新たなる出会い
光が収まるとそこは洞窟だった。
「なんでやねん」と南雲は思わず口に出してしまった様だった。
確かになんでやねんと言いたくなるのも分かる。地上にようやく出れると思ったら洞窟の中だったのだ、だが、魔法陣のミスとも考え難い。
「どういう事なんだろう?」
するとユエが「……秘密の通路……隠すのが普通」と推測を話した。
確かに言われてみれば納得である。あの迷宮を作ったのは地上では反逆者と呼ばれた者の一人、オスカー・オルクスであったのだ。反逆する様な人間がバレにくい洞窟内に造るのは当然と言えば当然である。
「あ、ああ、そうか。確かにな。反逆者の住処への直通の道が隠されていないわけないか」
とにかく外に出る。それを目的に歩くが幾つかトラップや封印された扉もあった。南雲が持っていたオルクスの指輪はそれらに逐一反応して解除していった。俺たちは思ったよりも楽に進む事が出来た。特に戦闘なんかも起きず進む。
「光だ……」
つい口から溢れた言葉。洞窟内に差し込む光は暗闇の中の俺たちにとってとても眩しく、懐かしい暖かさがあった。
光を見つけた瞬間、思わず立ち止まり三人がお互いに顔を見合わせた。それから互いにニッと笑みを浮かべ、同時に求めた光に向かって駆け出した。
地下の鬱屈とした空気と違い、新鮮で生きている空気が肺を満たす。
「よっしゃ、地上だ!」三人は遂に地上へ帰還を果たす。
地上の人間にとって、そこは地獄にして処刑場。断崖の下はほとんど魔法が使えず、にもかかわらず多数の強力にして凶悪な魔物が生息する。深さの平均は一・二キロメートル、幅は九百メートルから最大八キロメートル、西の[グリューエン大砂漠]から東の[ハルツィナ樹海]まで大陸を南北に分断するその大地の傷跡を、人々はこう呼ぶ。
[ライセン大峡谷]と。
彼らはこの大峡谷の谷底にある洞窟の入り口に立っていた。ここは地の底であるが、地上である事には間違いない。真上の太陽が祝福する様にさんさんと輝く。
「よっしゃぁああーー!! 戻ってきたぞ、この野郎ぉおー!」
「んっーー!!」
小柄なユエを抱きしめたまま、南雲はくるくると廻る。しばらくの間、人々が地獄と呼ぶ場所には似つかわしくない笑い声が響き渡っていた。途中、地面の出っ張りに躓つまずき転到するも、そんな失敗でさえ無性に可笑しく、二人してケラケラ、クスクスと笑い合う。
楽しそうな彼らについつられてハハハと笑みが溢れる。
勿論、凶悪な魔物の溜まり場に少しでもいればヤツラは嗅ぎつけるわけで……
「おい、そこまでにしとけよ。(羨ましいなあ)」
「本音が隠しきれてないぞ、北山」意地悪そうにそう言うが、魔物を確認しつつ、ドンナー・シュラークを抜く。
「はぁ~、全く無粋なヤツらだな。……確かここって魔法使えないんだっけ?」
ハジメは座学に励んでいた為、この大峡谷の持つ厄介な特性、即ち魔法を使用する事が出来ない事を知っていた。
「……分解される。でも力づくでいく」
魔法が使えない理由として、込めた魔力が分解されてしまうのであるが、
ユエ曰く、分解される前に大威力をもって殲滅すればよいらしい。
勿論それはユエの内包魔力がかなり多い事と、今は外付け魔力タンクである魔晶石シリーズを所持している事から為せる技である。
魔力値だけなら無駄に高いノボルも同じ様にごり押しで立ち向かうしか今の所方法は無い。
「力づくって……効率は?」
「……十倍くらい」
「あ~、じゃあ俺がやるからユエは身を守る程度にしとけ」
「うっ……でも」
「いいからいいから、適材適所。ここは魔法使いにとっちゃ鬼門だろ? 任せてくれ」
「ん……わかった」
「北山のフォローは最低限しか出来ないからな、その馬鹿魔力で雑魚を蹴散らしてくれ」
「了解でーす」
ユエが此方をジトッと見て、渋々といった感じで引き下がる。
同じ魔法タイプであるが南雲と共に戦う事に少しばかり納得がいかない様だ。
南雲はそんな様子に苦笑いを浮かべつつ、ドンナーから鉛玉を撃ち込む。
あまりにも自然な流れから鮮やかに決まった攻撃に魔物達は凍りついた。
「さて、奈落の魔物とお前達、どちらが強いのか……試させてもらおうか?」
不適な笑みを浮かべた南雲をきっかけに殲滅が始まった。
圧倒的な火力の前に死屍累々の山を築くのに五分と掛からない。
「はぁ、はぁ、南雲、お前の火力頭おかしいって……」
「これくらいどうって事ない」事も無げに言う南雲。
その傍に、トコトコとユエが寄って来た。
「……どうしたの?」
「いや、あまりにあっけなかったんでな……ライセン大峡谷の魔物といやぁ相当凶悪って話だったから、もしや別の場所かと思って」
「……ハジメが化物」
「それ、同感」俺も相槌を打つ。
「ひでぇ言い様だな。まぁ、奈落の魔物が強すぎたってことでいいか」
話題は転換し、
「さて、この絶壁、登ろうと思えば登れるだろうが……どうする? ライセン大峡谷と言えば、七大迷宮があると考えられている場所だ。せっかくだし、樹海側に向けて探索でもしながら進むか?」
「「……なぜ、樹海側?」」
「いや、峡谷抜けて、いきなり砂漠横断とか嫌だろ? 樹海側なら、町にも近そうだし。」
「……確かに」 「そうだな」
ここから動くためにハジメは中指の"宝物庫"に魔力を注ぎ込み、
"二つ"の魔力駆動二輪を取り出す。颯爽と跨り、後ろにユエが横乗りしてハジメの腰にしがみついた。
「ありがと、南雲」 「じゃあ、借り一つ」人差し指を立て、そう言う南雲、ユエはと言えば既に南雲の腰にしがみついていた。
静かに音を立て、タイヤは駆動し出した。
二人乗りに軽快に付いて行くと、南雲が現れる敵をジャカジャカ倒してくれるので快適に進められた。
魔力駆動二輪を走らせ突き出した崖を回り込むと、その向こう側に大型の魔物が現れた。かつて見たティラノモドキに似ているが頭が二つある。双頭のティラノサウルスモドキだ。
だが、真に注目すべきは双頭ティラノではなく、その足元をぴょんぴょんと跳ね回りながら半泣きで逃げ惑うウサミミを生やした少女だろう。
俺たちは魔力駆動二輪を止めてうろんな眼差しで今にも喰われそうなウサミミ少女を見やる。
「……何だあれ?」
「……兎人族?」
「……」
「なんでこんなとこに? 兎人族って谷底が住処なのか?」
「……聞いたことない」
「じゃあ、あれか? 犯罪者として落とされたとか? 処刑の方法としてあったよな?」
「……悪ウサギ?」
「……ウサミミ」
ハジメとユエは首を傾げながら、逃げ惑うウサミミ少女を尻目に呑気にお喋りに興じる。助けるという発想はないらしい。別に、ライセン大峡谷が処刑方法の一つとして使用されていることからウサミミ少女が犯罪者であることを考慮したわけではない。赤の他人である以上、単純に面倒だし興味がなかっただけである。
だが、そうは問屋が卸しても俺は卸さない。一応、南雲には言っておく、「南雲、ケモミミは日本の誇るべき文化と俺は思うんだ」
「「は?」」
二人の何を言ってるんだコイツという視線を受ける前にずっと持っていたアーティファクトに無理やり大量の魔力を捻じ込んで双頭ティラノの口に思いっきり投げる。
綺麗な放物線を描き、口にするりと入ったアーティファクトをゴクンとティラノモドキは飲み込んでしまった。
一瞬止まったティラノモドキにウサミミ少女は驚くが、南雲とユエも突然の奇行に同じくらい驚いていた。
ずっと考えていた。俺は魔力だけで特にそれ以外が凄いわけでもない。高くてもユエの様な魔法の扱い方は出来ない。南雲の様に何か作ったり、銃を上手く扱えるわけでもない。俺にあるのはアーティファクト。なら、この球のまだ隠されている性能を引き出そう。
迷宮での日常はそれに費やされた。研究により生まれた新たな攻撃手段。
「膨張しろ」
俺がそう命令すると、アーティファクトは膨張を開始する。
研究結果の一つとして、形を変化させられるこのアーティファクトは魔力を吸わせる事で体積を増やせる事が分かった。この場では分解されるとは言え、文字通り膨大な魔力を詰め込んでいたアーティファクトに無理やり魔力を捻じ込んでやる事により、双頭ティラノを破裂させれるくらいには膨張出来る。
最初は何か詰まった様な表情をしていたティラノモドキ。だんだんと苦しくなっていくが内部からの圧迫に耐える事は出来ない。
ベチッ、ミチッと鳴る。ウゴゴ、ギャオオオオオと悲鳴を上げるがもう遅い。
膨張したアーティファクトによってブクブクと膨れていた双頭ティラノはパン!と弾けた。
咄嗟にユエに掛かりそうな血から南雲が庇う。
「よーし、成功したか!」
うきうきと近づいてアーティファクトを拾うと共に、近くにいる血塗れになったウサミミ少女に話しかける。
「おーい、大丈夫?ごめんね、血塗れにしちゃってさ、悪いと思ってるんだけど……あれ?」よく見るとウサミミ少女は白目を向いている。気絶してしまったらしい。担いで南雲達の所に戻る。
「これ、持ってくけどいいか?」
「自分でなんとかしろよ、俺は知らん」
「……女の子の扱い方雑」
未定だが、俺たちのパーティにウサミミ少女?が入った。
かんたん神話キャラ紹介
オルクス
古代エトルリア人に信仰されていたローマ神話に登場する死の神。
墳墓や壁画に巨大な姿でよく描かれている。