長い廊下を進むにつれ、なにやら賑やかな声が聞こえてくる。
先を行く黒鶴が曲がり角で覗くように、廊下の先を見て歩を止めた。
それに合わせて私もひょいっとのぞき込むと、その先には広い庭と共に開け放たれた稽古場があるようだ。
「よっ、今日もにぎやかにやってるな~」
黒鶴に隠れて誰かいるようだ。
「あぁ、鶴丸殿。ちょうど良かった、少しお尋ねしたいことが…」
優しそうな男性の声だ。
黒鶴の後ろからもう少しのぞき込み、上から降ってくる声に視線を向けると、バチッ金の瞳と水色の派手な髪が揺れる彼と目が合ってしまった。
「…………(じー…)」
え、すごく見られてる?なになに、視線が痛い、刺さってる…なんて思いながら目が離せなかった。
そこにいたのは粟田口の短刀達に兄と呼ばれる存在。
うわー…一期一振だ…こうやってみるとカラフルなんだなぁ…
「あー…、もしかして尋ね人ってやつかい?」
にやっとしながら左肩に届かない自分とおそろいの白い髪を撫でつけてくる黒鶴に、やっと一期一振から視線を離して、なに?と頭を撫でられながら首を傾げるわたし。目が合った黒鶴はちらりとこちらを見てから一期一振に顔を向けた。
なんで頭撫でられたんだ…?
「ってことは、タイミングはばっちりって感じかね」
「ははっ、そういうことになりますな」
頷きながらこちらに笑顔を向ける一期一振は、さすがロイヤル王子様。イケメンである。
「驚かせてしまって申し訳ない。朝食の時に君を見かけて弟が声をかけたいと話していたので、まさかすぐに会えるとは思っていなかったもので…私は粟田口の太刀で一期一振と申します」
「…わたしは鶴丸…えと……たぶん、弟さんに助けてもらったと思う…」
えーと、あの場にいたのは骨喰と平野だっけ?…たぶん居た気がする。
あ、乱ちゃんとも会ったな。可愛かった。
「…ありがとう?」
お兄ちゃんにお礼言うのも変なのかな。
とりあえず首を傾げながら一期一振に感謝を言ったら、なんか固まった。
「…っ」
「くっ…っふ」
片や黒鶴は笑いを隠しきれていない。
「…なんで笑うの」
「お嬢…これ、わかってないんだな…っく、あー楽しませてもらえて俺は嬉しい」
「??…馬鹿にされてる?」
「いやいや、まさか!これからもそのままのお嬢で行ってくれ!」
くつくつ笑われて、でもそれで良いとか意味わからないこと言われた。
これ不機嫌になっても良いのかな。
「おや、そこにおるのは鶴丸と…」
ゆったりとした声が一期一振の向こうから聞こえた。
視線を下げると縁側に座りこちらを見上げる美人…いや、男性なのに美人という言葉が似あう天下五剣が一振りがいた。装飾の無い戦装束を着ているからそこだけ時代が遡ったのかと錯覚してしまいそうだ。
傍らにお茶菓子等が置いてあることから、お茶を飲みながらのんびりしていた模様。
「三日月…?」
「いかにも、俺は三日月宗近という。そなたが例の…ふむ、こちらへ」
おいでと手招きされて黒鶴をちらりとみて―――よくわからない、楽しんでるのかな、とりあえず笑っていた―――から、三日月に近づいた。
座っている三日月の傍で膝をついたら、するりと頬を撫でられてびくりと驚いてしまった。
「難儀なものだ…これは…」
三日月模様の浮かぶ瞳がこちらをのぞき込む。
痛ましそうに顔を顰め、親指で頬を撫でられた。
「…痛くはないか?」
「……??…いたくない、こまってる」
あぁ、飲み込まれそうだ。深淵を覗かれているようで、見透かされたような。
でも痛いって…なに、が?
「こまる、困るか…ははは、そうかそれはすまない」
ふっと笑い、頬に添えていた手で頭を撫でられ、さらに意味が分からなくなった。
「すまんな、気にするな。まだその時ではないのだろう、今はゆっくり休めばよい」
「う、うん?そうする…」
絶賛疑問符を浮かべる私を気にせず、はははと笑う三日月。なにが、はははだ。
いや笑っていないで詳細プリーズ、なにかあるのか?
口を開こうとしたときに、「あーーーーーっ」っていう漫画の吹き出しだったらコマの隅に追いやられそうな勢いのある大きな声が響いた。
左に広がる庭から聞こえたその声に、わずかに右に体が傾いだ気がする。いや、間違いなく。
声の主にその場にいた太刀達が振り向くと、短刀であり男の娘な可愛い美少女姿(やっぱり男の子)の乱藤四郎の真ん丸な青い瞳とばっちり目が合った。
その瞳はきらきらした太陽の光を受けた海見たいな綺麗な色。
こちらはぱちぱちと瞬きをしている間に、なんだなんだと他の短刀や刀達が庭の向こうから、鍛錬場の中から、また近くの部屋から続々と顔をのぞかせてきた。
「ねぇねぇ!昨日僕と会ったの覚えてる?」
気づいたらちょっと先にいたはずの乱ちゃんが近くに来ていてびっくり。
さすが短刀…素早い。というかもう極めてるんじゃないかな、早すぎて忍者かと思った。
いや忍者なんて知り合いいないし見たこともないから、漫画のイメージなんだけど、シュバッ!って感じで近づいてきたから。あ、でも忍者(くのいち)とかの恰好に会いそうだな~。
漫画でくのいちだとNARUTOとかくらいしか思いつかなかった。枝の上をひょいひょい移動しているイメージだ。あ、でも短刀なら瓦屋根の上をひょいひょい移動しててもおかしくないな。うん。
なんて馬鹿な事考えてて、だんだん彼、彼?うん、女の子みたいだけど、その可愛い表情が少し曇っていく。
「昨日は大変だったから覚えてないかな…?」
「え、ぁ…覚えてる、玄関で会ったよね」
わたわたと焦ったように声をあげた。いや泣かないよね?君のお兄ちゃんが後ろにいるから反応怖いわ。
覚えてるという言葉に、ぱっと花が咲くように笑顔になった乱ちゃん。
これ、女の子扱いで良いよね?うん、良い気がする。
「よかった~、改めて、僕は乱藤四郎だよ」
「わたしは、鶴丸…です」
「つーちゃんって呼んで良い?鶴丸さんと被っちゃうから。僕のことは乱で良いよ~、藤四郎はいっぱいいるからね!」
「ぇ、うん。えといいよ、み、乱ちゃん?」
返事をしたら、感極まったかのようにぎゅーっと首に抱き着かれてしまった。
…なぜ?
あぁ、でもさすが男の娘、髪から香るふわっとした良いにおいがする。
まじか、女子力高い…。
「…大変だったよね、ここの本丸は大丈夫だからね!」
「……?…ぁ、うん?」
…なにが??
大丈夫ってなに、なんかあったかな。
内心疑問が浮かぶ中での、適当な相槌にぎゅっと抱きしめる腕を強めた乱ちゃん。
ちょ、微妙に首締まってきた。それ以上はいけない。
彼の背中をぽんぽんと叩いて、腕の力を弱めてもらおうとしたら、なぜかほっぺたすりすりされました。
えええ…なんのご褒美ですか、すっべすべでめっちゃ気持ちいいというか、この身体も肌すべすべで、お互い気持ち良くて幸せしかないんですが、なんですか、極楽ですか?そうなんですか?
背中ぽんぽんするとご褒美もらえるとか聞いてない、嬉しい。
おちつけ、わたし…だめだ つるまる は こんらん している 。
「乱、それくらいにして、俺っち達にも挨拶くらいさせてくれや」
少し低めの声に乱ちゃんの向こうを見ると、白衣をまとった少年や他にも何人か短刀達が集まってきていた。
「うー…もうちょっと~、つーちゃん良いにおい~」
「…そう?…乱ちゃんも良い香りがする…(あ、変態じゃないよ、違うよ)」
そうやってくすくす笑ったら、乱ちゃんが至近距離で目を合わせてうれしそうに笑ってくれた。
2人でそうして笑ってると、後ろから黒鶴がぼそりと
「……さすがに、無防備すぎやしないか?」
とかなんとか呟いているが、可愛いは正義なのだ。
あれ、貞ちゃんが出てこない。
粟田口が増加していくぞ~