認められたことにも意味はねえよ」

 

 むっとした顔で、善逸は自分を睨む獪岳を睨み返す。

 

「俺は満足だよ。それが不満なら、獪岳は俺とは別の何かを探せばいいんじゃないか?」

 

「別の何かなんて知らねえ」

 

「だから探すんだろ。アンタからはいっつも、不満の音がして、俺は心配なんだよ」

 

「……カスが俺の心配なんてしてんじゃねえ」

 

「へいへい」

 

「見てろ。そこで満足してるテメェは一生俺に追いつけねえ。

 俺は"特別"になってやる……絶対に、他の奴と同列に語られないくらい、認められてやる」

 

 ヘロヘロになった体に活を入れ、獪岳は気合いと痩せ我慢で立ち上がる。

 善逸は座ったまま、ゆっくり休む。

 獪岳は善逸を、情けないものを見るように、見下す。

 善逸は獪岳を、痩せ我慢しながらも頑張るものを尊敬するように、見上げる。

 危ういほどに上を目指す獪岳。

 大切なことを間違えない善逸。

 自分のためにしか頑張れない獪岳。

 他人のためにしか頑張れない善逸。

 二人はどこまでも対照的で、だからこそ互いの中にある自分に無いものに憧れ嫉妬する。

 

「ん?」

 

「どうしたカス」

 

「うるさいクズ。いやなんか……なんか聞こえた気が。こっちだ」

 

「相変わらず気持ちの悪ぃ耳してんな」

 

 よたよたと善逸が歩き出すと、獪岳もその後についていく。

 獪岳は善逸の人格を一切信頼していなかったが、善逸の能力はそれなり以上に信用していた。

 鍛錬に使っていた村の外れから、木々の合間を通り、善逸はどこかへと歩いていく。

 聞き慣れない音がした、そんな気がしたから。

 

「こっちから声が……」

 

 そして。

 

 善逸と獪岳は、目を見開いた。

 

 

 

「良くも折ったなァ俺の刀をォォォよくもよくもォォォォ―――!!」

 

 

 

 ひょっとこの仮面を被った男が、出刃包丁で八八の心臓をぶっ刺していた。

 それはもう強烈に。

 深々と豪快にぶっ刺していた。

 

「ひ……人殺しだぁー!」

 

「真っ昼間の往来で何やってんだテメェー! 善逸医者呼んでこい医者!」

 

「あ、ああ! 獪岳は止血お願いねぇー!!」

 

 慌てふためく雷の呼吸二人組を、落ち着いた様子の八八が落ち着かせに入った。

 

「待て、慌てるな拙者は無事だ。心臓に当たっている……胸が痛い」

 

「そりゃそうでしょーね! 一瞬で発言が矛盾してる!」

「いや待て善逸! こいつ……死んでない!」

 

「侍は武士の上級として武神に選ばれ、サイボーグの体を持つ。

 斬られても死ぬ事はなく……ありのままの姿で宇宙を歩き、特別な魂を腹に宿す」

 

「えっ、まさか……散々噂に聞いた不死身の隊員……!?」

「嘘だろマジで居たのかよ……冗談だと思ってたぞ……」

 

「己の師にくわしく聞くといい」

 

「……やべーやつだ……」

「……やべーやつだ……」

 

 心臓から包丁を生やしながら平然と喋る男に、二人は戦慄する。

 八八は二人を落ち着かせ、自分の心臓に包丁をぶっ刺している男と向き合った。

 男の名は鋼鐵塚蛍。

 腕は確かで八八の八輪刀を打った男であるが、同時に凄まじく気性が荒く気難しく、鬼殺隊の剣士が担当を嫌がって次々担当を辞めさせられているという筋金入りである。

 親ですらノイローゼになってしまったというのだから、本当に本物だ。

 

 自分が打った刀をボキボキにした八八に、鋼鐵塚は全く躊躇いなく包丁をぶっ刺した。

 八八もまた、それを回避しなかった。

 

「お前が悪い! 全部お前のせいだ! じゃなきゃ俺の刀が折れるもんか!」

 

「この世界に絶対はない。折れない刀も無い。拙者の刀もそうだった」

 

「ぐっ……黙れ黙れこのこの殺してやる!」

 

「拙者は不死だ。効かん」

 

「こいつゥー!!!」

 

 八八の全身をザクザク刺していく鋼鐵塚、はっはっはと笑う八八を見て、善逸と獪岳は全力でドン引き一歩後ずさった。

 

「だが折ったことを謝罪せねばなるまい。拙者の腕不足もあって折れたのもまた事実」

 

「そうだ! そうだぞ! うう……俺の刀……」

 

「ウワサ通りいい刀への執着だ! ついていこう!

 刀が折れるだけで泣く姿、オレにとっては一番刀鍛冶らしく見えるよ。

 刀は鍛冶八にとって娘も同然。オレも一緒に鍛冶八の娘の"死"を悼んでいースか?」

 

「ううっ……俺の刀……殺せなくても殺してやる! そこに座れェェェ!!」

 

「よかったな……で……それが何の役に立つ!」

 

「なんだとォ!? 殺してやる―――!!!」

 

「拙者の誠意を見せよう―――切腹だ」

 

「!?」

 

 鋼鐵塚が心臓にぶっ刺している包丁を引き抜き、八八は正座し、腹に包丁の先を当てる。

 

「どう見ようとするかではない。

 どう見えるかだ。

 鍛冶八以外が刀一本にどんな価値を見ているかは関係がない。

 鍛冶八に刀が生み出した娘御に見えているのであれば、相応の贖罪が必要となる」

 

「お前……そんなに俺の刀のことを……」

 

「鍛冶八が打った刀こそが、拙者の真剣。色々あったが簡単に言うなら信頼のためだ」

 

 スッパーンッ、と八八の腹が切られ、するっと傷が塞がり、腹を切っていた包丁が腹に咥え込まれる。

 

「拙者の腕不足故に、刀には済まない事をした」

 

「……違う。お前は悪くねえんだぁ。

 分かってるんだ、俺が、俺が折れるような刀を打ったのが悪いんだってのは……」

 

「鍛冶八の打つ刀は素晴らしい。

 拙者の力にある程度付いてこれるのは鍛冶八の刀だけだ。

 もう一度上弦や鬼舞辻と戦うために、鍛冶八の生み出した刀を預けて欲しい」

 

「八八……!」

 

「まだまだ真剣が足らぬ」

 

「ああ! 今回のは最高傑作だ、思いっきり振れ!」

 

「最高傑作とも言えるし、そうでもないとも言える」

 

「また刀折ったら承知しねえ……と、言いてぇところだが。

 特別にお前は許してやる。

 この刀は今の俺の最高傑作だと言える。

 だが俺の生涯の最高傑作だとは言えねぇ。またいつか……次の最高傑作をくれてやる」

 

「お前、やっぱりいい奴だな」

 

「フン」

 

 鋼鐵塚は八八に今の自分が打てる最高傑作の刀を渡し、八八の腹と額に刺さっていた包丁を抜き、懐にしまう。

 そして、手を差し出した。

 八八はその手を握り、握る強さと熱い体温を確かめる。

 強い強い、男の握手。

 

 輝けるキチガイの友情があった。

 

 善逸と獪岳は、異様な光景に心が麻痺するのを感じながら、ぽつり呟く。

 

「すげー特別な人ってああいうのだと思うんだけど、獪岳ああいうのになりたいの?」

 

「……いやあそこまでは……俺はもうちょっと普通でいいわ……」

 

「それがいいと思う」

 

 人の振り見て我が振り直せ。

 

 強烈な光景が、雷に打たれたような衝撃を二人に与えていた。

 

 

 

 


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