サムライ8の化身が鬼殺隊で無双していースか?   作:ルシエド

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時透無一郎
竈門炭二郎
不死川実三
胡蝶四のぶ
桑島慈五郎
煉獄杏寿六
八八八八八八
ダメだ、七が、七が足りない―――!


"月の呼吸って月一更新?じゃあ日の呼吸って毎日更新?WEB小説なら月の呼吸が日の呼吸に勝てるわけないじゃん!と煽る気持ち"を失ったな……

 しのぶは二つ、目的を設定していた。

 一つは鬼の殲滅。

 そしてもう一つが、遺品の回収。

 しのぶは帰って来なかった鬼殺隊はもう全部死んでいる、と確信していた。

 だからせめて遺品を回収しよう、と考えていたのである。

 もしも自分の姉が死んだら、自分はきっとその遺品をずっと身に着けていたいと思うだろう、と―――胡蝶しのぶは思い、遺品を見逃さないようにしていた。

 

 だが、何もなかった。

 折れた刀も、切れた服の切れ端も、血痕や血痕を掃除した痕も無かった。

 洋館にはまともな戦闘痕もなく、研究者気質のしのぶはどこか引っかかる。

 鬼殺隊と鬼の戦闘が行われていたなら、どこかに痕跡があるはずなのにまるでない。

 何かがある、と彼女は冷静に推測を重ねていた。

 

 考え事をしつつ攻撃の構えを取っていたしのぶの前で、鬼が胸を叩き、しのぶは冷静に防御を目の前の八八に任せた。

 

 体内から針を飛ばす鬼。

 叩いた部分から針が飛ぶ身体構造の血鬼術だ。

 しのぶならばかわせるが、防御を仲間に任せたならば回避の動きを取らず、攻撃の構えで素早い攻撃を繋いでいける。

 全身を盾にする八八の体に針が当たったが、死ぬ気配はまるでない。

 

「くっ、くそっ、なんで死なねえんだお前! 人間じゃねえのか!?」

 

「半分は当たっている……耳が痛い」

 

「ウワーッなんだこいつ腹に穴空けたのに腹の傷が耳に移動した気持ち悪い!」

 

 不死殺しの候剣などを受けた侍が時々対策に使う、『別の肉を別のところに継ぎ足す』技能のちょっとした応用である。

 全身の傷を全部耳に集めた八八。その脇の下を通すようにしのぶが剣を突き出し、鬼が遮二無二それをかわした。

 が、かわしきれず皮膚をかする。

 かすった部分から毒が入り、鬼は立つこともできなくなる。

 

「っ!」

 

 その首を、義勇の横一文字の一閃が刎ねた。

 

――水の呼吸 壱ノ型 水面斬り――

 

 首が転がり、鬼の首と体が消滅する。

 

「エントランスに一体。

 打ち切り鬼で一体。

 今のも入れて三体(さんたい)ですね」

 

「もう……散体(さんたい)しろ!」

 

「八八さんを黙らせたいのでもう一体出てきてほしいところですが」

 

「死体が四体になるな……ふっ」

 

「うわっ……冨岡さんってダジャレのセンス、鬼舞辻の道徳くらいなかったんですね」

 

「……」

 

 あまり明るくない地下を、明かり片手に進みつつ、三人は自分の考えを述べ、仲間の考えを聞いていく。

 

「もし十二鬼月が居たら分担を考えておいた方がいいかもしれません。

 血鬼術を習得した鬼が十二鬼月の周りに居て援護してきたら面倒ですし……

 その時は絶対に死ななそうな八八さんに一番強い鬼の足止めを頼みましょうか」

 

「先に俺と胡蝶で周りの鬼を片付ける、か……敵の数は先に知っておきたいな。うん」

 

「八八さん、何か気付いたことはありませんか?」

 

「一つある」

 

「! なんでしょうか」

 

「鬼殺隊と鬼がフードファイトで戦えば、デブ辻無惨とデブ屋敷の決戦になるな……」

 

「八八さんっていつも余裕ありますよね! イラっとするくらい!」

 

「流石だな八八……肥満の鬼が居ることに気付いていたか。俺も同意見だ」

 

「ん?」

 

 ふっ、と義勇が陰キャらしい笑みを浮かべた。

 

「この地下に来てから開いた扉の縁や廊下の壁、少し跡が残っていた。

 "腹が擦れた跡"だ。

 狭い扉を通る度、廊下を歩く度、時折腹がぶつかっていたんだろう。

 鬼の体は鬼舞辻の血の影響で変形することもある。

 おそらくだが……肥満体型に変形したタイプの鬼が居るのではないだろうか?」

 

「なるほど……そういうところは私も見てませんでしたね……」

 

「拙者は気付いていた。しの八はまだまだ心眼が足らぬ」

 

「八八も気付いていた。胡蝶も見習うと良い」

 

「騙されちゃダメです冨岡さん!

 八八さんは曖昧で適当なこと言ってしれっと後から話合わせてるだけです!」

 

「八八はそんな男じゃない」

 

「あーもう!」

 

 八八も、しのぶも、義勇も、それぞれ違う人間だ。

 それぞれが別の性格で、それぞれが別のものを見て、それぞれが別のことに気付く。

 それを教え合い、話し合い、支え合えば、ただの足し算以上の力が出る。

 別々の存在が支え合うからこそ生まれる力。

 絆と呼ばれる三身一体。

 それが人間の持つ力。

 それが群れ成すことを禁じられた鬼が失ってしまった力。

 それが侍の"勇"の元の一つであり、貫き通す"義"。

 

「ここの床も凍っている。気を付けろ、拙者が足を置いたところを歩け」

 

「八八さん転びまくったせいかすごく警戒してて、失礼ですけど私笑ってしまいそうで……」

 

「侍が座って姫が先に行って安全を確保する決まりなんてあってないようなものです。

 その逆があってもいいとボクは思いますがね」

 

「そんな決まり微塵も聞いたことありませんけど!?」

 

「"ボク"が出たか……珍しい八八の一人称だ。縁起がいいぞ。

 鱗滝門下の間では八八の"ボク"を聞いた日には一日幸運で居られると評判なんだ」

 

「水の呼吸限定おみくじか何かですか?」

 

 地下は相当に広かった。

 地上の洋館と同じくらいの規模の空間が地下には広がっており、そこを進んで、進んで……人間を捕まえておく牢屋が並ぶ『捕獲室』とでも言うべき部屋に、三人が足を踏み入れた時。

 三人と鬼の、目が合った。

 

 そこには、鬼殺隊士が閉じ込められていた。

 送り込んだ十人の隊士全員がそこに居て、腹がでっぷりと出た鬼が、その中から一人、女性の隊士を無理矢理引きずり出そうとしていた。

 他の隊士は止めようとしているが、武器を取り上げられているらしくなすすべもなく、髪を掴まれて連行される仲間を助けられていなかった。

 

「やだ……やめてっ!」

 

 そんな状況に突如現れた八八達三人と、鬼の目が合った。

 

 ゆえにそこからは、一秒の猶予も無かった。

 

「―――!」

 

 しのぶが踏み出そうとする。

 しかしそこに氷が張っているのをみて、踏み留まった。

 こんな床面では普通に走れない。

 走れなければ間に合わない。

 間に合わなければ"合流されるくらいなら殺す"と隊員が殺されかねない。

 

 一秒に満たない刹那の瞬間に、八八と義勇の目が合い、合意が終わる。

 

「義勇!」

 

「分かっている!」

 

 跳び上がる八八。

 日輪刀を肩上に構える義勇。

 八八が自分の体重を相殺すると同時に、義勇が八八めがけ、刀を全力で振り下ろした。

 

――水の呼吸 捌ノ型 滝壷――

 

――金剛夜叉流 肆ノ型 犬掻き――

 

 滝壺は振り下ろしの技。

 渾身の力を込めて振り下ろし、広い範囲を攻撃範囲に巻き込む剛の剣。

 溜め無しで即座に出せる水の呼吸の技の中で、もっとも破壊力がある技だ。

 

 犬掻きの磁力操作にて自分の体重を相殺し、義勇の剣と自分の体に反発する磁力を作り、八八は『義勇の剣速と同速度』で、吹っ飛んだ。

 仲間を狙う、鬼めがけて。

 剣の先端速度で飛び出す、八八という名の弾丸が、鬼に思い切り衝突した。

 

「ぐおっ!」

 

 八八が剣を振る余裕もない、がむしゃらな体当たりの救出。鬼の拘束から解放された女性隊士にしのぶが駆け寄るのを見て、八八は壁を蹴って跳躍した。

 狙うは鬼。

 振り上げるは八輪刀。

 迎撃のために腕を振り上げた肥満鬼の目の前で、八八の突撃の軌道が()()()()

 

――金剛夜叉流 陸ノ型 猋――

 

 鬼の周囲に、(つむじかぜ)(はし)る。

 敵の周囲を螺旋状に飛び敵の全身を切り刻む技が、鬼の全身を切り刻み、そのまま鬼の首を刎ね―――る、ことはなかった。

 空中で八八の体が制御を失い、すっ飛び、床を転がっていく。

 

「何?」

 

「八八さん!?」

 

 しのぶが慌てて八八に駆け寄り、義勇が刀を構え、素手の隊士達と八八を守れる位置に入る。

 八八は気絶していた。

 何故か気絶していた。

 おそらくは、この鬼の血鬼術。初見殺しに分類される何かだ。

 

 鬼は全身を切り刻まれていたが、致命傷はなく、まだ余裕があった。

 首を切らなければいくらでも再生してしまうのが鬼。

 このままここで邪魔者は仕留めてしまうか、と思った鬼と、義勇の目が合った。

 どこか冷たい冷水と、凪の海を思わせる、強者の瞳。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()―――そう思った肥満鬼は、撤退した。

 

 義勇は追撃に動くか迷うが、仲間の守りを優先する。

 流石に非武装十人、気絶一人、合計11人をしのぶ一人に守らせるのは危険すぎた。

 

「っ」

 

 しのぶが咄嗟に刀を投げるが、当たったか当たってないかも分からぬまま、鬼は逃走を完了してしまった。

 

「冨岡さん、八八さんが目を覚ましました」

 

「そうか」

 

「八八さーん、起きてますかー? 何があったんですか」

 

「布団をかぶるのはキライでね……眠気を隠すのはできないタチだ」

 

「あ、これ寝ぼけてますね」

 

 ぺちぺちしのぶが頬を叩くと、ふらふらしていた八八の頭がしゃっきりしてくる。

 

「あ、あの、急いで起こさなくても……あいつの血鬼術なら、あたし達も見てます」

 

「あら、先程捕まっていた……

 もしかして、全員同じ血鬼術に?

 なるほど、それなら全員死なずに捕まっていたのも頷けますが」

 

「いや、拙者も今自己状況を確認した。

 サイボーグゆえ、身体状況はチェックできる。

 侍とはすなわち、己の体に起こったことも機械的に確認できる者……」

 

「それ本当に侍ですか?」

 

「お前もいずれ分かる時が来よう」

 

 八八の頭蓋骨がパカッと開き、脊柱が飛び出てくる。

 『鍵』と呼ばれる、侍の体の中心を通る脊柱型のメモリーユニット……なのだが、はたから見れば頭蓋骨が割れてそこから背骨が飛び出して来るモンスターである。

 鬼舞辻が「化物か!?」と思わず言いそうなグロさがそこにはあった。

 八八は決め顔でかっこつけているが、かっこよさ1グロさ100くらいなのでまるで意味がない。

 

 大抵の鬼を上回るグロ度に、隊士の何人かがびっくりする。

 

「うわっ気持ち悪い!?!?」

 

「これが侍だ。今映像にデータを出す」

 

「それ本当に侍ですか!?」

 

 義勇としのぶが懐かしい反応を見た風に、うんうんと頷いている。

 

「慣れろ。俺と胡蝶は慣れた」

「慣れちゃったんですよね……なんだか私取り返しのつかない慣れをしてしまったような」

 

 割れた頭蓋骨から飛び出した背骨からペカーっと映写した光学的な映像が、皆の前に図解付きの分かりやすいデータを提示した。

 

「気絶系の血鬼術だ。

 おそらく普通の目で視認はできない。

 ここを見てくれ。ここの数値が視認のしやすさの度合いだ。

 この50というのが物質密度。この30というのが光の透過率。

 この100というのが人間の神経に対する干渉度合いを示している。

 ゆえに見るには心眼か、他の五感が必要になるだろう。

 心眼を極めるには時間が足らぬ。

 真実を見抜くのに他の五感を頼ってはいけないという決まりもない。

 これはおそらく体液に干渉するタイプだと推測される。

 話に聞く烏枢沙魔流『猫招き』……

 いや、あれほどのレベルの技ではないだろうが。

 自己から他へと干渉する技だろう……

 だがそこは本質ではない。本質を見なければなるまい。

 本質を見なければ真にこの攻撃をかわすことはできないだろう。

 どう見るかではなく、どう見えるか、ということだ。

 神経系に作用した結果気絶させられてしまうので、回避が最適解だと拙者は思う」

 

「神経に作用する、目には見えなくて、受けると一発で気絶する血鬼術ですね。分かりました」

 

「凄い胡蝶さん! 一瞬で超短くまとめてる!」

 

 図解は分かりやすかったが、語りが分かりにくかったので、語りに全く意味がなかった。

 

「強制気絶系の血鬼術は拙者と相性が悪いぞ。血鬼術が目に見えないならなおさらに」

 

「鬼の方も気絶させたのに殺せない人間は悪夢だと思いますよ、はい」

 

 おそらくは、相手を強制気絶させ、その後ゆっくり殺すか食べるかする血鬼術。

 

 自然界には、麻痺毒を使う虫が多く存在する。

 それは食料を殺さず生かしたまま動けなくして、長期間食料を保存するためだ。

 おそらくは、それに近い収斂進化をした鬼なのだろう。

 食物である人間を殺すのではなく気絶させ、武器を取り上げ生かして牢に放り込み、()()()()()()()タイプの鬼。定期的な食人が必要となる鬼らしい進化だ。

 そして『殺害』ではなく『気絶』させるため、八八に対しても有効打を打てる。

 肥満鬼は八八を殺せないが、八八も鬼に気絶させられてしまう。

 

「空気の揺れで見極めるしかないだろうな。俺があの鬼を斬る」

 

「格好良いぞ義勇。めちゃくちゃカッケェ……と拙者は思った」

 

「……いや、別に、そんな」

 

 義勇は照れ、発言にまごつき、結局何も言わず黙った。

 

「拙者は鍵ライフ値もある。もし残量が少なくなれば肉盾に回るとしよう」

 

「本当に違うルールで戦ってる感が絶えませんね、八八さんは。

 それでは先に進む前にもう少し、捕まっていた隊士に話を聞いてみましょうか」

 

 

 

 

 

 捕まっていた仲間からの情報は、八八達が知りたかった事柄の、最後の一ピースを埋めるものだった。

 

「氷人形?」

 

「そうです。

 あの肥満の鬼、聞いたところによると元下弦の『十二鬼月落ち』らしくて……

 上弦に仲間が居るらしくて、何かの方法で血鬼術を借りてるみたいなんです。

 その代わりにここでその上弦が依頼した実験をしてるそうなんですよ。

 肥満鬼が気絶の血鬼術。

 上弦から借りてるのが氷の血鬼術。

 氷で有利な戦場を作って、気絶の血鬼術を撃ってくるから皆やられてしまったんです」

 

「師匠の説教より長い口上……聞いてらんないよ」

 

「……」

 

「どう、どう、落ち着いて。

 わかります、わかりますよ。

 お前の方が長いだろ死ねって思いますよね。八八さんは苛立ってぶっ刺しても死にませんよ」

 

「胡蝶さん……お気の毒に」

 

「今私何気なく人生最大級の同情をされた気がしますね」

 

 敵は元十二鬼月、下弦級の鬼……しかし、上弦級の助力があるという。

 そしてこの洋館には、別の秘密があった。

 

「それと……()()()()か」

 

「はい。捕まった一般人が何人か、この地下のどこかで性交を強制されています」

 

 この洋館では、捕まった人間が"繁殖を強要"されているという。

 まるで、家畜のように。

 人間が食料として、増えることと肥え太ることを強要されている。

 逆らえば殺され、その場で食われる。一般人には拒否することなどできないだろう。

 

 しのぶは露骨に――若さと未熟さがそのまま顔に出ている――嫌そうな顔をし、語調に苛立ちが滲み、その目には怒りの炎が宿っていた。

 

「……私、こういうの嫌悪感強く感じるんですが……

 冨岡さんや八八さんみたいに男性だとそういうのあんまなかったりするんでしょうか?」

 

「俺はそこまで非情じゃない。八八もそうだ」

 

「勇を失ったな、鬼よ……」

 

「八八もこう言っている。俺も同意見だな」

 

「……まあ、何言ってるかはわかりませんが、お二人が怒ってることは伝わります」

 

 この場の鬼殺隊の半分くらいは「勇を失ったってなんだよ……」と思っていたが、そこを突っ込んで聞くこともなく、とりあえず空気を読んで八八の意図を汲み取っていた。

 これがサム8・アトモスフィア。

 会話が成立してないようで何故か成立し続ける。

 

「それで最終的に『稀血の牧場』を作ろうとしてたみたいです」

 

「稀血の牧場……?」

 

「捕まえてきた稀血をこういう隠れた場所で増やして育てて食う、らしいです」

 

「そうか、稀血は珍しいから増やして育てる手間に見合うのか……」

 

 稀血(まれち)とは、医療用語で極めて稀な血液型の血液のことである。

 だが、鬼が関わると別の意味を持つ。

 鬼の世界における稀血とは、鬼にとって魅力的な、一人で50~100人分に相当する栄養価を持つ人間のことであり、当然それ相応の強化を得ることができる。

 だが、これもまた希少な存在であった。

 

 もしも、もしもの話だが。

 稀血同士を親にして、子もまた稀血が生まれて来るのなら。

 『それぞれ生まれつきの才覚で食える量の上限が決まっている』

 『人を食えば食うほど強くなれる』

 という性質を持つ鬼にとって、それは―――自分の強さの上限を50倍、100倍に引き上げることができるほどの、『牧場』を成立させることに繋がるかもしれない。

 

 恐ろしさとおぞましさで、しのぶの背筋に悪寒が走った。

 八八がそんな彼女に問いかける。

 

「しの八、稀血と稀血の子は稀血になるのか?」

 

「分かりません。そんな人権を無視するようなこと、試すことすら無理ですよ」

 

「なんとなく話が見えてきましたよ。つまり拙者は切ってから考えればよいのだな」

 

「ええ、まあ、はい。全部ぶっ壊しちゃいましょうか」

 

 だが、事態の深刻さに対し軽すぎるほどに、八八もしのぶも非常にあっけらかんとしていた。

 疑問に思い、捕まっていた隊士がしのぶに問いかける。

 "強制的に産ませる"という行為に、嫌悪と恐怖を感じるのは、女性であると思ったから。

 

「負けたら捕まって"そういうこと"されるかもしれないのに……

 よく戦えますね……はは……すごいと思います。あたし達には無理だ」

 

「ああ、何か変だと思ったら。……辛いものを見たんですね」

 

「……はい」

 

「それは確かに、捕まった後どうされるかとかは想像してないわけではないですけど」

 

 恐れがないわけではない。

 ただ、恐れよりも大きな怒りがある。

 "誰かの大切な人を奪う鬼を許せない"―――それが、胡蝶しのぶの基本原理だから。

 

「でも八八さんも、冨岡さんも、私も……

 "こういうの"は絶対に許さないタイプの人間なので、見過ごしはしませんよ」

 

 しのぶの言葉に、義勇と八八が力強く頷く。

 しのぶにはその同意が心強く、嬉しく感じられた。

 

「俺と八八と胡蝶で鬼を殺す。

 お前達は捕まった人間を解放して外まで誘導して逃がせ。

 床が所々凍っているここで、一般人は逃げられない……と、思う」

 

 義勇が十人の隊士に指示を出した……が、先程しのぶの言葉に強く頷いた二人とは対照的に、隊士達ははいともいいえとも言わず、消極的に指示を聞かなかった。

 

「でも……」

「私達、武器も取り上げられてて」

「戦う日輪刀もないし」

「もし鬼に出会ったら」

「僕たちだけですか……」

 

 それは恐怖。

 武器もなく鬼に対峙する可能性への恐怖。

 ここで見た"おぞましいもの"への恐怖。

 鬼に敗北し、家畜として見られ、牢屋の中で畜生のように扱われ、心が折れかけているがゆえの恐怖。

 今さっき、"次に産ませる母体"として牢から連れていかれそうになった恐怖。

 彼らは鬼と戦う者達であったが、普通だった。

 特別ではなかった。

 自らの命を紙より軽く扱えるほどの復讐心も、使命感も無かった。

 

 そんな彼らの前で、メガネの位置を押し上げる八八が、口を開く。

 

「お前達」

 

「八八八八さん……」

 

「手を出せ、いいものをやろう」

 

「いいもの……? はい、こうでしょうか」

 

「うむ。では手を見るぞ。

 おお、これは生命線が長い。

 良かったな。お前達は今日死にそうにないぞ、自信を持っていけ」

 

「あーなるほどぉいいものって勇気が出る言葉ですかぁあははっバカかテメェ!」

 

「"勇"を失ったな……」

 

「この人だけ会話のノリが強すぎる!!!!」

 

 重苦しかった空気が変な方向に流れていくような、そんな感覚があった。

 

「ではおまけをやろう。拙者が出せるおまけはたかが知れているが」

 

「えー、あー、はい。今度はなんですか……」

 

「ほれ」

 

 そうして、八八はおまけを渡す。

 

 自分の日輪刀を、丸腰だった彼らに渡した。

 

「え、あのこれって」

 

「お前達がどう思おうが武器があるかどうかはオレが決めることにするよ」

 

「でもこれから八八八八さんは鬼と戦うのでは? 刀を渡してしまったら……」

 

「拙者素手の戦闘術にも覚えがある。

 そもそも不死であるからな。拙者は肉盾となり"義"を果たせばよいだけのこと」

 

「……死ななくても、痛いんじゃないですか」

 

「かもしれん。

 が、お前達の方が刀は必要だろう。

 拙者に無くてお前達にだけあるものがある。

 戦えば死ぬ者が、恐怖を乗り越えて戦う時に振り絞る"勇"だ」

 

 多くの人間が死を覚悟し、生を捨てる覚悟で戦う鬼殺隊では、忘れられがちなことがある。

 

 不死ではない、限りある命を懸けて戦う者は、尊いのだ。

 

 誰にでもできるわけではない"それ"ができるなら、名もなき隊士でも特別で、何も成すことができないまま死ぬかもしれないけれど、きっと、その覚悟は尊く輝く。

 

「不死身の拙者には無い。

 鬼殺隊の誰もが持っているその"勇"が無いのだ。

 そういう意味では鬼殺隊で最も下等な剣士が拙者であると言えるかもしれん」

 

「そんな」

 

「武器など"勇"のおまけだ。拙者はそう思うがな」

 

「……あ」

 

「武器は"勇"のおまけとも言えるし、そうでもないとも言える」

 

「なんでそこでわざわざ曖昧にしたんです?」

 

 悪い癖が出て来た八八を見て、しのぶと義勇は苦笑し、このまま任せておくと話がぐだぐだになりそうな気がしたので、横から入って話をまとめに入った。

 

「大丈夫ですよ。

 どっちを選んでも大丈夫です。

 あなたがどちらを選んでも。

 八八さんが刀を失っても。

 私と冨岡さんが、八八さんを間違った愚か者になんてしませんから」

 

「……」

 

 必ず勝つと、暗に言う。

 八八が戦力に数えられなくても、八八を負け犬にはしないと、しのぶは言う。

 

 強くもなく、特別でもない、名もなき隊士は八八に手渡された刀を握る。

 刀は重かった。

 心は恥ずかしかった。

 魂は恥を感じていた。

 その隊士には、傷一つ付いていないのに負けを認めて臆病風に吹かれた自分が、みじめに無様に切り刻まれても負けを認めない生き恥だらけの八八よりも、下に在るように思えていた。

 

 刀を八八から預けられた隊士が振り返る。

 他九人の隊士が、その一人の隊士を見て頷く。

 彼らは普通だ。

 特別ではない。

 けれど、鬼殺隊だった。鬼を殺すために"一歩を踏み出した"者達だった。

 

 だから、必死に懸命に恐怖を噛み殺しながら、先程まで吐いていた弱音を吐くのをやめて、八八から預かった刀を返そうとする。

 

「要りません。八八八八さん、これで戦ってください」

 

「武器がないのだろう?」

 

「鬼殺隊らしくやってみたいんです。やってみてもいいでしょうか」

 

「……もちろんだ。やっと()()()なってきたな」

 

 名もなき隊士が返そうとした刀を、八八は頑として受け取らなかった。

 

「あの、要らないって」

 

「弱者への同情ではなく。

 強者への信頼として刀を預ける。

 これで弱者を守れ。

 拙者と、義勇と、しの八の代理としてな。

 お前も武士ではなく侍だ。浪人だがな。姫を持たぬ侍は皆浪人だ」

 

「……はい!

 何言ってるか全然わかりませんが!

 捕まってる人達は……これで必ず助けてみせます!」

 

「恐怖を越えて踏み出す一歩。拙者、お前の中に勇を見た」

 

 何言ってるのかさっぱり分からないが、何を言おうとしているのかは分かる。

 語録を理性ではなく魂で理解する。

 八八の言っていることをぼんやり理解できる。

 この頭イカレポンチと息を合わせて戦っていける。

 それが"サム8の呼吸"を習得するということ。

 ―――今ここに、新たなるサム8の呼吸の使い手が10人、誕生した。

 

「行くぞ、義勇、しの八」

 

 "勇"を見せた隊士が、憧れの視線を八八に向ける。

 義勇としのぶが八八の後に続く。

 格好つけることだけ考えていた八八がすっかり油断して注意を払わなくなっていた床の氷を踏んで滑ってズッコケて壁に全力で激突した。

 

「んぶほぉっ」

 

 この展開を全く予想していなかったしのぶが、思い切り吹き出す。

 

「胡蝶……今の笑い方は品が無いぞ」

 

「違います! 今のは不意打ちだったからです! 違うんです! 違うって言ってるでしょ!」

 

 潰れた鼻の鼻血を拭きつつ、瞬間的に鼻を治し、居心地悪そうに八八は明後日の方を向く。

 

「"恥"を得たな……」

 

「もう、しっかりしてくださいよ。私や冨岡さんまで恥ずかしいじゃないですか」

 

「俺は恥ずかしくない」

 

「……」

 

「もしも拙者達がこの洋館の鬼を倒せなければ……

 八八八八八八、冨岡義勇が、腹を切ってお詫び致す」

 

「そうだ、俺達はそのくらいの覚悟で……待て、それだと死ぬのは俺だけじゃないか?」

 

 それぞれがそれぞれの役目を完遂すると確信しながら、彼らは二手に分かれ、歩き出した。

 三人と十人の鬼殺隊。

 三人は鬼を倒すために。

 十人は人を救い出すために。

 彼らの名は鬼殺隊。

 

 鬼を殺せ。人を守れ。単純なルールの下で、彼らは駆ける。

 

 そんな彼らを、弱き人々はこう語り継ぐ。

 「鬼狩り様が鬼を斬ってくれる」―――と。

 彼ら鬼殺隊は、そう。ずっと昔から、そうやってきた。

 

「行くぞ義勇、しの八……カーラにこの銀河は渡さぬ……私の『義』だ!」

 

「冨岡さん、八八さんがまたおかしくなってきましたよ」

 

「人間の言葉を喋りすぎた反動だな……仕方ない」

 

 八八は除く。

 

 

 


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