一行はもといた廊下まで戻ってきた。
裸足で庭を駆けてしまった鶴丸の為に、濡れタオルを用意すると去っていった光忠を待つ間、鶴丸と交流を深めようとまずは自己紹介から行ってみる。
「えーと、まずこの黒猫みたいな子が加州清光くんで、わんこみたいな子が大和守安定くんね」
ふたりとも系統違うけどかわいいでしょー、と気軽に言う見習いにため息が出た。
「ちょっとー、黒猫ってどうなのさ…」
「僕なんてわんこだよ?どこが?」
お互いを見つめ、いや間違ってないのか?と実はお互いそう思ったのは内緒だ。
じゃないと喧嘩必須である。
「えっと、見習いさん…の名前…は、ないの?」
不思議そうに首をかしげる鶴丸に、見習いはへらっと笑った。
「そーだねぇ。審神者名が本来はあるんだけど、まだわたしは無いんだー」
「鶴丸も好きに呼べばいいんじゃない?見習いとか、姪っ子とか」
「姪っ子?」
審神者名早く欲しいなーとかいっている見習いを横目に、清光は説明した。
この本丸の主である審神者シキの姪にあたるのが、この見習いであると。
「そういえば、見習い、とかって制度は知ってるの?」
ふと安定が問えば、鶴丸は首を横に振った。
「審神者…は分かる。あるじのこと。…見習いはなにを見習うの?」
「あ、ごめんね。上位本丸にしか来ないから知らないよね」
聞けば、「見習い」という存在を受け入れる本丸にはある一定の条件があるとのこと。
そして、見習いは審神者になる前に希望した候補生が大先輩の本丸に弟子入りして業務の流れや刀剣について勉強する機会を得るものなのだそうだ。
「わたしの場合は親族に上位本丸のシキさんがいたからラッキーだったよ~」
「見習いになるのに試験が必要なんだっけ?」
「試験…というか、適性検査とか面接とかかな。昔、見習いが本丸を乗っ取ろうとしたことがあったみたいで…」
この制度もいろいろ変更加えられてるんだよねーと気軽に話す見習いを見ながら、鶴丸は前のわたしだった頃を思い出していた。
なんか、就職活動みたい、と。
「おまたせ」
颯爽と現れた光忠は、縁側で座って話を聞いていた鶴丸の足元に跪き、その素足をぬぐう。
「みっちゃんっ!イケメン!!!」
びしりと固まった鶴丸とは違い、見習いはテンションが上がっていた。
「やっぱり、小枝か何かふんじゃったのかな、少し怪我してるみたいだ…」
「っえ!だいじょうぶ?鶴丸ちゃん」
「う、ん。痛くない…から…」
心の中で、ひぇ…といろんな意味で混乱している鶴丸の言葉は、言葉が足りず、光忠たちは嫌な想像が広がっていた。
まさか…痛みを感じないのか?…なんてところまで行って顔が歪みそうになっているのを必死に我慢していることを鶴丸はまったくもって気づけなかった。
「あの…?」
「…な、なんでもないよ、血は滲むくらいだから、主に手入れをお願いしようか」
「そうだね!とりあえずシキさんのところに行こう!そうしよう!」
「え…手入れ?…しなくても大丈夫、だよ?」
(刀はちゃんと握っていたし…)
すっぽりと自分の傷=刀についた傷ということを忘れて発言するくらいには、鶴丸は気が動転していたようだ。
まさか跪いて自分の汚れた足をイケメンに拭かれるなんて誰が想像したことやら。
原因は光忠にあり。だが、その本人も周りもその戸惑う鶴丸を見て、さらに想像が加速する。
この本丸では少しの軽傷でも手入れをしてもらえるが、鶴丸のいたブラック本丸では違ったのではないか…。
まさか、まさか…重症で放置とかないよな…なんて。
まぁ実際のところ、鶴丸は気づいたら縛られていたくらいで怪我をする暇なく保護されたため詳細は不明である。
といっても、手首などに残っている縄の跡は怪我という概念に入っていないということは想像にたやすかったが。
手入れを断る鶴丸に「するの!」と強引に、かつ、大胆に行動に移したのは意外にも加州清光だった。
ひょいっと座っていた鶴丸をいとも簡単にお姫様抱っこだ。
鶴丸の頭はショートしている。こうかはばつぐんだ。
そんな鶴丸に、加州は主のいる部屋に向って歩を進める。
「うちの主は怪我の放置を許すような、そんな人間じゃない」
赤い真剣な瞳を廊下の先に向けてむすっとしながら歩んでいく清光に、安定や見習い、光忠は顔を見合わせくすりと笑ってしまった。
清光を追いかけながらそれぞれ肯定の言葉を発する。
「確かに、シキさんはかすり傷でもなんでも手入れするよね」
「この間紙で手を切っただけでも、手入れ部屋直行だったよー」
「どちらにせよ、挨拶とかこれからのことは手入れしてからになりそうだね」
ぱちぱちと金色の目が瞬いた。
おとなしく腕におさまる鶴丸に、清光はにっと笑う。
「と、いうことだから、大人しくしててよねー」
清光の腕から見える景色は、優し気な笑顔の4人の笑顔。温かい雰囲気。
(あぁ、いいな)
思ってしまう。
(仲間に入れてほしいな)
そんな、図々しい願いがふと浮かび、もみ消した。
鶴丸の内心は表情には出なく、たださみしそうにかすかに瞳を細めて。
そんな彼女に清光はどきりとしつつ、気にしないように進むのだった。
話がすすまなーーーぁい。