光が満ちて暫くして、ようやく眩しくなくなったと思ったらそこは学校ではなかった。
周りも何が起こっているのか分からないが、目の前にはとても大きな壁画。流れる金髪は黄金で出来た糸の様で、アルカイックスマイルを浮かべた美しい中性的な人物が描かれている。後光が刺していて神様なのだろうか。
思わず美しさに目を奪われるがそんなことを気にしている場合ではない。周りを見渡すと自分たちはおそらく広間にいるらしかった。大理石だろう建材が使われており、細やかな彫刻が細部に施されている。
ギリシア彫刻の様な感じだが、少し違う印象を受けた。ここはドーム状の大聖堂だろうか。
何処かの宗教施設なら何故俺たちを連れてきたのだろう?そして何故台座の上に俺たちはいるのだろう?訳が判らず混乱しているが、何より台座の周りに金の刺繍がされた法衣を纏った人物達が錫杖を傍らに置き、こちらに対して祈りを捧げているように両手を胸を組んだまま跪いていた。
ーー神へのいけにえとして捧げられてしまうんじゃあないかと恐ろしい考えがよぎる。
法皇のような他の神官だろう人物より豪華な身なりをした老人がこちらへ向かって進んできた。
ジャラジャラという音は自分たちを破滅へ導く音なのだ。あまりに色々なことが起こりすぎてキャパオーバーになっていると老人は落ち着いた声で話し始めたじゅうこ。彼の言葉で俺の中にあった恐ろしい考えを収めたが、同時に皆にとてつもない衝撃を与えた。
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」
皆が騒然としていた。突然教室が光ったと思ったら学校ではない場所にいて目の前の何処ぞの国みたいな名前の老人が自分たちを勇者だとか言っているのだ。
俺は頭がついにおかしくなってしまったのか、授業中に居眠りをしていて夢でも見ているんじゃないかと思い、隣にいた
「頬を引っ張ってくれないか?」
夢なら覚めて欲しい。
「……いいのか?」 「ああ、思いっきり頼む。」彼は戸惑いつつも「俺」の頬をぐいっと引っ張った。
「いででででて!! 痛えよ!」
「いや、思いっきりって言ったのはお前だぞ……」永山が呆れつつ言った。「なあ、本当に夢なんかじゃないよな」 「信じられないがな。」
頭が痛い。こんなファンタジーなんてアニメみたいだ。けどこれは現実。アニメじゃない。不思議な気持ちだ。
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あれから暫くー
俺たちは大きなテーブルのある大広間に通された。あの老人、イシュタルによると歓迎の晩餐をするそうだ。皆はあまりの状況に疲れているのと、天之川が落ち着くよう言ったことで静かだった。
全員が着席すると、メイドがカートを押して食事を持ってきた。お昼を食べ損ねた俺は異世界料理に心を馳せていたが、メイドは全員美少女・美人で思わず目が釘付けだ。見たことがない丁寧な所作にも流石だなあと思いつつもやはり美人は目で追ってしまう。
女子からの恐ろしく冷たい目線から目を逸らし、晩餐会はイシュタル・ランゴバルドの話から始まった。
「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」
話は典型的なRPGの様だった。人間と敵対する数は少ないけれどめちゃくちゃ強い魔人族と長年戦っていて、ギリギリの戦いが続いていたけど魔人族が魔物を配下として使役し出したから人間滅亡しそう、助けて勇者様〜という感じだ。
そして俺たちを召喚したのはエヒト神という神で素晴らしく、美しいとか、うんたらかんたらとそのエヒト神をイシュタル教皇はひたすら熱っぽく、少し狂気めいた目をしつつ賛美しまくっていた。
迷惑すぎるだろと非常にツッコミたい。けどそんなこと言ってみろ、こんな宗教まっしぐらの国じゃあ生きていけないどころか、殺されてしまう。不安に駆られていると、俺たちと共に召喚された畑山先生が
「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」
と堂々と言った。生徒思いの良い先生じゃないか。そう茶化すと周りで少し笑いが起きた。
次のイシュタル教皇の言葉はそんな笑いを消し飛ばすくらい最悪な事実だった。
「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」
場が凍りついた。
しばらくの沈黙の後、畑山先生が「呼び出したなら送還できるはずだ。」と食ってかかるもイシュタル教皇の言葉は残酷だった。
「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意思次第ということですな」
畑山先生は事実の前にしなしなと脱力してしまった。他の生徒も冗談じゃないと騒ぎだす。
「なんでこんなことしなくちゃいけないんだ!」「帰らせてよ……帰りたい……」 「あ、あ、嘘だ。嘘だ。嘘だ。」
皆狼狽し始めた。それもそうだ。いきなり殺し合いに参加してくれなんて平和にどっぷり浸かってきた人間には到底理解出来ない、了承なんて不可能に決まっている。
皆気付いていないがイシュタル教皇が隠しているけれど侮蔑の気持ちを込めているのがたまらなく恐ろしかった。気を狂わせたいこの状況で2、3、5、7、9……と友人から教わった気持ちを落ち着ける方法を使って何とか必死に冷静さを保つ。
もうどうしようもない、軽く絶望しかける人物も現れそうな時、一筋の光が刺した。
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」
テーブルを勢いよく叩き、視線を向けさせることで彼は力強く語りかけた。
「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」
「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」
「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」
「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」
そう言うと皆の目に光が戻り始めた。彼のカリスマは勇気と希望をもたらした。まさに救世主。王子様は伊達ではないということだ。
「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」
「龍太郎……」
「今のところ、それしかないわよね。……気に食わないけど……私もやるわ」
「雫……」
「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」
「香織……」
クラスの中心というべきメンバーが彼に賛同し、皆も口々に「やるしかねえ。」「天之川君を信じよう。」と流れが出来ていく。「俺」は正直面倒くさい。だから無責任に賛同する。
使命を果たそうとする様にクラスが決意を固めた。
神様なんて気まぐれなのに使命を果たせば無条件で地球へ帰れるなんて無邪気に思っているのかと幻想に縋り付く彼らに冷めた視線を向ける自分がいる。
もう一人の自分が言う。「無責任に流れていこう。皆の意見を尊重しよう。和を乱さず。それがクラスのためだ。」
心の中でどう思おうが、もう、戦争参加は大衆によって決まってしまった。ああ、いたいいたい。
頭がずきずきする。
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戦争参加が決まったのだから、次の日から訓練をするとのこと。流石にいくら強い力を持っているとはいえ、いきなり「戦え」と放り出す様なことはしない様だ。その点、まだ良心的とは言える。
ということで召喚された場所である、神山の麓、ハイリヒ王国にて訓練の日々が始まる。が、その前に王宮へ一行は向かった。
国王の名をエリヒド・S・B・ハイリヒ、王妃をルルアリアというらしい。金髪美少年はランデル王子、王女はリリアーナというそうだ。だらっとせず、気を引き締めて式典はつつがなく行われた。
式典後の晩餐会は華やかだった。見たことない料理に舌鼓を打ち、今後へ想いを馳せた。武器を取って生物を殺す。これからその準備期間なのだと思うだけで気が重い。逃げることの出来ない鳥籠の中で動かず、ただ運命に流される。
それはともかくこれからお世話になる人と親睦を深めつつ、考え事をしているとあっと言う間に終わってしまった。
寝る時、ベットはふかふかであったことをここに記す。
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翌日。集められて12×7センチの銀色のプレートが配られた。全員に行き届くと
騎士団長、メルド・ロギンスが話し始めた。
「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」
自分のステータスを数字で見れるなんてまるでRPGだ。ここは異世界で地球の常識を超えた物が出てくると思ったが少し拍子抜けだ。密かにがっかりしていても話は続く。
「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 〝ステータスオープン〟と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」
「アーティファクト?」
アーティファクトという聞き慣れない単語に天之川が質問をする。
「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のぼるのことだ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」
皆がふーんとかなるほどと納得し、指先に針をプツリと刺す。どろりとした血をステータスプレートの魔法陣へ擦り付けると文字がブワッと現れた。
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転職 魔法使い
筋力:1
体力:1
耐性:1
敏捷:1
魔力:200000
魔耐:1
技能 言語理解 深化 魔力操作
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ゲームみたいだなあと思う前にステータスがバグっていた。軒並み1という数値に関わらず、魔力が20万だ。バグじゃないか……。
メルド団長からステータスの説明がなされた。
「全員見れたか? 説明するぞ? まず、最初に〝レベル〟があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」
どうやらゲームのようにレベルが上がるからステータスが上がる訳ではないらしい。妙にRPGっぽい所があるのに現実感がある。そう簡単にはいかないのか。
「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後でお前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。なにせ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大開放だぞ!」 おお、太っ腹だ。勇者に人間族の命運を掛けているのが判る。
「次に〝天職〟ってのがあるだろう? それは言うなれば〝才能〟だ。末尾にある〝技能〟と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」
「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」
俺は魔力以外トータス一般人より貧弱じゃねえかと思いながら、バグみたいに高い魔力に少し安心する。他の人はどうなんだろう。好奇心に駆られて、俺は近くにいた南雲に話しかけた。
「なあ、南雲。お前ステータスってどんな感じ?よかったら見せてくれんか?」 「……まあ、いいけど、北城君のも少し見せて欲しい。」
互いのステータスを交換して見る。
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南雲ハジメ 17歳 男
筋力:10
体力:10
敏捷:10
魔力:10
魔耐:10
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互いのステータスを見てなんとも言えない雰囲気が流れた。
「何というか、魔力、高いね。強そうだよ。(典型的な俺TUEEEみたいじゃないか……)」 この空気感を破ったのは南雲だった。俺はどう返答すべきか困りつつ、無難に返事を返すことにした。
「オール10だけど多分伸び代があるよ、きっと、きっとさ。」
何とか捻り出すし、プレートを返し、少し離れた。
やっぱり俺貧弱すぎるわ。運動はそこまで得意ではないが、運動音痴ではなかったのにこの数値には泣くしかない。
落ち込んでいるとメルドさんの辺が騒がしい。天之川のステータスはどうやらマジで勇者みたいだ。平均が100でメルドさんがレベル62で300前後のステータスであることからその高さが窺える。
流れで南雲にも話が振られたがあっ、と察してしまった。低さが露呈して檜山たちに「肉壁にしかならねえ」と弄られている。それをやめさせようと畑山先生が「自分のステータスは低い」と言っていたがどうやら南雲の精神にトドメを刺してしまったようだ。
哀れ、南雲ハジメ。今度困った事があったら助けようと思った。
今日はさくっと出来た。
次回 やめて! バカ高い魔力に調子づく主人公が精密な魔力操作をミスったら身体が爆散しちゃう! お願い、死なないで主人公!
あなたが爆散したらみんなの精神はどうなっちゃうの?魔力はまだ残ってる。ここを耐えれば何とかなるんだから!
次回、「北山死す」。デュ○ルスタンバイ!
やってしまった……