久々に書きました。
「う、うーん……ここは……どこ?」
どうやら少女は起きたらしい。
「こんにちは、君が気絶していたからここら辺まで連れてきたんだ」
「きゃぁああああー!」
彼女は叫ぶと一気に後ろに下がった。気が動転しているのだろう。
「あっ、あ、あの、ダイヘドアは、どうなったんですか?」
おそらくあの恐竜モドキのことだろう。
「倒しておいたよ。何かまずかった?」
「あ、ありがとうございます」
「あのさ、君の名前教えてくれない?君呼びだけじゃ不便だし」
彼女は落ち着いて自分の名前を語った。
「し、シア・ハウリアです」
「シシア?」 「シアです!!」頭はどうやら大丈夫そう。
初めて見るウサギの亜人に緊張していたが、意外にも話は通じるらしかった。
南雲たちがやって来た。
「お前もやらかしてくれたな」
「きゃっ、だ、誰?」
「おい、南雲驚かすんじゃねえ」
「……ハジメ?」
軽く自己紹介した後、
「南雲、ユエ、シアからのお願いがあるらしいんだが」
「何?」「……?」
「私の家族を助けて下さい!」
静まり、緊張感の漂う空気。南雲の答えはー
「イヤだ」
それでもと必死に懇願をする。相当強くユエに蹴りを食らっていて、正直痛々しい。頬に靴をめり込ませながらも離す気配がない。
「なんで面倒事を持ってくるんだ……?」
頭をかきながらそう言う南雲。俺は彼女が邪魔な事を十分に理解はしているのだが、それでも目の前の彼女を放っておくのは気が進まない。
あまりにもしつこい様子に、南雲はバチバチバチと〝纏雷〟を浴びせ る。
「アババババババババババアバババ!?」
電撃で体がガタガタ震え、ビクビクと痙攣している。
「北山、お前どうする?」
「……助けたからには責任を持つべきだよなって言ってもなあ」
「ほっとけばいいさ、一度助けたからってその後の面倒を見る筋合いなんて無い」
「まあ、この世界的に考えるしかないな」
「ユエ、行くぞ?」
「ん……」
「……」
少しの心の引っ掛かりを残しつつ、その場を後にしようとすると……
「に、にがじませんよ~」
思わず南雲は足元を見る。するとウサミミ女が幽鬼のごとく足に強くしがみ付く。
「お、お前、ゾンビみたいな奴だな。それなりの威力出したんだが……何で動けるんだよ? つーか、ちょっと怖ぇんだけど……」
「……不気味」
「……」
「うぅ~何ですか! その物言いは! さっきから、肘鉄とか足蹴とか、ちょっと酷すぎると思います! 断固抗議しますよ! あと、そこのあなた!仲間を説得してくださいよ! さっきのは説得する流れでしょうが!! お詫びに全員私の家族を助けて下さい!」
あまりのしぶとさに三人は「「「マジでこいつどうしよう」」」
と考えが一致していた。
俺に恨みがましい視線を向けた後、執念深さに根負けした南雲は
「ったく、何なんだよ。取り敢えず話聞いてやるから離せ。ってさり気なく俺の外套で顔を拭くな!」
話を聞いてやると言われ、花のような笑顔を浮かべたシアは、これまたさり気なく南雲の外套で汚れた顔を綺麗に拭った。
何気にちゃっかりしている。イラッと来た南雲が再び肘鉄を食らわせると「はぎゅん!」と奇怪な悲鳴を上げ蹲った。
非常にぐだぐだとした会話が続く。胸部の話でユエの静かなる怒りがシアに降り注いだりと、何気にとんでもない事が起きているが、ぐだぐだにひと段落着くと、ようやく本題に入れると居住まいを正すシア。バイクの座席に腰掛ける俺達の前で座り込む。
「改めまして、私は兎人族ハウリアの長の娘シア・ハウリアと言います。実は……」
真面目な表情で話したのはわりと深刻な内容。
ハルツィナ樹海でハウリア族は暮らしてた
↓
シアは亜人族にない魔力持ち
↓
バレたらまずいから隠そう!
↓
バレたから逃げよ
↓
帝国に見つかっちゃったよ……
↓
この大峡谷まで命からがら逃げてきたよ
という感じだ。そもそもシアを見捨てれば良い話なのだが、ハウリア族は情が深く、そんな事を考えもしなかったそう。
人間に捕まればまずシアの命なんて無い。亜人族はそもそも人間族や魔人族から差別を受けており、奴隷にされたり酷い扱いを受ける事もざらではないという。シアは魔力を操る事が出来る。そんな魔物そのものでしか無い能力なんて魔物を忌み嫌っている人間からすれば不倶戴天の敵であるとしか言いようがない。
勿論それは帝国も例外では無い。帝国に見つかってからは男達が女子供を逃がそうとする。温厚であるハウリア族はそもそもの攻撃力が高くなく、帝国兵とは比べる事が出来ないほど弱い。数を減らしながらなんとか大峡谷に逃げてきた彼ら。魔力が霧散するこの場では流石に追ってこず、すぐに帝国兵も帰るだろう。
そう考えたのが甘かった。
帝国兵はいつまでも入り口に居座った。峡谷から出ることが叶わないが、泣きっ面に蜂と言わんばかりに魔物は襲い来る。こればかりはどうしようも無い。死ぬのは御免だと帝国に投降しようとするも、魔物は獲物が逃げる事を決して許さない。結果としてより奥へ奥へとハウリア族は逃げなければならなかったという訳。
「……気がつけば、六十人はいた家族も、今は四十人程しかいません。このままでは全滅です。どうか助けて下さい!」
最初の残念な感じとは打って変わって悲痛な表情で懇願するシア。
助けてあげたくなる心からの懇願。でもまあ助ける意味もないし、何もなしに助けてやるほど聖人ではない。帝国とやらに喧嘩を売ったとしても良いことなんて一つもないし、本当にどうしようも無い。
案の定、南雲の答えは……
「断る」
静粛な空間にはやけに響いた。
「ちょ、ちょ、ちょっと! 何故です! 今の流れはどう考えても『何て可哀想なんだ! 安心しろ!! 俺が何とかしてやる!』とか言って爽やかに微笑むところですよ! 流石の私もコロっといっちゃうところですよ! 何、いきなり美少女との出会いをフイにしているのですか! って、あっ、無視して行こうとしないで下さい! 逃しませんよぉ!」
南雲が魔力駆動二輪に跨ろうとすると物凄い勢いで抗議の声を上げる。
「あーめんどくせぇな、おい、北山なんとかしろ」
とんでもない無茶ぶりだ。
「別ルートに分かれるか?」
そう提案すると
「いいぜ、俺は構わん、ユエもそれで良いか?」
「……私はハジメと一緒」
「決まりだな」
「って、ちょっと待った!この人なんか頼りなさそうだし、人数多い方が問題解決しやすくなるでしょうがぁ!!」
さりげなく俺をディスり、わんわん喚くシア。
南雲はため息をつき、ジロリと睨む。
「あのなぁ~、お前等助けて、俺に何のメリットがあるんだよ」
「メ、メリット?」
「帝国から追われているわ、樹海から追放されているわ、お前さんは厄介のタネだわ、デメリットしかねぇじゃねぇか。仮に峡谷から脱出出来たとして、その後どうすんだよ? また帝国に捕まるのが関の山だろうが。で、それ避けたきゃ、また俺を頼るんだろ? 今度は、帝国兵から守りながら北の山脈地帯まで連れて行けってな」
「うっ、そ、それは……で、でも!」
「俺達にだって旅の目的はあるんだ。そんな厄介なもん抱えていられないんだよ」
「そんな……でも、守ってくれるって見えましたのに!」
「……さっきも言ってたな、それ。どういう意味だ? ……お前の固有魔法と関係あるのか?」
さっきから一部に意味不明な言動があった彼女。南雲は諸々の疑問に対して尋ねた。
「え? あ、はい。〝未来視〟といいまして、仮定した未来が見えます。もしこれを選択したら、その先どうなるか? みたいな……あと、危険が迫っているときは勝手に見えたりします。まぁ、見えた未来が絶対というわけではないですけど……そ、そうです。私、役に立ちますよ! 〝未来視〟があれば危険とかも分かりやすいですし! 少し前に見たんです! 貴方が私達を助けてくれている姿が! 何故か今回だけそちらの方に助けられたのですけど、まあ、気にすることではないですしね!」
未来視は便利ではあるが自らの危機などで自動的に発動することもあり、任意で発動する程では無いにしろ、多量の魔力を消費するそうだ。
「そんなすごい固有魔法持ってて、何でバレたんだよ。危険を察知できるならフェアベルゲンの連中にもバレなかったんじゃないか?」
当然の指摘に「うっ」と唸った後、シアは目を泳がせてポツリと零した。
「じ、自分で使った場合はしばらく使えなくて……」
「バレた時、既に使った後だったと……何に使ったんだよ?」
「ちょ~とですね、友人の恋路が気になりまして……」
「ただの出歯亀じゃねぇか! 貴重な魔法何に使ってんだよ」
「うぅ~猛省しておりますぅ~」
「やっぱ、ダメだな。何がダメって、お前がダメだわ。この残念ウサギが」
呆れたようにそっぽを向く南雲にシアが泣きながら縋り付く。
「……ハジメ、ノボル、連れて行こう」
「ユエ?」 「自分で言うのもなんだが正気か?」
「!? 最初から貴女のこといい人だと思ってました! ペッタンコって言ってゴメンなッあふんっ!」
ユエの言葉に南雲は訝しそうに、シアは興奮して目をキラキラして調子のいい事を言う。次いでに余計な事も言い、ユエにビンタを食らって頬を抑えながら崩れ落ちた。
「……樹海の案内に丁度いい」
「「あ~」」
ハジメも納得したようであるがしばらく思案していると、
「……大丈夫、私達は最強」
南雲の決心も固まったようで、
「そうだな。おい、喜べ残念ウサギ。お前達を樹海の案内に雇わせてもらう。報酬はお前等の命だ」
地獄の底で悪魔の囁きに無垢な少女は染められる。
推理小説系をありふれでやるみたいなネタ思いついたんですけど、完全にドラマにハマった影響だこれ。