こんなに「アイシテイル」という言葉が怖く感じるなんて。
どこからか聞こえてくる。
気のせいじゃない、あの男の人だ。
死んだはず、目の前で折れた刀「鶴丸」で首を掻き切ってしんだ。
自殺したはずだ。
こんな声、耳鳴りと一緒だ、気のせいだ、気のせいだっ、きのせいだ!
走っていた、歩いていた、いつの間にか座り込んでいた。
大きな木の下で。
枝垂桜に隠れてしまうように、縮こまって刀を抱きしめて。
あの言葉は「呪い」だ。
手首から覗く赤い縄の跡、こんなのすぐに消えてしまうはずだ。
ねぇ、こわいよ。
―――なにが怖い?
逃げられない。
―――なにから逃げてる?
あの人。
―――あのひと?
そう、あの…「あるじ」が。
風が吹くと同時にぞわりと寒気がする。
カタカタと体が震えている。
とまって、とまってよ、震えないで、戻らなきゃ。
―――なんで?
心配させる、助けてもらったのに逃げ出しちゃった。
―――そうだな、心配してるな
…だれ?
―――もう、わかるだろう?
「…つるまる…?」
―――大丈夫だ、「俺」達がいる
わたしの中から声がする。
呪いの声と、温かい声。
ふわりと風に乗って鼻をかすめるのは、血の匂いではなかった。
「…ぁ……」
大倶利伽羅からもらった花。
小さな花が胸元からこぼれた。
白い花びらが咲き誇る。「わたし」が覚えている花の一つ。
マーガレット。
大倶利伽羅は別に意味を込めたわけではないかもしれない。
だけれど…
「……信頼、か」
あなたたちの知っている鶴丸じゃない。
あの男の作った「わたし」(ツルマル)だ。
でも、混ざりものでも、鶴丸って言っていいのかな。
―――どうしたい?
わからない。この耳に聞こえる呪いの声が「わたし」を否定している。
でも「わたし」はわたしだ。
―――なら、「俺」は君だな
そうなのかな。そう、だったらいいな。
「わたし」を肯定してくれる「俺」達。
なら、そう。まだ怖いけど、でも、立たなくては。
―――ほら、ちょうど来てくれたぞ
そのつぶやきが聞こえたと同時に、地面を走る足音をひろった。
「鶴さん!」
「見つけた、ちょっと大丈夫?」
光忠さんと赤目の青年。
「見習いー、安定ぁ、こっちにいた!」
「ほんと?!よかったっ」
「つるまるちゃーーーん!よかったよぉ」
駆け寄る少女とポニーテールの青年。
そして丸まっているわたし。
あぁ、探してくれたんだ…「わたし」を。
「えっと、近づいても大丈夫かな?」
少女が恐る恐る近づいてきた。
そうっと、まるで怖がらせないように静かに。
「…だ、ぃじょう、ぶ」
まだ怖い。けど、『信頼』したい。うそじゃない。
―――君の怖いものは彼らなのかい?
ちがう、ちがうよ。だから…
「にげて、ごめんなさい…わたし…こ、、こわくて」
「…うん、そうだよね。いきなりはびっくりさせちゃったよね、ごめんね」
ふわっと頭をなでられた。
少女の手は静かに、髪をすくように。
この手は、あの男の手じゃない。
大丈夫。だいじょうぶ。
―――あぁ、大丈夫だ。
「わたし」の中に声がこだまする。
刀と一緒に握りしめたマーガレット。
少し萎れてしまったが、それに勇気をもらって。
「ゎ、わたしは…鶴丸、国永…です」
目の前の少女に、温かい手の人に。
やっと、やっとここまで。
進みが悪くてごめんなさい。
次回は、また視点が変わります。