ありふれている一般人   作:凧の糸

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筆がのったので投稿。


うぇるかむ

 

 

 ぞろぞろと一行はひたすらに歩き続ける。途中で魔物が出たとしても彼らが驚きはすれ、怯えるなんて事はかけらも無かった。

 

 魔物は近づいた瞬間に一瞬、閃光が走ったかと思うと例外なく頭部を完全に破壊され、また別の魔物は串刺しにされて苦悶の表情のままに絶命している。

 

 

 大人たちは余りの力の大きさに唖然とし、特に見たことのない武器で魔物を尽く倒す南雲に畏敬の念を抱いているように見えた。

 

 小さな子供達はそのつぶらな瞳をキラキラさせて圧倒的な力を振るうハジメをヒーローだとでも言うように見つめている。

 

 一方、俺はと言えば地味でグロテスクな上に珍しさを感じることのない武器であるためにこそこそと「あの人は大丈夫なのか?」「シアの恩人の仲間といえ、信用して良いのか?」と耳に入ってくる。

 

 

 

「ふふふ、ハジメさん。チビッコ達が見つめていますよ~手でも振ってあげたらどうですか?」

 

 シアがちょっかいをかけながらそう言うと、子供達の眼差しに居心地が悪くなっている南雲はドンナーの射撃で返答した。

 

 

 ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ!

 

「あわわわわわわっ!!」と不格好なタップダンスを披露すると父のカムは

「はっはっは、シアは随分とハジメ殿を気に入ったのだな。そんなに懐いて……シアももうそんな年頃か。父様は少し寂しいよ。だが、ハジメ殿なら安心か……」

 

 周りのハウリア族たちも同じ様な生暖かい視線を向けている。

 

「いや、お前等。この状況見て出てくる感想がそれか?」

「……ズレてる」

 

 

 しばらく進むとようやく脱出可能な地点までやってきた。南雲はなにやらスキルを使っている様で、俺も何か見えないかとぐっと目を凝らすとぼんやりとだが見える。崖に沿って階段が作られているようだ。

 

 

「帝国兵はまだいるでしょうか?」不安げにシアが言うと、

 

「ん? どうだろうな。もう全滅したと諦めて帰ってる可能性も高いが……」

「そ、その、もし、まだ帝国兵がいたら……ハジメさん……どうするのですか?」

「? どうするって何が?」

 

南雲とシアの間で少し食い違いがあるようだ。

 

首を傾げている南雲にシアは意を決して、

 

「今まで倒した魔物と違って、相手は帝国兵……人間族です。ハジメさんと同じ。……敵対できますか?」

「残念ウサギ、お前、未来が見えていたんじゃないのか?」

「はい、見ました。帝国兵と相対するハジメさんを……」

「だったら……何が疑問なんだ?」

「疑問というより確認です。帝国兵から私達を守るということは、人間族と敵対することと言っても過言じゃありません。同族と敵対しても本当にいいのかと……」

 

 周りのハウリア族も耳を立てて、事の成り行きを見守っている。彼らにとって種族とは俺たちが思っているよりも大きく、大切なモノなのだろうと容易にわかる。

 

「それがどうかしたのか?」

「えっ?」

 

 やっぱり。

 

 奈落の底から出てきた怪物はその程度で判断を鈍らせはしない。

 

「だから、人間族と敵対することが何か問題なのかって言ってるんだ」

「そ、それは、だって同族じゃないですか……」

「お前らだって、同族に追い出されてるじゃねぇか」

「それは、まぁ、そうなんですが……」

「大体、根本が間違っている」

「根本?」

 

 さらに首を捻るシア。周りの兎人族も疑問顔だ。

 

「いいか? 俺は、お前等が樹海探索に便利だから雇った。んで、それまで死なれちゃ困るから守っているだけ。断じて、お前等に同情してとか、義侠心に駆られて助けているわけじゃない。まして、今後ずっと守ってやるつもりなんて毛頭ない。忘れたわけじゃないだろう?」

「うっ、はい……覚えてます……」

「だから、樹海案内の仕事が終わるまでは守る。自分のためにな。それを邪魔するヤツは魔物だろうが人間族だろうが関係ない。道を阻むものは敵、敵は殺す。それだけのことだ」

「な、なるほど……」

 

 一応の納得はしながらも、自分たちは出会った事のない考えに少し引いているが、どのみち彼らも南雲の考えに染まっていくのだろう。

 

「はっはっは、分かりやすくていいですな。樹海の案内はお任せくだされ」

 

 カムが快活そうに笑う。流石長なだけあり、そこら辺はよく心得ているのだろう。

 

兎人族特有の身体能力の高さでサクサクと階段を登ると……

 

「おいおい、マジかよ。生き残ってやがったのか。隊長の命令だから仕方なく残ってただけなんだがなぁ~こりゃあ、いい土産ができそうだ」

 

 あれが帝国兵か。カーキ色の軍服らしき服を着ていて、内容から察するに、念のためにと残っていたようだが、隊長は居ないようだ。

 

 彼らは突然の集団におっ!と驚くもそこそこな数の兎人族にニタニタと悪い笑みが浮かんでいる。

 

「小隊長! 白髪の兎人もいますよ! 隊長が欲しがってましたよね?」

「おお、ますます幸運だな。年寄りは別にいいが、あれは絶対殺すなよ?」

「小隊長ぉ~、女も結構いますし、ちょっとくらい味見してもいいっすよねぇ? こちとら、何もないとこで三日も待たされたんだ。役得の一つや二つ大目に見てくださいよぉ~」

「ったく。全部はやめとけ。二、三人なら好きにしろ」

「ひゃっほ~、流石、小隊長! 話がわかる!」

 

 帝国兵は正に棚からぼた餅と、駐屯させられていた不満が吹っ飛ぶかのようにやる気に満ちている。

 

 完全に食い物としか見られていない兎人族はぶるぶると震えている。

ガヤガヤとした帝国兵の中で"小隊長"と呼ばれた人物は先頭にいる異物、南雲ハジメに気が付いたみたいだ。

 

「あぁ? お前誰だ? 兎人族……じゃあねぇよな?」

「まあ、もし兎人族だったら全然可愛げがねーけどな」と思いつつ、様子を伺う。

 

「ああ、人間だ」

 交渉を試みた南雲。

 

 しかし、「はぁ~? なんで人間が兎人族と一緒にいるんだ? しかも峡谷から。あぁ、もしかして奴隷商か? 情報掴んで追っかけたとか? そいつぁまた商売魂がたくましいねぇ。まぁ、いいや。そいつら皆、国で引き取るから置いていけ」

 

 どうやら奴隷商と勘違いしているらしい。身なりの違いを見ればそう思われても仕方ないが、むしろ、奴隷商だった方が彼らにとってまだ幸運だっただろう。

 

 怪物にさも当たり前のように命令するが、言うことを聞く訳がない。

 

「断る」

「……今、何て言った?」

「断ると言ったんだ。こいつらは今は俺のもの。あんたらには一人として渡すつもりはない。諦めてさっさと国に帰ることをオススメする」

 

 聞き間違いかと問い返し、返って来たのは不遜な物言い。小隊長の額にピキリと浮かぶ。

 

「……小僧、口の利き方には気をつけろ。俺達が誰かわからないほど頭が悪いのか?」

「十全に理解している。あんたらに頭が悪いとは誰も言われたくないだろうな」

 

 相手側はかなりカンカンのようだ。帝国兵たちはすっと意識を切り替える。

 

 だが、南雲の後ろのユエに気がついたようで、「あぁ~なるほど、よぉ~くわかった。てめぇが唯の世間知らず糞ガキだってことがな。ちょいと世の中の厳しさってヤツを教えてやる。くっくっく、そっちの嬢ちゃんえらい別嬪じゃねぇか。てめぇの四肢を切り落とした後、目の前で犯して、奴隷商に売っぱらってやるよ」

 

 あーあ、やってしまった。恐らく今その言葉は南雲ハジメと言う人間を一番怒らせる事の出来る言葉だ。言わなければ、運が良くて瀕死くらい?いや、彼が一人も見逃すはずが無い。

 

 そんな哀れみの想いを抱いていると

「つまり敵ってことでいいよな?」

 最後通告が飛んだ。

「あぁ!? まだ状況が理解できてねぇのか! てめぇは、震えながら許しをこッ!?」

 

 一発の銃声。

 

 小隊長は死んだ。

 

 見たこともない武器を構えた青年と小隊長が突然死んだ事に当然理解が及ぶはずがない。

 

 その後はただの作業に近かった。引き金を引いて撃つ。

 

 訓練された兵士であるので、訳のわからないままに剣や杖を構えるが次々と頭部は爆散している。

 

 手榴弾をも使い、効率よく人間を挽肉に変えていく。

 

 

「うん、やっぱり、人間相手だったら〝纏雷〟はいらないな。通常弾と炸薬だけで十分だ。燃焼石ってホント便利だわ」

 

 地獄のような光景に飄々とした顔でえげつない発言が聞こえ、顔を青くした兵士は次の瞬間に死体になった。

 

「ひぃ、く、来るなぁ! い、嫌だ。し、死にたくない。だ、誰か! 助けてくれ!」

 命乞いをする兵士はもうどうにかなっていた。恐怖のあまり涙がボロボロと流れ、涎を散らかし、失禁もしている。

 

 ドパンッと銃声。

「ひぃ!」

 

 兵士が身を竦めるが、その体に衝撃はない。ハジメが撃ったのは、手榴弾で重傷を負っていた背後の兵士達だからだ。それに気が付いたのか、生き残りの兵士が恐る恐る背後を振り返り、今度こそ隊が全滅したことを眼前の惨状を持って悟った。

 

 振り返ったまま硬直している兵士の頭にゴリッと銃口が押し当てられる。再び、ビクッと体を震わせた兵士は、醜く歪んだ顔で再び命乞いを始めた。

 

「た、頼む! 殺さないでくれ! な、何でもするから! 頼む!」

「そうか? なら、他の兎人族がどうなったか教えてもらおうか。結構な数が居たはずなんだが……全部、帝国に移送済みか?」

 

 

「……は、話せば殺さないか?」

「お前、自分が条件を付けられる立場にあると思ってんのか? 別に、どうしても欲しい情報じゃあないんだ。今すぐ逝くか?」

「ま、待ってくれ! 話す! 話すから! ……多分、全部移送済みだと思う。人数は絞ったから……」

 南雲はチラッと兎人族の表情を見ると、悲痛な顔。

 

「待て! 待ってくれ! 他にも何でも話すから! 帝国のでも何でも! だから!」

 

 彼の殺意に気がついたようだが、銃声の後にはもう二度と言葉を発さなかった。

 

 

 

 

 

「あ、あのさっきの人は見逃してあげても良かったのでは……」

 ハウリア族の目には恐怖。そこまでしなくても、とシアが言うが南雲の視線に「うっ」と言葉を詰まらせる。

 

「……一度、剣を抜いた者が、結果、相手の方が強かったからと言って見逃してもらおうなんて都合が良すぎ」

「そ、それは……」

「……そもそも、守られているだけのあなた達がそんな目をハジメに向けるのはお門違い」

「……」

「まあまあ、見慣れない光景に戸惑ってるだけだから許してやりなよ」

 フォローを入れるが、ユエからはキッと視線が飛んだ。

 

 南雲に向ける負の感情を許さないといった感じだが、輪にかけて温厚な種族なのだから仕方がない。これから慣れればいいのだから問題はないのだ、誰だって初めては恐ろしいものだろう?

 

 

「ふむ、ハジメ殿、申し訳ない。別に、貴方に含むところがあるわけではないのだ。ただ、こういう争いに我らは慣れておらんのでな……少々、驚いただけなのだ」

「ハジメさん、すみません」

 

 シアとカムが代表して謝罪するが、ハジメは気にしてないという様に手をヒラヒラと振るだけだった。

 

 

 南雲はそのまま、〝宝物庫〟から出した魔力二輪と残された馬車とを連結させ、樹海へと行く準備を黙々とする。

 

 ユエが死体を風で吹き飛ばし、谷底へとあっという間に落ちていった。

 

 

 

 

 真っ赤な跡だけが、ただそれだけが残った。

 

 

 

 

 

 

 





最近、久々にミルクココアを飲んだんです。中々にそれが美味しくて、確か森永のだったか粉を目分量で入れて、お湯と牛乳とを入れて飲むんですよ。その時は豆乳があったもんで牛乳の代わりにとくとく入れて飲んだんですよ。それがまろやかで牛乳とは違った味わいになってて美味しかった。飲み終わったら、底に少しだけココアがダマになってたんですけどね。

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