あの後、手入れ部屋にてなぜか持っていた刀をぽんぽんされた。
そうしたら、なぜか足の裏の傷があっという間にきれいになった。
どういう構造をしているのか…。
いや、自分の中にいる他の鶴丸くん達がそういうものだと教えてくれているから、そういうものなんだろうけど。
無表情のまま、やっぱり不思議なその謎現象を見ていた自分だが、ここにいる人たちは何も疑問を持っていないようだった。
(これは、黙っているのが正かな。)
そう結論付けても顔に出ていた模様。
無表情とは縁がないようだ。
なんだか酷くショックを受けている見習いさんに、厳つい顔が眉間のしわでさらに迫力を増した審神者(イケオジ)。
難しそうな顔で互いの顔を見合わせる赤と青の青年二人組。加州くんと大和守くんだっけ。
しかし、傷が消えても何故か縄の跡が消えないのは気味が悪い。
無意識に手首の縄の跡を擦っていたようで、見習いさんが悲しげな顔をして手を握ってきた。
見れば縄の跡の残った手首が摩擦で別の意味で赤くなっていた。
はくはくと何か言いたげに、でも何を言えばよいのかわからないといった見習いさん。
この少女にそんな悲しそうな顔をしてほしくない。
私は、コミュ力が高くなくても普通におしゃべりできた、ハズ!
「…へいき、だいじょうぶ、痛くないよ」
なぜこの口は単語しか出てこなかったのか!!!
ごまかすように笑みを浮かべたけど、引きつっていたのかな。
こんな美少女の笑みなら多少可愛く笑えたと信じたいが、見習いさんは視線をそらして俯いてしまった。
え、そんなに気持ち悪い笑顔だった…?そっちの方がショックなんだが。
「おい、ひとまず俺の部屋に移動するぞ」
「…う、うん」
ぽんと見習いさんの頭を叩いた審神者はため息交じりにそう言った。
――――――
「あぁ、戻ってきたか…なんかあったのかい?」
元の審神者さんの部屋に戻ると黒い彼、鶴丸国永が壁というか柱に背を預けて座っていた。
手入れ部屋で握られた見習いさんの手はすぐに外され、ぞろぞろと審神者を先頭に戻ってきたのだ。
どことなくどんより(主に見習いさん?)している雰囲気にいち早く気づいた彼がそう声をかけてきた。
視線の先はなぜか私だ。
同じ鶴丸だから…かな。それとも主犯と疑われたのか…?
なんといえばよいのかわからず首を傾げていたら、審神者が何か見習いさんに話をしていたようだ。
急に見習いさんが自分の頬を両手でたたいた。
そらぁもう良い音がなりました。
「ごめん!なんでもない!!気にしないで」
ふんすと気合を入れた彼女にぱちくりと瞬いた後、鶴丸は笑い声をあげた。
「ははっ、頼もしいねぇ」
「だてにシキさんに習ってないからね!」
そんな会話を眺めつつ、それぞれが好きに部屋の中に座っていく。
加州くんや大和守くんは外に一番近い場所、逆に審神者は一枚板でできた立派なローテーブルの向こう側。
見習いさんも審神者の横へ。そして机を挟んで私も畳の上に座った。
「さて、いろいろと聞きたいことがあるんだが、まず俺達が把握している”あの”本丸の話をするか」
そうして語りだした審神者、シキさんいわく。
私がいた本丸は所謂ブラック審神者疑いのあった人物のいる場所だった。
その審神者(あの自殺したやつだ)は、数か月前までは普通に日常の業務や定期連絡も欠かさない人物だったそうだ。なのにある日、突然連絡が途絶え、こんのすけとも連絡が取れない。(こんのすけとは、各本丸に駐在する管狐のことだそうだ)
これはおかしいとその審神者の担当者は本丸を調べた結果、データ上の刀情報を入手。その内容に担当は驚いたらしい。なぜなら、大量の鶴丸国永を鍛刀している傍ら、鶴丸以外の刀はすべて破壊されていたとのこと。これはいよいよおかしいと、審神者の捕縛と刀剣の保護をシキさんに依頼した。
…ということだった。
「…あー…、ひとまずあんたのことは鶴と呼んで良いか」
そう口にしたシキさんは黒い鶴丸と、私をどう呼べばよいかを少し試案してそう聞いてきた。
「…ん、私も鶴丸国永だから、それで良い…」
ちらりと黒い鶴丸を横目に眺めたら、にやっと笑われた。
「なら、鶴、俺のことはなんてよんでくれるんだ?」
どこかわくわくした様子の彼に、そう問われた。
シキさんとかは「ちょっと黙ってろ」とか言ってるが、彼は大事なことじゃないかと笑っている。
その笑みは、どこか子供のような、でも面白がっている悪い笑みにも見える。
なまじ顔が整っている為、どんな表情でもイケメンとしか思わないが、さてなんと呼べばこいつは気が済むのやら。
ねぇ、どう思う?と自分の内側のたくさんの鶴丸達に問いかけても返答はなし。
雰囲気的には好きにしたらいいんじゃないか…といったところか。
「えっと…鶴丸さん、じゃだめなの」
「そいつじゃ面白みがないだろ?それとも俺が呼び名を変えるか、お嬢とか姫さんとか」
「…自分を姫とか…やだ」
「ならお嬢だな、んでお嬢は俺をなんて呼んでくれるんだ?」
「私が鶴なら、君は鶴丸さんで差別化できていると思う」
それとも「黒鶴」とでも呼ぼうかと適当に提案したら、若干気に入ったらしい。
が、シキさんが「お前は鶴丸、あんたは鶴で決定だ、これ以上名前が増えるのはめんどくせぇ」とのまさに鶴の一声でこの応酬は終わりを見せるのだった。