とーこーです。
(ええええぇー何かとんでもなく物騒なこと言ってるよこの人……)
想像を越えていた、まさか命を要求するなんて思いもしなかった。地球にいた時の南雲ハジメからは到底考えられないだろう。
「あ、ありがとうございます! うぅ~、よがっだよぉ~、ほんどによがったよぉ~」
俺の心中とはうって変わってシアは安堵の表情を浮かべ、嬉し泣きをしている。
「ほれ、取り敢えず残念ウサギも後ろに乗れ」
「あの……後ろってどっちに……?」
「んータンデムシートも無いし、北山の後ろにでも乗れ」
くいっとこっちに視線を向けられる。人を後ろに乗せるのは不安があるが、なにより一応ウサミミ美少女であるシアを後ろに乗せるなんて心臓が何個あっても足りない。
「うぇ! ヤダよ〜」
抗議の声を上げる。
「面倒だからさっさと後ろに乗せろ」
ヒエッ、南雲のこれ以上面倒を増やすなと、刺すような視線が俺に刺さる。
「……はあ、はいはい、わかりましたよー、乗せりゃいいんでしょ、乗せりゃ」
「私の扱い酷くないですかぁ〜」
無論、黙殺。
「ほら、乗れ」
シアは目の前の魔力二輪に困惑しているようであるが、恐る恐る後ろに乗る。
「振り落とされんようにしっかり掴まれよ」
そう言うとシアは俺にグッとしがみつく。同時にムギュッと柔らかい物が背中に押しつけられる。
「ふっ!」
思わず声が出てしまう。
「どうしたんですか?」
何も知らない彼女に「貴方の胸が押し付けられて興奮しました。」なんてバカ正直に言えない。ああ、最低だ、俺。
何も知らない彼女と違い、南雲とユエはナニかを察したらしく、ははーんと少しニヤけた面になっている。
あーあー何も聞こえないし見えてなーい
「おい、南雲さっさと行け、行かんかい!!」
「あ、あの。助けてもらうのに必死で、つい流してしまったのですが……この乗り物? 何なのでしょう? それに、ノボルさん魔法を使ってましたよね? ここでは使えないは」
グオングオンと唸りを上げたエンジン、魔力二輪は悪路を爆走し始めた。
「きゃぁああ~!」と悲鳴が流れるように響いたのは言うまでもない。
悲鳴が上がる度に背中に生まれる心地良い触感は罪悪感と高揚感を生み出した。
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谷底では有り得ない速度に目を瞑ってギュッと俺ににしがみついていたシアも、しばらくして慣れてきたのか、次第に興奮して来たようだ。俺がカーブを曲がったり、大きめの岩を避けたりする度にきゃっきゃっと騒いでいる。正直鬱陶しい。
「そういや、質問に答えてなかったな」
ふと思い出したが、シアも「あ〜そういえばそうでしたね、教えていただけないでしょうか?」
俺は、道中、魔力二輪の事や魔法を俺以外のハジメやユエも使えると言う事とその理由、おまけに南雲の武器はアーティファクトみたいでその形はカッコいいものだと簡潔に説明した。すると、シアは目を見開いて驚愕を表にした。
「え、それじゃあ、お三方は魔力を直接操れたり、固有魔法が使えると……」
「まあ、そうなる」
あっけらかんと言うとシアは口をポカンと空けている。
「口乾くぞ」
そう言ってもしばらく呆然としていたシアだったが、突然、何かを堪える様に俺の肩に顔を埋めた。そして、何故か泣きべそをかき始めた。
「げ、何かやっちゃった?どうしよ、えっと、大丈夫か?頭」
「……!! 私は至って正常です! ……ただ、一人じゃなかったんだなっと思ったら……何だか嬉しくなってしまって……」
俺の思い過ごしだったみたいだ。後、みっともない所を見せてしまって恥ずかしい……
暫くの無言が続いた後、
「なんていうか、慰めではないけど、良かったな」
彼女はこれまで同じような仲間が居なくて孤独だったのだ。いくら同じハウリア族といえど、真に彼女を理解する者が居たのかと言われると居なかったのだ。姿形は全く同じでも全く違う。家族はなんとも思っていなくても、精神的孤独を抱えることも無理はない。愛情深いハウリア族であるからこそ感じるものもあろう。彼女がやたらと明るい性格なのも心の内の疎外感を覆い隠してしまうためだと考えれば不思議なことではない。
「へぇ〜 私の事ぞんざいに扱ってたのに少し意外ですね! もしかして、私に惚れちゃいましたかぁ? まあ、美少女だから仕方ないですけどねえ!!」
ふん!とドヤ顔が後ろにあるのがよく分かる。
「はいはい、美少女、美少女でござんすよ」
「なっ! 適当すぎます! もっと心、心を込めてくださいよ!!」
やいやいと騒がしいがとても賑やかな事は間違いない、向かい風でさえ心地よく感じた。
「! ノボルさん! もう直ぐ皆がいる場所です! あの魔物の声……ち、近いです! 父様達がいる場所に近いです!」
「あ~、耳元で怒鳴るな!」目的地に近いそうなので
「おい! 南雲! もうそろそろ着くから速度上げてくぞ!」
「ああ! 分かったよ!」
更にエンジンは回転数を加速的に増加させる。
そうして走ること二分。少しぶつかりそうになって偶然であるがドリフトしながら最後の大岩を迂回した先には、今まさに襲われようとしている数十人の兎人族達がいた。
ハウリア族が岩陰に逃げ込み必死に体を縮めている。あちこちの岩陰から特徴的な長い耳だけがちょこんと見えており、数からすると二十人ちょっと。見えない部分も合わせれば四十人といったところか。
そんな怯える兎人族を上空から睥睨しているのは、迷宮でも滅多に見なかった飛行型の魔物だ。姿は俗に言う「ドラゴンか?」「いや、ワイバーンのほうが姿形から言って近い」
体長は三~五メートル程で、鋭い爪と牙、先端は刺々しいボールの様な物がついている尻尾を持っている。尻尾に当たればただでは済まないだろう。
「ハ、ハイベリア……」
どうやらあの竜はそんな名前らしい。ハイべリアは六匹がハウリア族の頭上をグルグルと旋回している、まるで獲物の品定めをするようにだ。
ハイベリアは突然動いた。岩の間で怯えている獲物に向かって急降下し、グルンと回転して岩に先端を叩きつける。
岩は木っ端微塵となり、わらわらと逃げる獲物。
ハイベリアは「待ってました」と言わんばかりに、その顎門を開き獲物を喰らおうとする。狙われたのは二人の兎人族。ハイベリアの一撃で腰が抜けたのか動けない小さな子供に男性の兎人族が覆いかぶさって庇おうとしている。
もうダメだ。
周りの兎人族も、その二人も絶望した。誰もが次の瞬間には二人の家族が無残にもハイベリアの餌になるところを想像しただろう。しかし、それは決して有り得ない。
なぜなら、ここには彼等を守ると契約した、奈落の底より這い出た化物がいるのだから……
ドパンッ!! ドパンッ!!
似つかわしくない銃声が二発。
正確な射撃はハイベリアの眉間に一発命中して頭部を爆散させ、その巨体は崩れ落ちる。
何が何なのか理解が叶わないハウリア族とハイベリア。
それと同時に、後方で凄まじい咆哮が響いた。呆然とする暇もなく、そちらに視線を転じる兎人族が見たものは、片方の腕が千切れて大量の血を吹き出しながらのたうち回るハイベリアの姿。
どうなっているんだと、家族が一先ず助かったことよりも別の何かへの恐怖が押し寄せる。
発砲音が何回が鳴った後、そこに動いているハイベリアは一匹も居なかった。
上空のハイベリア達が仲間の死に激怒したのか一斉に咆哮を上げる。それに身を竦ませる兎人族達の優秀な耳に、今まで一度も聞いたことのない異音が聞こえた。キィィイイイという甲高い蒸気が噴出するような音だ。なんなんだ、もう勘弁してくれと音の聞こえる方へ視線を向けた兎人族達の目に飛び込んできたのは、見たこともない黒い乗り物に乗って、高速でこちらに向かてってくる四人の人影。
見覚えある人影、行方不明になって朝方からずっと危険を顧みずに探していた家族。私達の大切な、大切な家族。ハウリア族にわかに希望が湧いてきた。
「みんな~、助けを呼んできましたよぉ~!」
まさしくこれを奇跡と呼ぶのだろう。
「「「「「「「「「「シア!?」」」」」」」」」」
俺はというと魔力二輪を高速で走らせながらなんとも言えない表情をしていた。仲間の無事を確認した直後、シアは喜びのあまりブンブンと手を振りだした。それ自体は別にいいのだが、高速で走る二輪から転落しないように、シアは全体重を俺に預け、小刻みに飛び跳ねる度に重量級の凶器が背中をかき乱すのだ。
「おい、じっとしてろって!」
そう呼びかけるも嬉しさで完全に此方を忘れている。
なんだかんだ南雲のおかげで全てのハイベリアを退治することができたが、ハウリア族は畏れのこもった表情を絶賛此方に向けている。
この世界の一般基準的にハイベリアはかなり強い魔物みたいでそれをあっさりと鏖殺してしまったのだからそれも仕方のない事と言えばそれだけなのだが。
とにかく、ハウリア族はまた別の緊張の真っ只中である。
しかし、恐れながらもわらわらと近づいてきた。
「シア! 無事だったのか!」
「父様!」
感動の再開だ。涙をお互いがボロボロと流し、ぐっと抱き合っている。周りのハウリア族も皆が涙している。
一旦区切りをつけて話をするシアとその父。
暫くして
「ハジメ殿で宜しいか? 私は、カム。シアの父にしてハウリアの族長をしております。この度はシアのみならず我が一族の窮地をお助け頂き、何とお礼を言えばいいか。しかも、脱出まで助力くださるとか……父として、族長として深く感謝致します」
そう言って、カムと名乗ったハウリア族の族長は深々と頭を下げた。後ろには同じように頭を下げるハウリア族一同がいる。
「まぁ、礼は受け取っておく。だが、樹海の案内と引き換えなんだ。それは忘れるなよ? それより、随分あっさり信用するんだな。亜人は人間族にはいい感情を持っていないだろうに……」
被差別種族である亜人族であるが、何故か人間への嫌悪感がないのが不自然だ。そう南雲や俺は疑問を抱くが、
カムは、それに苦笑いで返した。
「シアが信頼する相手です。ならば我らも信頼しなくてどうします。我らは家族なのですから……」
情に深いと言えどこんなにもか!と驚かせられる。南雲もどうやら同じ印象を受けているみたいだ。
「えへへ、大丈夫ですよ、父様。ハジメさんは、女の子に対して容赦ないし、対価がないと動かないし、人を平気で囮にするような酷い人ですけど、約束を利用したり、希望を踏み躙る様な外道じゃないです! ちゃんと私達を守ってくれますよ!」
「はっはっは、そうかそうか。つまり照れ屋な人なんだな。それなら安心だ」
(いやいや、照れ屋にならんでしょうがそこは!)
本当はハウリア族は優しいのもあるが、図太いのでは?北山登は訝しんだ。
シアとカムの言葉に周りの兎人族達も「なるほど、照れ屋なのか」と生暖かい眼差しでハジメを見ながら、うんうんと頷いている。
やっぱり変わり者なのだ、ハウリア族は。そう結論付けている一方、南雲は額に青筋を浮かべドンナーを抜きかける。
だが、意外なところから追撃がかかる。
「……ん、ハジメは(ベッドの上では)照れ屋」
「ユエ!?」
あっ、と何かを察せられた。あの時の仕返しでニヤニヤと見ていると
強めにガッと蹴られた。
「痛え!」
「うるさい、さっさと魔物が来る前に行くぞ!」
ハウリア族+南雲パーティは峡谷出口へと歩を進めるのだった。
ウサギってあんまり見た事ないですけど、一回だけ牧場みたいな所でケージ越しだけど茶色いウサギがいまして、こんなもんかって、そこまで可愛さみたいなものを感じはしなかった思い出。
よくイメージにある白いウサギはオランダとかのウサギで日本の野ウサギは茶色毛なんだそう。