『なあ、本当にやるんだな?』
通信機からオペレータ――セレン・ヘイズが聞いてくる。
「なんだよセレンさん、らしくないな。怖じ気ついた?」
『いや、そうじゃないんだ。本当にこれで良かったのかと……』
「良かったってなにが?」
『今回の依頼は故人からの依頼なんだぞ。達成したとしても誰も喜びはしないいんだぞ。むしろ……』
その言葉の先に何が待っているかパイロット――ジルベール・ジェストにはわかっていた。
「わかっているさ、それくらい。いまから自分が何をしようとするかぐらい」
『……そうか。ジル、君にはすまないと思っている』
「どっどうしたんだ?セレンさん」
いきなりセレンに謝られてジルベールは慌てた。
『もし、君をあの時傭兵(こちら)の世界へ誘わなければこんなことにならずに済んだかもしれないのに……』
ジルベールはセレンの落ち込んだ雰囲気を肌で感じた。
「セレンさん、あんたは間違っている。あんたが俺に力を与えてくれたからいろんなことを知った、楽しいことや嬉しいこと悲しいことを。もしあんたに拾われていなかったら俺はそれを知らずに地上で野垂れ死んでいたかもしれない」
だからと言って、少し間を置いた。
「俺は後悔していない。むしろ、俺はあんたに感謝してるんだ」
『そ……そう…か』
セレンの声は湿っぽかった。
「もしかして泣いてる?」
『馬鹿野郎。そんな訳がないだろう』
そうは言いつつも、鼻のすする音が聞こえた。
「そうそう、戻ったら“アレ”やるよ」
『貴様ぁぁぁ!!今の一言で全てが台無しだ!!私の、私の涙を返せ!!!』
やっぱり泣いていたじゃんかと思いながらジルベールは呑気に言った。
「だってさぁセレンさん、初めての出撃の時に言ってましたよね。『どんなことでもいい、何でもいい、戻ってきたらこれを絶対にするっていうものを決めておけ』って」
『た、確かにそうは言ったが……』
セレンは頭を抱えたくなった。
「絵になるんだもん、セレンさんのコスプレ。いいじゃん」
『貴様、私のコスプレ写真はどこに隠した!?』
「なーいしょっ」
くっくっくと忍び笑いをした。セレンが見つけることはまず無いだろう。なぜなら、ジルベールが普段つけているメガネ(とセレンが思っている)型のハイスペック過ぎるデバイスにすべてのデータが入っているのだ。
「もう何にするか決めてあるから、楽しみに待っててよ」
『誰が楽しみに待っているか!?』
セレンが怒鳴る。だがジルベールは気にしない。
あれから似たようなやり取りを繰り返し、目的の場所の近くまで来た。
『レーダーに感有り。敵はネクスト二機、レイテルパラッシュ、およびマイブリスだ。成就しろよ、お前の答えを』
「わかっているさ、成し遂げてみせる!!」
『お客さんだぜ、ウィンD。…予想通りのな』
『貴様も、人類のためには人の死を厭わないか。ならば自分で、死を実践して見せろ!テルミドールと同じようにな』
あいさつ代わりにウィンディが背中のレーザー砲を撃ってくる。
「ロイ・ザーランドとウィンDファンションか。お前たちは、これから生まれてくる子供たちのことを考えないのか!!」
ジルベールはクイックブーストで避けてライフルで打ち返す。だが、ロイ・ザーランドはジルベールに向けて威嚇射撃とミサイルを撃つ。ジルベールはクイックブーストとダブルクイックブーストさらにライフルまで使って全てのミサイルを回避する。その間にもウィンディとロイザーランドの攻撃は止まない。
『高速で接近してく機体だと?いや、まさかそんなはずが』
「セレンさんどうした」
『ジル、気をつけろ。もう一機来るぞ!』
セレンが警告するとウィンDとロイザーランドのいる別方向からレーザーバズーカーが飛んでくる。ジルベールは何とか避けたが無傷とまではいかなかった。
『ステイシス、オッツダルヴァ参戦する』
『テルミドール、裏切ったか。もとより貴様らが始めたことだろうがぁ!!』
テルミドールと呼ばれたオッツダルヴァは鼻で笑った。
『ここにいるのは、ランク1オッツダルヴァだ。ウィンDファンション、ロイ・ザーランド悪いがやらせてもらうぞ、こいつだけはな!!』
『ジル、もういい。こんな茶番に付き合ってやれるか!!撤退しろ』
ジルベールがびっくりするぐらいにセレンが怒った。
「そんなこと出来ないよ、セレンさん。裏切り者には死をでしょ。それに例え騙されたと判っても依頼を遂行させる。それがプロだろ?」
『言う様になったじゃないか。いいか、死ぬんじゃないぞ』
「ありがとう」
ジルベールはセレンにそう言うと目の前の地獄の中(三機)に飛び込んだ。
戦いは終わった。勝者はジルベール彼一人だけだ。
『お前が生き残ってくれて、嬉しいよ。頑張ったな』
「違うよ、セレンさん。俺が生き残ったのは、セレンさんの教えのおかげだよ」
『うれしいことを言ってくれるじゃないか』
ジルベールには、セレンが顔を赤くしているのが目に浮かぶ。
「最後の仕事と行くか」
『いいか、わかっているな?』
「ハンガーに期待をつけるまでが依頼だろ」
『わかっているなら、それでいい』
さらに奥へ進んでいく。さっきまでの戦闘が嘘のような静けさだ。
「セレンさん、俺たちこの後どうなるんだ?」
『どうなるって……。最後のORCAだからな、逃亡生活になるか?』
「やっぱ、逃亡生活になるのか。うーん、それだったらさラインアークに行かない?今あそこ、戦力が欲しいだろうし」
『ラインアークか、盲点だったな。だが、受け入れてくれるか?私たちはテロリストなんだぞ』
「そーだけど……物は試しに行ってみるものてじゃない?」
『じゃあ、行ってみるか』
「そうと決まれば」
ジルベールは機体を立ち止まらせた。目の前には、巨大な発電機とそれを制御するコントロールルームがある。
『お前が今持っているメモリーカードを入れれば、ハッキングが開始され衛星掃射砲にエネルギーが回される』
「りょーかい」
ジルベールはネクストから降り、コントロールルームへ入った。入ってすぐにメモリーカードの挿入口を見つけ、入れようとするが手が震えて差し込むことができない。
『ジル……』
「すいません、セレンさん。ちゃっちゃっと入れちゃうんで」
普段だったら優しさが混じっていることが気が付くのだが、ジルベールにはそんな余裕がない。そのあともセレンは、何回もジルベールを呼ぶが同じ答えが返ってくる。
「くそぉ、なんで、なんで入れられないんだよ。頭じゃ、わかっているのに」
コントロールパネルを何度も叩いた。ジルベールの目には涙が浮かんでいる。
『ジル、今のお前の反応が普通だよ。間接的とはいえ、数千万以上の人間の命を奪うことになるのだから。逆にすんなり入れてたら、ジルと別れていたさ』
「俺は…俺は……」
『ジル、お前は強い。お前の罪は、私も一緒に背負う』
「ありがとう、セレンさん」
ジルベールは涙を拭いた。その瞳にはもう迷いがない。
『ふん、本当に世話を焼かせる奴だ。今日、何回“ありがとう”って私に言った。?』
「え、えーと……」
ジルベールは頭を掻きながら苦笑いしかできなかった。
『まあ、いい。もう覚悟は、決めたな?』
「もちろんだよ、セレンさん」
ジルベールは、メモリーカードを差し込む。偽善だとしても謝罪の気持ちを込めながら。
『よし、正常に起動しているな。ジル、お前は今のうちに戻っていろ。まさかと思うがまた来るかもしれないからな』
「りょーかい、セレンさん。あ、そうだ。俺が戻ってくるまでにラインアークに行く準備しといてね」
『自分の分は、自分でやれよ』
ジルベールの抗議の声を軽くいなし進行度を確認する。
『そんな馬鹿な。嵌められたというのか!?』
「どうしたセレンさん?」
ジルベールはいつでも動けるように構える。
『どうやら衛星軌道掃射砲にエネルギーが回りきったら、自爆するようにセットしてあったらしい』
「おい、マジかよ」
『爆発範囲をレーダーに表示した。急いで逃げろ!!』
「簡単に言ってくれるよ!!」
オーバードブースターを起動する。あっという間に音を置き去りにする。爆発から逃げ切れると確信したとき最悪のことが起きる。
「くそ!!オーバードブースターが止まりやがった」
ネクスト三機による激戦の機体へのダメージがここにきて発生したのだ。
『クイックブーストを使えば!!』
セレンの必死な声が聞こえる。
「だめだ、もう動かね。年貢の納め時か」
『何か手があるはずだ』
「いや、もう遅いよ」
爆発がすぐそこまで来ている
「さようならセレンさん。楽しかったよ」
『ジィィィルゥゥゥ』
こうして一人の少年の戦いは幕を下ろした。だが、運命の定めか神の悪戯か彼の戦いはまだ終わっていない。
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