どれくらいの時間がたったのかわからない。
血の臭いは、もうわからなくなった。
相変わらず身動きは取れないが、頭のなかは少し冷静を取り戻してきた気がする。
こんなホラーな惨劇目の前にして冷静になるなんて、どっかおかしくなった気がするが、まずはやれることからやらなくては。
まず情報整理をしよう。
目の前の分析結果としては、
・見知らぬ男性(遺体)
・和室(暗い)、なぜか男性以外の血が大量に
壁やら畳に飛び散っている
・たくさんの壊れた刀
よくみると、柄の部分とか装飾が全て同じみたい
・出入り口は正面の襖のみ
お札と血痕ですごいことになっている
さて、次は自分だ。
・わたしはだれか?
なぜか「鶴丸国永」という答えが出てくる
・記憶が朧気。ウィンドウショッピングしてたら
なんかいろいろあって、気づいたらここにいた。
・なぜか、わたしは刀剣らしい。
あれ、人間だったのに?
でも刀剣であるという認識がしっくりきてしまった。
・人間のときの名前がわからない。
同じく現代での生活知識はあるのに、
自分が何歳でなにをしていたかもわからない。
なんだろう、気を失いたいのに意識はなぜかはっきりしてしまっていて、自分でも引いてしまう。
身体は相変わらず動かない。
いや、首から上、指の先くらいは動くみたいだ。
正面に向けていた顔をうつむかせた時、はらりと肩から滑り落ちてきたのは長い白髪。
座り込んだ胴体は、これまた白い和服を着ているようだ。そこに絡み付くのは黒い腕…ではなく、しめ縄のような太い縄だった。その縄が見事な朱なため、白に線を書いたように赤く彩りを加えていた。
そしてなんと書かれているかわからないお札が、一枚、二枚、三枚…これも赤い字で模様が描かれている。
さて、どうしようかと悩む。声は出せるだろうか。
「………ぁー…」
すこし出し辛い。掠れているのか、空気が抜ける感じで大きな声はでなさそうだ。だが、話せなくはない…?
「ゎ…たし、だれ、か…っけほっ」
小さな呟きにしかならない。
これは早々に話すのを妥協したほうが良いか?
他にはなにか出きることがないか…そんなことを考えていると、物音ひとつしなかった部屋の外で聞き慣れない音が聞こえた気がした。
金属が擦れるような、きんっとした音。
そのあとにはバタバタとした足音と思われる騒音。
そして、声。誰かがいる。
頭を駆け巡るのは、目の前で死んだ男。
この声に助けを求めて良いのか?
また、あの狂気に触れることにならないか?
わたしは、こわかった。
声はかすかにでも出せるのだから、助けを求めることはできるはずだ。だけど、「わたし」を混ぜた鶴丸国永はなにもせず、静かに目を伏せた。
このまま開かずの間となっても構わない気がした。
時間は静かにすぎていく。
外の喧騒も静かになった。
どれくらいの時間がたっているかは不明だ。
なぜかこの部屋には外の明かりを感じられるものはなく、自分を中心にうっすらと光を放つ、その灯りのみで成り立っている。
…自分を中心に??
(あれ、わたし光ってる?)
衣服が白いからだけでなく、ほんのりと身体が光を放っていた。そのおかげか、そのせいかは分からないが目の前の状況を把握できたのはこれのお陰だったらしい。
(いつまでこの状況なんだろ)
空腹も睡魔もやって来ず、顔を伏せた状態でぼんやりと畳の目を数えていた。
人は慣れるものだからなのか、それとも刀剣という状態になったからなのかは分からないが、こんな惨劇のなかで嫌悪も感じず、恐怖も薄れてしまうなんて、自分でもどうかしているとか。転がっている刀剣達が鶴丸国永であることに気づいて、なぜそんな状況になってしまっているのか…。
そんなことを考えていたときだった。
正面の襖の向こうに、誰かいることに気づいた。
襖が開かないのか、かたかたと音がなり、しまいにはドンドンと襖を叩く音と声。
「………?………??」
まただ。声が籠って聞き取れない。
だが、声の主は一人ではないようだ。
「………っ…?」
「………………!!」
「………」
声のトーンは男性と思われる。
もしかしたら、この状況を打破してくれるかもしれない。賭けてみるか…。
「………だ、れ?」
「!!………っ!」
聞こえたようだ。襖を必死に開けようとしているみたいだが、なぜか微かに揺れるのみでびくともしない。
「ここ、か、ら…だして…」
ひゅっと喉が鳴り、2、3回咳き込んでしまう。
しばらくすると、別の足音が近づいてきた。
そして襖の向こうでなにやら会話をしたあと、こえがした。
「いま助ける!近くにいるなら危ないから離れてくれ」
そう、はっきりとその人の声は聞き取れた。
なぜなのかは分からない。
ここに来てからわからないことばかりだ。
キーーーンッと耳鳴りが聞こえたあと、あっさりと襖が開けられた。
伏せた顔をあげて襖の向こうをみる。
そこには目を見開き驚愕の表情を浮かべた、40代程の男性と、太刀や短刀を持った三人の男がいた。
そして、これまた不思議なことにわたしは、一人が審神者で三人は刀剣男士だという知識がふと湧いてきて納得した。
そして、彼らとの間で死に絶えてるわたしを呼び出しまのも、また、審神者であったのだと、このときに気がつくのだった。
解説
「わたし」がいる部屋で最初に声が聞こえなかったのは、真っ黒本丸の審神者の力に犯されていたから。
その審神者が死んだら、部屋のなかだけは声を拾えるようになった。
だが、襖にも呪術がかかっており、襖の向こうの声は遮断されていた。これも、真っ黒本丸審神者の力によるものなので、「わたし」に影響し、声が聞こえない状態となっていた。
審神者がかけたものは、審神者が破壊できる。
また、審神者という力をもっているものだったからこそ、声が遮断されているなかでも、救出審神者の声だけ聞くことができた。