「なぁなぁ、ほんとに女形なのか?」
ひょいっと視界に入るのは藍の髪と大きな金の丸い瞳。
「一応挨拶からだな!俺は太鼓鐘貞宗、よろしくな!」
元気の良い声に、黒鶴が「お、来たか」と一歩近づいてきた。
「鶴さんがこの時間にこっち来るの、珍しいな」
「なに、まずは知り合いを増やさんと、驚きが減ってしまいそうでな」
「…? どういう意味だ?」
いや、気にするなと笑う黒鶴をよそに、するりと離れた乱ちゃんが白衣姿の短刀、薬研藤四郎に何か話している。
その姿をぼんやり見つめる。
不思議だな、画面の向こうに今自分がいるだなんて。
続々と集まってくる小さいのから大きいのまで、自分に注目が集まっているのは感じるのだが、なぜだろう。
ほんのりと胸の内側に熱がこもる。きゅっと締まる。
こんな和気あいあいとした光景は見たことが無いのに、なんでだろう。
―――なんでこんなに、泣きたくなるんだろう。
嬉しいような、悲しいような、責めるような、懐かしいような。
綺麗な絵の具をぐちゃぐちゃに混ぜてまだら模様になったかのような気持ち。
言い表せない多数の気持ちは、誰のだろうか…。
異変に最初に気づいたのは、黒鶴だった。
「お嬢、どうした?」
ぼんやりとした彼女を上からのぞき込むようにそっと声をかける。
その様子に気付くものもいれば、いまだ話し込む刀剣達もいた。
「…あのね」
「ん?」
「なんでだろう…胸が、変。ぐちゃぐちゃしてる…”みんな”が…」
言葉にできず、でも視線は目の前をみているような、遠いどこかを眺めるように。
右手で胸元をぎゅうっとにぎって、どこか呆然とする鶴に、黒鶴は複雑そうに眉をひそめた。
行動を起こしたのは意外にも横に座っていた三日月だ。
いたわるようにやんわりと彼女の頭を撫で、そのまま目元を伏せさせるように大きな手で目元を覆う。
「よいよい…いまは何も分からずとも、いずれ分かる時が来る。それまで眠っていて良い」
「いいの?これ、だって…”みんな”が騒いでるよ」
「まだ時ではない、いまは休んでおれ…いずれ、わかるときがこよう」
「そう…そうだね、ごめん、ね、”みんな”…」
ぐらりと揺れ、そのまま三日月にもたれかかるように倒れた彼女は、静かに眠りについていた。
三日月は胸元に頭を預けた彼女を、少しずらしてそのまま膝を枕に横にならせた。
「難儀なものだな…このように”からみつかれて”は、もう戻れぬだろうに」
ぽつりと呟く三日月は、月を映し出す瞳に愁いを浮かべてため息を吐いた。
「ねぇ、三日月さん…つーちゃん、大丈夫なの…?」
様子を見ていた乱や薬研たちは、白い顔をして眠る鶴丸に配慮して声を小さくしたが、深い眠りに落ちたようで彼女は微動だにしない。そんな様子に不安そうな刀剣達を見やりつつ、ちらりと黒い鶴丸を仰いだ。
普段は人の輪にあまり入らず、我関せずといった風貌の彼は、同じ刀剣である彼女を見下ろしながら小さく笑っていた。
「楽しそうだな?鶴よ…」
「ああ、楽しいな…これからもっと楽しくなるだろうよ」
どこか苦笑が混じるが、それでも”片鱗”を見せた彼女を愛おし気にみやり身を屈めた。
白いまろやかな頬を人撫でして、小さく喉で笑う。
「なぁ?”鶴丸国永”…俺を参加させてもらいたかったぜ…」
「…悪趣味だな」
まったく頭が痛いと言いたげな三日月をよそに、ぷにぷにとほほをつつく黒い鶴丸。
彼らのいう言葉ははっきりとしたものではないので、意味が分からず聞いている者たちは首を傾げていた。